Another School idols diary 作:藤原久四郎
ことりちゃん誕生日おめでとうございます。
時空的には9月、つまり全員揃った段階です。ですが希と絵里はでないんです。
「何!? ことりさんの誕生日ですって!?」
彼、泰原陽月は怒声にもにた大声で現在いる部室に響き渡る声を上げる。
「そうなの! 今日は! ことりちゃんの誕生日!」
その熱に当てられたかの様に同じく大声を出しているのは、陽月の一年上の先輩にあたる高坂穂乃果だ。この二人だけで既にやかましい。
「もう、穂乃果も陽月さんも落ち着いてください。時は一刻を争うのですよ」
既にヒートアップし始めている二人をなだめるように、落ち着いた声音で冷静な様子の彼女は穂乃果と同学年である園田海未。初見ではうみみと言われる事もあるそうだ。
先程の会話でもあった通り、今日はどうやらこの場に居ない南ことりの誕生日らしい。現在この場にいるのは、絢瀬絵里、東條希を除くμ'sのメンバーだ。二人は生徒会の活動が忙しいらしく、手が離せないとの事だ。別に、出すのが面倒なわけでは決してない。
「じゃあことりさんの誕生日だっていうのに、これまでなんもしてなかったって言うんですかァ―ッ!」
珍しく声を荒げた様子の陽月。彼はこの方誕生日を学校の友人などにまともに祝われたことが無いらしい。誕生日がなんと元旦、あけおめメールと共についでで済まされる事が多いのだ。それゆえか他人の誕生日であっても全力らしい。
「べべ、別に忘れてたわけじゃないもん! 穂乃果だってケーキ用意したりしたもん!」
言い訳がましく抗議する穂乃果。では何故、この場にはケーキの箱らしきものはなく、明らかに急で用意したと思われる折り紙やクラッカー、よくわからないパーティーグッズしかないのだろう。
「穂乃果ちゃん! やっぱり誕生日はキチンと祝わないと駄目だと思うよ!」
そう柄でもなく大きな声を出しているのは、この中で陽月と同じく一年生である小泉花陽。どうやら彼女も誕生日はきっちり祝う質らしい。
「そうだよ穂乃果ちゃん! 凛はかよちんの誕生日にはお米あげてるもん!」
我もと声を上げているのは同じく一年生の星空凛。そしてその口に出す内容。明らかに誕生日に渡すものではない、いや、普通に食べている物がプレゼントになる辺り花陽は大が付くほどのお米好きと言えるであろう。尚、普通にケーキも食べるらしい。
「私は家で家族とフルコース料理ね。高級料理店に負けないくらいのご馳走がならぶのよ?」
更についで一年生の西木野真姫。天然なのか素直なのかわからないが、富裕層ならではの贅沢さをふんだんにアピールしてくる。あくまで一般家庭の陽月には喉から手と足が出る程食べてみたいものも、きっと真姫は普段から食べている事だろう、普通に羨ましい。
「でもでも! 昨日まではちゃんと家の冷蔵庫で保管してたんだよ!?」
話が一周し、再び穂乃果が喋りだす。まだこの期において言い訳を並べていくようだ。つまり全員がその言い訳に耳をかす状況。
「冷蔵庫にしまってたケーキをね、雪穂が食べようとしてたの! 勿論それは阻止したよ? やっぱりつまみ食いはいけないからね!」
「ならなんでまた無いんですか?」
「でね! その後、ちょっとだけだからって雪穂が言ってきてさ! 勿論ダメって言って一度部屋に持って行ったの!」
「という事はそのまま置いておいて腐らせたと。十分あり得ますね穂乃果さん」
「こればかりは陽月さんの言う通りかもしれません」
陽月の容赦のないツッコミに乗っかる海未。陽月の一言に海未がフォローを入れるだけでこの安心感。鬼に金棒とはまさにこのことである。
「違うから! 穂乃果だってそこまで馬鹿じゃないよ!」
「でも、凛と同じで赤点スレスレ……いやアウトだにゃ」
凛がフォローを入れると見せかけた死角からのボディブローをかましていく。あまりの鋭さに言った本人までショックを受ける代物。凛はその場でノックダウン。陽月審判のカウント……10、一発KOだ。
「それは関係ないの! ただ……その小腹が空いてたっていうか……手頃な所あったし……いい匂いだったし……ダイエット中で甘いもの食べてなかったから……」
「あぁ……」
もう予想が付くじゃないか。ただのつまみ食い。親友であり幼馴染の誕生日プレゼントはダイエットと空腹の前では無力の様だ。現実ってやつは残酷。
「でもでも、ちゃんと残したんだよ! これ!」
そう言って鞄をガサガサと漁る穂乃果。既に嫌な予感がする。まず鞄にケーキという柔らかいモノを入れる時点で少々、いやかなりアレである。
程なくしてドンと力強く机に置かれた一つの物。いや、そんなに力強く置いちゃいかんでしょう。仮にも誕生日プレゼントよ、プレゼント。
机に置かれたソイツは、陽月の親指程の大きさのモノだ。別段、陽月の親指が肥大化している某キャラの様なわけではない。そのサイズでソイツは頭や体は真っ赤な血で塗り染めたかの様な赤の衣装に、所々白の色で装飾された部分が見受けられた。顔には白いひげをこれでもかとふんだんにつけており、見る者全てに不審者、という印象を抱かせるには十分な容姿だ。勿論そんなことを陽月は思わない。何故ならソイツは彼にとって、いやほぼ全ての人にとって親しみの深いものだからだ。
「……穂乃果さん。これ、あれですよね」
「努力の結果!」
そう、ソイツは砂糖で作られた脇役であるサンタ。
「あの……えぇ……?」
一周回って疑問しかこぼれてこない陽月。周りのメンバーもこれには思わず苦笑い。そりゃそうだ。逆ならわかる。努力して砂糖菓子で空腹を紛らわした。それなら上等。むしろこんな砂糖菓子無くたっていいんだから。しかもこのサンタ、足かじられてやがる。
「あれ? そう言えば矢澤先輩は?」
この間、五分程だがこの場にいるはずのもう一人の影が先程から見えない。背が低いからとかではない。少なくとも座っていないのは確実だ。ぐるりと狭い部室の周りを見渡してみる。あ、隅にゴキ……違う触覚じゃなくてあれはツインテール。そんなでかいGがいてたまるかってんだ。
陽月はそんな隅で菌類よろしくジメジメしたオーラを発しているこの場で唯一三年生の矢澤にこに座っていた席から立ち上がった後、すぐ近くまで歩き声をかける。
「どうしたんですかそんな隅っこで。カビが生えてもしりませんよ?」
「……私この前誕生日だった」
「……今度祝ってあげますから」
「……約束よ?」
「えぇ勿論」
陽月は立ち上がり、元々座っていた席に再び腰を下ろす。はやくも誕生祝いの約束をしてしまった。今進行形で誕生祝いだというのに……我ながらやれやれってヤツだ。
「にしてもどうするの? いくら保健委員だからってすぐきちゃうんじゃないの?」
真姫が至って真面目に意見を述べる。そう、ことりがこの場にいないのは陽月たちが作戦会議の為に追い出したわけではなく、ただ保健委員の集まりがあるからなのだ。つまりそんな悠長にしていられる時間はないのだ。
「今からケーキ買いに行くったってなぁ……」
「花陽は今から折り紙おります!」
そう花陽は言って手早く折り紙を慣れた手つきでおり始める。
「凛は手品にゃー!」
どこから出したのかシルクハットにタキシード姿になっている凛は手から花を出したりステッキをだしたり……。
「クオリティ高ッ!」
思わずツッコミ、時間のロスだ。
「穂乃果は……お、お手紙!」
穂乃果、祝う気あるんでしょうか。
「え、えっと……私は……手拍子?」
大変だ 海未 は 混乱している!
「私は即興演奏でいいかしら」
「なんかまともに聞こえる!」
思わずあまりの普通さにツッコミが入る。ファック、また時間のロスだ。ツッコミキャラはこれだからいけない。無駄に口調もワイルドになってしまっている。
「じゃあ今から急いでケーキ買ってきま――」
「こんにちは~♪」
「って早ッ!」
部室を出ようとした瞬間、話題の人物であることり、参上。
瞬間、サプライズ性を重視するプランに決定。この間、0.2秒。
「ことりさん! お誕生日おめでとうございます!」
「「「「「ことりちゃん! おめでとう!」」」」」
陽月の意図を察したのか、穂乃果、海未、凛、花陽、真姫が戸惑い気味に声を上げる。矢澤先輩は……まだ隅でジメジメしている。
「え、えぇ~っ!」
突如大声を向けられたことりはあまりにも突然の事に驚きを隠せないようだ。それもそうだ。プレゼントの事を聞いたり、誕生日関連の話題を一度もしていないのだから、これが普通の反応ともいえるだろう。その動揺した様子に畳みかけるように陽月は続けて声を上げる。
「いけ! 花陽、折り紙プレゼントだ!」
視界に完成したと思わしき紙が見えたため、一番槍を花陽にパス。その声に答えるように花陽が前に飛び出す。
「はいことりちゃん! 誕生日おめでとう!」
そう言って手渡したのは、可愛らしいことりさんだった。名前とかけているのか、中々のクオリティだ。いや、よく見ると羽のしわや、瞳のクリクリ具合などがリアルな出来であった。あの短時間でこれを作り出したとなると相当なものだ。師匠と崇め奉らねば。
「次! 凛びっくり手品だ!」
関心を覚えた心を一度、落ち着かせ次の凛をコール。次の行動に移らせる。
「いっくにゃー!」
手品は、凄い。何もない所からモノが飛び出すわ、いきなり帽子からハトが飛び出すわ。ハトは部室という密閉された空間でだしたため、天井にぶつかってしまったが。ここまで謎の高クオリティの連続で、ことりも最初は呆気にとられた様子だったが、次第に喜びの色が表情に見えてくる。
「次! 真姫は……演奏道具が無い! 今度だ!」
「……仕方ないわね」
仕方ないので真姫はスキップ。次回に期待しよう。次があるかは不明。
「じゃあ次は……穂乃果さん! 一緒に海未さんも!」
「「はい!」」
合図と共に穂乃果と海未が前へ。海未は宣言通り、律儀に手拍子。穂乃果は確か手紙だったか……。
「ことりちゃん! 誕生日おめでとう! ケーキは――おほっ! げほっ! とにかくおめでとう!」
ちょっと簡素すぎませんかね。しかもケーキの話題振りかけて誤魔化してるし。海未はそのフォローに手拍子を一層強くしていた。そして穂乃果が読み終えると同時に全員で大きく拍手。凛や真姫が機転を利かせてテーブルに合ったクラッカーを鳴らす。鼓膜を震わせる、飛行機の発着音よろしく大きな音での祝福の合図だ。
「これ……ちょっとアレですが、皆のお祝いの気持ちです!」
最後に陽月が、例の足の欠損したひどく不格好なサンタクロースの砂糖菓子を手渡す。夢を届けるはずのサンタクロースが幾分滑稽に見えるのは気のせいだと信じたいものだ。
「あ、ありがとう皆~。このサンタさん足がないけどどうして?」
至極ごもっともな質問。正直に答えようか考えていると穂乃果が陽月より先に声を上げた。
「ごめんことりちゃん! それ穂乃果が少しだけつまんじゃったの、ごめんね!」
ケーキを食べた、という点は否が応でも隠すつもりだ。これだと元々砂糖菓子の滑稽で不格好なサンタを渡す算段だったと言っているようなものである。
「え、そうなの? ……気持ちだけでもうれしいよ!」
そして陽月は見逃さなかった。ことりが足のないサンタクロースを素早くしまうのを。それは穂乃果の一言を聞いてからだ。目にも止まらない速さで素早くポケットへ叩き込まれたサンタの運命は如何に。
そして陽月は、その光景を見てあのサンタの今後を考えてしまい、少々いたたまれない気持ちになった。彼はきっと本来の用途では使われないのだろう。
その後、陽月はひとっ走りケーキ屋までダッシュ、ことりの好物らしいチーズケーキを買いに行ってきた。そしてどんちゃん騒ぎ。ことりの誕生日祝いはグダグダながらも楽しむ、という事に関しては大成功をおさめた。ことりも始終笑顔であったのだが、それはあのサンタのせいだと思うと、それもまた複雑な気持ちになってしまった陽月だったのだが。
そして、次は矢澤先輩の遅れた誕生会も行われるのだが、それはまた別のお話。
作風がいつもと違うのは、たまには違った書き方で、というわけです。深い意味はありません。(とある小説を読んだためです
作者はチーズケーキが嫌いでして……キャラの好きな物を誕生日に食べることができない苦痛を味わいました。
活動報告の方はまだ継続中ですのでよろしければ。