Another School idols diary 作:藤原久四郎
新入生歓迎会、それに合わせたμ´sのファーストライブまであと一日。
昨日のビラ配りに講堂の整備。ライブに向けた準備は順調だった。後は本番の日次第といったところだ。
そんな濃厚な日々を送っている俺だが、今、昼休みの時間に悩むというか苦しんでいることがある。
「筋肉痛がぁ……」
講堂の整備と簡単に言ったが内容は重い機材、照明などの配置換えなどで最近筋肉をまともに使っていなかったせいか体の至る所が悲鳴をあげるどころか死に絶えている。
「大丈夫?陽月くん」
「鍛えが足らんのにゃー」
聞こえてくる花陽と凛の声に返事を返すことですら怠い。なぜこんな瀕死の体で何が楽しくて学院にこなくてはならないのか。だがこんな事で学院をサボるのもアホらしいので来ているというなんとも情けない事だ。
「うーん死ぬ……」
返事を返すことにより喉が震え、その振動でまた体がギシギシと痛みを訴えてくる。幸いなことに痛いだけでまだどうにかなるからいいのだが。
「そうだ、保健室で湿布とか貼ってもらったらどうかな?」
花陽が俺の体を労わった提案をしてくれる。そうかその手があったか。保健室なら色々と物もあるだろうからな。
「じゃあ行ってくるわ……」
体重を預けていた机と椅子から鉛のような体を引き離し、フラフラとおぼつかない足取りで保健室までの道のりを歩いて行こうとしたが、
「そうだ、俺保健室しらないから……凛、案内してくれ」
前回の反省を活かし、凛に同伴を頼む。別段どっちがいいというわけではないが凛の方が力もありそうだし俺が倒れようと引っ張って行ってくれるだろう。
「仕方ないにゃ~」
凛もやれやれと言った感じで席を立ちこちらに向かってくる。
「じゃあ行ってくる(にゃー)」
「いってらっしゃい」
教室を後にした俺は凛が歩く方向に着いていくのだが、保健室は意外と近く一階の教室から出て昇降口の反対側あたりにあった。これなら一人でも行けたかもしれないな。
「付いたから凛は先に戻るにゃ~」
「わざわざ悪かったな」
「気にしなくていいにゃー」
この学院の皆はやはり優しいと感慨深く思う。その優しさがこの痛みにも効けばいいんだが。
凛と別れ保健室の扉を力の入らない手で重々しく開く。
内部は清潔感があり、掃除も手入れも手が行き届いていること察することができ、独特の消毒の臭いが鼻をくすぐる。
そんな部屋の中央の医療セットの置かれた机の前で座っているのは保健室の先生ではなく、髪の結び方が独特なμ´sの一員でもあることりさんだった。
ことりさんはまだこちらに気が付いておらず、洗ったものであろう清潔そうな包帯をクルクルと巻いて一つに纏めている。
そういえばここに来てからというものいつも俺は驚かされてばかりだ。折角なのでここらで一発脅かしてみるというのはどうだろうか。初対面というわけでもないし、ことりさんは優しそうな雰囲気なので案外笑って済ませてくれるだろう。
そう決めると行動は早かった。開けた扉は音がならないように慎重に閉め、それから抜き足差し足でことりさんの背後の後ろに迫る。
さて、どうしよう。目を隠して誰か当てさせるのは声で一発だろうし、あまり大声だすのも流石に可哀想だし……肩をポンポンと叩いて指を頬に指すというのはどうだろう。それなら怒られることもないだろうし。まぁ脅かせはできないが。
よし、じゃあやるぞと手を肩に伸ばした時
「なにしようとしてるんですかぁ?」
「うわぁぉ!」
突然の声に驚き、床に倒れこんでしまう。しかもその衝撃でまた筋肉痛が襲ってくるという最悪のパターンだ。
「大丈夫ですか~?」
クスクスと笑いながらこちらに微笑みかけてくることりさんは天使の用にも悪魔の用にも見えた。なんだ、やはり俺は驚かされるのか。
「気が付いてるなら教えてくれればいいじゃないですか……」
「あはは、ついつい~」
あ、これ絶対わざとだ。悪意にまみれている。
「というかなんでことりさんがここに?」
「私、保健委員なんだ~。先生がちょっと離れるっていうから私が代わりにいるの」
「成程そうなんですか。早速で悪いですが湿布とか貰えますかね、筋肉痛が酷くて」
その時、ことりさんの瞳の奥が妖しい光を見せた気がしたのだがその時は別に気にしなかった。よく考えればそれは失敗だったと後になって思うことになるのだが。
「そうなの~?なら私がマッサージしてあげるよ♪」
「え、えーと、別に湿布貼れば治ると思うんですが」
「いいからいいから。さ、ベッドに横になって?」
「あ、はい……」
結局断り切れず保健室に備え付けられたベッドに横になる。どこか嫌な予感がするんだよな。しかもこういう時の感って無駄に当たるし。
「ことりのマッサージは凄い効くって評判なんだよ?しかも効果覿面!」
駄目だ、怪しい通販みたいな雰囲気が漂っている。本能が逃げろとサイレンを鳴らしている。今からでも遅くないから脱出を……
「うごいちゃだーめ♪」
動かそうとした足と手を素早く拘束されてしまう。下を向きながら布団に寝ていたために上から乗られては体も動かしようがない。
「あ、あのー、もしかして痛いですか?」
マッサージと聞いて真っ先に思い浮かんだのが痛みのツボをかなり押してくるというパターンだ。しかも無理矢理拘束してきた所を鑑みるとあながち間違っていなさそうだから恐ろしい。
「大丈夫、大丈夫。痛いのは最初だけだから♪」
そのセリフは男が言うものじゃと心の中で突っ込むがどう考えてもこの状況はヤバい。しかもことりさん凄い楽しそうだし。
「あのーできるだけ痛くしないでください……」
俺は男らしく腹を括り、男らしくもない懇願をことりさんにする。あぁなんでこんなことに。
「えへへ~ことりにお任せです!」
ことりさんの天使のような笑みが悪魔のそれに見えた後の十分間は男の絶叫が廊下へ響き渡り、後から聞いた話だとその声は教室まで届いていたらしい。
何がいけないかってその後、筋肉痛は嘘のように消えていたことだ。
やっぱりことりはSですね。