Another School idols diary 作:藤原久四郎
ちなみにヤキモチストリームという物をしておりました。睦月先輩可愛かった。超可愛かった。
あ、関係ないですね。すみません。
甘酸っぱい?
七月。そろそろ暑さが迫り、今まで着ていた冬服では耐えられなくなってきている時期。つまり衣替えの時期だ。
「……あっつ」
現在いるのはアイドル研究部の部室。たったいまつけられた空調は、独特の音を鳴らしながら冷やされた空気を部室内に少しづつ送っていく。部室内が完全に冷えるのはオンボロ空調では、この狭い部室でも十分以上はかかるだろう。勿論その間は微妙な熱気と付き合わなければならない。そんな短時間の事さえ、火照った体には苦痛だ。
「全く……空調も新調してほしいわね……。うっわ埃舞ってる」
机に突っ伏した俺と同じく机に身体を預けているのは、この部室の管理人兼アイドル研究部の部長である矢澤にこだ。いつもは凛とした姿勢でいるのだが、流石に暑さには耐えられないのか、ぐったりとしているようだ。
「というか、皆今日は来ないんですか? そもそも休みなんですけどね……」
そう、今日は珍しく部活動が休みなのだ。部活動というのはアイドル研究部におけるアイドル活動の一環であるμ'sの練習の事だ。本日は練習内容に合わせて週二回ある休みの内の一回だ。折角の休みであるのに俺や矢澤先輩は何故か蒸し風呂のような部室に居る。俺はただ気まぐれで来たのだが、理由を矢澤先輩に聞いても「アンタと同じ」とまともには取り合ってくれずにいた。
「大体休みとかアイドル研究部にはないの。アイドル活動にはあるけどね」
さも当たり前のように矢澤先輩はそう言っているが、俺は初めて聞いた事だった。そもそも毎日のようにこの部室には通っていたのだが、アイドル研究部にそれらしい活動があったのかすら不明である。過去まだ三か月ほどだがμ'sとして活動するようになるまでは、部室に来てだべったり愚痴りあったりと、ただの喋り場であった。
「そもそもアイドル研究部って今まで何してたんです? 部費も出てたみたいですけど」
辺りの所せましと並べられたグッズや、壁一面に貼り付けられたポスター達を眺めながら疑問の視線を投げかける。もしも部費でこれだけのモノを買っていたのならそれはそれで問題なのではないだろうか。
「失礼ね、このあたりのものは全部私物よ。わざわざ家から持って来たんだから」
「へぇ……じゃあ部費は何に使ってきたんですか?」
「え、えっと……アイドルについて深く研究するための資金というか」
「ふむふむ。でも? ここにある物全部私物なんですよね?」
「ぐ……ライブに行ったりとか、交通費とか……」
「私用に使うって最低じゃないですか」
そんなこんなでダラダラと久しぶりに、俺の知っているアイドル研究部らしい活動をし、気が付けば最終下校時間である六時が近づいていた。
「ん……もうこんな時間か。矢澤先輩といる時って時間の経過早い気がしますわ」
「そう? 私はむしろ長く感じるけど」
「嫌味ですか?」
「いえ、全然?」
軽口でやりとりしながら、少しだけ中身を出した鞄の中に再び荷物を詰めなおす。かと言ってしまう物といったら、ほんの筆記用具や遊ぶために持ってきたトランプやらのものだけだが。
「じゃあ帰りますか」
「そうね」
確認を取ってから二人で、部室を出て共に帰路に着いた。
外に出てみると空は曇っており、一雨来そうな天気をしていた。降水確率は朝のテレビのホモで有名なお兄さんの話によれば、確か50%くらいとか言ってたな。そして付け加えて自身のブログにて、「ホモは曖昧」というわけのわからない事も言っているらしい。天気予報はその程度のモノと、仮にも天気予報士が言っていいのだろうかとふと思った。
「そうだ、アンタって繁華街のクレープ屋にいったことある?」
きっと、以前海未さんといったあの屋台の事だろう。その後、個人的にも何度か行った事もある。以前のお礼や、純粋に腹の虫の赴くままに。
「はい。何度か行った事ありますよ」
「へぇ。まぁいいわ、とりあえず時間あるなら行かない?」
時間はあるし、断る理由もないので「はい」と短く返答をする。だが、財布の中は相変わらず、今の夏の様な暑さはなく冬が訪れている。いい加減バイトでもするべきだろうか。
「というか、アンタ誰といったの? 言っちゃ悪いけど部活の面々以外で交流あるの?」
「言葉選ぶとか、遠慮とかないんですか?」
あまりのストレートな質問に面喰ってしまう。というかそれは矢澤先輩にも言えるよな。と、思ったが言うとややこしくなりそうなので敢えて言わないでおく。
「大体よ、アンタがもしもそんなことできるんなら彼女の一人や二人できると思うんだけどね」
「馬鹿にしてるのか褒めてんのかどっちですか……」
「……両方よ」
「両方? なんすか惚れてるんですか俺に」
何故か顔を伏せていた矢澤先輩は呆れるように溜息を吐きながら、再び前を向いていた。
「アンタ……普通そう言うのって聞き逃すもんじゃないの? しかも自分でそういう事言う?」
「どの普通か知りませんが、常識的に二人で会話してるのに聞き間違えるわけないでしょう」
最近のアニメや、ライトノベルなどで難聴系と呼ばれる主人公がいるが耳鼻科に一度いくべきだとひしひしと思う。大体わけのわからない突風や騒音で掻き消されるのも現実的ではないだろう。いわゆるご都合主義だろうか。最近自分にもあった気もするが、現実ではありえないだろう。と笑いながらそう思った。
「ったく……そういう乙女心もわからないから駄目男呼ばわりされるのよ」
「いや、初耳ですけど」
「そりゃ、今初めて言ったからね」
「さっきからわけのわからない事しか言ってませんね……」
「アンタが悪いのよ」
どうやら乙女心は複雑らしい。
そうこう他愛の話をしている間に繁華街にたどり着いていた。空は夜が近づいている事による暗さではなく、暗雲がたちこめている故の暗さである。これは一雨降ってもおかしくないな、と朝のホモのお兄さんの話を聞いて念のために持ってきていた傘の事を考えながらそう思った。
そしてもう少し繁華街の中を歩いていくと、見飽きた程ではないが見慣れた看板と屋台、そしておじさんの活気に溢れた顔が見えてきた。
「おっ、いらっしゃい! おい陽月、今度はにこちゃんか! 浮気性も大概にしろよ!」
がははと高らかに笑うおじさん。それにつられて俺も笑ってしまうが、冷静に考えたら浮気性というのは否定しておくべきだったと後々思う事になるとは今の俺は思っていなかった。
「へぇ、浮気性……ねぇ」
「ん? なんか言いました?」
笑い声に重なって矢澤先輩が何か言っていた様だが聞き取ることが出来なかった。ついさっき、その事について一笑に付した癖してこのざまである。これでは本当に気が付かない内に聞き逃しをしてしまいかねないな、と気を付けようと再び意識する事にした。
「おじさん、パンドラクレープ一つと、今日のオススメ一つ」
冷え切った声でおじさんに注文をする矢澤先輩。そもそもまだ俺決めてないんだけど……しかも聞いた事もメニューで見たこともない名前のクレープあるけど、大丈夫なのだろうか。それにパンドラってもしかしてあのパンドラの箱のパンドラの事だろうか。仮にそうだとしたらとんでもなくヤバい気がするんだが。
おじさんは矢澤先輩の注文を受け、十分程狭い屋台のキッチンでクレープを作る。いつもと違うのは、見えるようにクレープを作るのではなく、何故かカーテンを閉め切っていたということだ。この時点で妙に不吉な予感がするのだが。
「へいおまち! あ、にこちゃんはこっちね。陽月はこっちだ」
そう言って一つずつ、俺と矢澤先輩にクレープを手渡すおじさん。手渡されたそれは、見比べても外見、膨らみ、匂いなど全然違いがわからない程であり、食べてみないとどちらが日替わりで、どちらがパンドラの箱なのかさっぱりわからない。
そして、前回海未さんの時とは違い、一足先に会計をしようと俺が財布からお金をだそうとする。
「あぁ、ちょっと待って。私が出すわ」
「え、別にいいですよ。ここは俺に――」
「出すわ」
「いや、でも――」
「だ、す、わ」
「は、はい……」
あまりの真剣さというか、剣幕に圧されしぶしぶ会計を矢澤先輩に譲る。これにはおじさんも苦笑いをしており、手振りとアイコンタクトで「ドンマイ」と言ってくれていた様に感じた。そのドンマイが、この会計の事ではないとは思いもしなかったが。
元来た道、つまり帰り道を歩きながら俺と矢澤先輩は手にしたクレープを食べていた。いや、正確に言えば矢澤先輩だけが美味しそうに口いっぱいに頬張っている。そんな幸せそうな様子を見ながら俺は、安全そうなクレープの生地部分をちまちまと食べていた。
「うーん! やっぱりおじさんのクレープは最高ね~」
「……ですね」
「今日はフルーツ多めの甘さを活かしたモノなのね。丁度甘いもの食べたかったから一層美味しいわ~」
甘いもの食べにクレープ買いに行ったんだから甘いのは当たり前じゃ、と上の方のすっかり減ってきている生地部分をついばみながらそう思った。
「ってアンタさっきから生地部分ばっかり食べて何してんのよ。早く食べなさいよ」
「いいじゃないですか、クレープくらい好きに食べさせてくださいよ」
「あんまり時間たつと出来立てで折角美味しいのが台無しよ? 早く、こうパパッと行きなさい」
「なんでそんなにゴリ押すんですか」
「……骨は拾ってあげるわ」
「唐突な上に意味がわからないんですけど!」
やっぱりこのパンドラの箱と名付けられたコイツは食べてはいけないのではないだろうか。
「もう男らしくないわね。浮気性あるくらいなんだから、男気見せなさいよ……っと!」
「そんな男気いらな――むぐっ!?」
目の前で矢澤先輩が飛び跳ねたかと思えば、その脚力により飛び上がった体の勢いを使った手で、クレープが口の中に捻じ込まれていた。
「ハッ……」
「お、やっと目が覚めたか」
眠っていた意識が覚醒する。目の前には見知らぬ老人がおり、こちらに優しげなまなざしを向けていた。どこか見たことのあるような特徴が見受けられるが、俺の記憶にはこんな老人の知り合いはいない。
「……ここは?」
辺りを見渡しても一面花畑であり、唯一違うのは遠くに見えるどこからか続いている川らしき水の流れだけだった。そしてその川らしきものを越えた先の地平には何があるのかが靄がかかっており見る事が出来ない。
「……ん? お主はまさか……」
目の前の爺さんは老眼なのか、目をゴシゴシこすりながらこちらに顔を近づけていた。
「ゴシゴシ……」
「いや、自分で言うなよ」
「ゴシゴシゴシゴシ……」
「嫌々しつこいって」
「うわあぁぁぁ目がぁぁぁぁ!」
「アンタなにしたいんだよ!」
わけのわからない行動をとりながら数秒間眺めたかと思うと、体を180度回転させ後ろを向いてしまった。
うーむ、俺はさっきまでどこにいたのかも思い出せない。本当にここどこだよ……ここにいると何故か無茶苦茶眠いし。
「ふーむ、お主はここにまだ来るものではないな」
唐突に後ろを向いていた老人はこちらを振り向きながらそう言った。結局この爺さんここがどこか教えてくれてないんだが。しかもなんか目元赤いし、目擦りすぎだろ。
「じゃあどうすりゃいいんだよ」
「そうじゃな、こっち行くと死……ごほっ! まぁこっちとは逆側に行けばいいじゃろ」
「ずいぶん曖昧だな……」
「なに、人生そんなものじゃよ」
「随分達観してんな……しかもアンタ顔色悪くないか?」
「そりゃ死……ゲボォア!」
「大丈夫か爺さん!」
何故か初対面の相手なのに、まるで自分と話しているかのように気兼ねなく話せている。この爺さん本当に誰なんだろう。ついでにここの事も教えてくれればいいのに。
「まぁとにかくじゃ……こっちの道を進んでいけばええ」
誤魔化すように爺さんは川とは逆に、延々と続く花畑を指さして言う。
「なんか釈然としねぇ……まぁいいか」
「はよいかんか。あんまりこんな所にいる必要はないじゃろ」
ほれほれ、と背中を爺さんは無理矢理押してくる。
「……じゃあよくわからんが行くわ」
「じゃあの~」
爺さんに別れを告げ、無限に広がる花畑を歩き出す。川と逆側に歩くたびに先程から続いている眠気が増してくる。にしてもさっきの爺さん……どこかでやっぱり見たことある気が……。気になった俺は襲いくる眠気に逆らいながら後ろを振り向く。
「……なぁ……アンタ……」
意識を保つのも限界になり、掠れた声で辛うじて見受けられる爺さんを見ながら最大限声を振り絞る。
「元気でな――」
爺さんが言葉を発すると同時に、体からフッと電源が落ちたロボットの様に体から力が抜け、意識が遠のいていった。最後に視界に映ったのは、見覚えのある名前を呼ぶ口の動きだけだった。
「――月。陽月……」
なんだ、柔らかい感触が頭元にあるぞ。無意識に眼鏡を探すような動きでその感触の元に手を這わせる。(眼鏡は使ったことが無いが)
「ひゃぅ!?」
「……ん?」
甲高い声が耳に届くと同時に、眠りきっていた意識が瞬時に覚醒。状況の把握を開始した。
ここは……見たことない――いや、希さんと一度来た公園か。次に俺の頭元には謎の柔らかいモノ。これは肌色をしており、少し視線をずらすと見覚えのある、音ノ木坂学院の指定制服のスカート生地のようだ。スカート……?
「げっ……」
状況の把握の済んだ俺は、マズイ事をしたと瞬時に判断。このままではまずいので、素早く起き上がろうとする。
「えっ……ちょ――」
「……あ」
気が付いた時には手遅れ。目の前にはさっきまで一緒にいた矢澤先輩の顔。しかも表情は一瞬怒っていた様に見えたが、即座に焦りと戸惑いの表情を浮かべていた。かと言って起き上がろうと体のバネを活かした動きの前に、咄嗟の判断で動ける程矢澤先輩も、俺も俊敏ではないわけで。
ガツン、と骨と骨がぶつかり合う鈍い音が耳に聞こえると同時に、再び覚醒したはずの意識が暗闇の中に吸い込まれていった。その時俺の唇に、同じくらいの柔らかなモノが触れたが、そんな事を気に掛けられる意識は既に手放されていた。
「ハッ……」
「……はぁ」
目を覚ますと、俺は何故か公園のベンチに横たわっていた。妙に固く感じる木張りの長椅子は起きたての体には苦痛なので、身体をゆっくり起こす。すぐ横には矢澤先輩が蹲るようにして膝を抱えて座り込んでいた。
「……あれ、俺何してたんだっけ」
おかしい、確か俺はあの後クレープを食べて……さっぱり思い出せない。
「あの、矢澤先輩。俺なんで寝てるんです?」
「……忘れておいて」
「え、忘れるってどういう――」
「いいから」
「いやいや――」
「い、い、か、ら!」
「ひゃい……」
目の前に立って、有無を言わせない態度の矢澤先輩。全く持ってわけがわからない。
「まぁいいです。それより早く帰りましょう」
「ん……そうね」
どちらからというわけではなく、立ち上がり再び帰路につく。
「……チラッ」
「……」
「……チラッチラッ」
「なんで矢澤先輩まで効果音口で言うんですか」
……まで、ってどういうことだよ。誰か他に言う人いたか?
「いや、その……」
さっきからなのだが矢澤先輩はこちらを文字通りチラチラ見ながら、そのたびにしおらしく身体をクネクネ、いやモジモジさせていた。正直理由がわからない分気持ちが悪い。
「なんか顔についてます?」
とは言っても顔を自分の手で、ペタペタと触ってみるものの何もついている様子はない。
「……忘れてる? いや、すっとぼけている可能性も……」
「なんですかもう……あ、クレープの残りか何かですか?」
「!?」
ふと、ありうる可能性から何気なく唇に指を這わせる。だがクリームが残っているわけでもなく、フルーツの類が残っているわけでもないようだ。にしてもクレープって本当に食べたのか? 記憶がないんだけど。の割には不自然に指に湿気が感じられる。
「あ……うぅ……」
すると矢澤先輩は、口元をぽっかりと開け動揺を隠せない様子で体を震わせていた。
「大丈夫ですか? もしかして風邪か何かですか――」
「触るなこの淫獣―っ!」
「げふっ!?」
何気なくおでこに向けた手は矢澤先輩の左手にはじかれたかと思うと、その勢いで下げられた右腕が俺の顔に向かって飛んできていた。いや、グーパンはいかんでしょう。
「最悪よーっ!」
俺を思い切り殴り倒した矢澤先輩は、俺を置いて思い切り全速力で走っていってしまった。一人、地面に突っ伏している俺はさっきから理解不能の状況が連続したせいで困惑したまま、暗くなり一層空に映える月を眺めながら物思いにふけっていた。
「いったいなんなんだよ……」
そう言えば唇……思い立った瞬間、先程湿気を感じた唇に舌を使って舐めていた。……いや、やっぱり何もついてないな。だが、何故か本来そんな事は無いはずの、不自然な甘酸っぱいような味を感じたのは、やはりクレープのせいだったのだろうか。
後日も何故か矢澤先輩からは避けられ、結局わけがわからない事が沢山であった。すっぽり抜けた記憶と、あの不可解な甘酸っぱさはなんだったのだろう。
テストも近く、色々用事も重なっているのでまたまた投稿が遅れるかもしれませんが、頑張ります!