Another School idols diary 作:藤原久四郎
悠長に執筆している辺り、可能性を感じている(曖昧
「なぁ本当に悩みとかないのか? 相談に乗るぞ?」
「そうよ、多少だったら無理もするわよ?」
「いきなりもう! 意味わからないよ!」
居間を出て、二階に上がりながらはずっとこの調子である。変に気を利かせようものなので、凛からは不審がられている俺と真姫。そしてその後ろでずっと苦笑いをしている花陽。この調子で凛の部屋まで向かっていた。とは言っても、距離的には全く遠くないのであっという間についてしまうのだが。
「じゃあどうぞー」
先頭を歩いていた凛がドアを開け、皆を中に招き入れる。凛に続き真姫、そして俺、その後に花陽の順番で中に入る。正直、緊張している。俺だって健全な男子高校生だ。いや、男子学院生なのだろうか。そんなことはどうでもよくてですね。家族以外で女の子の家に上がって、記憶に新しいのは希さんの時ぐらいである。あの時もかなり緊張したのに、今度は部屋ときた。匂いとか脱ぎかけの衣服とかあったら理性を保てるか心配である。
「よし、入るぞ」
「何もそんなに気合入れなくても……」
緊張しすぎた俺は、真姫が入ってから一度深呼吸。そして裂帛の気合と共に入ろうとする。後ろでは花陽の苦笑いが聞こえるが、今の俺にはそれを突っ込むだけの余裕はない。ドアのノブを回し、女の子の園へ。そこに広がっていたのは――。
「…………意外と普通だ」
そもそも普段の凛の様子からもわかるが、活発ではあるものの決して落ち着きがないわけでは、いやむしろ落ち着きがあり、分別をわきまえるのだ。その印象通りというか、内装は落ち着いたカラーで統一されており、目が痛い程の発光がする物が置いてあるわけでもなく見ているこちらが恥ずかしくなるほどのグッズ群があるわけでもなかった。だが一通りの家具は備え付けられている。結論から言えばこんな感じである。強いて言うなら目についたのが、大きな姿見と壁に掛けられたワンセットの服がかけられており、下はよく見るとスカートである。それに最新機種のハードである『FooU』と、その映像を映し出す少し大型めのテレビくらいである。
「普通って酷くないかにゃー。どんなイメージだったのかは聞かないけど」
「まぁ……確かにイメージとは違ったわね」
「ふぁぁ……凛ちゃんちゃんと掃z……綺麗にしたんだね」
背後の花陽が言いかけた言葉を、いつのまにか眼前に現れプレッシャーを放っている凛が押さえつけた様だ。ぶっちゃけもう気が付いてるから気にしないんだけど。
「とりあえず座って座って~」
そう言って部屋の中央に置かれている丸机の横に四つある座布団を指し、未だに立ち尽くしていた俺と花陽を座るように催促する凛。一方真姫は既に座っており、暇を持て余しているのか髪をクルクルと弄っている。どうでもいいがフローリングの床を見ると机やテレビなどがあるのにも関わらず床を擦ったような傷が一つもなく、どうやら机やテレビ達はわざわざ用意してくれたようだ。時間がかかっていたのもこれで納得がいった。
「で、何するのよ凛」
「うーん、折角だしこの用意……じゃなかった部屋にいつもあるこのゲームで遊ぼっか」
是が非でも、部屋の様子を変えたことは無かった事として通すらしい。
「ふむ。ゲームソフトはなんだ?」
「多分凛ちゃんのことだから……」
花陽が口を濁しながら俺だけに聞こえるように囁きかけてくる。俺自身、据え置きのゲームはあまりしないので『FooU』に関しても名前と、鷹能の家で死ぬほどやりつくした一部タイトルしか知らない。
「うー……これにゃー!」
花陽がタイトルを言い切る前に、凛が一本のゲームソフトの箱を高々と天に向かって突き立てる。
「……何々。『大乱戦! スカッとイッときましょうSP』……?」
「やっぱりこれだったね……凛ちゃん……」
「……確か最近CMとかやってるわね」
そう、凛が高々と未だに決めポーズと共に空に突き立てているゲームソフトは、恋天堂がだしている大人気タイトルである物であった。こればっかりは俺も知っているし、先程述べたやりつくしたゲームはこれが一つである。つまり、だ。
「……いいな。久々に血が滾ってきたぜ」
これはゲームの中でも得意中の得意。それもこのゲームは同時四人対戦可能の所謂格闘ゲームで、スコア勝負やストック勝負などの様々なモードがあり、プレイ人数的にも丁度いい。まさか、女の子の家でこれを拝めるとは正直思わなかった。格闘ゲームは馬鹿な男ばっかりやっているとばかり思っていたが、流石大々的にCMをしていたりするだけの事はあるようだ。
「でも私やったことないから操作とかわからないんだけど」
「じゃあ真姫ちゃんは一緒に練習しようね」
真姫と花陽はとりあえず練習に徹するようだ。では、必然的に俺の戦う相手は決まっているという事だ。
「ふっふっふっ……凛は強いよ? 陽月くん」
「凛こそ……侮ってると痛い目見るぜ?」
ゴゴゴ、と擬音が立つくらいの緊張感の中、既に凛が用意していたのかテレビ画面に『大乱闘! スカッとイッときましょうSP』という文字が躍っていた。毎度思うが、どんだけ適当なタイトルなんだよと。
「よーし凛はやっぱりこのキャラだにゃ!」
対戦画面に移動し凛が選択したキャラは、ゲーム内でも屈指の速度と身軽さを内包したキャラ『光宙』だ。シマウマのような模様に愛くるしい見た目をしたキャラで、光宙の出ているアニメは時空が歪んでいるのと、主人公が無駄に屈強な事で有名でもある。
「まぁ俺はコイツだな」
俺の選択したキャラは『デーモンコング』という名前からしておどろおどろしいキャラだ。悪魔の名にそぐわない必殺の一撃に、それに合わせた埋め込みからのコンボはまさに悪魔の名前に相応しい。尚、名前の通りゴリラである。
「花陽はやっぱり……この子かなぁ」
そう言って花陽の選択したキャラクターは『Ms.遊戯&時計』という、正直名前からして意味不明かつ姿が白いシルエットのみという平面存在だ。吹っ飛びやすさは中の下で、スマッシュ技などもパッとしないが、特有の技の頭の上に数字が浮かび上がる技には1~9がでることがあり、9は一発場外ホームランという鬼畜キャラでもある。上級者に使わせると小技やスマッシュを織り交ぜながら、何故か土壇場で出る9に苦しめられるキャラだ。
「私は……わからないからランダムでいいわ」
真姫はコントローラーを操作しはてなマークのアイコンを選び、ランダム選択をする。
「……ムワァリオ? これって有名なゲームのあのキャラね」
どうやら真姫は初心者にもオススメされる、所謂万能キャラのムワァリオが割り振られた様だ。このキャラは特筆するような点はないものの、安定した性能で初心者から上級者まで広く使われる。真姫のカラーイメージの赤と同じであることは、ある意味運命を感じるものだ。
「全員選んだし、じゃあ早速やっていくにゃ! あ、設定はちょっといじったよ!」
何やらアイテムは出なくなっていたり、基本設定の時間制ではなくストック制になっていたり、チーム戦になっていたりと結構変わっている点が見受けられる。チームは適当に割り振られているようで、凛と真姫、花陽と俺になっている。
「よし、ステージはどうするんだ?」
凛がステージ選択画面に進んだところで確認をしてみる。ちなみに俺は正々堂々戦える「ファイナルポイント」と「バトルフィールド」が好きだったりする。
「真姫ちゃんも初めてだから、最初は少し広めの『宮殿』を選ぶにゃ」
「宮殿、か。まぁまぁ広いし、場所わけすれば戦いやすいか」
「宮殿」と呼ばれるそのステージは、上と下で主に戦場がわかれる事ができ、上は広々としたステージで、下は少し密閉間のあるステージの二段構造だ。タイマンから狭い下の階での乱戦など、様々な戦いが楽しめる良ステージだ。凛がステージを選択した所で、画面が一度暗転し選択した宮殿のステージが画面に現れた。
全員のキャラがマップの四方に配置される。俺と凛は丁度良く下の閉鎖空間に、花陽と真姫は練習にも適した上の広々とした空間に配置された様だ。これならば早速戦闘ができそうだ。
3秒カウントの後、ゲームスタートッ! という文字が画面に踊り、開戦の合図である軽快なBGMが流れ出す。凛は油断ならない、早速勝負に出るぜ。
「さぁ喰らえ! デーモンコンボォ!」
とは言ったものの、最初はデーモンコングは右腕をグルグルと回し、力をためるのだ。必殺技でありチャージ技でもあるので、こればかりは仕方がない。
「ふっ……最初に出なかった陽月くんが悪いんだよ?」
「何……?」
凛が不穏な言葉と、影を見せる顔をしていた。勝負が始まっているのにも関わらず凛の方を見ていたのは、それだけのプレッシャーを感じたからだ。そして勝負の際やってはいけないこと、それは余所見をする事である。
勝負は、すぐに決まった。瞬間で機動力を生かした光宙がデーモンコングの前に移動したかと思うと、まずは軽い弱攻撃の連打でダメージ値を堅実にためる。そして次はデーモンコングがひるんでいる内に一度強パンチ、つまり吹っ飛ばし技を決めてきた。ダメージ値が吹っ飛び率に関わるこのゲームでは、今のコンボでも60程のダメージ値であり決め手には欠ける値であった。だが、この戦場は狭くいわば大空洞の様な場所で、壁に斜め向きに当たったデーモンコングがたまらず再び同じ所に着地……はせずにすぐさま先程と全く同じ弱パンチ。そして吹っ飛ばし技。そして斜めに壁に当たり……以下ループ。
光宙「オラオラオラオラオラオラオラァ!」
デーモンコング「ウホっ!? ウホウホウホウホォ!!」
光宙は愛くるしい見た目に反し、無駄に渋いかつ最終的に時間を止められそうな勢いで攻撃を続けていく。対して俺はと言えば言ってしまえばハメ技を食らっているので、何も出ずただただラッシュを食らう哀れなゴリラを眺めるだけである。
「そろそろいいかな……フィニッシュだよ! ファイナルターン!」
凛がぼそりと呟くように、それでいて力強さを感じさせる声音で勝利宣言をする。ここまで俺が、いや哀れなゴリラがしたのは腕を虚しく回したことだけである。
光宙「テメェの敗因はたった一つ、シンプルな答えだ。テメェは俺を怒らせた」
デーモンコング「ウホオオオオ!」
これ本当に愛玩キャラなのかなぁ光宙。これじゃあ筋肉ムキムキの最強高校生のイメージでしかないよ。そんな事を思っている内に、哀れなウホウホゴリラは下の階に二ヵ所下向きに位置している穴に、ゴリラ特有の叫び声を上げながら落下させられていた。
「な、なんということだ……俺のデーモンコングが……ただの家畜以下だ……」
「ふっふっふっ……だから甘いって言ったにゃ」
「うるせー! まだ残機はあるんだ!」
「何度やっても変わらないにゃー?」
ステージの上空から復帰したデーモンコング、もとい家畜を操作し再び忌まわしきクソネズミがいる所へ舞い戻る。上の階から下の階に降りる際には先程ハメ技を食らっていた斜め向きの壁ではなく、中央部分から下の階に少しの落下を経て降りるのだが。
「あーまーい……にゃ!」
このゲームの特徴……いや、大抵そうなのだが高所から落下した場合など、着地する際には多少の拘束時間がある。つい先程の事なのに既に油断していた俺はこの事をすっかり忘れ、あろうことか落下中に行える行動を一切起こさず着地してしまったのだ。つまり、だ。
光宙「無駄なんだ、無駄無駄」
デーモンコング「ウホッ!? こ、これはまた繰り返されるのか!?」
デジャヴ。弱攻撃からの強攻撃。斜め向きの壁に激突、反射。地面を舐めることなく以下繰り返し。
光宙「終わりが無いのが、終わり……」
デーモンコング「俺の傍に近寄るなぁぁぁ!」
そして再び穴からボッシュ―トン。とうとうデーモン(笑)もゴリラ語を喋らなくなってしまった。このゲームは無駄に声を頑張りすぎていると思う。
「……ふっ。今は負けだがいずれは勝ってやるぜ……」
「精進が足らんのにゃー」
残機は2で設定されていた為、今回のゲームは完全敗北。悔しいが手も足も出なかった。気を取り直して真姫と花陽の練習コンビを見てみる事にしよう。どれどれ……
ムワァリオ「ヒャッフーゥ!」
Ms.遊戯&時計「ジャッジー! ちょマジ降参降参!」
なんと真姫が圧倒していた。というか、AI優秀すぎないだろうか。
「ゲームって楽しいのね。このゲームは始めてやったけれど操作も簡単でいいわね」
「うぅぅぅ……真姫ちゃん強いよ……誰か助けてー」
真姫は嬉々としながらどこで覚えたのかムワァリオの段差を使用した出演ゲームでも有名な無限1UPというハメ技を、蓄積ダメージが限界である999%を越えても尚繰り返していた。真姫はSの気があるのだろうか。恐ろしいものだ、若さというものは。
ムワァリオ「ヒィィィヤッフゥゥゥ!」
Ms.遊戯&時計「ひでぶっ!」
花陽は一応経験があったようだが、ビギナーズラックにやられたのか初回はフルボッコでやられ、その後も始終真姫のペースのままで、残機の残りの一回も再び無限1UPを喰らい、なすすべなくやられてしまった。つまり、俺と花陽のチームの圧倒的敗北である。
「な、なんてこった……」
「花陽……自身無くします……」
「真姫ちゃん凄いにゃ!」
「ふ、ふん! これくらい当然よ!」
「クソッ、認められるか! もう一回だもう一回! 俺のゴリラは負けねぇ!」
「そ、そうです! 連続で9をだしてみせます!」
すっかり負けたことで勝負心に火が付いた俺と花陽。一方凛と真姫は勝利の自信からか、余裕そうな表情で俺たちの再戦を受け入れる。ここからはよく覚えていないが、夕焼けのオレンジの空が気が付けば星々を浮かび上がらせる漆黒色に染まっていたという事くらいだ。それ程までに集中し、しのぎを削り合う闘いをしていたのだ。途中からは一度趣向を変え、制作会社が同じのレースゲームにチェンジした。
「……流石にこれ以上は時間がまずいわね。私は先に帰るわ。陽月は……って聞こえてないかな?」
「そうだね、凛ちゃんも陽月も集中しきってるみたい」
荷物の忘れ物が無いか辺りを見渡しながら、真姫はテレビ画面にくぎ付けの凛と陽月に一瞥をくれている。花陽も途中から二人の熱中っぷりについていけず、レースゲームにシフトした所で脱出していた。
「ってもうそろそろ九時じゃない……陽月は良いとして凛の家は大丈夫なの? 親御さんとか」
「うーん……多分今日帰ってこない日なんじゃないかなぁ。たまにおじさんたち帰ってこない日があるらしいから」
花陽自身、凛の両親とは面識があるもののそこまで詳しく事情は知らないのだ。時折、一日中帰ってこない日があり、その時はいつも花陽が凛の家に泊まっていたのでそれくらいのことは知っていた。
「そう……じゃあ私先に帰るわね。陽月と凛をよろしくね」
「う、うん……ちょっと自身無いけど頑張るね」
「にゃあぁぁぁ! バナナで滑るなんてぇぇ!」
「うぉぉぉ! ここでインド人を右に!」
「はぁ……確かに大変そうね」
「ははは……」
花陽はこの後気苦労が絶えない事をこの二人の様子からなんとなく察し、申し訳なく思う真姫であった。
そして真姫が帰ってから一時間後。
「はぁ……つっかれたぁ」
「久々にこんなに燃えたにゃー。ちょっと汗かいちゃった」
「凛ちゃん、陽月くん。お茶とタオルだよ」
「おっ、ありがと」
「ありがとにゃー」
すっかり時間も忘れきって遊びきった凛と俺。花陽はその間、ずっと座っていたがちょうど俺たちがゲームを終えたタイミングでお茶とタオルを差し出してくれる。カラカラに乾いた喉に、冷たすぎず温すぎずといった適温のお茶が潤いを与えてくれる。そしてじっとりとしている体の汗を差し出されたタオルで拭きとる。まるで部活を終えた後のようである。していたのはゲームだが。
「っにしても……随分やってたな」
「だねー。もう疲れたにゃー」
壁にもたれかかかりながら、何気なく対面に掛けられている時計に目をやる。気が付かなかったが時刻は十時を指しており、もう既に家は鍵もチェーンもかけられているかもしれない。
「……ん?」
十時……十時……。そういえばどうでもいいが、ウチの親は基本的に帰りが早い。時折遅くなる時もあるが、それでも十時には必ず帰宅している。そして、帰宅と同時に家の鍵と、チェーンをかけるのがウチのルールでもある。更に言うと、親は速攻で寝る。そして一度寝れば地震でも来ない限り起きないという、まるで漫画の様な眠りの深さなのだ。
「……携帯! 携帯に連絡は!」
「ど、どうしたの? 急に慌てて」
花陽が心配そうにこちらを覗き込んでくるが、返事をするだけの余裕はなく素早くポケットに入っている携帯を取り出し、メールが来ていないか確認をする。
母『帰ってきていませんがお泊りか何かですか? 連絡は早めにしておいてよ! じゃあ、おやすみなさい』
この文から察するに既に親は床に着いており、更に言えば泊りと勘違いしているようなので鍵はおろかチェーンまでされている可能性はほぼ100%であろう。
「な、なんてこったい……」
「どうかしたの?」
「ふっ……今日は野宿だ!」
「え、えぇぇぇ?! どうしちゃったの!?」
「ふ、ふふふ……さて、どこかこの辺に高架下の様な場所は……うへへ、ホームレス学院生……一山あてれるぜ」
結論。家には帰れない。つまり、一夜をどこかで過ごす。要するに、野宿。もはや笑いしかこみあげてこない。連絡をしなかった自分にも過失はあるが、母さんも母さんで、せめてチェーンは勘弁してほしい。可愛い息子が外で野垂れ死にしてもいいのかよ。
「ね、ねぇ凛ちゃん……陽月くんが壊れちゃった……」
「そ、そうだね……って陽月くん、今日家に帰れないっていったにゃ?」
「あぁ……願わくば補導されない事を祈るぜ」
「なんでもう諦めムードなの? 別に凛の家に泊まっていけばいいのに」
「……え?」
「だからぁ……他に入れる所ないからここで一緒に寝てもらうけど、それでもいいなら泊まっていったらいいにゃ」
そういえばすっかり失念していたが、よく考えれば凛に頭を下げて泊まらせてもらうという手段があったではないか。我ながら動揺しすぎである。
「でもよ、親御さんとか許してくれるのか?」
「大丈夫、今日から二日間は二人とも揃って出張にゃ」
「なん……だと……」
これは、甘えてもいいのだろうか。野宿をすることによるデメリットを考えれば、凛の家に泊まらせてもらうのはメリットしかないではないか。いや、女の子の家に泊まるという少しアレな所もあるが、それは致し方ないとしてこればっかりは天秤にかける程の事でもないだろう。だが、何故かあまり良いといえる心持ではない。
「不束者ですが、よろしくお願いします」
深々と頭を下げ、膝と手は地面に。久しぶりにやった気がする土下座をした。
「じゃあ布団とか用意するにゃ。そこのクローゼットに小さいかもだけど布団用意が一式あると思うから出してくれる?」
凛は壁と一体になっているクローゼットを指さし、俺に布団を出すように指示をする。
「じゃあ夜も遅いし、ご飯もってくるにゃ」
そして指示を出した後、部屋を出て階段を降りる足音を立てて下の階へ向かった。取り残された俺は布団を出そうとクローゼットを開け、中を探しながら花陽に話しかける。
「なぁ……本当にいいんだろうか。泊めてもらったりして」
「……いいんじゃないかな? 花陽も何度か泊めてもらってるし」
どこからか来ているきっと自意識過剰なだけだが、罪悪感の様な居心地の悪さを感じながら見つけ出した布団を引っ張り出す。お泊り、かぁ。何時ぶり……もしかしたら初めて――なのだろうか。イマイチ誰かの家に泊まったことを思い出せず、胸に何か引っかかっているような感じがする。まぁ、きっと大丈夫だろう。この不快感にちかい疑問のような心の動きはきっと、女の子の家に泊まることによる緊張からだろうから。
無理矢理自分を納得させた陽月の後ろにある、窓ガラス越しの夜空は既に深まっていた夜の闇が更に深くなっていた。
相変わらず怠惰な日常を送る陽月さん。