Another School idols diary 作:藤原久四郎
準備に準備を重ねた新入生歓迎の日、つまりμ´sの初ライブの日でもある。自分の心のままにμ´sの為に活動してきた数日間の集大成。
そんな日の授業など頭に入るわけもなく、ただボーっとしている物だから当てられようが答えられるわけもなく。
「おい、泰原。この問題解けるか?」
「あ、はい」
何々……先生の指さした個所には黒板があり、そこには数字と記号が多数書かれている。
数学の問題ということしかわからんぞ。
「答えられないと廊下で背筋百回な」
「また意味の分からない罰ですね……」
理解不能の罰を下されるのはお断りだ。集中しろ、今までの俺とは違うことを……授業を真面目に受けて成長した姿を見せる時だ。
「先生……わかりました」
「ほう、じゃあ答えてみろ」
「わからないということがわかりました」
「よし、背筋な」
「何もマジでやらせんなよ……」
今日の最後の授業である数学は散々な結果であることはもう言うまでもないだろう。結局真面目に背筋百回やり終わる頃にはとっくに授業も終わり、更にはSTまで終わっていた。
俺居ないの気付いてよ……というか外にいる俺に気が付かずに教室入っていったって凄いな……。
「普通にアホだにゃー」
至極真っ当なお指摘をしてくれるのは猫言葉の特徴的な活動的な様子の伺える凛。
「うるさい、俺だっていつも真面目にやってるわけじゃねぇ」
「真面目……?」
地味に酷い疑問を浮かべているのは、俺の隣の席で眼鏡をかけた弱気そうな花陽。
「もう少し優しくしてほしいぜ……」
普段ならばこのまま帰るところだがこの後のμ´sのライブがあるのでまだ帰れない。
時間は四時頃なのだが今は三時。まだ開演までには時間もあるのだが、実は機材のチェックを手伝って欲しいと事前にヒデコさん達から言われていたので今から講堂に向かわなければならなかった。
「じゃあ俺もう行くけどライブ来てくれよなー」
「うん、じゃあまたね」
「陸上部とか見たらしっかり行くにゃー」
花陽は喜んで来てくれるらしいが凛まで来てくれるとは少々意外だったのだが凛も意外と女の子らしい面があるというわけか。
「あ、真姫もちゃんと誘ってきてくれよ?」
「うん、大丈夫だよ」
「陽月くんはいつの間にか色んな女の子と仲良くなってるにゃ」
「そうだろう、これがカリスマだ」
ちょっと冗談気味に決めポーズまでとってあちらの出方を伺ってみる。
「ちょっと……」
「寒いにゃ~」
そんな俺から見てられないと言わんばかりに二人とも目をそらして明後日の方を見ている。せめてこちらを見て欲しかった……。
「じゃ、じゃあ俺行くわ……」
耐えきれず微妙に傷心したまま教室を飛び出した俺は真っ直ぐに講堂の方へ走っていく。
毎回思うが冗談は相手が笑ってくれないとただひたすらに悲しいと思う。まだ会って間もない二人だから思いきり素の反応だったし。
沈んだ心を慰めながら走っていき、講堂へ行くには教室の中間である中庭の渡り廊下を通る必要があるのだが、そこですっかり見慣れた顔である人がウロウロとしているのに遠目でも気が付くことができた。
「何してるんですか、矢澤先輩?」
「あ、陽月じゃない。あんたこそ何してんのよ」
アイドル研究部所属の部長、矢澤にこ先輩だ。身長は俺よりも一回り低く、遠目でも気が付くことが出来たのはそれと、今ではやっている人もあまり見ないツインテールをしていたからだ。
「俺は今から講堂いくんですけど」
「へ、へぇ~そうなの」
嘘をつく人がよくする視線は斜め上をフワフワと見ながら微妙に言葉が詰まらせるという事を矢澤先輩はしている。簡単に言えば白々しい。
「もしかして、今日のμ´sのライブ来るつもりだったんですか?」
「べ、別に?そんなことないわよ?ただそこに綺麗な花が咲いてたから」
矢澤先輩の指さした先には、それは立派な草たちが鬱蒼と生い茂っていた。
「ほう、矢澤先輩は独特の感性をお持ちですね」
「じょ、冗談よ!そうよ、ライブ見に行くの!」
意味もなく隠さなくてもいいのに。このままだと長々と会話を続けてしまいそうなので一旦打ち切り、ヒデコさんとの約束もあるので急いで講堂に行かねばならない。
「じゃあ、俺行くんで、また後で!」
「あ、うん。またね」
一方的に会話を打ち切り講堂への道を走り抜ける。まぁそれほど距離もないのであっという間に着いたのだが。
講堂は重々しい扉に閉ざされており、その中は今の全校生徒を簡単に収容できるほどの大きさで、椅子は映画館のようにずらりと並べられている。
そんな広々とした空間の一番奥、所謂ステージ部分に三人の影が見えた。
「すみません、遅れましたー」
ステージまで小走りで近寄りステージにいる三人、ヒデコさん、フミコさん、ミカさんに声をかける。
「お、わざわざごめんね陽月くん」
「遅いぞ少年」
「陽月くんありがとね~」
以前、ビラ配りの際にμ´sのライブの事前手伝いを依頼してきたことがきっかけで面識のあるヒデコさん達。その事前手伝いは俺の筋肉痛をもって完璧にすまされたのだが、今日は一度ステージで音楽を流しつつ流しで照明等の確認をするらしい。
「で、俺は何したらいいんですか?」
まだ聞いていなかった今日のすべきことを全体の指示をしているヒデコさんに聞いてみる。
「とりあえず陽月くんは舞台に上がって、こっちから指示だす位置に移動していってくれるかな?私たちはそれぞれやることあるから」
「わかりました。早速やっていきましょう!」
ヒデコさん達と入れ替わるようにステージにあがり、舞台を軽く見渡しながらヒデコさんの指示を待つ。
舞台から見る観客席はまた一回り大きく見える。そんな席がすべて埋まり、皆の声援が聞こえてくると考えると自分がやるわけでもないのに緊張感が体に満ちてくる。
でもμ´sの皆は後でここで歌うんだ。それを最高の形で成功させるために今は頑張ろう。体に満ちていた緊張感はいつしかやる気に変わっていた。
「じゃあいくよー」
舞台上の天井に付けられた二つの大きなスピーカーからヒデコさんの確認を取る声が聞こえてくる。
「はい!」
俺は講堂の隅にまで聞こえるほどの大きな声で了承を返した。
十分程で機材の確認も済み、後は開演を待つだけの時間。あと残り三十分。
俺はもう一度学院にいる生徒たちにμ´sのライブの告知をするために一度校門の方まで足を運んでいた。
新入生歓迎と言ってもあくまで放課後に部活などが自主的に行うものなのでチラホラと帰ろうとしている生徒たちも見受けられる。もう帰ろうと出ていこうとしている人を引き留めてるも迷惑かと思ったが念には念を入れておきたい。大勢は無理でも時間の余っている少数の人ならライブに来てくれる可能性もある。
その可能性にかけ、俺は喉を限界まで鳴らしライブの告知をする。
「この後四時から、μ´sファーストライブやりまーす!」
だがほとんどはこちらに見向きもせずに校門から出て行ってしまい、数人は足を止めてこちらを見るが程なくして校門あたりにいた人は全員帰ってしまった。
やはり認知度が低いのだろうか。いくら人が少ないとはいえ、スクールアイドル自体に興味を持っている人がゼロという事はないはずだ。
なのに何故こんなにも胸騒ぎがして、俺はここまで焦っているんだ。
なんだ……似たような事を俺は体験したことがあるのか?
いや、そんなことはないはずだ。それよりももう開演まで十分程しかない。そろそろ戻らないと……。
「陽月くん?」
止まっていた体を講堂まで運ぼうとした時、何度か聞いた声が後ろから聞こえてきた。
「あれ、絢瀬会長じゃないですか」
声の主はこの学院の生徒会長を務めている三年生の絢瀬会長だった。何やら小さな箱を小脇に抱えているようだが今は講堂に戻らないとライブの時間が迫っているのだ。
「すみません、俺急いでるんですが」
丁寧に急いでいるという事だけを簡潔に伝えると絢瀬会長は全てわかっているようなそぶりを見せ、
「今からμ´sのライブなんでしょ?これ、お願いしてもいいかしら」
そう言って脇に抱えていた小箱を俺に渡してきた。
「ん、なんですかこれ」
「ビデオカメラよ、それでライブの様子を撮っておいて欲しいの」
「それまた何故です?それに会長自らやればいいんじゃ?」
最もな疑問をぶつけてみる。すると絢瀬会長は苦虫を噛み潰したような顔をしてから苦笑いしていた。
「なんていったらいいのかしら、それは貴方に是非やってほしいって思った。って言ったら疑うかしら?」
絢瀬会長は遠慮がちにそう言ってくる。何をするのかはわからないがデータにして残すのは悪くないだろう。記念すべき最初のライブなのだから。
「そういう事なら少し借りさせてもらいます。じゃあ俺行くんでまた!」
絢瀬会長に一礼してからビデオカメラの入った箱を抱えて講堂への道のりを走り出した。
開演まであと五分、間に合った。俺は全力疾走した反動で肩で息をしながら講堂前の扉で荒くなった呼吸を整えていた。
深呼吸。よし大丈夫。俺は一度目を閉じ、今までの事を振り返る。
するべきことは全部したつもりだ。最初は軽い気持ちだったが今ではまだわからないままだがすっかり本気になっていた。
そうだ、このライブが終わったらマネージャーにでもさせてもらおうか。そうすればずっと彼女らを応援していける。そうしている内にわかるだろう。俺の気持ちの在り処が。
「ここからスタートするんだ……」
μ´sの皆の奇跡が。
扉を開ける――
だが、
扉を開けると、中にはこの学院の生徒なら全員収容できそうな広く大きいスペースがあり、映画館の様に並んだ多くの椅子がある。
その中に、俺以外の人はいなかった。
最初はそんなことないと思ったが目を擦ろうが、周りを見回そうが、夢かと思い顔を力の限りつねるが目を覚ますこともない。
現実は、残酷だ。
花陽や凛、真姫も居ない、観客はゼロ。舞台の中いるであろう穂乃果さん達をこの絶望から守っていた幕が開く。
きっと穂乃果さんも海未さんもことりさんも期待に満ち溢れた顔を、希望を抱いていただろう。だが、その理想は跡形もなく破壊される。
俺はとてもじゃないが見られなかった。どんな顔をしているのか見るのが辛い。努力をしたのを知っているから。苦労していたのを知っているから。
舞台では穂乃果さんが大きな声で何か言っているが俺はそれを聞くことはなかった。きっと聞いてしまったら泣いてしまうだろう。俺にはどうすることもできない。観客ではあるがそれ以上に影なのだ。μ´sの為に動いた一人だ。それでは意味がない。関わっていない、言ってしまえば他人の応援がいる。だから早く――
足音が聞こえる。
幾つもの音。走っているのだろうかこちらにドンドン近づいてくる。
その音が俺の後ろの扉の前で止まる。
扉が開く――
「あ、あれ?ライブは?」
「もう終わっちゃったのー?」
「そんなわけないじゃない……」
扉を開けてきたのは凛、花陽、それに真姫だった。
ちゃんと来てくれたのだ。息も途絶え途絶えで何があったのかはわからないがそれでも。
そんな三人に俺は感謝でもなくこう言わねばならない。
「遅いぞもう始まるとこだ!俺一人じゃ盛り上がらないだろ!」
感極まって泣きそうなのを必死にこらえ気丈に振る舞い、涙を抑えるために大きな声を張り上げる。
「ご、ごめん……ちょっと色々あって」
「そうにゃー西木野さんが――」
「ちょっと凛!それは言わない約束じゃない!」
一々聞く必要はないか。それ以上に今は必要なことがたくさんある。舞台にいる穂乃果さん、海未さん、ことりさんの方へ思い切り叫ぶ。
「始めてください!ここが、今が!スタートです!」
困惑の表情をしていた穂乃果さん達だったが少しづつ顔がいつもの表情になっているのが遠目でもわかる。
穂乃果さんの瞳に決意が灯り、覚悟を決めた事を理解させる。
「では、聞いてください!」
穂乃果さんが講堂全体に響き渡る声で告げる。
それを合図と取ったのか、一拍おいて照明が消える。
俺たちは暗くなった講堂内を足元だけを照らしている光を頼りに見やすい位置まで近づき、その瞬間を待つ。
ここが本当のスタート。現在から未来まで続く長い、長い夢の。
九人とそれを支える一人の夢――
叶え、皆の夢――
START:DASH!!
ライブ描写はどうしたらいいのだろう。
書かなくてもいけそうなのだが……
一旦ここで一区切り!ライブも終わり一部完!といったところでしょうか。
次からは日常をどんどこ書いていくつもりです。
気になる点や改善点は指摘いただけると幸いです!