Another School idols diary 作:藤原久四郎
見知らぬ三人と朝の時間
「μ´s、ライブやりまーす!よろしくお願いしまーす!」
通りかかる学院性にビラを手渡しながら声を張り上げているのはこの学院唯一の男子である泰原陽月。朝の登校時間から配っているのはこの学院のスクールアイドルμ´sの初ライブの告知のビラだ。
「よろしくお願いしまーす!」
一人、また一人とビラを渡し、朝から頑張った成果か程なくして手元に残ったのは二枚になった。朝の登校のピークも終わったので人の数のまばらになっている。
「よし、成果は上々ってところかな」
手持ちの残りは俺と…矢澤先輩でいいか。というか他に気安く渡せそうな人材がいない。一応三年生なのにこの気楽さは一体何なんだろうか。
「あのー、ちょっといいかな?」
二枚のビラを抱えて俺も教室に入ろうとした時に後ろから声をかけられた。
「あ、はい。なんですか?」
振り向くとリボンの色から察するに二年生であろう三人組が立っていたが知らない人だ。
その三人の真ん中の茶色の髪をショートカットにしている人が俺に話しかけてくる。
「それってμ´sの初ライブの告知の紙だよね?」
「そうですが、もしかしていります?」
となると一枚足りないが…いいだろうか。
「えっとそうじゃなくて、それって穂乃果たちのお手伝いなのかなって」
穂乃果さんの名前がでるってことはお友達だろうか。では何故話しかけられたんだろうか。
「まぁお手伝いに入るんですかね?俺が是非って言ったので」
「君ぃ中々見どころあるねえ」
今度は左に立っていた紫の髪をポニーテールにしたノリの良さそうな人が話しかけてきた。
「というか二人とも、名前も名乗らずにじゃだめだよ~」
次は左端にいた二人よりも身長が一回り小さく、短めの髪をおさげにしている人が物凄くごもっともな事を言っている。
「えーっと、じゃあ一応名前聞いてもいいですか?俺は一年の泰原陽月です」
「あぁごめんね、私はヒデコ」
「私はフミコよ」
「私はミカっていうの~」
どうやらショートカットの人がヒデコ、ポニーテールの人がフミコ、小柄な人がミカという名前の様だ。俺だけフルネームだったが、何故だろうか。
「じゃあヒデコさん、フミコさん、ミカさんって呼びますね」
「よろしくね。あぁそれでなんだけど、陽月くんちょっと放課後一緒にお手伝いの一環をしてくれないかな?」
ヒデコさんが少し遠慮がちに俺へ頼みごとをしてくる。特別今日は用事もないので断る必要はないな。
「お手伝いですか、いいですよ?」
「やり~、丁度男手が欲しかったんだよ~」
今度はフミコさんが嬉しそうにそう言ってきた。男手が要るってことは何か力仕事だろうか。あまり力仕事は好きではないので安請負したのを既に後悔しそうになった。
「俺で良かったら全然いいですよ」
まぁ承諾した手前、そんなことを言うわけにもいかず、この際だから力仕事も慣れておくことにしよう。
「なんかごめんね~でも本当に男手が必要で」
ミカさんは申し訳なさそうに謝ってくれて、なんか心がほっこりした。あれだろうかどこか年下に見えるからだろうか。だけどウチの部長は見てても和みも癒されもしないんだが……なんか寒気がしてきたぞ。
「じゃあ放課後に講堂に来てね!また放課後に会いましょ」
「まったねー」
「じゃあ陽月くんまた放課後に」
それぞれが俺に一言ずつ言ってから昇降口の方へ向かっていった。にしても手伝う内容聞いてないな。最近どこか聞き忘れが多い気がするぞ。
というか俺もそろそろ教室にいかないと遅刻になってしまう。そう考え、すぐさま足を昇降口の方へ向けて歩き出す。丁度靴を履き替えた所で誰かが隣にいることに気が付く。気が付かないうちに横には矢澤先輩がいたようだ。
「あれ矢澤先輩。いつからいたんです?」
「……ついさっき」
「もしかして結構前からいました?まぁそうだとしても背がひく―」
背が低いといいかけた所で弁慶の泣き所に強烈な蹴りが飛んできていた。
「いってえええええええええええええええ!」
突然の激痛により場所も考えず獣のような方向を辺り一帯にまき散らしていた。
「……バカ」
俺はもう少しデリカシーを持った方がいいのかもしれない。
「ぐぉぉ……足がいてぇ……」
教室に始業五分前に付いた俺は机に突っ伏しながら矢澤先輩に蹴られた脛をいたわるように優しくさすっていた。
「だ、大丈夫?陽月くん」
隣からおっとりした、耳に通りの良い澄んだ声が聞こえてきた。小泉花陽、俺の数少ない友達と呼べる存在だ。
「はは……大丈夫と言いたいが死にそう」
「何があったの……」
それ以上は花陽は詮索しないでくれたが変な所で気を使われてもこちらが凄く惨めに感じるだけだった。
「どうせ陽月くんの事だからデリカシーのないことでも言ったんだにゃー」
今度は真後ろから猫語が特徴的なこちらまで元気になれそうな活力に溢れた声が聞こえてきた。
「凛見てた?」
「何も見てないにゃー三年生の先輩から蹴られてたなんて知らないにゃー」
明らかに一部始終を見ていたであろう口ぶりのコイツは星空凛。学院初めての友達……のはずが中々キッツいことばかり言われているというのが現状である。
「陽月くん、三年生に知り合い居るの?」
花陽が頭にはてなマークを浮かべながらもっともな疑問をぶつけてくる。まだアイドル研究部に入ったこと言ってなかったんだった。
「俺、アイドル研究部に入ったんだ。その先輩」
アイドルという単語を聞いた瞬間、花陽の眼鏡を通した瞳がギラリと光ったように感じられた。だがそれも一瞬で
「よ、陽月くんってアイドルにキョウミあったんだねー」
どこかよそよそしい棒読みになっている花陽。明らかに様子がおかしい。瞳はどこか明後日の方を見ているし、こちらから顔をそらしている。
「おぉかよちんがアイドルの事なのにモゴモゴ」
凛が何か言いかけた所で花陽の手が素早く凛の口を抑えにかかっていた。俺だけが状況を飲み込めず二人の様子を生暖かい目で見るしかできない。
「ま、まぁそういうことだから。あ、あとこれ」
そういって二人に今朝学院前で配っていたビラを手渡す。結局矢澤先輩に渡してなかったから丁度良く足りた。そういえば気安いとまではいかない人材がいたのをすっかり失念していた。
「何々…?ス、スクールアイドル!?」
「かよちん知ってるの?」
花陽の驚愕の声が耳に突き刺さり、思わず耳を塞ぐ。それに凛が問いかける。
「……まさかこの学院にもスクールアイドルが……でも最近までそんな話は……」
一人でブツブツと何かを念仏のように唱えている花陽。まだ知り合って間もないがこんな奇妙というか珍妙な様子は初めてだ。その疑問に答えるように横から凛が耳打ちをしてきた。
「まぁそっとしておいてあげるのが一番にゃ」
仲の良い凛にまでそう言わせるとは……大人しく何も言わないで置こうと決めた朝の始業前のひと時だった。
凛の口を押えた花陽とか説明不足な所もありますが、そこはあえて書いておりません。
書いても良かったのですが必要もないかなーと思いまして。
真姫はそろそろしっかり書きます。(反省