Another School idols diary 作:藤原久四郎
次の日の火曜日、天気は雨。今日も俺はアイドル研究部に顔を出していた。いつも通りの部室にいつも通りの俺と矢澤先輩。だがいつも通りでない点が一つだけあった。
「にこ先輩!なら……」
「お断りよ」
いつもと違う点、それはμ´sのメンバーが一同に集い、こうして矢澤先輩を説得している点である。さっきからこの押し問答が続いており、穂乃果たちが部活動として認められなくてはならない理由を説明して矢澤先輩が一言でバッサリと切り捨てる。この繰り返しだ。
「はぁ……」
そんな光景を中央から離れて隅に立ちながら見ている俺は溜息しかでてこない。矢澤先輩……そんなに頑なに拒否しなくても……。
「ねぇ、陽月。にこ先輩っていつもこんな感じなの?」
穂乃果たちが必死に説得を重ねているのを横にし、μ´sのメンバーである真姫がこちらに向かい半呆れ気味に声をかけてくる。
「い、いやぁ……こんなにではないんだけどなぁ……ははは」
苦笑交じりに返し、きっと顔は引き攣っている事だろう。
「大体――アンタたち、キャラづくりはしてるの?」
何気ない矢澤先輩の言葉。だが俺には一つの悪寒が走っていた。キャラ作り、それはアイドルでは無くても人間ならある程度はしている事だ。だがこの場合はテレビやマスメディアに映る場合の事を言っているのだろう。そこから導き出される答えは――。
にっこにっ ~中略~ にこにーって覚えてらぶにこっ!
矢澤先輩の本気かはわからないが物凄く痛い台詞が繰り出される。俺は思わず眉間に皺をよせ心なしか頭痛がしてくる。俺でこれなのだか皆はもっと酷いのではないかと思い、皆の顔を見てみる。
穂乃果さんはポケーっと口を開き、放心状態。海未さんは、これは……と呟き何か考えている様だ。ことりさんは今のを見てキャラというかとだけ呟き驚きを隠せていない。
真姫はあたしこんなの無理……と矢澤先輩から目を逸らし机を見ながら呟いている。凛なんか明後日の方を見ながら何か悟ったような表情でちょっと寒くないかにゃーと言っている。ところが花陽だけは物凄く真剣な表情でメモに何かを書き連ねている。
全員反応が違うとはいえ、等しく先程の矢澤先輩の本気で衝撃を受けているようだ。
「そこのアンタ、今寒いって言った……?」
そして当の本人の矢澤先輩は凛の一言を見逃しておらずもの凄くキレた表情で問い詰めている。
「い、いえ!そんなことないです!すっごく可愛かったです!」
雰囲気に押されているのかいつもの猫語はどこかへ飛んでいき標準語になっている。凛の一言に続いて穂乃果さん達も必死にフォローに入る。
皆が思い思いに矢澤先輩を褒めちぎり大げさすぎる程に皆が褒めるものだから矢澤先輩は下を向いてプルプルと震えている。これは喜んでいるのだろうか。そして口を開いた矢澤先輩の言葉は。
「出てって」
俺やμ´sの皆の期待を大きく裏切る答えだった。その後の矢澤先輩の動きは早く、一人、また一人と皆を部室から追い出していく。流石にこれは矢澤先輩の印象を悪くしてしまうかもと思い、皆のフォローをするべく一緒に出ていこうとしたが矢澤先輩が下を俯いたまま俺の袖を握り締めていたため出ることが出来なかった。
しかし扉が閉められる寸前にここにはいなかった人、三年生で生徒会副会長を務めている東條希さんが外に立っているのが見受けられた。希さんはこちらに目配せをして大丈夫だからそっちをお願い、というジェスチャーをしていたように見え、俺は大人しく部室に残ることになった。
扉が閉まり、静寂が訪れる。いつも通り部室には俺と矢澤先輩の二人きりだ。俺はまだ扉側を向き、矢澤先輩も俺の後ろで袖を握ったまま微動だにしていなかった。
「矢澤先輩。どうしてあんな事言ったんです?」
出来るだけ刺激しないように扉に話しかけるように矢澤先輩に問いかける。
「別に……アイツらが悪いわけじゃないわよ……」
後ろから聞こえる声は気丈に話している様だが少しだけ語尾が震えているように感じられた。
「じゃあどうしてですか?」
優しく、なだめるように。攻め立てるような口調ではなく語り掛けるように。
「……笑わないでね?」
「はいはい」
「……嬉しかったの、認められた気がして」
きっと過去を思い出しているのだろう。背中には少しの重みと少しの暖かい湿り気が熱を伝えてきている。俺は黙って矢澤先輩が話終えるまで耳を傾ける。
「私って、思ったよりも強くないのよね。頼れる人がいる時は甘えちゃうし弱音を吐くこともある。でもみんなの前ではそんな素振りは絶対に見せないの。なんでかわかる?」
「……わかりません」
唐突な質問に答えられるはずもなく気の抜けた返事で返す。
「アイドルってそういうものなのよ。お客さんだけじゃなくて”メンバー”の前でも……ね」
「……」
「μ´sの皆をさっき見たとき、いいなぁって思ったわ。このメンバーなら私についてきてくれるんじゃないかって。そう思った、だからこそ……耐えられなかった……」
声は大きく震え、背中の湿り気は段々と広がり、矢澤先輩の気持ちを痛いほど鮮烈に伝えてくる。
「でも、だからこそ!怖いの……また前みたいになるんじゃないかって!」
三年という月日は心に大きな穴を開けていたようだ。俺も、そうだったからわかる。あの時の俺は希さんに助けてもらったから乗り越えられた。その時と全くと言っていいほど同じ状況が今目の前にある。ならば俺がするべき事は一つしかないだろう。
「なら今は、今だけは……」
語り掛けながら後ろへ振り返り、言葉をつづける。勿論矢澤先輩は見ないようにだ。”メンバー”に見せない顔を俺に見られたい筈がないだろうから。
「少しだけ、胸をかしてあげます。だから……」
「……」
「もっと……皆を信用してもいいんじゃないですか?」
「うん……」
俺の小さな胸に向かってそれよりも小さな、小さな体が収まる。いつもでは考えられない弱みを今俺だけに見せている。だが俺はそれを見ない。そんなのはらしくないから。彼女には笑顔が、皆に、お客さんに、舞台で見せる笑顔が一番だと思うから。
外で大きな音を立てながら雨が降りしきる中、部室の一か所では小振りの雨が少しの間だけ音も立てずに降っていた。
ラブライブのサントラがいけないんですねぇ……無駄にいい感じだからさぁ……
まぁアニメではすっごいあっさりしてたからこんな感じではないかなぁと思い書いてみたのです。