カチ勢頑張る   作:インスタント脳味噌汁大好き

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第31話 主人公

「まず始めに、FUO2の前作であるFUOについて知識のある人はいますか?」

 

シウラさんがFUO2のストーリーについて説明する前に聞いて来たのはFUO2の前身であるFUOについてのことだった。FUO2は名前の通り、FUOの続編だ。自分もユリクリウスもプレイはしていないが、存在は知っている。確かFUO専用のゲーム機が必要で、オンライン環境のあまりの人の少なさにほとんど協力プレイが出来なかったんだっけ。

 

ストーリーもシンプルで、ひたすらシャドウを狩るだけのゲームだったと黒猫からは聞いている。いやシャドウを狩るだけなのはFUO2も変わらないけど。FUO2は一応ストーリーがあるしたまに分岐したからな。

 

「……あれを用意したのもタキオン船団ですが、残念ながら正体を隠しての流通が難しく、プレイした人の数自体が少数でした。しかしその少数の中でも、極めてシアリー適性の高い人が確認出来たのは幸いでした。というより、ほぼ全員に最低限のシアリー適性がありました」

 

どうやらFUO2の前身であるFUOはシアリー適性判断機のようなもので、日本人にシアリー適性の高い人が多いということもこの時に把握したらしい。その後は裾野を広げるため、無料オンラインゲームでFUO2をリリースしたというわけだな。なお超が付く課金ゲーの模様。

 

「皆様から頂いた日本円に関しましては地球に存在する希少金属の購入費用に充てていたことを伝えておきます」

「……結構儲かりましたよね?」

「……地球でしか採掘出来ないものはありませんでしたが、我々にとって希少な金属が比較的安価に買えたのはありがたいことでした」

 

ユリクリウスが儲かったか突っ込むが、恐らくタキオン船団にとっては相当美味しい商売もしていたんじゃないかな?日本というか地球全体が利用されてそうだ。まあタキオン船団の方が技術力高いから仕方ない。

 

「ストーリーに関しましては、とある英雄の生涯を追体験する形で地球組の皆様には見せています。詳しい説明は今は省きますが、タキオン船団でシアリーの訓練を終えてから、凶刃により倒れたところまでのストーリーは全て過去に起こった事実です。アクア様には後で詳しく説明するとして……今からあなた達をシャドウの本拠地に送り込む前に、この英雄に一度会っていただきたいのです」

 

シウラさんが言う凶刃で倒れたところというのは、主人公を慕っていた後輩シアリーがバッサリ背後から切りつけたところだな。それまで人気投票では常に3位以内に入る人気キャラだったのに、裏切り以降の人気投票では10位圏外に外れている。オタクは裏切り行為に厳しい。

 

……というか、今さらっと本拠地に送るとか言ってなかったか?いやまだモルモットさん以外200レべには50レべぐらい足りないぞ。そんなに切羽詰まった状況なら、低レベルのシアリーを送り込んでも無駄だろ。

 

「シャドウの本拠地にいるタキオン船団のシアリーはレベル200とおっしゃっていましたので、今の自分達が行っても役に立たないと思いますが」

「少なくともここにいる4人はパーティーを組めば普段のレベリングと同程度のスピードでシャドウを狩れると確信しています。そもそも、貴方達はレベルというものをどういうものか正しく認識していますか?」

 

とりあえず反対意見を出すと封殺される。いやまあ自分は落ちないだろうし、自分がシャドウを引きつけてユリクリウスが狩る形なら200レべでも余裕だろうから、これにモルモットさんとアクアさんがいるなら普段のレベリングと同じぐらいの速度では狩れるか。……アクアさんの実力は正しく分からないけど、ライトさんを差し置いて選ばれるなら何か持ってるよなあ。

 

「経験値はシャドウを倒した時に得られる生体エネルギー的な何かを吸い取って自身の力に変えると設定にはあった気が」

「モルモット様、違います。レベルを上げるという行為は、シャドウの魂を浄化吸収して自身の魂の容量を増やすことです」

 

レベルの設定に関しては、モルモットさんの言っていることとシウラさんの言っていることであまり違わないような気もするけど、シウラさんの方には続きがある。容量が大きくなった分、スキルという力を身体に詰め込めるということだ。

 

「容量。そっちがボトルネックなのか」

「ユリクリウス様、正解です。そして装備に付けたスキルが本人にしか使えないのもそこが理由です。本人に合わせて入りやすくしたスキルを別人が取り込もうとするとキャパシティを超えてしまいますので、基本的には本人にしか扱えません」

 

同じスキルでも、たぶん本人の容量に入るよう同調みたいなことをしているのだろう。キャパオーバーになった場合の説明はないが、まあ不味いことになるんだろうな。そしてここまで話した段階で、シウラさんに奥の部屋へと案内される。そう言えば主人公に会わせるって言ってたな。……生きてるとは思えないから、死体と対面するのか?

 

そんなことを考えながら移動すると、タキオン船団の医療室にあるポットのような装置が奥の部屋の中央にはあり、男の人が眠っている。その顔を見て、地球組4人は絶句した。あまりにもユリクリウスと顔が似ていたからだ。

 

いやまあ、偶然だろう。そもそもこの世界、顔をかなり自由に弄れるしユリクリウスのイケメン像とこの主人公のイケメン像が一致しただけかもしれない。ただまあイケメン像が一致するということは思考回路が似ているということで……。

 

「……もしかして私達4人が持っているレアスキルって、元々この人が持っていましたか?」

「はい。全て彼が保有していたスキルです。装備にではありませんよ?彼自身が保有していたスキルです」

 

今まで話についていけてない雰囲気だったアクアさんが、自分達が持つレアスキルの元について気付く。……あの初回のアブダクションは何かおかしかったが、タキオン船団が仕組んだ可能性は十分にあるな。

 

「……あらかじめ申し上げておくと、あの初回のアブダクション自体は我々も想定外の出来事でした。もう少し渡す人を選出する時間も欲しかったので。

しかしアブダクションでのドロップ報酬に交ぜるという話がシャドウ側に漏れた結果が、あの一斉アブダクションです」

「倒したシャドウの素材を使って装備やスキル等を作るのはタキオン船団側だから、ドロップ品をこっそり追加することは可能なわけか。……いやそれならちゃんと選んで渡したら良いんじゃないか?初回アブダクション生還組に拘らなくても良かったはず」

「どちらにせよ、アブダクションで死んだ人も生き残った人も発表しなければなりませんでしたし、それならば厳しい状況下で生き残った人を英雄として祭り上げた方が良いでしょう」

「……自分が2回目のアブダクションに遭遇した理由は?」

「クロワッサン様のアブダクションに関してはこちらで仕込みました」

 

シウラさんを訝しげに見つめると、観念したように裏側の情報まで話し出すシウラさん。ついでに2回目のアブダクション自体は仕込みましたとか言ってるけどもうそれ何一つタキオン船団を信用出来なくなる言葉なんだけど。いやでもまあ、死ぬことは100%なかったか。

 

……あれ?

 

この主人公、ユリクリウスの二刀流と自分の強身守護を持っていた上にモルモットさんの持っているであろう経験値ブーストやアクアさんが持っている豪運スキルを持っていたということ?何だそのチート。

 

そしてそんな主人公を一撃で殺した後輩シアリーことマオさんは何を持っていたんだろう。いやまあ、強身守護を持っている時点で二撃目以降は25%ずつ被ダメがカットされるから、一撃で倒さないといけないんだけど。

 

というかあの後輩シアリー、最終章でシャドウの拠点に居てシウラさんに倒されるストーリーだったけどまだそれは起きていないはず。最終章がシウラさんの願望捏造ストーリーということはまだ生存確定というわけで……めっちゃ怖いんだけど。

 

「……そう言えばシウラさんに聞きたかったんですけど、どうしてシャドウを作ったのですか?」

「……タキオン船団が作りだしたことは認めましたが、その理由までは話していませんでしたね。簡潔に言えば、敵を滅ぼすためです」

 

主人公を見て、絶句していたユリクリウスはふと思い出したかのようにシウラさんにシャドウを作った理由について聞こうとするけどその質問のせいでアクアさんとモルモットさんも絶句する。この2人はシャドウをタキオン船団が作ったってこと、知らなかったのか。こりゃどんどんタキオン船団の悪事が広まるな。

 

そしてシャドウを作ったそもそもの理由についてシウラさんの回答は、よく分からないものだったけどユリクリウスは全てを察したようで、考え込もうとしている。その頭良い人同士の最小限の会話で全部分かりました系の顔するの辞めて欲しい。イケメンになってるから余計に腹立つ。

 

「ああいや、単純な話だろ。タキオン船団の敵を滅ぼすために、タキオン船団にしか倒せない敵を作った。これがシャドウの作られた原因だ」

「???

ああ、戦争おじさんがやったのは制御不能にしたことだけか。そもそものシャドウが作りだされる理由自体は謎だったけど、敵国を滅ぼすため、みたいな理由で良いのか?」

「はい。具体的に言えば、機械惑星に住む機械生物を皆殺しにするために創られたのがシャドウです」

 

シウラさんの解説が始まるが、どうやら機械惑星の本拠地を落とすためにシャドウが作られたようでやっぱりタキオン船団が全ての元凶だ。まあ敵対していた機械惑星も人類を都合の良い奴隷にする機械仕掛けのナノウィルスをタキオン船団側に放っていたようだからお互い様である。技術が発展していると戦争のスケールが違うな。

 

互いに相手を全滅させようとする戦争を宇宙スケールでやると、シャドウみたいな存在を作ることになるのか。シャドウの本質は、物や生物、果ては人間すら吸収して同化すること。考えてみれば機械知性に対する劇薬だな。車型のシャドウとか船型のシャドウとかいるし、機械型のシャドウは元を辿ればタキオン船団の戦争相手か。


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