カチ勢頑張る   作:インスタント脳味噌汁大好き

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第6話 初エマージェンシークエスト

徐々にタキオン船団の生活にも慣れてきた頃、それは唐突に起こった。

 

『エマージェンシークエスト発生!採掘ステーションにシャドウの軍団が接近中!対象惑星は惑星テトラス、惑星サマーリアです!』

 

警報が鳴り響く。ゲームが現実となってから、初めてのエマージェンシークエストだ。内容は惑星にある採掘ステーションが襲撃されるというもの。対象惑星によって難易度は変わるけど、テトラスは高難易度でサマーリアは低~中難易度ぐらい。

 

自分は当然高難易度に行くべきなんだろうけど、今のボリューム層である低~中難易度に挑む人がどういう状況か確認したいし、サマーリアの方へ行こう。ユリクリウスを誘って、いつも通りの2人パーティー。サマーリアの採掘ステーション防衛ならゲーム内だと2人でクリアもしたことあるし、周囲がどうであろうと何とかなるだろう。

 

チームメンバーにも事情を話して惑星サマーリアに移動しようとすると、惑星サマーリアの中でもシャドウの脅威度が高い地域から低い地域までを選択できるようでここは脅威度が高い地域を選択。採掘ステーション前に到着すると、なんか12人では収まらない程度の人がいた。20人ぐらいいるね……?

 

まあエマージェンシークエストだし、ゲームの様に12人限定にする意味もないか。そしてキャラ情報でクラス編成を見て回っていると、あることに気付く。装備が見れるのだ。

 

[クロワッサン:あれ、装備が見れる]

[ユリクリウス:それ、21レべ以上下の人だと装備が見れるらしいよ。120レべからだと99レべ以下は見れるし、123レべなら102レべ以下を見れる]

[クロワッサン:同格なら見れないって感じか。うわ、未強化のレア度50代を担いできてる奴がいるんだけど]

[ユリクリウス:まあこれだけ人数いたら大丈夫だろ……]

 

「失礼、幼女同盟のユリクリウスとクロワッサン?」

「ん?あ、ふおにの森のライさんか。120レべいるなら寝てて良いな」

「今は122レべです。中級者の様子を見に来たんですが、指導する人とかいないんでしょうね……」

「未強化装備を身に付けてエマージェンシークエスト来た人見かけたからびっくりしたよ……」

 

装備を見て、中級者の状況が思っていたよりも不味いことを確認していると、ふおにの森のライさんが話しかけて来た。ライトさんと混同されることも多いが、こっちは普通の微課金勢でアバター名は「lie」だけどめっちゃ誠実な人。ふおにの森1の1軍メンバー12人の中に入っているので当然強い。クラスはゴースト/キャスター。

 

物理攻撃を半減するゴーストのクラスはHPを盛れれば存在そのものが強い。キャラクター本体のHPも半減するけど、特殊能力で盛ったHPは半減しないし、魔法攻撃はメイジに次ぐ火力が出る。耐久寄りで火力も出すという思考は自分と似ているし、何回かカチ装備談義はしたことのある人だ。

 

「おいてめえ!脅威度高いのに何で40レべで来てるんだよ!装備も全部未強化じゃねえか!」

「ゴールドがないから仕方ないでしょ!このクエストは経験値が美味しいの知ってるのよ。このクエストが終わったら強化するわよ」

 

なんか怒声が聞こえて来たが、怒鳴っているのは65レべで装備もスロット5まで拡張している5年前に前線に居そうな人。怒鳴られている方は受注制限ギリギリの40レべで、未強化装備を担いでいる人。

 

懐かしいなあ。高難易度クエストが増えて来た5年前、嫌というほど見た光景だ。ただHP全損=死になった現実でも未強化装備担いで来る人がいるとは思わなかったよ。

 

そしてゲームの時のように、非戦闘エリアというものは存在しない。送られた20人、直で戦闘エリアへ転送される。おお、採掘ステーションの大きさは実際に見るとヤバイな。まあ惑星の魔力を吸い上げている装置だから大きいのは当たり前だけど。

 

転送から間もなく、シャドウが湧いて出て来るけど未だに中級者組と初心者組の言い争いが終わらない。やっべ、こいつら89レべあるじゃん。65レべでしっかりした装備の人も40レべで未強化の人もみんな等しく一撃で死にそう。

 

こいつらを送り込んだオペレーター共は何をしていたんだと思ったけど、脅威度選んだのはこちら側ですね……。脅威度を選ぶタイミングでもオペレーターに質問は出来たわけだし、実際に自分とユリクリウスはオペレーターから「この惑星で確認されているのは最高でも80レべ代の敵なので、お2人であれば脅威度が高くても死ぬことはないかと」と言われている。うわ、ゲームの時よりか明らかにシャドウの数が多い!

 

「ユリクリウスさんは1番をお願いします!僕は2番を守るので!」

「自分は!?」

「ボス敵の引きつけをお願いします!」

 

ライさんから指示が出るが、従う意味はない。でも従わない意味もないので素直に言うことを聞く。そもそもライさんはふおにの森の指示出し係みたいな存在だし、指示もわりと的確なので文句はない。少なくとも、この3人で役割分担はするべきだろう。

 

さて、採掘ステーションの大きな採掘装置はこの地域だと1番から3番までの3本。ユリクリウスが東の1番、ライさんは南の2番の敵を殲滅しつつ、西の3番の敵に遠距離魔法を当ててヘイトを稼いでいる。となると、自分のやるべきことはボス敵を引きつけつつ、3番の装置に被害を出さないよう立ち回りつつ、3番に群がるシャドウを適度に狩ることかな。

 

ライさんからユリクリウスと自分を除く、その他全員に対し、3番で防衛するように指示が出るが当然反発する人が出て来る。こいつらほぼ全員が50レべから60レべ代だから居たらむしろ邪魔なまであるけど、全員で力を合わせれば3番に群がるシャドウを1匹ずつ倒すことも出来るだろう。

 

「何でレベルが上がらないのよ!きゃぁ!」

「あぶねえ!」

 

ふと、さっき言い争いしていた2人が目に入ったけど40レべの方は戦う気もないみたいだ。完全に寄生プレイをしていた人の思考だな。……救う価値はないに等しいけど、目の前で死なれたら目覚めが悪くなるので身を呈して助ける。

 

しかしそのせいで、ボス敵の高威力遠距離攻撃が飛んで来た。躱したらこの人が一撃死するからHPで耐えるしかない。うげ、50も減った。

 

「戦う気がないなら隅っこでメカハンターと戯れてて!装置の周囲で戦うな邪魔!」

 

流石に死が眼前に迫って文句や反論を言う気はなくなったのか、自分が指示を出した後は一番弱い敵のメカハンターを引きつけて攻撃し出す40レべの人。これでまあ、一先ずは安心か。1番の装置は寄って来るシャドウをユリクリウスが全滅させていて、装置に傷1つ付けてないし、2番の装置は多少攻撃を受けているけどライさんが3番の装置の敵まで引きつけているからよく戦っている方だ。

 

なお3番の装置はその他20人ぐらいで戦っているけど被害が半端ない模様。よし、引きつけていたボス敵は倒したから雑魚掃討するか。

 

……!?!?!?

 

「頭の爆弾を破壊して!」

「は?

ああああああああああああああああああああ!」

 

しかし自分が介入しようとしたところで、一部の人がメカハンターの頭を破壊せずにHPを削り切ってしまい、爆発が起きる。さっき怒鳴っていた、65レべの人がやらかしているとか、もう何を信じたら良いんだ。

 

メカハンターは頭に爆弾を搭載しているから、頭の部位破壊をしないと爆発してしまう。ちょっとまて、何でそんなことまで知らないのに脅威度高いところ来ているんだよ!65レべでしょ!?

 

……流石に今のは、援護できない。このゲームの高難易度クエストは、わりとギミックもあるので思考停止でプレイは出来ない。これは懇切丁寧に一から説明しないと戦力にもならないぞ。

 

そこから先は、地獄絵図だった。シアリー側がバッタバッタと死んでいく。忠告をした人も、爆発の巻き添えを食らって死んだ。ついでに自分も巻き込まれた。ダメージ倍率が高いから1発で30ダメージも入ったよ。それが2発。60レべから65レべまでの並みの耐久ならまず死ぬ。

 

更に装置は破壊され、シャドウの攻撃は2番の装置に集まる。一部始終を見ていたライさんは「嘘でしょ……」と呟いていた。……自分が火力特化なら、防げていた事故ではあるんだよな。

 

いや、どちらにしろ誰か1人はボス敵を装置から引き剥がす役割をしないといけなかったし、別にボス敵を倒すスピードが遅かったわけじゃない。結局のところ、知識不足の人が足を引っ張った形か。

 

[クロワッサン:テトラスの脅威度高いところはどんな感じ?]

[黒猫:おー、ふおにの森のメンバーが張り切って狩ってるからめっちゃ楽。20人ぐらいいるしな。棒立ちのままガンガンロケランを撃てるの楽しいぞ]

[ユリクリウス:他鯖の人はいない?]

「黒猫:いないな。たぶん別の惑星に配置されてると思う」

 

一息入れられるタイミングになったころには、自分とユリクリウスとライさん以外の人は2人しか残ってなかった。その2人の内の1人は、さっきの40レべの人。もはや途中から1番の装置の後ろでずっと泣き続けているけど、その行動が一番ありがたいという紛れもない事実。

 

もう1人は、75レべの人だから最盛期を過ぎても少しはプレイしていた人か。クラスはガンナー/アーチャーと遠距離特化。爆発から一番遠い位置に居たから死ななかったんだろうね。

 

その後、ライさんが1番の装置担当、ユリクリウスが2番の装置担当に切り替わって無事に1時間守り切ったところでエマージェンシークエストは終了。スコアも表示されるけど当然のように1位はユリクリウス。倒した敵数が圧倒的過ぎる。2位はボス敵を全部狩ったからか自分だね。

 

「ありがとうございました。お2人がいなかったらたぶん失敗しています」

「こちらこそありがとう。中級者の育成は早急にやらないと不味いね……」

「これ、俺が魔法職使ってたら何とかなったか……?」

「無理だと思うよ。メカハンターの頭爆発させてたもん」

「はぁ!?」

 

ユリクリウスは3番の装置壊滅までずっと東の1番を守っていたから、西の状況が分かってなかったみたいだけどメカハンターの頭を爆発させていたことを告げると頭を抱えた。まあそれほど、上級者からすればあり得ない行動を取っていたということだな。

 

……今回のエマージェンシークエストで、たぶん多くの人が死んだと思う。初心者から中級者の育成までの育成は、ちゃんとして行かないとこれからどんどん死にそうだ。


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