Another School idols diary 作:藤原久四郎
着実に書いてはいたものの、一週間をかけた程のクオリティのあるものはできませんでした。
「てかどこ行くんだ?」
行く先も告げずに歩いていた為、隣を共に歩いている旧友である鷹能が疑問をぶつけてくる。
「あぁ、ちょっと電気屋に」
「それまたなんでさ。あれか、とうとう電動オ――」
「ちげぇよ」
そうふざけた会話をしている間にも歩は進んでいるわけで。元々そんなに遠くない位置にあったため、すぐに目的地である電気屋に着くことができた。
繁華街によくある、量販店ではない個人経営の電気屋。少し錆びかけている看板には「電気屋 ナマズ」と書かれている。ヒデコさんに貰ったメモにも書かれていた事だったのだがネーミングセンスが中々アレである。錆びた音を鳴らしながら開く引き戸をあけ、中に入る。店主らしき姿は見えず、ひたすらモノが置かれているだけの店内だ。不用心にもほどがある。
「すみませーん誰かいませんかー」
「うお……セガサターンまであんぞここ」
俺が真面目にやっているというのに、鷹能はいきなり物色を始めている。
そして忘れていたのだが、昨日ヒデコさんから貰ったメモには裏面にも書かれていたことがあり、一つはこのお店の事、どうやら専用のモノを委託していたようだった。そしてもう一つはヒデコさんの連絡先だったのだが、試しに昨日連絡を取ってみたら送信失敗してしまった。どうやら間違っていたようだったので、今日はこの後学園にも行かねばならないのだ。
「ん? なんじゃ、何かようかね」
昨日の回想をしながら店主の登場を待ちつつ辺りを見渡していると、様々な電化製品が雑多と置かれている中、一番奥のレジ付近から老人のものと思わしきしわがれた声が聞こえた。レジの更に奥、どうやら廊下の様だがそちらから腰の曲がった、顔の皺など年季の深さを伺わせる声の主がノソノソと亀の様に歩いてきた。
「あの、注文していた物をとりにきたんですが。これ、メモ書きなんですがいいですかね」
「うわぁ、バーチャルボーイまであるぜ。動くのかこれ」
「コラ餓鬼。デリケートなんじゃで触るでない!」
初老を迎えたであろう老人店主は、俺の手渡す紙を受け取りつつ鷹能の粗相を注意する。にしても鷹能がこれだけ見つけているし、これは掘り出し物がありそうなお店でもある。
「ふむ……あぁ、そういえば若いおなごが注文し取ったな。なんじゃ、もう一度若いおなごの姿が見えると思ったんじゃがなぁ……」
メモ書きを眺めながら心底ガッカリそうに呟く爺さん。この年になっても男としての定めからは逃げられないようだ。待っておれ、と爺さんは一言消え入る声で呟き、来た方の廊下へ戻っていった。
「うわ、やべ……ドリキャスもワンダースワンもあるぞ」
どうやら鷹能は未だに店漁りをしているようだ。ってどんだけハードあるんだよ。この店のモノ全て売り払ったら中々とんでもない値段になるのではないかと、ふと思った。
過去の遺物とも呼べる機器を求める鷹能と一緒になって店を盗人の如く漁る事十分。再びギシギシと悲鳴をあげる廊下より、くたびれた格好にくたびれた様子の表情を貼り付けた老人店主が戻ってくる。片手には何やら紙袋を持っており、どうやらそれが注文の品らしかった。
「ほれ、注文どおりの品じゃ。といっても出来上がってたモンにライトとかのブツ付けただけじゃがな」
カウンターの方から手を突き出し紙袋を取れ、と催促してくる。俺はそれを受け取り、好奇心から中身を見てみる。中には所謂コスプレグッズとでも言うのだろうか、動物の耳などを形容したカチューシャの様な物や尻尾の様な物がいくつか見受けられた。今回の衣装の小道具なのか、今回は動物をモチーフにした衣装のようだ。
「ほれ、さっさと帰れ。お主らがおっては店があれてかなわんわ」
爺さんの言葉はごもっともで、俺と鷹能の手によって雑多としていた店内は更にごちゃごちゃになっている。それもこれも化石の様なハード類が悪いのだ。物珍しいというレベルを超えているのだから。
とは言ってもこれ以上いる必要もないし、この後一度学校にもよってこの衣装道具やらの荷物も置いていっておきたいので爺さんの言葉通り帰る事にしよう。
「じゃあ帰ります。ありがとうございました」
「うーん値段しだいでは……いや、ソフトがないな……」
「ソフトならいくつかあるぞい」
おい爺さん。今帰れといったばかりではないか。
「マジっすか! やらしてください!」
お前も乗るんじゃない。
どうやら帰るのは俺だけのようだ。鷹能はこれでもかというくらいのテンションで先導をしてくれる爺さんを逆に引っ張る形で再び廊下の奥へ消えていった。
一人店内に取り残された俺は、悩みに悩んだわけではないが鷹能を置いて一度音ノ木坂に行くことにした。どうせ一時間とかそう言うレベルでは戻ってこないだろうからな。
指標を決めた俺は、雑多とした電気屋を後にして音ノ木坂へ足を向けた。
音ノ木坂学院。生徒数まちまち、特徴なし、元女子高。今更ながらそんな事を頭に浮かべつつ、陽月は音ノ木坂の校門をくぐる。どうやら既にPVのための装飾を始めているようで、校門の辺りでは数人程が作業しているのが見受けられた。もしかして今日やるのだろうか。
そんな彼女らを見ながら歩く陽月の背中には、所謂スクールバックと呼ばれる鞄を背負い、片手には先程電気屋ナマズにて受け取った衣装群。何故かスクールバックは衣装の入っている紙袋よりも軽いという不具合である。予習復習に縁のない陽月にとって鞄とはお茶と弁当箱と、少しの筆記用具をいれるものでしかないのだ。そんなどうでもいい思考をしながら下駄箱にて外靴を履き替え、上靴に足を通す。転入当初はおっかなびっくりだった音ノ木坂へ行くことも、今では日常的なルーチンワークの様な物となっている。そして現在、授業も終わり校内には人も少なくなっているが、それでも陽月の目的地である三階からは既に騒々しい声が聞こえてきている。
階段を上り目的地へ。既に慣れ親しんだ場所であるアイドル研究部である。最初は二年生フロアに行こうかと思ったが、ヒデコさんに会えない可能性もあるので、一度アイドル研究部を見に行こうと思ったのだ。荷物を置いていくのにもそこしかないし、ヒデコさんがいる可能性としてはなくもないからな。それに聞こえてくる声はどうやらμ'sのメンバーのモノの様なので、ヒデコさんがいる可能性もグッと上がった。
一段、また一段と踏みしめるように階段を上がっていく。とうとうμ'sの曲も二曲目で新メンバー四人を加えたものだ。一ファンとして、一人のμ'sを応援してきた者として何故か感慨深く感じるものだ。
それは当初から関わってきたからなのか、それとも別の何かなのかは前々から言っていることだが、未だにわからないけれどそれでもこうして応援をしつづけている事が、ある意味陽月の答えでもある。
そんな一、二か月の出来事を振り返りながらたどり着くのは、すっかり馴染の深い校内で教室の次に多く出入りする場所。中からは既に騒々しい声が聞こえてきている。どうやら今日はPV撮影を早速するようだ。俺がこの荷物取りに行かなかったら出来なかったじゃないか、とメールアドレスを間違えていたヒデコさんに苦笑いがこぼれる。
一応ノック。もし着替えでもしていたら大惨事。主に俺の評判の方だが。
「はーい?」
聞こえてくるのは朗らかな太陽の様な声。きっと穂乃果さんだろう。だが
「あのー陽月ですけど。入っていいですか?」
「え、えーっと……――大丈夫?えぇ……でもこれから――」
何やらよく聞こえないが、誰かに確認を取っている様だ。俺はと言えば穂乃果さんの許可がでるまで立ち尽くすだけだ。
「えぇい! もういいよ!」
何故かやけに気合の入った声で俺の入室の許可がおりる。やっと屹立の体制をとき、ドアのノブを捻り中へ入る。
中にはμ'sのメンバーが、今回の衣装と思わしき衣類を纏ってそれぞれ座っていた。読み通りというべきか、今回の衣装は動物をモチーフにしたものの様だった。全員がそれぞれ違う動物のようで、いつもとは違う雰囲気に少し戸惑い気味になってしまう。そんな動揺を感じ取られたのか、いつもよりも乙女らしい座り方をさっきまでしていた凛がこちらに近づいてきた。
「ねぇねぇ、陽月くん。凛可愛いかな?」
クルリと衣装を翻しながら、ありきたりで一番答えづらくもある質問が凛の口から飛び出す。しかも俺が戸惑っているのをわかっていてやっている節があるのだ。明らかにファーストライブの時の事を未だに根に持っている。今更ながらやりすぎたと後悔の念が押し寄せてくるものの、今となっては後の祭りである。仕方がないので、ここは正直に感想を述べておくことにしよう。
凛のモチーフはどうやら猫らしい。本人の猫っぽい所からも想像が付くことだが、正直雰囲気も普段の活発さを含みつつ、一人の女の子としての可愛さを追求した衣装だ。衣装を考えていることりさんには頭が上がらない。こんなにも個人にあう衣装を考えられるのだから。だからと言って、上手な褒め言葉が見つかるわけでもなく、いつも通りぶっきらぼうに返さざるを得ないのだが。
「ま、まぁいいんじゃないか? 悪くないと思うぞ」
そんな素っ気ない言葉に凛は一瞬、表情を曇らせたが俺の真剣な様子が伝わったのか満足そうに元々座っていた位置に戻っていった。いい加減上がりやすい所も治さないとなとしみじみ思う陽月だった。
そんな質問を受けてから、紙袋から衣装の小道具でもある動物の耳を模した物を出し、全員に配っていく。
「あれ、一つ余ったぞ? しかも海未さんが居ないようだけど」
紙袋の中にはあと一つ、装着するべき人の下へ届かなかった物が残っていた。しかもその人は部室内には姿が見受けられなかった。
「え……っと。その……」
先程俺を部室に招き入れた穂乃果さんが、どこか歯切れ悪く口をモゴモゴと動かしていた。何やら言いたいことがあるようだが。
「もー、海未ちゃんいい加減出てきて~」
しびれを切らした様子のことりさんが、入口側のドアの反対側にある、物置へと続く扉へ声を投げかける。どうやらそちらに海未さんがいるようだ。なぜそんな方向にいるのかはよくわからないが。
「い、嫌です! こんな恰好で殿方の前にでるなんて……」
どうやら海未さんは衣装が恥ずかしいようだ。今そんな事を言っているが、後で全国に動画が配信されるというのに、大丈夫なのだろうか。
「花陽も……ちょっと恥ずかしいです……」
もじもじと椅子の上で体をよじらせながら呟く花陽。同じくμ'sの一員である彼女は例によって、可愛らしい衣装に身を包んでいた。いつもより落ち着かない様子なのは、きっと初のPV撮影の緊張からだろうか。普段より一割増くらいでボソボソと小声で念仏のように何かを唱えている様だ。
そしてその隣、いつもの如く赤毛の髪を人差し指でクルクルと回している真姫。花陽とは打って変わり、緊張をしてはいないようだ。いや、よく見ると人差し指ではなく中指で髪をいじくりまわしている。やはり緊張しているのだろうか。そんな俺の観察する視線に気が付いたのか、真姫がキツイ視線をこちらに返してくる。俺は両手を上げて降参の構えを取り、視線を真姫から引き剥がす。どうやら予想以上に気が立っているようだ。さながら生まれたばかりの子供を外敵から守るメスライオンの様だ。
「い、嫌ですー!」
「観念しなさい、海未―!」
丁度真姫から視線を剥がした先には、扉からズルズルと引き出されている海未さんとそれを引っ張っている矢澤先輩が見て取れた。どうやら籠城は失敗。強行作戦により海未さんは敗北を喫したようだ。
一仕事終えたかの様に矢澤先輩がふぅ、と額の汗を拭う動作をしながら息を大きく吐き出している。そしてその足元にはくぐもった声を漏らす海未さん。そんな二人も衣装を着ているわけで。海未さんの恰好は別段恥ずかしいような露出があるわけでもなく、更には今回スカートでもない。それなのに恥ずかしがっているのには思わず笑みが零れてしまう。矢澤先輩の衣装姿も初めてみるが、何故かしっくりきている様に思えた。これが三年間の積み重ねというやつだろうか。
一通り全員が揃ったところで、タイミングを見計らったかのように俺が入ってきたドアが勢いよく開けられた。
「おまたせ、装飾の準備オッケーだよ! って陽月くん、荷物取ってきてくれたんだ。連絡無かったから心配したよ~」
ドアの方から勢いよく現れたのはヒデコさん。どうやら一通り学校の装飾も終えたようで、連絡にきた様だ。
「荷物はしっかり取ってきましたよ。あ、あと連絡取れなかったのはメールアドレス間違ってたからです」
「えぇ本当? ごめんね……?」
心底驚いた様子でヒデコさんがやってしまった、という表情をしていた。その反応に思わず俺はクスリと笑ってしまった。そんな俺やヒデコさんの反応を見てかμ'sの皆にも笑顔が灯った。
「よーっし! じゃあ皆いっくよー!」
いい感じに緊張がほぐれたようで、穂乃果さんが大きな声で開始の宣言をする。他の皆もそれに伴い「おーっ!」と気合を入れた。そして全員が七人の収容で一杯になっている部室から飛び出していった。
「おっと、忘れてた」
その後を追いかけようと思った矢先、唐突に一つ忘れていたことを思いだした俺は、壁にピッタリと備え付けられているタンスの引き出しを勢いよく開ける。その中に入っているのは、ファーストライブの時にも使用したビデオカメラだ。これ自体は絢瀬会長のものだが、まだ必要になるとの事で未だに預からせてもらっているのだ。そして、PV撮影では必須のモノだ。
「お、陽月くん用意周到じゃん。じゃあいこうか」
俺が撮影開始場所を知らない事をわかっていたのか、ヒデコさんだけが部室に残り俺を待っていてくれたようだ。
「じゃあ行きましょう!」
そう言ってヒデコさん案内の元、階段を上りμ'sの皆を遅れながら追いかけていく。
μ’s、七人になってからの初めての曲。俺も聞いたことが無い物なので、期待ゲージ満タン。俺はその感動と興奮をネットを介して応援してくれる皆の下へ届けよう。それがμ'sのファンとして、μ'sの傍にいるものとしての役割だ。
届け、皆の思い――
「これからのsomeday」
同時刻――彼は「電気屋ナマズ」と書かれた古びた看板が立てかけられた、看板同様年季を感じさせる引き戸から出てくる。彼は中の店員の爺さんの案内の元、店内にあったいくつかの年代物のゲーム機を触らせてもらっていたのだ。お蔭で、友人には置いていかれかれこれ一時間以上が経過していた。
「……一応連絡しておくか」
ダルダルのズボンのポケットからスマートフォンを取り出し、電話帳からその友人の番号をコールしようとする。
「ねぇ」
しようとした、その時後ろから聞き覚えのない女の声が、はっきり自分の方へ問いかけているのが聞こえた。彼の聞き間違いでなければ間違いなく名前も知らぬ男に、声をかける女がそこに一名いるようだ。
「ん? なんですか?」
彼は突然の出来事に、冷静かつ柔和に対応する。振り返り、その声の主を見る。その女――彼女は紫色の髪を肩の辺りで二つに縛り、日本人離れしたプロポーションのしていた。その体つきと同じく、顔の良さまで日本人離れしていた。
まずこんな人は見たことが無い。ましてやこんな美少女に声をかけられる程、彼は着飾っても居ないし、勿論生き別れた妹などでもない。なら何故彼に縁もゆかりもないような、彼女に声をかけられたのだろう。
「一つ、陽月くんに関する事を聞きたいんだけれど」
あぁ、どうやら彼女はとは関係があったようだ。共通の知り合いという点で、だ。惜しむらくは、彼に一切の興味が彼女にはない事である。
「えぇ、誰だか知りませんが、プライバシー保護に関する法律に抵触しない程度の質問であれば」
彼は名も知らぬ彼女に、軽口をたたきながら軽薄そうな笑みを浮かべる。彼の特徴として、初対面の、かつ関わりのないものには一切素の自分を見せない。
「うーん、まぁええわ。で、その事なんだけど」
「陽月くんが言ってた『瑠衣子』って人の事、聞いてもいい?」
一つ言うなれば、彼、陽月はその『瑠衣子』なる人物の事を自ら口に出すことはない。いや、無意識にならば、例えば寝言や悪夢に魘されていたのならありえるだろう。
彼は、その名前。ここらの人間がまず知らないであろう、彼女の名前を知っている事に驚きを隠せず、軽薄な笑みはどこかへ飛んでいき、代わりに警戒の色を灯した表情に変わっていた。
「で、教えてくれるのかな? 教えてくれないのかな?」
だが、彼女とてふざけて名前を出している様子ではない。彼女なりに知りたいことがあって、彼に疑問を持ちかけたのだろう。
「……どこで名前を聞いたのかは知りませんが、アンタはヨウのなんだ? 恋人か?」
絶対にありえないであろうカマをかけながら疑問を投げかける。勿論、素直に答えない様なら足を九十度回し、歩き出すことにしよう。
「そうやね……強いて言うなら、彼は運命の人……かもって」
彼女の強い意志をたたえるグリーンの瞳からは嘘をついている様子は感じられず、それどころか嘘を吐くのではなく彼女の願いが見え隠れする言葉だった。
「OK。どうやら嘘をついているようじゃないので、少しだけならお話しますよ」
彼も決して阿呆の類ではなく、自分で判断してこその答えだろう。
「ありがと、感謝するわ」
『瑠衣子』は、彼はともかくとして陽月に、深く関係している名前であり、彼女がこの先決して知るはずもなかった名前である。それを何故、彼女が知っていたのかは陽月が彼女を信頼して話したのか、それともうっかり口を滑らしたのか。わからない事だが、確実に、いつか止まっていた時計の針は彼の知らない所で回り始めていた。
ここでお名前登場。ですが出番は当分ありません。きっと忘れた頃にでも出てきます。
企画の方はずっと残しておきますが、また別で企画でも考えておきます。
感想、誤字脱字のお指摘お待ちしております。