カチ勢頑張る   作:インスタント脳味噌汁大好き

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第10話 検証

NPCへの好感度上昇アイテムは幾つかあり、その中でも最大の効果がある『サイゼリカのケーキ』は好感度を1段階上昇させるアイテムとしてゲーム内に存在している。……いやうん、某有名飲食チェーン店とのコラボアイテムのはずだったんだけどな。何でタキオン船団で普通に売っているんだろう。しかも予約が10年待ちとかになっていた。宇宙規模で有名なケーキ屋の看板メニューであるケーキとかちょっと自分で食べてみたい。

 

「コッペパン、サイゼリカのケーキ食べる?」

「え!?今あるのですか!?」

「うん。倉庫に眠ってた。ほら」

「おお……これがサイゼリカのケーキ……」

 

倉庫の中を見ると、サイゼリカのケーキの数は47/999個。うーん、あまり貰えるものでもなかったからこの数かぁ。試しにコッペパンと食べてみる流れになったので、フォークであーんして貰う。外観はロリ巨乳に膝枕されながらあーんして貰う男の娘。完全に堕落した上位プレイヤーの末路である。

 

そして口の中に含まれた瞬間、一瞬で心が幸福感に支配された。これヤバイ薬とか使ってないよな!?甘いとかとろけるとかそういうのではなく、ただひたすらに美味しいって感覚が一口毎に顔面を殴り込んで来るんだけど。

 

これは攻撃力が上がるのも納得ですわ。効果は5分間だけだけど攻撃力上昇効果は大きいからTA上位勢は集めていたはず。ちょっとユリクリウスに在庫が何個あるのか聞いておこう。

 

「はい、あーん」

「え!?あ、はい。あー……ん!?!!?」

 

膝枕されながらコッペパンの口の中にケーキを放り込むと、サポートロイドという機械の身体であるはずなのに目を白黒させて悶えている。これは好感度上がりますわ。また3日後にチョココロネが来たら歓迎会とかやって、そこでこのケーキを出そうと決める。そして何か通知が来たなと思って空中に浮かぶUIを推すと、間違えてそのままOKを推してしまう。あ、これ入室許可だ。

 

次の瞬間、マイルームに現れるユリクリウス。その姿を見て固まる、コッペパンに膝枕されている自分。うわなにこれめっちゃ恥ずかしいんだけど。しかも現在進行形でサイゼリカのケーキを食べさせ合っているし。

 

「撮って良いか?撮るぞ?撮った」

「いや撮影許可出してねーよ!どうせお前もサタンちゃんに膝枕とかして貰ってるんだろ!?」

「まだ触れてすらいないわ!決めつけんな!」

 

そしてすぐさま写真を撮られる。何で撮影モードがUIに残っているんですかねこの世界。しかも変に現実化しているからすぐさま写真をチームチャットに流されるという。コイツ鬼畜か。

 

[ユリクリウス:サポートロイドに膝枕とかこの世界堪能し過ぎでしょ]

[黒猫:やっぱその外見で男は無理だぞ。にしてもサポートロイドといちゃつくとかお前さぁ]

[クロワッサン:白猫ー!チムマスのサポートロイド権限で写真を消してくれー!]

[白猫:【黒猫が白猫に耳掃除されている写真】]

[白猫:【黒猫が白猫のお腹に頬ずりしている写真】]

[白猫:【黒猫が白猫に頭を撫でられてとろけている写真】]

[黒猫:ああああああああああああああああああ!!!オールスクリョデリートォォォォ!]

[クロワッサン:もう遅いわ。ダウンロード完了してる]

[ユリクリウス:この世界来てから百合フォルダの写真がめっちゃ増えた気がする]

[クロワッサン:おい。そのフォルダに自分の写真は入ってないよな?]

[ユリクリウス:薔薇フォルダに入れてやろうか?]

[クロワッサン:え……いや……まあ……うん……]

 

そして黒猫のサポートロイドの白猫さんがサポートロイドにしては感情豊か過ぎる。まあコッペパンも徐々に口数が増えて来たけど、主人とのコミュニケーションの量が増えると、感情豊かになっていくのだろうか。

 

ということは、もうちょっとコッペパンと一緒にクエスト行く回数とかも増やした方が良いのかな。主人の戦闘をサポートするのが一番の役割とかいう設定だったはずだし、ゲームの世界だと一緒にクエストを周回するのが何だかんだで好感度上げでは一番だった。

 

個人的には、もうちょっと感情豊かになって欲しいし。設定で性格を弄るのも、ユリクリウスのサタンちゃんを見ているとそれはそれで何か硬い感じになるからなぁ。

 

「というか何のようだよ」

「いや格好つける前に立ちあがれよ……。

要件としてはアレだな。二刀流スキルを適当な装備に移してクロワッサンに渡そうかと……」

「却下。1000億ゴールドの価値があるスキルを無償で貰うのは個人的なプライドが絶対に許さない」

「……いや、これはお前が貰うべき報酬だっただろ?あのアブダクションを生還出来たのは100%クロワッサンのお蔭だ」

「じゃあユリクリウスにあげる」

 

チームチャットで黒猫が暴れ始めたので、放置してマイルームに来たユリクリウスに何のようかと尋ねると、二刀流を渡すとか何とか言って来た。いやそれは却下。流石に火力役が持つべきスキルだろうし、50%を引けなかった自分が悪い。何より既に、ユリクリウスが二刀流を持っていることは1鯖で広がっている。それを自分に譲渡される意味が分からないわけではないだろう。絶対嫉妬の目で見られるわ。

 

というか既に嫉妬の個チャとか飛んで来てそうだしな。上位プレイヤーからは「アブダクションから生還しただけで何であんな報酬貰っているんだ」と言われそうだし、中級者以下からは単純にズルい、チートだ、みたいな言葉を投げ付けられてそう。

 

「今日、二刀流の技が3つ登録されていたんだ。試してみると威力が今までの比じゃない程度には出る。だからこれからはその技を使っていくべきだろうし、二刀流スキルを渡すタイミングとしては今日が最後だ。よく考えてくれ」

「よく考えても結論は変わらないからアブダクション生還組のユニークスキル持ちとして有名となって思う存分大いなる闇との戦いに身を投じてくれ」

「……ああ分かった。それじゃあ技の強化素材集め行って来るわ」

「いってらー」

 

結局のところ、この場面でスキルを受け取っても仲が微妙になりそうだし、それならユリクリウスがずっと持っていた方が良い。現段階で、火力が想定より出てないのはユリクリウスのもう片方の装備が型落ち品だからだし、なんか二刀流の技も実装されたようだから、将来的には全鯖トップに立つだろう。ユリクリウス頑張れ。超頑張れ。自分はマイルームでサポートロイドとイチャイチャする。

 

「いえ、マスターもそろそろレベル上げに励むべきかと。マスターなら可能でしょう?レベル121以上が跋扈するシャドウの拠点、そこに単騎で乗り込んでも死にはしないと分かっているでしょう?」

「アブダクションじゃなくて、マジもんの殴り込みの方か。……ふおにの森のメンバーや、他鯖のランカーが何人か死んだせいで入場禁止になってなかったか?」

「先ほどシウラ様から特別許可証を頂いております」

「マジかー。……うーん、とりあえずアイテムは掘るかぁ」

 

しかしコッペパンから、シャドウの拠点の探索許可が出ていることを告げられ、逝ってこいと言われる。現状、唯一121レべ以上のシャドウが確認されているシャドウの拠点に送り込もうとするとかこのサポートロイド怖い。ゲーム的には毎回同じ惑星だったけど、当然ながら何か所かシャドウの拠点は存在するし選択できる。たぶん一番高難易度のところは、140レべ前後が出て来る。流石にやだよう。

 

でもまあ、レベリングさえしておけばあのチームメンバー達にも大きな顔は出来るし、まだまだ最硬を目指すために取りたいクラススキルは幾つかある。……しょうがない、レベリングのために一番脅威度の低いシャドウの拠点へ行こう。流石に推奨レベル100ぐらいの場所で安全マージンを設けながらレベリングをするのは効率が悪すぎる。

 

クエスト受注カウンターへと向かい、ソロでシャドウの拠点の一番脅威度低いところ行きますと告げると受付嬢から「こいつは何を言っているんだ」的な視線を貰うが、シウラさんからの特別許可証を見せるとあっさり通してくれた。何だこの許可証。効果すげえな。

 

……シャドウの拠点へと向かうこのクエストは、繰り返すたびにアブダクション率も上がるクエストだ。ユニークスキルに関して、先ほどユリクリウスには格好つけて押し返したが、欲しくないわけではない。そもそも二刀流スキルを掘るために今までも壊獣種を倒しているしな。

 

ふおにの森のシャルルさんからは、パーティーメンバーが死んだ理由としてボスラッシュがあったという情報も貰っている。ただまあ、自分はメカビートルの最終砲も余裕で耐えられるし大丈夫なはず。よし、行くぞ!

 

コッペパンも連れずに、完全にソロでの挑戦。ゲームの時のような時間制限はない。ここで思う存分、レベリングをしよう。そして三大産廃クラススキルの1つである『強靭』にレベルアップで貰えるスキルポイントをいっぱい割り振るんだ。ついでに何か凄いアイテムとか取れたら文句なし。

 

『強靭』……クリティカルダメージがLv×5%減、最大50%

 

……いや本当、スキルポイントが余らなかったら絶対振らないスキルだけどスキルポイントを無限に振れる可能性が出て来た今、一番欲しいスキルだよこれ。対人戦だとクリティカル率100%装備の人も珍しくないけど、要するにそういう人達からのダメージを全て50%削ることが出来るのだ。これは強い。

 

ちなみにゲームの敵のクリティカル率は10%から高くても20%程度。一部の敵は50%だったかな。クリティカル時にはダメージがほぼ1.5倍になるから、この強靭スキルの効果は地味なようで大きい。

 

そして戦い始めて僅か30分で経験値が溜まり125レべにレベルアップ。シャドウの数はめっちゃ多いけど、この環境はレベリングには最適じゃね?と思い始めたところで亡霊と呼ばれる敵が出る。

 

あれ……11鯖のブラッドさんだ。あの金ぴか装備は見覚えある。は?え?嘘でしょ?

 

次の瞬間、ブラッドさんに撃たれてHPがガリガリ削れる。アブダクションでのクエスト失敗をした時、しばらくの間は自キャラがクエスト中に襲って来るイベントがあったけど、要するにシャドウに捕まって死んだ場合はこうなるってことかよ!?

 

舐めプを出来る相手じゃないので、割高になったドーピング剤を使用し、アイテムバッグに眠っていた防御が上がるケーキを食べる。そうか、ブラッドさんは射撃職で最初にクエストに挑んだのか。となれば凄まじい火力を短時間で叩きこんでくるだろう。

 

ブラッドさんが撃つ、自分が回避しようとする、当たる。ブラッドさんが撃つ、自分が回避しようとする、当たる。これを5回ぐらい繰り返して、10秒の間にHPが1500減り、HPが1000回復した。……これ被弾覚悟で突っ込んだ方が早くね?

 

ブラッドさんが大技のモーションに入ったところで距離を詰め、自分も剣を振るうが1回で250ダメ程度か。一方のブラッドさんの大技の威力は1000。流石に強いわ廃課金。

 

だけどブラッドさんは自動回復スキルがないクラス構成。回復アイテムを使うモーション中に攻撃を入れたら回復アイテムで回復する分のダメージ程度は与えられるので向こうは詰んでいる。周りのシャドウも取り囲んで来て総攻撃が来るけど所詮は1ダメ。うん、何とかなるなこれ。

 

ラストはこちらの単体攻撃技、オーバースラッシュでトドメ。火力しか頭にない人は耐久が低いから助かる。ブラッドさん、たぶん二刀流のユリクリウスには負ける程度の耐久しかないんじゃないかな。だからこちらの攻撃は普通に通ったし、自分に負けた。

 

そしてブラッドさんが倒れた瞬間、レアドロップの演出が入る。おお?と思ってブラッドさんが倒れたところまで近づくと、ブラッドさんの装備が落ちていた。絶妙に要らない。なんで防具1部位しか落としてないんだこんちくしょう。しかも特殊能力が火力重視の射撃特化だから宝の持ち腐れも良いとこ。これは射撃職の黒猫との交換材料にでも使うか。

 

……しかしまあ、死んだら敵で出て来るとか凄まじく嫌な世界だな。ランカー達が死ねば死ぬほど、相手として出て来るとか悪夢でしかない。そりゃふおにの森のメンバーは慎重になるわ。恐らくこの現象、ふおにの森のメンバーは知っていて隠してたな?


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