Another School idols diary 作:藤原久四郎
もしもから――
「ねぇ君の名前は――?」
「私?私は希っていうの。貴方は?」
「そうか希っていうのかぁ。僕の名前は――」
「そうなんだ。貴方も引っ越しばっかりなんだね」
「うん、だからこれって”運命”かもな!俺たちそっくりだもん!」
遠い過去の話だ。でも、記憶には鮮明に残っている。名前もすっかり忘れてしまっているし、容姿もイマイチ思い出せない所もあるが、それでも尚、私の心を掴んで離さないだけの思い出だ。
そして話を聞いた。彼と、彼に纏わる少しのお話。深くは聞けなかったけど、それでも十分すぎる事を。
「運命? なんでそう思うの……?」
「そうだなぁ……僕も引っ越したばかりで心配だったけど……同じ仲間がいたんだもん! きっと運命だよ!」
「でも、運命っていうけど。たまたまだよね?」
「うっ……で、でも! そのたまたまが君だったんだから……そんなたまたまの話はしなくていいの!」
「うふふ……君って面白いんだね」
「なっ……僕だって真面目なんだよ!?」
彼は、私にとっての本でしか見たことのない王子様だった。
あぁ、懐かしい。もしも、もしも……彼も私も離れる事が無かったらどうなっていたんだろう。そんな夢の欠片。中学生になっても、高校生になっても友達だったんだろうか。それともそれ以上の関係になっていたのだろうか。
「ごめんね……僕、また引っ越しみたいだ」
「えっ……そんな……」
「で、でも! また会えるよ!」
「……本当に?」
「う、うん! 運命を信じてるなら、きっと会えるよ!」
「『運命』……わかった、信じる」
「また、いつか! 絶対会おうね!」
「うん! 絶対だよ! 忘れないで、必ず!」
その日も、曖昧な時を刻む夕暮れ時だった。
約束をした。運命を信じた。幼いころの純粋さ故の、確信のない約束。それでも私は待ち続けた。彼がどう思っているのかはわからないけど、私はこれまでの間ずっと『運命』を待ち続けた。一年がたち、未だに信じ続けていた。二年がたち、少しずつ不安になった。三年がたつ頃には、私はその事を忘れようと思っていた。四年が立って、少しずつ、過去に縛られずに生きていけるようになってきた。五年がたって、私はすっかりその事を忘れていった。六年もたつ頃、私はようやく地に足が付く生活を手に入れた。音ノ木坂学院、今では三年も通っているが、今までの転勤生活から考えれば奇跡に近い事である。それでも未だにこの土地にいられるのは、親の気遣いなのかはたまた『運命』だったのか。
そして高校生も終わりに近づいていった三年生。私はすっかり日課になっている神社のお手伝いをしていた。いつもと変わらない夕焼け。オレンジの光は、どこか寂しげな雰囲気を宿している。昼と夜との境界線、何かありそうなどっちつかずの不思議な時間。そんな時間を一人、絶好の観測場所で一望できるのはこのお手伝いの特権だろう。
そんな夕焼けを見ているといつも以上にセンチメンタルな気分になってしまうのも仕方がないだろう。思い返すのは、その王子様の記憶。思い出としては少し思い出せるものの、はっきりと思い出そうとすれば過去故か思い出せない。唯一わかるのは、彼の雰囲気と、ざっくりとした記憶だけ。
石段を登る音がした。その音に私は久しぶりの参拝客だ、と我が事の様に心を躍らせた。最近ではめっきり参拝客も減ってしまい、すっかり寂しい場所になってしまっているのだ。あ、どうやって話かければいいんだろう。久しぶり過ぎて応対すらできないかも、と少し焦る。いや、ここは自然体で……いつも通りいけばいいんじゃないかな。
確実に音が近づくにつれて、私の心臓も早鐘をうつ。なぜこんなにも緊張するのだろう。何か嫌な予感でもしているのだろうか。落ち着いて、落ち着いて。大丈夫、大丈夫。自分にそう言い聞かせてやる。結局、恥ずかしくなって音のするほうの石段に背を向けてしまったのだが。
「あなたは、誰ですか?」
その声の主は、そう話した。私に対して放ったであろう言葉は、酷く懐かしく感じられた。それはきっと、忘れかけた中で、一番待ち続けていた事だったのだろう。もしかしたら曖昧を刻む夕焼けの悪戯だったのかもしれない。
もしも、私たち出会って無かったらどうなってたんだろう。そんな『もし』を考えていた。『王子様』を思い出した。そして、再び出会った、きっと間違いない。それは確信だ、ずっと待ってた『運命』だってそう信じた。
それは、もしもからきっと――
のんたん^~
ちょっとした小話を投下。次からは会長、副会長のお話をば。