Another School idols diary   作:藤原久四郎

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本編とは全く関係ありませんが高坂穂乃果さん、お誕生日おめでとうございます!
折角なので穂乃果バースデーネタでも書こうと思いましたがパッと思いつかず断念したのはここだけの話。
そしてようやく矢澤が……考えれば最近矢澤しか書いてねぇとか思う今日この頃。


矢澤にことμ´s

 外では未だに雨が降りしきる中、俺の腕の中で降っていた雨はどうやら止んだようだ。時間にして五分にも満たない時間だったが一瞬の様で永遠の様にも感じられた。

「落ち着きましたか?」

「……情けないとこ見せたわね」

「いえいえ」

 苦笑しながら微笑みを返す。対する矢澤先輩の顔は目元こそ赤くなっている物の表情などはいつも通りの矢澤先輩に戻っている。うん、やっぱりこの方がいいな。

「……なんか貸し作ったみたいで嫌だわ」

 戻ったら戻ったでこれですか。義理堅いのかそれとも意地っ張りなのかはわからないがこれはこれで面倒な事になりそうなのは間違いない。

「別にいいじゃないですか水臭い。貸しの一つや二つくらい借りといてくださいよ」

「そんな事言うとずっと支えてとか言うわよ?」

「それは期限によります」

「なんでよ……」

 お互い余裕も出てきて笑いあうことが出来た。だがまだそもそも根本的な問題解決であるμ´sへの加入が終わっていないのにこんなに悠長な事をしてて良いのだろうか。

「代わりと言っては何ですが」

 このままでは延々と会話が続いてしまいそうなので一つの提案を出して、それでこの話を一度打ち切ろうと思う。

「俺も、その内躓いたりすることがあると思うんで」

「それで?」

「またその時は、今みたいに支えて貰ってもいいですか?」

 それとない話に沿った提案。これならば貸し借りとかそういうのも流せ、そしてそんな事が滅多に起こるとも思えないのでいい提案だと我ながらそう思った。

「ふーん、アンタも意外とセンチメンタルなとこあるのね」

「うわ……地味に傷つくやつ」

「冗談よ。そんな事より早く帰りましょう?」

 そう言って外を指さした矢澤先輩。窓越しに見える景色は雨もやみ、空を支配していた暗雲からは光が差し込んでいた。

 

「で、矢澤先輩。結局どうするんです?あんな事した後じゃあ皆すぐには来ないと思いますよ?」

 雨の止んだ空の下、校門を出た先の信号を待っている間に矢澤先輩に問いかける。

「わかってるわよ……まぁ次来た時にごめんなさい、って謝るわ」

「受け身ですね……自分から行けば全部上手く行く気もするんですが」

「それじゃあ先輩としての威厳が無くなっちゃうじゃないの」

「アレやったら威厳もクソもない気が……」

 アレ、とは勿論矢澤先輩オリジナルの自己紹介を兼ねたキャラづけである。まだ二度目だが既に慣れ始めている自分が少し怖い。

「だーかーらーアイドルにはキャラづけが――」

「あ、信号変わった」

「少しは真面目に聞きなさいよ!」

 軽く笑いながら通行可能を表す青に従い道路を渡る。遅れてムッとした表情の矢澤先輩が早足でこちらに追いついてくる。なんかペットみたいだなぁと思うがこれを声に出したら噛みつかれる所はペットらしからぬ点である。

 雨上がり故の匂いが香る道を他愛のない話をしながら歩いていく。授業で何があっただとか最近テレビで面白い番組がやっていただとか。どこにでもありふれた話を話し話されを繰り返している内に矢澤先輩があっ、と呟き道の分岐路で立ち止まった。

「私、こっちだから」

「あ、そっすか。まだ話の途中だったんですが」

 まるで引き留めているかのように頬をポリポリと掻きながら微笑む。対する矢澤先輩と言えば呆れたように溜息を吐いて

「そんな話、これからいくらでもできるでしょうが」

 と、一言。

「まぁ、それもそうですね」

 俺も一言だけで返す。何を焦って……いや、別れるのが寂しかっただけだろうか。矢澤先輩に言われた通り、俺はセンチメンタルな男なのだろうか。

「じゃあ、また明日」

 矢澤先輩はそれだけ言って分岐路の片方へ歩き出す。

「また、明日です」

 俺はその背中に向かって別れの挨拶を言って、分岐路のもう片方を歩き出した。

 

 矢澤先輩と別れたのはいいものの急に話相手がいなくなり、帰り道が途端に暇になってきた。一人ってこんなに暇だったかなと孤独の帰り道を地面を見つめながらとぼとぼと歩いている。

「おーい!陽月くーん!」

 軽くテンションの差に鬱になりかけていた所を背後から太陽の様な朗らかな声が俺の名前を少し遠くの方から呼んでいるのが聞こえる。この声は一度聴いたら忘れない声なので直ぐに誰かわかった。

「穂乃果さん?」

 後ろを振り返りながら小声で呟く。すると遠くの方から三つの人影がこちらに手を振りながら全力で駆け寄ってきているのを視界にとらえる。

 どうやら人影は二年生の海未さんとことりさんと穂乃果さんだったようだ。三人ともどこから走ってきたのかはわからないが追いつくと同時に穂乃果さんは膝に手をつき、肩で息をし、海未さんは疲れをまるで感じさせない様子だ。ことりさんは頬が少し紅潮しており息遣いもどこか囁くようで何故か官能的な雰囲気を醸し出している。

「ど、どうしました?」

 あまりに突然の事だったのと三人のそれぞれの様子に驚きを隠せず、とりあえずどうしたのかを聞くのが精一杯だった。俺の問いに対し顔を上げた穂乃果さんの顔は半分死にそうな顔をしていた。

「穂乃果は今あれなので私から」

 口をパクパクさせ何も言えていない穂乃果さんの代わりに海未さんが代わりに喋りだす。初めて出会ってから間もないのだが海未さんは穂乃果さんの保護者でしっかり者であるイメージを俺に付けさせるには十分な光景である。ことりさんはS、これ以上に説明がいるのだろうか。

「一応の確認ですが陽月さんはにこ先輩と仲が良く、そして同じ部活ですよね?」

「え、えぇまぁ」

 よし、と海未さんはどこか勝ちを確信したような表情で考え事をしだしてしまう。

「それならぁ、少しお手伝いしてほしいんだけどどうかなぁ?」

 今度は喋らなくなった海未さんの代わりにまだエロティックな雰囲気のままのことりさんが囁くように言うものだから、思わず目をそらしてしまう。

「い、いいですけど」

 そんな俺の様子を見てかことりさんは凄く嗜虐的な笑みを浮かべてこちらへニコニコとした表情を向けていた。しまった、これではまた弄られる材料を増やしているではないか。

「では、少しお時間をいただけますか?」

 考え事が纏まったのか海未さんがこちらへ問いかけを投げてくる。

「は、はい。わかりました」

 結局何を頼まれるかもわからないまま承諾を返してしまう。そして未だに喋っていない穂乃果さんはまだゼーゼーと荒い呼吸を繰り返し、とてもではないが喋れる様子ではなかった。

 

 

 

 そして日付は変わり、次の日。

 

 

 

 昨日に続き天気は雨。そんな雨模様を窓越しに眺めているのは黒髪を二つに纏めている、所謂ツインテールという髪型の未だに幼さを顔に残した少女。と言われても疑わないであろう外見をした音ノ木坂学院三年生の矢澤にこだ。

 彼女の席は教室の一番隅の窓際、ボーっとしていても先生にはばれにくく、居眠りをしたりもでき、感傷に浸りやすい場所でもある。

「はぁ……」

 昨日は陽月に対して情けない所を見せたし、μ´sの皆を追い返したのは失敗だったと昨日の間はずっと考えていた。自分でもこんなに不器用だったかなと自嘲気味に苦笑いを無意識の内に浮かべていた。

 こんな日は部室で色んなスクールアイドルの事を調べるに限る。自分では出来なかった事をいとも簡単に成している他のスクールアイドルを見るのは少し嫉妬もしたくなるが、それ以上に尊敬をしているのだ。そして時折思うのだ。もう少し上手くやれてればな、と。だから尚更昨日の事は反省した。もしかしたらこれでμ´sの皆は愛想を尽かしてしまったかも、もう二度とスクールアイドルをやれないかもと考え、不安にもなった。

 徐々にネガティブな思考に取りつかれていると思い、鞄を持って不安を拭い去るように教室を出て部室へと足を向ける。

 あそこは私の居場所だ。あそこには私しか居なくても、好きなアイドルたちが迎えてくれる。だから不安な時は部室へ向かうのだ。

 アイドル研究部と書かれた一人だけの部室へ向かい合う。最近でもう一人増えたが、それはいいとしよう。

 鍵を開け、中に入ろうとした時後ろから楽しげな声が聞こえてきた。

 

「ねぇ、今日駅前の新しくできたとこいかない?」

「いいねぇ、部活の皆も誘っていこうよ!」

 

 楽しそうな会話。私も少し前は――いや、こんな所で感傷に浸るのはやめよう。辛いだけだ。

 今度こそ鍵を開け、まだ電気も付いていない暗い、暗い、今の私の心の様な闇へ足を踏み入れる。少し俯き気味のまま電気をつけようとした時、物音がした気がし、何かと思い瞬間的に下を向いていた顔をバッと前に向けた。すると――

 

「「「「「「「「部長!お疲れ様です!」」」」」」」

「…………はぁ?」

 電気のついた部室には七人が一同に座っており、私は素っ頓狂な声を出すのが精一杯だった。

 

 

 

「作戦……ですか」

「うん!にこ先輩をμ´sの七人目として迎えるための!」

 考えるように呟く俺に詰め寄る穂乃果さん。穂乃果さんはさっきまでの疲労はまるで無かったかのようにいつものように元気ハツラツといった様子だ。

 今いるのは帰り道の近くにある人通りもあまりない寂れた公園だ。少し話し合いが必要だからと案内された次第で四人まとめて長椅子に腰かけている。

「それでなんだけど、そんなに無茶を言う気はなくてただ明日部室の鍵を開けておいてほしいんだ。」

「それくらいならお安いご用ですが、何するつもりなんです?」

「それはね……」

 ことりさんが先程俺に向けていた時の様な所謂愉悦に満ちた表情でもったいぶるように言葉を切る。すると何故か海未さんがアタフタと取り乱しており、その様子を見てことりさんはまたしても嬉しそうである。やっぱりこの人には気を付けようと心に再び誓った瞬間でもある。一方穂乃果さんは頭にはてなマークを浮かべてキョトンとしている。

 話を掻い摘んでいくと、穂乃果さん達三人は矢澤先輩に必要なのはあともうひと押し、という事を考えていたらしくその時昔の事を思い出したらしい。

 昔、海未さんは遊んでいる皆の輪に入れず外から見ているだけだった。それで穂乃果さんが持ち前の明るさで海未さんを遊びに誘ったらしく、それと状況が似ていると考えたそうだ。

「つまり、廃部だとか統合だとかではなく一緒にアイドルをしてくれませんか。という事ですか」

「そうそう!そういう事!」

「あの時は私たちの事しか考えていませんでしたからね。にこ先輩の事もきちんと踏まえた上で話し合うことが必要だったんです」

「あの時の海未ちゃんも可愛かったなぁ~」

 真面目な海未さんは兎も角、どちらかと言えばボケの方である穂乃果さんが真面目に考えているのにことりさんだけは何故か過去の事に思いを馳せているようだった。それを見た海未さんがまたしても照れており、意外と海未さんも親しみやすい人なのかもしれない。

 そんなそれぞれ違う三人を見ていると、やはり俺がμ´sに関わるようになったのはこういう所だったのかもしれない。傍から見てると危なっかしくて、それでも本気で頑張っているから応援したくなる。そしてそんな皆を応援しているとまた明日も頑張ろうと思える、元気をもらうことが出来るのだ。

「あぁ、そういえば」

 そして一番肝心な事を今まで聞いていなかった事を思い出し、聞いてみることにする。

「なんで、穂乃果さん達はアイドルを目指そうと思ったんですか?」

「理由かぁ~。最初は音ノ木坂が人不足で廃校になる。って話だったから最近有名になってるスクールアイドルをやって宣伝していけば人も集まっていいんじゃないかなって思ったんだ。」

 そういえば音ノ木坂は廃校の危機に瀕しているのは共学化したからといって変わったわけではないのだった。それにしてもスクールアイドルやって廃校を阻止とかアニメや漫画の発想だぞ?いや、穂乃果さんなら真面目にそう考えた可能性もある……。

「でね、あのファーストライブ。やっぱりそんなにうまくいかないなぁって、無理じゃないかって思う時もあるよ。でも今もこうしてアイドルしてるんだ」

「私はまだあの短いスカートが気になって……」

「海未ちゃん、いい所だから一緒に静かにしてよう?それにあの衣装折角注文ギリギリの作ったのに~」

 海未さんは何か気になることでもあるのか何かボソボソと呟いており、それをことりさんがよしよしと頭を撫でて慰めている。しかも話から察するにことりさんは衣装作りもしている様だし。

「もう、折角穂乃果が真面目に話してるのに~。でね、私がそれでもアイドルをしているのはね?」

 ぷんぷんと擬音がなりそうな顔でムッとした穂乃果さんだがあまり気にしていないのかすぐさま続けて話していく。俺はそれに大人しく耳を傾ける。

「やっぱり、やりたいから!アイドルに出会って間もないけど、歌って踊って皆を楽しませるアイドルがやっぱり好きだから!」

 座っていた椅子から勢いよく立ち上がり、空に向かって吼える穂乃果さん。

 やっぱり、皆アイドルが好きなんだ。矢澤先輩も穂乃果さんも皆も好きだから、やるんだ。細かい動機や理屈じゃなくて。それを可能にして、皆を引き合わせたのはスクールアイドル、そしてμ´sというグループなのだ。

 

 

 

 そして話し合いは終わり、次の日。俺とμ´sの皆は授業が終わると同時に部室へ急行、そして矢澤先輩が来るまで静かに暗い部屋で座って待機。途中途中誰かの笑い声や物を物色する音、何か食べる音まで聞こえ大丈夫か心配になる場面もいくつか見られたが矢澤先輩はそのタイミングでは来ず、こうして皆で矢澤先輩の入室を声を揃えて迎えることが出来たのだ。

 

 只今、打ち合わせも軽くかしかしていないが全員で思い思いの言葉を紡いでいる。

 穂乃果さんは部長、という単語を強調しつつメンバーであることを意識させる言葉。

 海未さんは作詞担当だったようで、歌詞に関する相談。

 ことりさんは衣装担当と以前言っていたので、衣装に関する相談。

 凛はアイドルグッズでごちゃごちゃしていたのに綺麗になっている机の事を。さっきの物音は机を片付けていたのか、よく暗闇の中やったものだ。

 花陽はなにやらDVDのボックスを胸に掲げ、物凄くキラキラした瞳で語りかけている。たしかあれは『でんでんでん』とかいう大変希少価値の高いDVDのはず。矢澤先輩も驚愕としている。

 最後に真姫は、作曲担当なのでオススメのCDを貸してと、ぎこちなく、そして素っ気なく頼んでいる。

 皆それぞれ違う事だが、唯一同じ点は、”矢澤先輩”を”スクールアイドルのμ´s”のメンバーとして接している点である。

 ずっと望んでいたスクールアイドルの、一緒に頑張っていけるメンバーが自分を取り囲んでいる状況は矢澤先輩にとってどう映っているのかはわからないが、きっと穂乃果さんも言っていた最後の一押しになったはずだ。

すると矢澤先輩は一旦全てを打ち切るように溜息を吐き、それから一言

「私は厳しいけどついてこれるの?」

 その一言は穂乃果さん達や俺も期待していた一言だ。ようやく進むのだ、矢澤先輩の止まっていた三年間が。

「「「「「「「はい!」」」」」」

 全員が嬉しそうに顔を見合った後に大きな返事を返す。それに満足したのか矢澤先輩は軽く笑顔を作り言葉を更に紡ぐ。

「なら、今から練習よ!全員着替えて屋上に集合!」

「「「「「「はい!」」」」」」

 その言葉を皮切りに全員が素早くアイドル研究部の部室を飛び出していった。その中で俺は全員の背中を見送った後もう一つある俺の仕事をしに、生徒会室へ向かためにアイドル研究部を後にした。

 

 生徒会室、と書かれたプレートのかかった教室を確認、扉をノックし中の反応を待つ。

「どうぞ」

「失礼します」

 中の反応を確認してから生徒会室へ入る。中にはいつも通り絢瀬会長と希さんが据わっており、二人の元へ歩み寄る俺の手には二つの紙が握られている。

「絢瀬会長。アイドル研究部とμ´sは同じ部活になることとなりましたので受理をお願いします」

 俺の持っていた紙、その二枚にはアイドル研究部と書かれた紙面に矢澤先輩の名前、そしてμ´sのメンバーの名前の書かれた二枚である。

 絢瀬会長は真剣そうな表情でその紙に視線を泳がせたのち、真面目な表情を少し笑顔を浮かばせ、

「はい、確かに受理しました」

 と、一言だけ。だがその言葉には安心と喜びが見え隠れしているように感じられた。

「どうやら、上手く入ったようね」

 いつの間にか窓際に立っていた希さんが嬉しそうに言っている。希さんの向こうの窓越しの景色は雨だったはずが既に雨はやみ、快晴とは言わないまでも悪くない天気になっていた。

「はい、皆のお蔭です」

 μ´sの皆の顔を脳裏に浮かべながら満足感で一杯の俺は短く返す。

「何言ってんの、君のお蔭でもあるんだからね?」

「いやいや、俺はなんもしてませんよ」

「君は謙虚やね、またいい子いい子してあげよか?」

 本当にそう思っているのだが、そんな風に言われるのも意外と悪くないなと思った。それにあのなでなでをしてもらえるなら頑張った甲斐もあったというものだ。

「男女の不純な接触は、好ましくないわよ?」

 是非お願いします!と言おうとしたところにぴしゃりと言い放つ絢瀬会長、こういわれてはぐぅのねも出ない。

「はいはい、絵里ちはすぐ怒るんだから~」

「当り前よ」

 この二人も独特の雰囲気というか、信頼感が垣間見える。穂乃果さん達の三人の様な一緒にいるのが普通であるかのような。俺にはそんないい関係を築いている人は居ないので少し羨ましく思う。また意味のないことを考えているし、丁度役目も終えたので俺は退散することにしよう。

「では、また用があればきます。さようなら」

「はい、さようなら」

「またねー」

 生徒会室の扉を閉め、俺は最後に見なくてはならない場所へと足を向け、歩き出した。

 

 階段を一つ上がり、また一つ上がり、着実に目的地へ近づいている。目的地は今μ´sの皆が練習をしているであろう屋上だ。

 三階を過ぎ、四階を過ぎ、最後の階段。窓はなく代わりに屋上へ続く扉から漏れる光を頼りに足を進める。

 屋上に近づくにつれて皆の声が聞こえる。更に上へ行くと皆の声がハッキリ聞こえるくらいになる。耳を澄ませてみるとあのこっぱずかしいフレーズ、にっこにっこにーが全員の声で聞こえている事に気が付く。

 意外と、皆上手くやれてることをこの一フレーズで感じ取ることが出来る。最初は皆微妙そうな反応だったからな。

 屋上に続く扉までたどり着き、皆に気が付かれないように扉を少しだけ開け、外の様子を伺う。

 

「「「「「「にっこにっこにー!」」」」」」

「全然駄目ね、あと三十回!」

「「「「「えぇ~!?」」」」」

「皆、まだまだだよ!頑張ろう!」

 

 矢澤先輩の駄目だし、そして皆の溜息。そして穂乃果さんの鼓舞。ありふれた練習の光景だが、俺には太陽の様な、神聖な輝きを放っているように感じた。

 ――わざわざ今から俺が行ってこの雰囲気に水を差すこともないだろう。

 俺はもう一度だけ、全員の、七人になったμ´sの確かな輝きを目に焼き付けてから空の下の屋上へ行くことはなく屋上を後にする。

 

 そういえばμ´sのミューズって確か、九人の女神の名前だったはず。今のμ´sは七人。という事はまだ後二人増えるのかな、と誰に問いかけるわけでもなく、もと来た道を戻りながら陽月は一人で考えていた。

 

 この時の陽月はわかっていなかったが名付け親である彼女はきっとそう確信していたのだろう。μ´sは九人になることを――だからμ´s。だがその未来予知にも近い事をした彼女でも予想しきれなかったのはもう一つの、μ´sを支える事になるもう一つの星――彼の事だけだろう。

 




いつもより長く、そして視点が変わるので微妙にわかりづらいかもしれませんが、頑張って合理性を持たせた展開を意識してみた所です!

やはり、矢澤は書いていて楽しい。出番が増えるも必然なのだろうか……。ですが折角なのでμ´sの皆をもっと書いていきたいと思う筆者でした!

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