Another School idols diary 作:藤原久四郎
いつまでペースが続くかわかりませんが続々書いていきます。
編入初日と新品の靴
意識が海の底から引き上げられる。フワフワとした半無重力が終わりを告げ、体が目覚める。
「ん……朝か」
眠りで寝ぼけた意識を少しづつ覚醒させ、固まった体も少しづつ力を入れて柔らかくする。 今日はとうとう音ノ木坂に初登校の日だ。その為時計はいつも起きるときより三十分早くセットしておいた。体に被さっている布団を乱雑にどけベッドから降り、床に足を付ける。フローリングの床が朝故に冷たく、一瞬で寝ぼけていた意識を覚醒させる。
「とりあえず飯食うか」
自分の部屋から出て下の居間へ向かう。居間の扉を開けると朝食の臭いが鼻孔をくすぐる。
「おぉ、起きたか陽。飯はもうできてるぞ」
新聞紙を片手にコーヒーを飲んでいる俺の親父、泰原総司。会社への出社用のスーツ姿で、髪の毛はポマードで固めたオールバックだ。これで顔がいかつかったらただの危ない人だ。だがそんなことはなく幸いなことに顔は穏やかな雰囲気で、性格も温厚だ。
「陽くんも早くご飯食べちゃってね、洗い物しておきたいから。」
キッチンの方からエプロン姿の母、泰原美佐江の催促がかかった。母は結婚したての頃は専業主婦だったらしいが、俺が生まれてからはバリバリはたらくようになったらしい。現在は一企業でパートとして働いている。母の催促を受けながら俺は席に付き、テーブルに置かれている朝食に手を付ける。こんがり焼き目のついたトースターに、深めの皿に盛りつけられた色とりどりの野菜。あとは目玉焼きにソーセージ、スクランブルエッグが大皿に用意されていた。
「陽、今日から学校だが準備は大丈夫か?」
「もちろん、強いて言うなら心の準備がまだだね」
「そうかそうか、お前がそういうなら大丈夫だろう」
朝の軽い会話を済ませた親父が先に席を立ち、会社へと向かう用意の確認を始めた。
「陽くん弁当はそこに置いてあるから持って行ってね?」
キッチンにいた母が机の片隅を指さした先に弁当箱とお茶の入ったペットボトルが置いてある。
「ありがと母さん、ご馳走様」
今日は転校初日なので先に職員室によらなければいけないので素早く食事を済ませた。キッチンの母に食器を渡し、代わりに机に置かれた弁当箱を片手に、今から家を出る親父に行ってらっしゃいとだけ告げ、自分の部屋へ行く。既に用意してある授業の用意が入った鞄に弁当箱とお茶のペットボトルを詰め、鞄を背負って再び下の階へ行く。
「母さん、いってきまーす」
リビングで会社に行く用意をしている母へ玄関から大きめの声で出発を伝える。
「はーい、気を付けてねー」
母からの返事を確認してから玄関の扉を開け、外に出る。 天気は快晴、今日もいい天気だ。時刻は七時、学院に行くのは七時半なので丁度いい時間だ。
「よっしゃ、頑張ろう」
体に気合をみなぎらせ、学院へ足を進めた。
「にしても緊張するな」
いくら覚悟しても編入、しかも女子しかいない学院へ行くのだ。緊張するなという方が無理がある。
「神社よるか……」
俺はどうやらヘタレのようだった。 幸い神社へは学院への道と同じなので無駄な時間を使うことはない。丁度石段が見えたあたりで神社の方から複数の靴の音と声が聞こえてきた。
「朝早くからなんだ?」
何故か物陰に隠れつつ、石段の方の様子を伺う。こっそりと息を潜めて眺めてみると、丁度二人の女性が石段を駆け上がっている最中だった。よく見ると石段の上にはもう一人いる。ん?あのサイドテールの……
「穂乃果さん?」
誰にも聞こえない掠れた声で呟く。何か部活に所属しているんだろうか。それにしては人も少ないし、何より部活なら学院を使うはずだ?
「なんでか知りたい?」
「うおおっ!?」
唐突に後ろから声が聞こえたので大きな声を上げてずっこけた。
「ちょっと希さん脅かさないでくださいよ!」
「うふふ、ごめんごめん。つい脅かしたくなっちゃった」
「本気でびっくりしましたよ……」
希さんはテヘッと言いながら舌をペロッとだして、小悪魔のような表情を浮かべている。いつか絶対仕返ししてやらねば……。どうやら俺は懐も気も小さいようだった。
「緊張はとれたけどなんか疲れた……」
あの後は結局神社に寄るのも憚られたので希さんに学院に行く旨を伝え、すぐに神社を後にした。
「まぁ時間も丁度いいだろう」
腕時計は時刻七時二十分を指しており、丁度学院前の校門に付いたところだ。昇降口で靴を学院内専用の靴に履き替え、それから予め理事長に聞いておいた職員室へ向かう。場所は理事長室へ向かう逆側だ。職員室、とかかれたプレートを確認してから中へ入る。中には一人の先生しかおらず、丁度目的の先生もその一人だった。
「おう、泰原だったか。こっちへ来い」
通りの良い声で女性教師がこちらへ手招きする。
「私の名前は安田だ。好きに呼んでくれ」
安田、と名乗った女性教師はどうやら竹を割ったような性格なようだ。
「じゃあ安田先生で。よろしくお願いします」
丁寧にお辞儀をしておく。やはり第一印象が重要だからな。
「じゃあ泰原、もう少ししたら私と教室へ行くぞ。出だしですべるなよ?」
軽く笑われながら冗談交じりに言われる。
「大丈夫ですよ。いや、もしかしてフリですか?」
「初対面の相手に冗談言えるようなら問題ないか! 存外キモの大きい奴だ」
ごめんさい今朝ヘタレたばかりです。
「おっと時間もそんな余裕なかったわ。いくぞ」
そういって腰かけていた業務椅子から立ち上がり真っ直ぐ廊下へ出ていった。早足気味の安田先生に置いていかれないようにしっかりついていく。一年生の教室は職員室から一番近い階段を上がってすぐにあり、どうやら一年のクラスはここしかないようだ。
「じゃあ心の準備はいいか泰原、女の子ばかりだから緊張するなよ?」
また忠告めいた事を言われてしまった。ここはビシッと決めてやるか!安田先生が先にドアを引き、皆に俺の編入を伝える。程なくして安田先生からお呼びがかかる。
「おい泰原、入ってこい」
深呼吸、よし大丈夫だ!ドアに手をかけ、教室に入る。丁度一歩目を踏み出した時だった。
今はいている靴、即ち新品の靴は今後成長することを踏まえて少し大きめのを履いていた。
つまりブカブカといっても過言ではない。
それが脱げた。突然の事で考える間もなく脱げた靴で足を滑らせこけた。
見事に顔面から床へ一直線。
編入初日は、さっきのフリが現実になる最悪のスタートだった。
どうにも陽月くんはネタに走りがちですねぇ……