Another School idols diary 作:藤原久四郎
そろそろ課題がヤバいと太陽が筆者に告げているのでしょうか。ヤバいヤバい。
どうでもいい私の近況報告から入る無礼をお許しください!
「さぁまだまだ続きますよリーダー争奪、リーダー決定戦! 司会は私、泰原陽月でお送りいたします!」
「うわ、今度はテンションたっかいわね……」
「まぁそういう日もありますよ!」
「というか毎回やってるけど誰に向かってやってるのよ」
「まぁ神様か何かですよ。というか気合入れなんですから一々水を差さないでください」
次々と場所を移動し、今俺たちがいるのは秋葉原のど真ん中だ。雲一つない空からは容赦なく太陽からの光が俺たちを襲っている。熱いんだよ……太陽はもう少し地球に優しくしてほしいものだ。
そんな置かれた環境に文句を垂れている俺以外、つまりμ´sの皆の手には何やら紙切れが幾分かの束で握られている。
「じゃあここでするのはアイドルの最後の適正、受けについてよ!」
凛とした、芯の強さを感じさせる声で矢澤先輩が大きな声で開幕の宣言をする。
「はい部長!」
またしても律儀に矢澤先輩の発言に対し、律儀に返している穂乃果さん。もうやらなくてもいいだろう所を、こうしてやっている所を見るに楽しんでいるとしか思えなくなってくる。
というか受けってなんだ。もう少しまともな言い方はないのか。
「歌は下手、ダンスもいまいち。なのにファンの心を掴んでやまないアイドルがいる。それはなぜだと思う!?」
ビシッと決めポーズを取りながら、何やら誰かを指名するように指をさす矢澤先輩。指をさしている方向にはアイドルの事なら矢澤先輩に負けず劣らずの花陽がおり、いつになくその顔は真剣そのものだ。
「それは、ファンの皆さんに好かれるだけの何かを持っているからです!」
普段のおっとりとした草食動物の様な雰囲気からは想像のつかない覇気を感じさせる、自信に満ちた声で矢澤先輩の問いかけを返す花陽。普段でもこの半分くらいの強さがあればいいのにと思うが、アイドルの事を話すときの花陽は別人の様なのでわざわざ言う必要もないだろう。
「そう! 言葉では言い表しにくいそれは、俗に雰囲気、オーラなどと言われているわ!」
「そうなんです! 最近のアイドルだと――」
こう少し花陽と矢澤先輩を会話させると発展に発展を重ねていき、今の俺たちの様に周りはついていけず二人だけの世界が展開するのだ。
何度か見て慣れたこの光景だが、二人が収まるまでこちらからはどうにもできないので、俺と同じく置いてけぼりを食らっている他のメンバーに説明をすることにする。
「えー、ようはこのμ´sの宣伝用紙をいち早く通行人に配れるかどうかというわけです」
「で、でもこれってわかりづらいんじゃ……」
ことりさんがどこか心配そうに呟く。正直な話、俺もよくわからない。
「まぁでもティッシュ配りとかと同じですよ。なんとなく受け取った、受け取らなかったってあるじゃないですか。結局は相手を見たときに判断してたりするんですよ」
昔聞いた話だと、初対面の相手の第一印象は二秒で決まるらしい。つまりは容姿だったり、さっき未だに熱い討論をしている二人も言っていた雰囲気の事だ。
「へぇ~そうなんだ。複雑な話だとわかんないや」
えへへ、とはにかみながら恥ずかしそうに頭をポリポリと掻く穂乃果さん。
「凛もよくわかんない!」
二人に言える事なんだがそんなに難しい話はしていない。これではよくあるおバカ系アイドルになってしまう。天然なのかボケなのかはわからないのだが、定期テストとかこの二人は大丈夫なのだろうか。
「さぁ始めるわよ! 最後には陽月にも全員から受け取ってもらうからね!」
いつの間にか普段通りの矢澤先輩に戻っており、さらっと開始の宣言。しかも最終審査をナチュラルに任せられている辺り矢澤先輩はゴリ押しの上手い人かもしれないと、半分呆れながら考えていた。
そして俺は少し離れた所から皆の宣伝用紙の配布状況を眺めていた。まぁ体のいい照り付ける直射日光による熱さからの避難だ。
始まってまだ少ししか経っていないのだがわかってきた事がいくつかある。さっきの話でも出ていた雰囲気の話だが割と当てはまっているかもしれない。
自信にあふれていたり、元気いっぱいといった様子の凛や穂乃果さん等は順調に告知用紙を配っていっている。
一方、こういった事が苦手そうな花陽も着実に量を減らしていっている。花陽はどちらかと言えば守ってあげたい、支えてあげたいという雰囲気を醸し出している。危なっかしいというかなんというか。こうして行動している間も人にぶつかっていたり、何もない所で躓いてこけそうになっていたり。いや、なんで何もない所で躓くんだ。
そして海未さん。海未さんは前から思っていたのだが人見知りをするのか、それともこの手の行動が苦手なのかいまいち量が減っていない。渡すタイミングを見失っていたり、声をかけられずにいたりと二の足を踏んでいる様だ。だがその状況に焦りだしたのか、一度深呼吸をしたかと思うと今までの焦った声ではなく、澄んだ響き渡る声で紙を配り始めた。やはり芯が強いのかこういった逆境にもキチンと対応できるようだ。
次いで真姫だが、正直一番心配でもあった。あの性格……というより今までの行動ぶりだとまともな声掛けを出来るのか怪しいのだ。馬鹿にしているわけではなく本音である。だがそんな心配は結局、杞憂に終わることになった。思いのほかキチンと声をだし、丁寧に一枚一枚ずつ紙を手渡している。しかも手渡した後笑顔でお礼まで言っていた事に謎の感激が俺を襲ってきた。あの真姫があんな素直にできるなんて……。あ、よく見たら顔引き攣って震えてるわ、かなり無理してるな。
と、考えていると矢澤先輩も視界に映ったのでそちらの方を見てみる。通りかかる人全てに痛々しい『例のアレ』を繰り返しやりながら紙を手渡そうとしている。だが勿論の事通行人には避けられており、矢澤先輩だけが全然紙が減っていない。なんか見ているこっちが恥ずかしくなる光景である。
見ているのが辛くなってきた俺はことりさんはどうだろうと辺りを見てみると、順調にどころかもうすべて配り終えており、今丁度最後の一枚だったようだ。未だに皆の手持ちが半分くらいあるところを見ると……凄すぎではないだろうか。これがオーラなのか……。
程なくして一部除く全員が一通り配り終え、一番先に配り終えていたことりさんの下でワイワイと話をしている。ことりさんは手渡す時やお礼を言う時の言い方や所作がどこか手馴れている感があり、もしかしたら何かで経験済みなのかも、と全員の評価をつらつらと書きながらぼんやり考えていた。
「……大丈夫ですか?」
俺の隣で暗黒世界を作り出さんばかりの勢いで落ち込みきっている矢澤先輩に声をかける。膝を抱えるように屈んでいる矢澤先輩の膝と胸板の間には一枚も減っていない紙の束がこの現状を苦々しく語っていた。
「なんで……時代が変わったの……?」
ブツブツと呪言のように延々と小言を呟いている矢澤先輩には俺の声は届いていないようでじっとどこか何もない所を見つめ続けている。
「仕方ないなぁ……」
俺は矢澤先輩に気が付かれないように一度皆のいる場所から離れ、誰からも気が付かれないだろう路地裏に駆け込む。そして素早く鞄の中から未だに使われていなかった物を取り出し、素早く着替えを始めた。
「……はぁ」
何がいけないのだろう。私だって頑張っているのに。何故こんな量の紙を未だに抱えているんだろう。
~勿論、例のアレのせいです~
今日は穂乃果にあんな事言ってリーダーに向いてないなんて言ったけど、私も大概であることを自覚した。仕方ない、少し恥ずかしいけどこれ持って皆の所へ行こう。
「お、オホン! あの、その……それくれませんか?」
私が立ち上がった瞬間、通りかかった通行人の人が私の手に抱えられている紙の束を指さしながらそう言った。最初は嘘かと思ったけどそうではないようだ。私は突然の事に若干戸惑いながらも紙を一枚丁寧に手渡す。
「あ、あの! ありがとうございます!」
さっきまでの私の演技の入った言葉ではなく、素で出た本音の言葉でお礼を述べる。するとその人は少し恥ずかしそうに頬を掻きながら、ありがとうございますと言って立ち去って行った。
「――っ!」
やった、やった!一枚だけど、渡せた!嬉しさのあまり飛び跳ねそうになるが、ここは道のど真ん中だという事を思いだし、やめておいた。
「あの、僕も一枚貰えますか?」
「私もいいですかー?」
さっきの人のお蔭なのか通りゆく人から次々と声をかけられ一枚、また一枚と紙を手渡していき、最終的には0枚になった。
「ふぅ……やっと終わったわ」
最後の一枚を手渡し、手元に何も無くなったことを確認する。これで胸を張って皆の所に行けるわね。そう考えた私は皆の下へ足取り軽く駆け寄っていった。
そういえば最初に貰ってくれた人、私の偵察時の服と同じだった気がするけど物好きな人もいるものね。こんなに暑い日なのに。
「ああああ! クソ暑いな!」
俺がいるのは路地裏で、何故か理由なき怒りに襲われながら来ていたコートを乱雑に鞄に詰め込み、つけていたサングラスやマスクを鞄に叩きこむ。
よく皆こんな恰好して歩き回れたな……下手すりゃ死ぬわ……。
「というか早く戻らないと皆に心配され……いや、されないか」
そう急ぐこともないと思い、来た道を戻るべくゆっくりと路地裏から出ていく。すると皆が固まっている所へ、一人スキップをしながら駆け寄っていく世話の焼ける三年生の先輩が確認できた。
「まぁ……暑さに耐えただけの価値はあるかな?」
彼女の顔は、俺を照らしている太陽よりも眩しい輝きを放つ満面の笑顔をしていた。
やっぱり矢澤は可愛い、はっきりわかんだね。
そしてそろそろUAが40000を超えそうなことに感無量であります。誠に感謝です。
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