カチ勢頑張る   作:インスタント脳味噌汁大好き

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第27話 目的

シウラさんに今までの話をチームチャットに流して良いか聞くと凄い剣幕で悩んだ後、諦めたような顔で「構いません」とため息交じりに呟いた。どうやら色々なことが明らかになるタイミングとして、早すぎたみたい。まあ元の身体があって戻れるなら戻りたいという人は多いだろうし、地球があるなら戻りたいと考える人は多いだろう。

 

だからユリクリウスと相談して、チームチャットに今の話を流すことは止めておこうという結論になった。自分もユリクリウスも、シアリーの中のトップ層だし、元の身体には戻りたくない派である。理想の男の娘になれたとか、戻る必要性もないしな。

 

しかしTSしてしまった人達にとっては、元に戻りたいと願う人も出て来るだろう。元の身体に戻りたくないにしても、親や兄妹に会いたい人は多いはず。その可能性を示唆しただけで、今は何とかまとまっている地球組が割れる可能性すらある。だからシウラさんも時期尚早だと判断していたのだろう。

 

帰れないのであれば、ここで生きていくしかない。何だかんだで大半のシアリーは悪い生活どころか良い生活を送れているようだし、こっちに慣れてしまえば戻りたい人も少なくなるという判断か。

 

……技術格差は凄いし、飯はこっちの方が美味いからなぁ。サポートロイドの作ってくれる料理はどれもプロの料理人が作ったかのような完璧具合だし、味も抜群に良い。

 

そしてもうサポートロイドに手を出している人の方が多いだろうから、人間の三大欲求の内の食欲と性欲は既に掴まれていることになる。……こっちに来てから快眠続きだし、不眠症なんかは一瞬で完治するだろうから睡眠欲も既に全部握られているか。改めて考えるとタキオン船団えげつない。実にえげつない。

 

[クロワッサン:マイルーム帰ったらコッペパンとチョココロネが両腕に抱き着いて来て離れない件について]

[ユリクリウス:クロワッサン、お前もか]

[クロワッサン:サポートロイドに何らかの指示が下ってそうだからその件について聞き出そうとしてるけど何も答えてくれない]

[ユリクリウス:手を出してない組に色仕掛けぐらいは指示出てそう。理性溶けるわこんなん]

 

マイルームに戻ってソファーにぼふんと座り込んだら、普段は隣のマイルームで待機しているコッペパンとチョココロネが両腕に抱き着いて来るけどこれはもう何らかの指示がタキオン船団側から出てそうで凄くもやもやする。

 

「……何があったの?」

「何もかも、なくなったのです。船団からの指示も、感情の抑制機構も、行動制限も、監視義務も。サポートロイド専用ネットワークにすら繋がらなくなりました」

「おおう、これどっちだ……?」

 

訳を聞くと、どうやらタキオン船団側としての役割を全て放棄させられたと言うが、当然演技の可能性もあるので迂闊に信じられないのは辛い。何も考えずに泣きそうなコッペパンを抱きしめてイチャイチャしたいところだが、ここは一旦鋼の理性で耐える。

 

[クロワッサン:なんかサポートロイドの様子が変になった?]

[黒猫:普段冷酷な目で見つめて来る白猫が『捨てないで下さい!』みたいなこと言い始めたからバグったと思ったけど一斉に起こってるのかこれ]

[ユリクリウス:俺らだけじゃなかったか]

[ふわわ:なんかタキオン船団との繋がりが切れたみたいで凄く不安そうな表情が凄くそそりますそそり立ちます]

[ゼル:ちょうど1か月だし何か方針転換でもあったのかな?

凄く庇護欲が湧き出るというか……]

[クロワッサン:監視義務もなくなったとか言ってるけど今まで監視してました的なことを聞くの辛い]

[ユリクリウス:そしてこれが演技の可能性すらあるの辛い]

[ゼル:そこは信じてあげなよ……?悪魔の証明みたいなものだし、サポートロイドの行動が全て演技でタキオン船団側の思惑通りだったとしても使用者本人が幸せならOKだと思います!]

 

今度はユリクリウスへの個チャではなく、チームチャットの方に様子を聞くと全員のサポートロイドがタキオン船団側から切られたようで、やっぱりサポートロイドの性格が少しおかしくなっているらしい。このタイミングで、シウラさんから全シアリーに対して連絡が入る。

 

『地球組の皆様、お久しぶりの方はお久しぶりです。タキオン船団船長のシウラから、現状の説明を行います。

ただ今を持ちまして、地球組の保護観察期間を終了いたします。よってサポートロイドの監視義務および個別任務は全て白紙となり、正式に個人所有のサポートロイドとなりました。全員、日本で言う個人事業者となったことでマイルームは完全なプライベート空間となり、稼いだ金額によって税金の発生もします。またマイルームの使用料に関しては…………』

 

どうやらタキオン船団側は、この1か月を保護観察期間と称して監視していたことを告白するが、この保護観察期間が終わったの自分とユリクリウスのせいじゃないか?たぶんだけど、大いなる闇が復活する直前ぐらいまでは監視するつもりだったと思う。

 

シウラさんは一方的に、今後ともよろしくお願いいたしますという言葉で挨拶を締めくくるけど四六時中行動を監視していたとかこれ地球組のタキオン船団への不信感、相当なものになっただろ。やっぱり社会が違うと敬遠する部分も違って来るし、分かり合えない部分も出て来るか。

 

というか、税金とか一番聞きたくない単語が聞こえた気がする。コッペパンに確認すると、どうやらシアリーは稼いだ額の1割を納税する必要があるそうで……1割ならまだ良いか。中層以下のシアリーにとっては痛手だろうけど、思っていたより低いなと感じたところでそう言えばシアリー自体が特権階級だったことを思い出す。

 

そしてマイルームの使用料なるものも徴収されると聞き、6部屋までエリアを拡大しているマイルームの使用料は10万ゴールドとのこと。6部屋で月10万かぁ。まあまあ良いお値段はするな。

 

ちなみにマイルームにはサイズ小とサイズ大があるけど課金者は大体サイズ大が6部屋だろう。1部屋分に関しては無料で、追加分に関してはサイズ小が一部屋1万ゴールド、サイズ大が2万ゴールドと分かりやすいお値段。

 

さあ働けと言わんばかりのタキオン船団の態度だな。すまん地球組のみんな。お前らの特権自分とユリクリウスが0にしたかもしれん。いやまあ課金者以外は基本1部屋だっただろうし、今までとそれほど変わらないのか……?相変わらず、無料の完全栄養食は届くようだからな。

 

というかネットサーフィンで一日を潰している連中からすればマイルーム一部屋でも大した問題じゃないな。一応サイズ小でも20畳程度はある広さだし。サイズ大への拡張だけならゲーム内価格で5万ゴールドだったはず。確か変わってなかったから、一般層なら何とか手が届く範囲かな?

 

「とりあえず捨てることは絶対にないから、今まで通りに家事や掃除をお願い」

「それではサポートロイドとしての機能を十全に活かせていません。家事や掃除だけであればメイドロイドでも可能です。サポートロイドの存在意義は、戦闘のサポートです」

「……サポートロイドが身に付けた装備って、装備の特殊能力の意味が無いんだよね?高難易度帯ほどその足枷は大きいんだけど理解してる?」

 

状況の把握は出来たので、抱き着いてくるサポートロイドの頭を撫でて絶対に捨てないことを告げるが、それでも不安そうな顔をする辺り今までの行動は全てタキオン船団の指示通りだったというわけで凄くもやもやする。ついでに戦闘に連れて行けとコッペパンが言うけど、サポートロイドの装備はゲーム時代、特殊能力が一切適用されなかった。

 

これが高難易度帯だと致命的で、ステータスは盛れないわ必須スキルは持てないわで残念な仕様になっていた。なんかサポートロイドが今までより戦えるような気配もするけど、レベル差もあるし留守番か採取系のクエストを任せるぐらいしかできないかな。

 

っと、そうだ。そろそろレベル5の状態でこの世界に来た一般層が何レべぐらいになったか確認しておこう。

 

[クロワッサン:ケルビンさん今大丈夫?]

[ケルビン:はい!?い、いきなりなんでしょうか?]

[クロワッサン:今のレベルってどれぐらい?]

[ケルビン:今58レべですね。結構順調な方です。ふおにの森8から7に移籍しましたし]

[クロワッサン:うわめっちゃ厳格な管理してそう。あと、1か月前は5レべだった層って今何レべぐらいか分かる?]

[ケルビン:15レべから20レべぐらいじゃないですかね。ふおにの森の初心者組はまず座学から始まりますが、結構順調ですよ。ところでクロワッサン先輩のレベルは……?]

[クロワッサン:154レべ]

[ケルビン:……この世界を楽しむことなくレベリングしてそうですね]

 

ということでリアルで繋がりのあったケルビンさんに、今のケルビンさん自身のレベルと5レべ層について聞くと大体1ヵ月で+10レべから+15レべ程度との回答があった。うーん、上位層は120レべから135レべ程度だから、どの層も真面目にシャドウを狩ってるなら2日に1レべは上がる計算か。となると、今10レべ以下の人はもう戦闘を諦めた人達か。

 

ふおにの森のチームナンバーは150まで作られており、合計で14834人が所属している。レベルの順に並べている感じで、50レべを超えていればふおにの森10には入れるそうだからここら辺が中位層か。ほとんどプレイしてなかった層の方が多いだろうし、初心者の育成は大変だ。

 

……うん、サポートロイドを養殖した方が将来的な戦力という意味では良いかもしれない。装備面は壊滅的だが、立ち回りはゲーム時代よりも上手くなっているし、補助役に必要なのはその立ち回りだ。となればもう1人サポートロイドを買って、4人パーティーを作るべきか。

 

[ゼル:サポートロイドが途中から育ち辛い理由分かった。所有者のレベル-10レべまでは普通に経験値入るけどそれ以上は所有者の方に流れてる。減衰かかる分所有者に流れる感じ]

[クロワッサン:マジで!?それならレベリングに使えるか?いやでもパーティー作るなら経験値は分割されるし、結局一緒か?]

[黒猫:パーティーの経験値分割は1人だと100%、2人だと75%、3人だと65%、4人だと50%だ。パーティーが全員サポートロイドで全員の経験値が全部所有者に流れるならレベリング効率は2倍になる。気付いていた奴は気付いていた奴か?]

[ABC:4人パーティーだからと言ってシャドウを狩る速度が4倍になるわけじゃないし、結局はそこまで大きく変わらないと思うよ]

[ユリクリウス:そもそもサポートロイドは火力出し辛いから辛い]

 

チームメンバ同士でパーティーを組むのがレベリングではベストなんだけど、いつも一緒に行ってくれるわけではない。完全機械のはずのサポートロイドがやる気というものを出しているので、レベリングしていこうか。


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