Another School idols diary 作:藤原久四郎
もう少し会話させるべき、はっきりわかんだね。
また次も花陽回だな。
暑さと熱さ
五月も気が付けば半ばに差し掛かり、少しづつ夏の接近を感じる暑さが蔓延しはじめている。この俺がいるアイドル研究部も例外ではなく、絶妙な熱気が充満していた。
「あぁ……なんか微妙に暑い……」
「全くです……」
アイドル研究部に備え付けられている机にぐでっと倒れこむように体重を預けているのはこの学校唯一の男子で一年生の泰原陽月と、同じく一年生の少し大きめの黒縁眼鏡をかけているおっとりした雰囲気を感じさせる小泉花陽である。
今日は特に活動するわけでもなく、一応やることはあるのだがただ単にダラダラしているのと何故こんなじっとりした部屋に未だに居るかと言えば、それは数十分前に遡る。
「では今日はアイドルにとって、重要な事をしに行くわよ!」
そう高らかに宣言したのはアイドル研究部部長である三年生の矢澤にこ先輩。
「部長!重要な事って何ですか!?」
それに元気よく、それで更に底なしの明るさを感じさせる声で返事をするのは二年生でμ´sのリーダー的存在の高坂穂乃果さん。
「何をするんですか部長?」
「教えてください部長~」
続いて海未さんにことりさん。どうにも皆以前の癖が抜けていないのかやけに部長を強調している。そんな二年生三人とは違い俺や凛、花陽と真姫は大人しく耳を傾けている。
でも矢澤先輩の事だから何か嫌な予感がするんだよなぁと俺は考えている。
「それはね……」
「「「それは……?」」」
「「「……ごくっ」」」
「嫌な予感がする……」
皆、反応はそれぞれだが等しく矢澤先輩のもったいぶっている言葉の次を期待して黙り込んだ。
「……偵察よ!」
全員がポカンとしている間に全員の手元にはやけに長いコートに大きい黒縁黒レンズのサングラス、更に顔がすっぽりと隠される程の大きさのマスクが手元にいきわたっていた。これどこからだしたんだろうという疑問は誰も突っ込まなかったが、これを着て外に出たら怪しいことこの上ない。穂乃果さんだけは何故か納得していた表情だったのは純粋なのだろうか。
じゃあ行くわよと矢澤先輩が言いかけた所に珍しくで花陽が少し大きい声を上げた。
「あ、あの……今日ちょっと調子が良くないので……お留守番じゃダメでしょうか?」
皆が椅子を立ち上がってから一度止まり、すぐ心配そうに声を掛けている。帰って休養を取らないといけないレベルではないらしく、きっと迷惑をかけたくないと思っているのだろう。そういえば、と俺を含めた一年生たちは朝から元気が無かった事を思いだしていた。
「そういえば、今日も珍しくご飯あんまり食べてなかったもんな」
「そうね、いつもならもう少し多いはずだもの」
「凛も大丈夫かな~って思ったよ?」
「は、判断基準ご飯なの……?」
その会話を聞いてか矢澤先輩達は少し話し合っており、少ししてから話がまとまったようで穂乃果さんが代表して話し出す。
「じゃあ花陽ちゃんはお留守番って事で部室からアイドルの情報収集ね!」
「は、はい……すみません」
「それで陽月くん、陽月くんは花陽ちゃんの様子を見ておいてくれない?」
予想してなかった言葉に呆気を取られるが、仮に花陽が無理して倒れでもしたら大変である。その時は男手があった方がいいだろうし、きっと無理しないように監視する役目も兼ねているのだろう。それならば断わる理由もなく、勿論了承で返す。
「じゃあよろしくね、私たちは行ってくるから」
いってらっしゃい、と花陽と二人で見送り扉が閉められる。取り残された俺たちはとりあえず椅子に座ったままどうするか考えようと話し合うことにした。のだが――
「まぁ暑いよな……部室も……」
「うん……」
「あ、お茶あるけど飲むか?」
「うん……」
俺は鞄からまだ飲んでいないお茶のペットボトルを取り出し、花陽に差し出す。花陽はお礼を言った後キャップを開け、小鳥が餌をついばむようにちびちびと飲みだす。一応窓は開けてはいるものの微妙な熱気は冷めることなくずっと俺たちの体に張り付いている。
「そういえば空調とかないのか?」
アイドル研究部に入ってから既に一か月がたとうとしているのにも関わらずその存在をすっかりと失念していた。花陽も暑さがそろそろ限界なのか目がとろんとしている。
俺は椅子から立ち上がり部室をぐるりと一周回ってみるがそれらしいものは見受けられず首を捻った。
とりあえず椅子に座り直し、どうしようかと考えていると目の前に座っていた花陽が机に突っ伏している事に気が付く。
「お、おい!大丈夫か!?」
突然倒れたようにしか見えず、体調が良くないことになったのかと思い急いで花陽の下へ駆け寄る。顔は横向きだったのでそちらから顔色を窺うと辛そうな顔つきではなく、ただ物凄く疲れた後に布団にもぐった時の様な幸せそうな寝顔をしていた。
「……寝かしておいてやるか」
体調不良というよりは寝不足か疲労かのどちらかだったのだろう。ならば下手に起こさずそのままにしてやる方がいいと思い、そのままにしておいた。
「職員室とかに保冷剤とかあるかなぁ」
このまま寝かしておくのはいいとしてこの部屋は暑いからそれを少しでも緩和できるような物を用意しておこうと職員室へ行くことにする。そういえばさっきのお茶は上げたから俺の分が無い事も思いだし、ついでに自販機にでもよってスポーツドリンクでも買ってこようか。
もう一度だけ、花陽の寝顔を確認。よし、まぁ辛そうでもないので大丈夫だろう。それから寝ている花陽を起こさないように部室を後にした。
まず学院をでてすぐの所にある自販機まで飲み物を買いに行き、その後職員室へ向かう。そしてよく考えたら職員室に冷蔵庫があるはずもなく、意味の分からん事でくるな、と担任である安田先生に何故か怒られる羽目になった。その後、どうしようかと唸っていると保健室なら保冷剤じゃなくても色々あるということを教えてもらい、今度は保健室へ向かうことになった。何故か相変わらず保健室には誰もおらず勝手に拝借していくことになってしまう。
「保健室なのに誰もいないって問題じゃないのか……?」
アイドル研究部に戻る途中、誰もいない廊下でひとりごちる。色々歩き回ったせいか服に汗が染みており絶妙な不快感が体に襲い掛かっていた。部室に戻るまでの間はずっとその不快感と戦う羽目になり、その不快感で更に汗をかくという二重苦を味わう事になった。
部室に戻る頃には体はしっとりとし、顔はもう満身創痍の表情である。唯一の良心は保健室から無断拝借した数個の保冷剤くらいである。
「ただいま……」
ゆっくりと扉を開け、小声で呟く。そっと中の様子を除くと花陽はまだ寝ているようだった。静かに扉を閉め、今度は向かい側ではなく、花陽の隣に座る。
未だに幸せそうな寝顔をしている花陽を見ているとこちらまで幸せになれそうな気分になる。花陽は周りを癒せる能力でも持っているのだろうかと馬鹿な事を考えてしまう。周りの気遣いも忘れず、誰にでも等しく優しい。少し引っ込み思案なところはあるがまたそこもいい所なのかもしれない。割と良い奥さんになりそうだなぁと妄想の世界に飛び込みそうになったのを寸での所で踏みとどまる。そんな事より保冷剤だ。
持ってきた保冷剤を花陽に触れるか触れないかくらいの距離でいくつか並べていく。何かの儀式でも行うかのような光景である。
ないよりかはましかなという程度の冷気だが花陽の顔は更に幸せそうになっているのでやってよかったと汗だくになった体を思い返しながら嬉しく思った。……ちょっと可愛い。
「……まぁ俺は暑いんだがな」
走った影響もあり、体感的には真夏の暑さぐらいだ。正直帰りたいとか思いながら手近にあったお茶のペットボトルをあおる。あ、コレ花陽がさっき飲んだ奴じゃ……瞬間、間接キスという単語が脳をマッハでよぎり、部屋の暑さを超える勢いで顔が熱くなるのを感じる。……うぶだなぁ俺。
そんな事を暑さと熱さでやられた頭でぼんやり考えながらずっと花陽の寝顔を眺めているのだが冷静に考えて状況だけ見ればただの変態であることを忘れてはいけない。あどけない少女の寝顔をじっと観察する汗だくの男……。自分で考えたくせに何かイケナイ物の煽り文句みたいで恥ずかしくなってきた。
「うぅ……ん」
一人妄想の中アタフタしていると花陽が唸っている声が聞こえ、耳を澄ましてみると寝言の様で何を幸せそうな寝顔で夢見ているのか気になり、じっと耳を傾ける。
「――くん……す……」
あまりにも小声過ぎるために何を言っているのかさっぱりで単語すら聞き取れない始末で蚊の鳴くような声が聞こえるように声の発生源である口元に耳を近づける。
「ん……約束――」
クソ、結局何言ってるかさっぱりだ。もっと腹から声を出すんだ腹から。
「そう……お米……」
「って結局米かよ!!」
「えええぇ!?」
夢の中にまでお米の話が飛び出してきたために思わず大声でツッコミを繰り出してしまい、その声で花陽が一瞬で目を覚ます。更に突然の事だった為もあり、さっきまで全力で近づいていたので勢いよく頭をぶつけあう。
「ぐぉぉ……頭が割れる……」
「い、痛いよぉ……」
暑いわ痛いわ疲れるわで三重苦を味わう羽目になったが、意外と可愛い貴重な花陽の寝顔もみられたのでまぁ良しとしよう。……と間接キスはまぁ忘れよう、俺がうぶな純粋少年という事を認めることになってしまうからな。
今回は本当に何もない日常回ですね。当分はこのまま何もない日常回になりそう。
投稿は相も変らぬ不定期、一区切りするたびにどうするか考えて遅くなるんです!
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