Another School idols diary 作:藤原久四郎
ゆっくり見てけよ見てけよ~
「何故こうなった」
とある家の前に立ちつくし、半ば呆れ気味に声を漏らす。本来来る筈では、いや来る予定ではあったが本意ではなかった場所だ。玄関のところにつけられている、家の主の苗字を示すプレートには「星空」と書かれている。ここは宇宙の一画だろうか、もしかしたら……いや、現実逃避も大概にしよう。
「全く、陽月も往生際が悪いわね」
隣には、燃えるような真紅の髪をショートボブにしている彼女、西木野真姫。一応、今日の授業を終えてから紆余曲折を経て、ここにいるため真姫は往生際が悪いと俺の事を評しているのだ。いや、女の子の家とか何時ぶりよ、心構えとか親御さんに渡す菓子折りとかいるやろ、普通。
「いらないと思うよ、陽月くん」
「って、とうとう花陽まで読心術を!?」
「い、いや……声ダダ漏れだったよ?」
「……気を付けます」
全く、気をつけねば思春期特有の変態的思考もダダ漏れになりかねんな。それはもうドン引きを越えるレベルだからな、うん。
「……漏れてるわよ」
「おっかしいなぁ……」
やれやれ、これじゃあ可愛らしい子猫ちゃんたちを困らせてしまう。我ながら罪作りな存在だぜ。
「じゃあそろそろ行こうか」
「そうね、インターホン押すわよ」
「こういうのは漏れないのね!」
どうやら妙に都合のいい心の声の漏れのようだ。さながら老年期の尿漏れに近いものでもあるのだろうか。ちなみに、凛は先に帰って「準備」をすると言っていた。家に人を呼ぶのに準備がいるということは、物が散らばっているゴミ屋敷にでもなっているのだろうか。それはそれで女の子としてはどうかと思うが。
「でもさ、俺途中で逃げようとしたんだけどね」
そういえば、と何故俺がここにいるのかの理由を考えてみる。
「知ってるわよ」
「うん、結構抵抗したよね。暴れてたし」
「ちょっと引いたわよ」
そう、結局凛の家で遊ぶ事が決定したあと俺は頑なに行くのを拒んだ。別段拒否する理由もないのだが、心の中で不快感というか安易に女の子の家に言ってもいいのだろうかと考えていたからだ。結果としてそれは失敗に終わっているのだが。
「でもよ、俺普通に帰ろうとしたはずなんだよ」
「そうね、途中の分かれ道で――」
「こっち来てたよね」
「えっ」
俺の記憶と花陽たちの記憶にズレがあるようだ。俺はいつも通り皆と別れる所で、真姫について一緒に――。
「あ」
「やっとわかったのね」
一緒に右に、歩いて行っていた。いつもは、左だ。
「あ、いらっしゃいにゃー」
と、俺の失敗の原因がわかった所で、やっとインターホンに反応した凛が出てきた。出てきた凛のいつもとは違う所は、制服ではなく私服であるという事。そこで、一つ疑問。
「ん……凛、ズボン履いてるのか」
普段は制服でスカート姿を見慣れているせいか、ズボンを履いている凛には意外というか、逆に違和感を感じてしまう。別に似合っていないとか、不自然だとかそう言った類のものではないのだが。
「えっと、ほら! 家だとさ、スカートよりもズボンの方が楽っていうかさ……」
「そうなのか……男の俺からしたらズボンしか履かんからわからんが」
「陽月っててっきり家ではスカートかと思ってたわ」
「えっ……なにその決めつけ」
「ははは……」
「と、とにかく上がって!」
こちらに駆け寄ってきた凛が、全員の背中をグイグイと押して家の中に押し込む。そろそろ気を付けないと俺のイメージが危険かもしれない。
凛に押されるがまま、気が付けばリビングらしき部屋に全員が通されていた。家には誰も居ないのか、俺たちが部屋に入ってからは物音一つしない。部屋をぐるりと見渡してみると、猫を模した小物や額縁に飾られた猫の写真以外は至って普通の家庭といった様子である。
「ほぇ~猫ばっかだなぁ」
「あんまり見ないでほしいにゃ」
「可愛くていいじゃない。私こういうのも好きよ」
真姫も気に入ったのか、部屋に飾られている猫達を一つ一つ興味深そうに見ている。
「凛ちゃん、そういえばなんでリビングなの? わざわざ先に帰って部屋片付けてたんじゃ――」
「わぁぁあ! それはいいの!」
なんと、先程予想した通り凛の部屋は汚かったようだ。まぁなんとなくそんなような気もしていたが、実際女の子といえども雑な所は雑だったりするのだろう。
「まぁ、待ってるから部屋の片づけしてきたら?」
「べべべ、別に汚くないよ! ただ、おもてなし用に綺麗にするだけなんだもん!」
「凛、それじゃあ自分からネタばらししてるようなものよ」
「むぅ……まぁいいにゃ、じゃあちょっと待っててね」
そう言って凛はリビングから出て、階段を上っていくような音をたてながら二回に上っていったらしい。そして、残された俺たちは特に話すこともなく、静かなリビングで大人しく待つことにした。
「にしても……えらく猫だらけだなホント」
「そうね、可愛いからいいと思うけど」
「なのに生物の方の猫はいないんだな」
これだけの猫グッズがあるのにも関わらず、生き物の猫がいないのは腑に落ちない。まるで猫がいないのを慰めるために、沢山のグッズを置いてるかのようだ。
「そっか、陽月くんも真姫ちゃんも凛ちゃんが猫アレルギーだって知らないんでしたっけ」
「「!?」」
今明かされる衝撃の事実。凛は猫アレルギーでした!
「あんだけ猫語喋るもんだから……」
「まさかアレルギーだなんて」
「で、でも猫は本当に好きなんですよ? ただアレルギーなだけで……」
好きな物に触れない。体が拒絶する。それはどれだけ辛い事なのだろうか。凛はそんな素振りをしていたり、自分から言ったりしないので知らなかったが……。いたたまれない気持ちが胸を掻き見出し、心の中に黒い澱みが浮かんできている気がする。だがそんな事には気が付かず、凛の話を続けていく。
「じゃああの猫語はなんでまた。好きだからわざとやってるのか?」
「それはまた長くなるんですけど……言える事と言えば、ただのキャラづけとかじゃないってことです」
「何かあったのね。深くは聞かないでおくけど」
「う、うーん……でも別にそんな隠すほどの事でもないんですけどね……」
あの活発な凛にはそんな過去が……結局核心的な事は何一つ聞いていないが、何かしら凛を変えるような事があったのだろう。花陽からもう少し聞いてもいいと思うが、あまり本人がいない所でプライベートな事を聞くのもどうかと思い、一度話は途切れた。今度からはもう少し優しく凛に接そうと、心の中でそう思った。そしてさっきまで感じていた心の澱みは、消えていたようだ。
「掃除……じゃなくてお部屋綺麗にしてきたにゃー……って皆どうしたの? 元気ないけど」
「凛……困ったことがあったら言えよ? 力になるから」
「そうよ、なんでもしてあげるからね」
「ちょっと……ねぇかよちんどういうこと?」
「ははは……い、いいんじゃないかな?」
「意味わかんないにゃ!」
凛に対する接し方が柔らかくなった、そんな俺と真姫であった。
凛ちゃん可愛い!まじえんじぇー!