カチ勢頑張る   作:インスタント脳味噌汁大好き

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第14話 幼女同盟

ケルビンがクロワッサンと遭遇した次の日。ケルビンはいつものようにふおにの森8の集合ロビーである40レべ台推奨ロビーの隅にある部屋で「お兄さん」からの教導を受けていた。

 

「惑星シリウスでは車型のシャドウが多く出現します。トラック型は…………トレーラー型は…………戦車型は…………バイク型は…………なので、車型のシャドウを見かけた時はまず前輪部分の部位破壊を目指しましょう。

以上で今日の説明は終わります。何か質問があれば受け付けますよ」

 

学校の教室風に模様替えをされたロビー隅の部屋には、教壇の上に立つ若い男性がおり、対面するように椅子に座る多数の女性と、少しばかりの男性が居た。ここでは各シャドウの弱点や各エマージェンシークエストの立ち回りの仕方、装備の効率的な強化方法などを教えている。

 

根を詰めては指導しないよう、一回に教える内容は少ない。しかしそれでも多数の質問が出る辺り、「お兄さん」の教導は難航していた。そして今日もある程度の量の質問に答え、教導を終わろうとした時、ケルビンから質問を受ける。

 

「『幼女同盟』って強いんですか?何かふおにの森より強いって聞きましたけど……」

「んー、間違いなく強いし、うちのレギュラー陣より上かもしれないことは否定できないことだよ。だって僕が幼女同盟からふおにの森に移籍した理由は、幼女同盟だとレギュラー取れなかったからだし」

「え!?「お兄さん」さんも元幼女同盟だったんですか!?」

「うん。それで一度もチーム対抗戦に出られなかったから、ふおにの森に移籍したって形。当時は幼女同盟に25人ぐらい人いたしね。今は20人になっているけど」

 

内容は幼女同盟が強いかというもの。その問いに「お兄さん」は苦笑しながら肯定し、回答をしていく。元々は幼女同盟だった「お兄さん」だが、TAのタイムや装備の差、PSの差のせいで一度もチーム対抗戦のメンバーには選ばれなかった。それだけ幼女同盟に、課金勢かつPSの高いメンバーが集まっていたからだ。

 

当時のチームリーダーだったABCはなるべく多くの人にチーム対抗戦に出て貰うよう、ローテーションなども作ったりしていたが、その時にサブリーダーだった黒猫がチーム対抗戦に出る基準を用意。その基準を超えられなかった「お兄さん」は幼女同盟を去り、ふおにの森に移籍した。プロフェッショナルとカジュアルを分け、プロフェッショナルになれなかった者はゲームを辞めたように、基準をクリア出来なかった者は幼女同盟を去った。

 

そこから、幼女同盟の基本方針は少数精鋭となった。12人マルチクエストを最大で2パーティー分作れればそれで良い。例え人数が揃わなくても、問題はなかった。幼女同盟8人でエマージェンシークエストに行く方が野良12人でエマージェンシークエストに行くよりも早くクリア出来た。

 

鯖対抗戦でも1鯖の要注意人物として挙げられるのはふおにの森のメンバーよりも幼女同盟の方が多い。それだけ個の力の突出したものが多く集まる、奇妙なチームだった。

 

「はじめはただの変態達の集いだったんだけどね。サポートロイドのキャラクリに力を入れるなら課金しないといけないゲームだったし、大量のゲーム内通貨を稼ぐなら強くなるのが一番手っ取り早かった」

「課金……そう言えばライトさんが凄い課金をしていたって本当ですか?」

「ライトさんは少なくとも6000万円って言われてたね。もしかしたら億に届くかも。ただふおにの森で、頭のおかしい課金をしていたのはライトさんぐらいだった。一方で幼女同盟は、ほぼ全員が重課金している面子だよ」

「だからそんなに強いんだ。……何かズルいですよね」

「ずるいかなぁ……僕だって月に5000円、1年に6万円、10年で60万円ぐらいは課金してるからねえ。それに、課金すればするほど強くなる効率は悪くなる。少なくとも僕には真似出来なかった」

 

このゲームは課金者の割合が多い。少額の課金ですぐに強くなり、ゲーム環境が快適になるからだ。2割から3割程度が月に3000円以上の課金を行う課金者であり、いわゆる微課金層は多い。しかし一方で、月に5万以上の多額の課金を行う重課金者は少ない。

 

その多額の課金を行う者が集まったチームが幼女同盟であり、サーバー開設当初から存在する最古参のチームでもある。元チームマスターのABCはプレイヤーIDが0000007と一桁ナンバーであり、ベータ版のテスターでもあった。そのようなプレイヤーが、サービス終了間際まで引退しないなど稀有なケースだろう。

 

サービス開始直後、チームは山のように作られたため、幼女同盟はしばらくABC1人だけだった。しかしABCのリアフレである黒猫が加入し、黒猫が勧誘を始めたことで風向きが変わる。チーム人数が5人になったころ、ユリクリウスとクロワッサンが少数人数ながらチーム機能が充実しているという理由で加入。ほぼ同時期に、「お兄さん」も幼女同盟に加入した。

 

「ふおにの森は元からTwitterのフォロワー数が多くて有名なプレイヤーだったシャルルさんが立ち上げたことでサービス開始直後から人数は多かったんだ。でもたぶん、それでも最初期からチームメンバーを選んで加入させていた幼女同盟の方が強かったとは思うよ」

「へぇ……じゃあなんでふおにの森は幼女同盟にチーム対抗戦に2勝1敗って成績なんですか?」

「あー、まあ幼女同盟は最初の頃、ABCさんの方針で全員が好き勝手戦っていたからねえ。真面目に連携し出したのが3戦目だったんだよ」

「あー……本当に自分勝手な人達なんですね。初心者の育成みたいなことしないですし」

「そこはチーム人数が違うから何とも言えないかなぁ。チームチャットも独特だし」

 

ケルビンと「お兄さん」は、話しながらロビーへと向かう。「お兄さん」はサーバー対抗戦に出るため、TAを走る必要があり、そのためにクエスト受注カウンターへと向かった。

 

「ケルビンちゃんやっほー。「お兄さん」の授業終わった?」

「メリットさん!授業は終わりましたけどちょっと幼女同盟のことについて聞いてました」

 

その2人に声をかけるのは、ふおにの森1のメンバーであるメリットだった。メリットとケルビンは大学で先輩後輩の関係であり、メリットがFUO2をプレイしていたためにケルビンも昔のデータを引っ張り出して少しだけプレイを再開していた経歴がある。だからこそこの世界になった時、ケルビンは39レべと低くはないレベルだった。

 

「それじゃ、僕はTAを受けて来るからここまでだね。あー、4分30秒切れるかな」

「最低限、そのクラスは求められるって鯖上位勢は大変ね。私なんて5分を切ることが出来ないわよ」

「このTAは、5分を切れれば凄いんですか?」

「まあそうだね。通常のシャドウと違ってほぼ休みなく攻撃し続けてくるし、こちらも好タイムを出すには火力を出し続ける必要がある。4分台に乗るためには継戦火力の高さが必須だ。ここで言う継戦火力とは装備だけじゃなくて、スキルや立ち回りも含めた総合的な火力が必要になって来るから、まずは5分切りを目指そうって感じ」

「相変わらず何でも真面目に解説するわね……」

 

一般的なシアリーであれば、このTAのタイムは6分台。慣れた課金プレイヤーであれば5分台の成績となるため、現在ランキングに入っているメンバーが全員4分台前半ということに少し「お兄さん」は憂鬱になる。ゲーム時代でも4分台前半に入ったことは数回しかないからだ。

 

「あの……ユリクリウスさんって有名なプレイヤー何ですか?」

「幼女同盟のエース格だから、サービス終了までプレイしていた人で知らない人は居ないんじゃない?今回なんか4分切ってるしね。幼女同盟の中でも強いプレイヤーは現チームリーダーの黒猫と、ユリクリウスとクロワッサンとゼルで、今もトップはふおにの森のライトだと思うけど、2位~5位は彼らよ」

「クロワッサンさんも……」

 

ケルビンはメリットからユリクリウスとクロワッサンの評価を聞き、変に勧誘してしまった自身の行動を恥じた。一方でメリットはケルビンが幼女同盟を気にするような行動に疑問を抱き、質問を投げかける。

 

「ケルビンちゃんは、クロワッサンと知り合いなの?昨日一緒のパーティーにいたみたいだけど」

「え!?何で知ってるんですか!?」

「良くも悪くもクロワッサンは有名だからね。それにこのロビーに120レべ以上が居たら注目を集めて当然よ。結構目立つ容姿だし、ふおにの森にもファンはいるぐらいよ」

「そう言えばファッションランキングなんかでもクロワッサン先輩って男性部門1位ですよね……」

「どう見ても容姿ランキングよねあれ。あのキャラクリへの執念は尊敬できるものもあるわよ……。……クロワッサン先輩?」

「あっ」

 

そしてケルビンは、先輩であるメリットの圧に耐えられずユリクリウスとクロワッサンとは高校時代の先輩後輩の関係であることを話す。メリットはユリクリウスとクロワッサンが自分とは同世代であることに気付き、ユリクリウスが直近4年間、年に200万ほどの課金をしていると言っていたことを思い出し、思わず身震いした。

 

「あの2人は、実家がお金持ちだったりするの?」

「いえ、よく部室でバイトの話をしてましたよ。あとはカードの転売とか仮想通貨とかやってました」

「高校生の時点でバイタリティ高いわね……。というかあの2人、転売ヤーなのね」

「転売ヤーというか……出身校の近くに本屋とカードゲーム屋が道路挟んであるんですけど、本についているカードを右から左に流すだけで数万円稼いでいたというか……」

「へえ。その口ぶりはケルビンちゃん、一口噛んでいたわね?」

「えへへ、ユリクリウス先輩に誘われて一回だけ……。30分で5万ですよ!?凄くないですか!?

それに、ちゃんと本は資源ゴミで出しました!」

「アウトよそれ……たぶん数年前の話だろうし、今ならもう時効だけど」

 

課金をするために、多額のお金を稼ぐ話を聞き、メリットはやっぱり幼女同盟の人間は頭おかしいという認識を固める。それと同時に、少し羨ましいとも思った。

 


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