Another School idols diary 作:藤原久四郎
一日目がこれで終わります。
ということでほむまんを食べつつ町の散策を再開した。空っぽのお腹に入るほむまんが体を駆け巡って元気がでてきた。歩き回ったせいもあってか、そろそろ日は暮れ始めて太陽がオレンジ色に染まっている。
「そういえばここらに神社があるんだったな」
引っ越す前に親父、泰原総司(やすはらそうじ)がそういっていた。なんでも願いが叶うだとかなんとか。確か名前は神田大明神だったか
「行ってみるか」
穂むらのあった場所から数分、学院からも遠くない位置に神社、神田大明神はあった。結構な長さの石段の先に鳥居が見える。その奥には夕方になってもなお眩しい太陽が目を焼いた。そんな夕方特有のオレンジ色を遮る一つの影があった。
「誰だろう」
何故か無意識に石段を駆け上がっていた。それも全力疾走。息をあげながら丁度階段の半分についた辺りでその人影をハッキリ見ることができた。巫女服に身を包んだ神秘的な立ち姿。
それでいて巫女服が隠し切れない美しい体の曲線が浮き上がり見るものを惑わすような妖しさを兼ね備えている。
「……あなたは?」
何故か声をかけていた。自分でもほぼ無意識の内に魅了されていたのかもしれない。俺の問いかける声に気が付いた巫女さんがこちらに顔を向けた。瞳は緑、髪は肩まで伸びる青紫。それを白い布で後ろに一本でまとめていた。
「ん?君、参拝者かな」
「……あれ?……あ、はい。そうです」
声をかけられた途端、さっきまでのフワフワしていた意識が体に戻った。なんだ今のは。
「おぉ、それはええことや。ぜひともお参りしてってなぁ」
巫女さんの顔に笑顔が浮かぶ。その笑顔は見るだけでこちらも幸せになれそうですらある。だがこちらをまじまじと見たかと思うと目を丸くし、口を開いた。
「ねぇ君……まさか」
目の前の彼女が何か言いかけたが、口をモゴモゴさせて、途中で言うのをやめてしまった。
「もしかして、俺の顔に何かついてますか?」
俺も少し気になったのでありそうな可能性を指摘してみる。すると巫女さんは首をぶんぶんと振ったかと思うと、再び笑顔になり
「いや、なんでもないわ。久しぶりの参拝者で嬉しくなってんのや」
本当にそうだろうか、まぁ追及することでもないか。
「そうですか、じゃあ参拝していきます」
そういって名も知らぬ巫女さんの横をすれ違い本殿の方へ足を運んだ。
「今の子、なんか……」
さっき感じた事を巫女服の少女、東條希は独り言を発していた。
昔から人とは違うナニカを感じていたウチやけど、最近は年齢を重ねるごとに不思議なことを感じることも無くなっていたのに。
しかも人から感じるなんて初めてや。それにどこかで……
「もしかして今朝のカードの"運命"の意味って……」
本殿に向かった俺は、賽銭箱に五円玉を投げ入れ、願い事をする。
音ノ木坂学院でうまくやっていけますように……
願い事を終え、ふぅと一息。もと来た道を戻る。意外と綺麗だし気分も落ち着いていいところだ。いずれまた来ようかな。さっきの巫女さんは手に竹ぼうきを持ち、石段の掃除をしていた。丁度横を通ろうとした時に巫女さんが俺に気が付いてこちらを振り向いた。
「中々いいところですねここ。また参拝しに来ます」
軽い会釈と共に通り過ぎようとした時、巫女さんに呼び止められた。
「ちょっと待って、ウチの名前は東條希。君の名前も教えてくれへん?」
「名前、ですか?俺の名前は泰原陽月です。」
「泰原陽月くん、よし覚えたで。また来てな?」
「はい、ではさようなら」
今度こそ石段を降り、神社を後にした。にしても今日は美人ばかりに会うな。引っ越してきたことに心配してたけど優しい人もいたし問題なさそうだ。今日の事を思い出すつつ家に帰ることにした。
陽月の家は学院から十分ほどの位置にある。家の前には親の趣味で上等な門も設えられている。上等といっても普通の門とそう変わらないのだが。
家からの周りに何があるかは、さっき歩き回ったことで近くには穂むらと神田大明神があることもわかった。
「ただいま~」
まだ誰も居ない新築の閑散とした家に入る。自分の部屋は二回にあるので階段を上り自分の部屋へ行く。
まだ自室も段ボールが積まれた、学習机にベッド、洋服入れがあるだけの部屋だ。腕に付けられた時計を見ると時刻は七時をさしている。
夜ご飯は……まぁ親が帰ってきたら起こしてくれるだろうし待つことにしよう。結構な距離を移動したせいか、体に疲労が蓄積している。
「誰か帰ってくるまで寝るか。」
そういってベッドに飛び込む。一応引っ越しに伴い新調したのでまだフカフカだ。
布団を被り目を閉じる。意識が徐々に遠のき、暗い海の底へ沈んでいく感覚。
ものの一分もしないうちに陽月の意識は夢の世界へ行ってしまった。
目を覚ます―――
目に映るのは白い天井―――
周りには沢山の機械―――
この世界に希望はなく、あるのは絶望だけだと少年は思う。
だからこの世界との繋がりを絶とうとする。だがいくら逃避しようと戻るのはこの消毒の臭いの充満した部屋だ。
彼は再び目を閉じ眠りについた―――
やっと一日目が終わりです。ここからは原作沿いでテンポよくすすめていくつもりです!