Another School idols diary 作:藤原久四郎
後日と依存
失敗か成功かで言われた場合、失敗と答えざるを得ないμ´sの初ライブの次の日の弁当の時間、俺は花陽や凛、そして真姫と一緒に昼食をとっていた。
机を向い合せ四人で固まり、いただきますをしてから食事を開始する。
全員の弁当を見渡してみるが花陽の弁当はおかずよりも何故か白米が多く、凛の弁当には肉気の物しかなく、真姫の弁当には明らかに高級そうな食材をふんだんに使ってあろう物が並んでいたりと中々個性溢れる集団だ。俺の弁当は普通です。
全員が何故か押し黙り、黙々と咀嚼を続けていく中俺はこの前聞きそびれた事を聞いてみることにする。
「なぁ、昨日のライブの時遅れたけ理由で真姫が原因だとかどうとかいってたが、それって結局何があったんだ?」
「ぶふっ!」
俺が問いかけた瞬間口に含んでいた物をお嬢様である真姫がその中身である高級食材を凛の手元に盛大に吹き出した。流石にこれを見るのは不味いと思い、目を逸らしながら誤魔化しも兼ねて弁当から出汁の染み込んだ母自慢の卵焼きを口に放り込む。
「ちょっと真姫ちゃんとんだにゃー!」
突然のテロに声を張り上げて怒りをあらわにする凛。
「わわわ、真姫ちゃんティッシュ!」
それに伴い慌てた様子で真姫や凛にティッシュを手渡す花陽が視界のギリギリに映る。
「な、なぁ大丈夫か?」
俺は目を逸らしたまま真姫たちの方を見ずに状況を伺う。まだ視界の端でアタフタしている花陽が見えるという事はまだ高級食材たちは凛の手の上で踊っているのだろう。
「も、もう!その話題はいいでしょ!?」
時間にして数十秒後、真姫が口を拭いながら声を荒げて俺に詰め寄ってくる。そんな勢いよく喋ったらまた口から飛び出すぞ。
「い、いや……単に興味なんだが……」
これだけ取り乱すという事はもしかしたら真姫の弱点とかわかったりするのではないか。
「じゃあ凛が説明するよー!」
それは、梅雨に入り、雨が降りしきる夕暮れ時の事だった……。
「既に季節がおかしいぞ」
真姫はそんななか傘を片手に指しながら家への帰路を急いでいた……。
早く帰らないとドラマの再放送が終わっちゃう!
「理由がしょうもないな」
そんな時、段ボールに捨てられた一匹の生物を発見してしまった……。
「子猫とか子犬とかよくある話だな」
それはなんとアルパカだった……。
「意味わかんねぇよ!」
「お、落ち着いて陽月くん」
「そうにゃ、まだ続くのにゃ」
「これ絶対関係ない話だろ……」
アルパカは雨に濡らされており、時折寒そうに体を震わせていた。
そんなアルパカを真姫は放っては置けず、ドラマの再放送があるのも忘れアルパカに傘の中に入れ、アルパカを襲っていた雨から守ってやる。
「大体アルパカって何のチョイスだよ……」
真姫はこちらを不思議そうに見つめているアルパカに対し、優しく微笑みながら話しかける。
「貴方、どうしてこんな所にいるの?」
アルパカに言葉はわからないとわかっているのに真姫は優しく安心させるように問いかけみる。
するとアルパカは何か察したかの様に真姫の方へ顔を近づけてくる。真姫はきっと寂しかったのだろうとその顔が近づいてくるのを受け入れる姿勢でいた。
「いい話にしようとしてるのか……?」
徐々にアルパカの顔が真姫の方へ近づいていく。真姫は何も言わずに目を閉じているのだが、この場に似つかわしくないガパッという何かが開く音を耳にした。
何かと思い、閉じていた目を開けた瞬間、思い切り顔をざらついた舌でなめられたのだった。
「だから何の話だよ!!」
わけのわからない話を長々話されたため、疑問とツッコミを同時に放つ。
「これ、後半そのまま起きた出来事にゃ」
「何……?」
「続きを言えばその後真姫ちゃんが泣きそうになって、それをなだめていたから結果としてライブ遅れたのにゃ」
「ま、マジか……」
横では真姫が顔を赤くしながら俯いており、その横では花陽が必死になだめている。
「なぁ凛……」
「なんにゃ?」
「笑っていいのか?」
体を震わせながら凛に目を合わせながら問いかけてみる。
「凛も現場見てた時は笑っちゃったにゃ」
その後の教室には笑い声が二つと怒声が一つ、神に助けを求める声が一つと騒がしい声が響き渡っていたそんな昼休み。
真姫にこっぴどく怒られた昼休みの後、午後の授業で俺はこの学院に来てからの初めての体育を体験することになった。体育はなぜか金曜日の午後に一回しかないのだがそれが編入から一回もなかったのは短縮授業や行事などの日程で体育が無くなっていたのが原因だ。
そして今、俺がいるのはこの学院が共学化に伴い新しく整備された男子用の更衣室。などではなく所謂物置と化した空き教室だ。
どうにもまだ整備が進んでおらず男子更衣室はなく、男子用トイレもまだ校舎の階層毎にひとつあるだけだ。お蔭様で今も絶賛苦労中だ。
仕方のない事とはいえ、不自由なことこの上ない。正直編入する年を一年間違えたと言わざるを得ない。
「まぁグダグダしてても仕方ないし、着替えるか」
一度無駄な思考を遮り、予め教室から持ってきた体操着に着替えることにする。なんだ、誰もいないとはいえ女子だけの学校で着替えをする、ないし肌を見せるというのはどうにも緊張する。世の中の特殊な嗜好をお持ちの方たちが俺の立場に立てばさぞ興奮なさることだろう。
また意味の分からない事を考えながら上の着替えから進めていき、下の着替えも始める。音ノ木坂の男子制服は一般に学ランと呼ばれている形式の物らしく上は上着でその下にカッターシャツ、そして下はズボンだ。
上を体操服に着替え、下も履き替えようとズボンを下ろした瞬間、手に机を持ちながらフラフラとした挙動で海よりも青い長い髪を揺らしながらある人が入ってきた。
「あ……」
「え……?」
俺はズボンを下におろしたまま固まり、青い髪をした大和撫子という言葉の似あう彼女、二年生でμ´sの一員でもある園田海未先輩は持っていた机を地面に落としていた。
沈黙、そして緊張。そしてその中で俺は頭もまともに働いておらず、唯一口に出せたのは確認の言葉だけだった。
「ズボン……履いてもいいですか?」
「きゃああああ!!」
了承の返事は悲鳴で帰ってくる。もう少し気の利いた返しをできたらいいのにと自分の不甲斐なさを後悔した瞬間でもあった。
「お、落ち着きました?」
「は、はい……すみません」
その後俺は素早く体操服のズボンに足を通し、海未先輩が叫ぶのを必死に止めようとなだめていた。結局一分ほど耳に突き刺さる程の声で叫ばれたものだから未だに耳がキンキンと不協和音をならしている。
そして何故か俺と海未先輩は床に正座しながら向かい合っていた。
「というか海未先輩はなんでこんな所に?」
そもそもこの教室には確か男子更衣室と書かれたプレートもかけられている筈だしまさか入ってくるとは思ってもみなかったのだが。
「いえ……教室の机が一つ駄目になっていたので、空き教室の机を代わりに取ってきてくれと先生に頼まれたので……」
未だに顔を赤くし、ソワソワしたままの海未先輩がよく見れば天板にヒビが入っている机を指さしながらそう告げる。
そういえばこの教室は物置の役割も果たしていた空き教室だったか。だからこそ都合よく男子更衣室にされているわけだ。
「そうなんですか。あははは……」
顔を赤くして俯いている海未先輩とは対称的に俺は平然を装っている。もしここで俺まで取り乱そうものならそれこそ収拾がつかなくなってしまう。正直な話もう逃げれるものなら今すぐにでも逃げ出したいがそれをしないのは某先輩で経験した後日の気まずさなどもあるからだ。
ここは別の話題で気を逸らすのが得策と考え、そういえば聞きたいことがあったのを思い出し切り出してみる。
「そういえば昨日のライブ後、俺先に帰っちゃったんでわからないことがあって。結局一年……真姫や凛、花陽はμ´sに入ったんですか」
「あの叫び声は陽月さんのだったんですね……」
「まぁ……恥ずかしながら……」
「で、質問に対してですが、真姫たちはμ´sに入りました。そしてその後は穂乃果の提案で加入の歓迎とライブの成功を口実に皆で色々な場所に遊びに行っていました」
よかった、三人とも無事に加入できたんだな。思い出しても恥ずかしい台詞を並べた甲斐もあったわけだ。
更に加えて海未さんはある疑問を問いかけてきた。
「聞きたいのですがなぜ陽月さんは私たちの……μ´sの活動を応援してくれたのですか?」
それもそうだ。知り合って間もない、ましてや友達ですらない人たちの活動について、それは他人から言われて再度考えさせられること、俺はなぜμ´sを応援しようとしたのか。何故かと聞かれても今までの俺なら明確な答えは出てこなかっただろう。
だが昨日のライブを経て感じた事で今なら少しだけわかることがある。
「理由……というか何かしたかっただけかもしれません。この学院に来て俺がこの学院にいた事の証を残したいとでもいえばいいんですかね……」
きっとそれだけではないのだろうが、今はこれが俺の出せる精一杯の結論だった。それを聞いていた海未さんは軽く俯きながら何か考えているようだ。
「だから俺はこれからも応援していくつもりなので……頑張ってください!」
海未さんは相変わらず何かに思考を巡らしているらしく反応がない。どうしたのかと思い顔を覗き込もうとしたところ、先程まで俯いていた顔をこちらに向けじっと視線を送りながら真剣な表情を作った。
「私の一存ではどうしようもないですが……陽月さんさえ良ければμ´sの一員になってくれませんか?」
「……え?」
意外すぎる言葉に素っ頓狂な返事を返すことしかできず、顔も間抜けな顔になっているに違いない。それ程に海未さんの提案はわからないものなのだ。そもそもスクールアイドルのグループに男子が今まで居た例は一度もないはずだし、そもそも女性だけでやるという暗黙の了解のようなものがあるのだ。
「いやいや、俺なんかがμ´sの一員になるなんて……無理ですって」
「一口にメンバーと言ってもダンスをして歌うだけではありません。私たちの傍で支えてくれる人材だって立派なメンバーです」
「……というと?」
「前回の貴方は無人のライブ会場で居てくれた一人ですし、それに真姫たち三人を動かしたのも貴方です。μ´sの動きには全部貴方が関わっていたのも知っています」
「確かに……色々しましたが、俺はあくまで観客にすぎないんですよ」
自分でも不思議なくらいに否定を重ねていく。認めてしまったら何かが変わってしまうと心がそう感じているのだ。
「そんなことはありません!もし、貴方がいなかったら私たちはとっくに挫折していたかもしれません!既に貴方はμ´sに無くてはならない――」
「そんなことない!!」
何故か俺は海未さんが言おうとしたの事を遮り、普段より一段階大きい声でその言葉を真っ向から否定した。
駄目なんだ……依存する存在、精神的支柱、そんなものがあるから人はそれを失った時に悲しむことになるんだ……。
辛い――
現実が――
あの子が居ない現実が――
誰からも必要とされない現実が――
頭が割れるように痛い。視点が定まらず目の前にいるはずの海未先輩の姿が陽炎のように揺らめいている。思考は定まらず自分という存在が不安定になる。
「――さん!」
声も遠くからノイズがかかったように聞こえない。俺の名前……。否定された……俺の名前?
嘲笑う声に蔑みの視線――
等しく陽月という人格を否定する――
そんな辛い現実なら捨ててしまえば――
「陽月さん!」
俺の名前を教室内に響き渡る声で呼ばれ、俺という存在が元に戻る。
人間は都合がいい。不要なものや自分に害のあるものを排除する。
それは自身の記憶でさえも。
「あれ?俺……もしかして寝てました?」
必死にさっきまでの事を思い出そうとするが頭の中に靄がかかったように何も思い出せない。
そんな俺をまじまじと見つめながら海未さんが何か考え事をしているようだ。ずっと考え事してないか?
「……、陽月さん、大丈夫……ですか?」
「何がですか?もしかして俺の……パンツ見た事を心配してます?」
「い、いえ!別にそんなことは!なんともないならいいです!」
アタフタしながら手をぶんぶんしながら必死に違うという事を身振り手振りで表現してくる。だがどこか腑に落ちない、そんな表情をしている。
どこか良くない雰囲気の残った教室に沈黙が訪れる。だがすぐさま授業の前の予鈴がなった。
「って予鈴!?早くいかないと背筋の次は何されるかわかんねぇ!」
実は背筋させられた件は既に一年生の授業を持っている先生には広まっており、俺にどんなペナルティを課すかで盛り上がっていたという情報を小耳に挟んだのだ。
「すみません!海未先輩、またその内!」
そういって海未先輩に一度お辞儀をしてから勢いよく教室を飛び出しグラウンドへ向かう。何か忘れている気がするが思い出せない程度の事なら大したことではないだろう。そう考えてグラウンドへ行くための道のりを小走りで駆け抜けていった。
それとなくシリアス入れるつもりがド直球でぶち込んでいくスタイルになっている!
μ´sの一員になりたいと言っていたり、今回みたいな発言がある陽月くんはあれですね…………二面性を感じられるキャラです(投げやり
更新が遅れてしまったのはオリジナル展開をまとめるのに戸惑ったからで……これからはまた少しペースが遅くなるかもです