Another School idols diary   作:藤原久四郎

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凛ちゃん可愛い。

色々な物(煩悩)と戦いながら書いていた為に、文が不安定なヵ所が見受けられるかも……遠慮なくご指摘いただけると幸いです。


幸せのシグナル

 陽月くんがお家に泊まる。文字だけなら、さっき会話した時はなんとも思わなかった。でも、いざこうして考えてみると……と、二人が待っている部屋に夜食、カップラーメンと諸々の用意をしながら考えていた。現在はお湯が沸くのを待っている最中である。温まってきているお湯よりも、自分の頬が熱くなってきている事を理解しているが為に、頬の熱をこれでもかと高めていく。

 

「は、恥ずかしい……」

 

 仮にも女の子がいきなりお家に男の子泊める!? それいったらお家に呼んでる時点でもちょっとアレな気がするけど……で、でも言っちゃったからには取り返しが付かないし……どうしよう、もしも陽月くんがアレがアレしてアレしてきたりしたら……。

 

『凛……俺もう……』

『え、でも……心の準備が……』

『無理だよ……我慢できない……』

『駄目だって言ってるのにぃ……』

 

 ボン! お湯が沸騰した音ではないが、凛の脳内ではそんな音が妄想を振り払うために緊急的に鳴らしていた。勿論、凛に妄想癖があるとかそういうわけじゃなくて、年相応の想像力の豊かさであると無理矢理自分を納得させた。前々から陽月くんの事で悩んでるといつもこうだ。気を付けないと、本人を目の前にしても妄想が漏れてしまうかもしれない。

 そうこう悩んでいる間にも着実にお湯は吹きこぼれていたが、それらを気にする余裕は妄想モードに入っている凛には些末な事に過ぎなかった。

 

「余計に時間かかっちゃったにゃ……」

 

 お湯が吹きこぼれていたのに気が付けなかったため、再び水を少し足しついでから温めなおしていたので、時間が余計にかかってしまった。あまり二人を待たせるのもよくないと思った凛はお盆に乗せられているカップラーメンを零さない様に早足で階段を上っていく。

 

「手、――いいかな?」

「え、っと……もう――」

 

「……?」

 

 と、丁度凛の部屋に差し掛かったあたりで、二人の喋り声らしきものが聞こえてきた。途中途中聞こえない箇所があったが、手がどうとか聞こえたような……。気になってお盆を器用に支えながら耳を扉に当て、中の様子を伺う。何故自分でもこんな不可解な行動を取ったかは不明であるが、心臓が痛い程高鳴っている事だけは研ぎ澄まされた神経の中で気が付いていた。

 

「あ、あの……陽月くん」

「ははははっははははははっははい!」

 

 今度ははっきり聞こえたが、何やら二人は凛に事情がよくわからない事を言っている様だ。話の内容がさっぱりわからないし、見当もつかない。だが、花陽と陽月の真面目な様子の声音から、ただならぬ雰囲気と真剣さを感じ取ることができた。

 

 わからないけどなんだろう、胸が痛いよ――。

 

「一つだけ……聞きたいんだけど……」

 

 その花陽の真剣そのものの声が引き金になって、張りつめていた緊張感を解き放つように、凛は焦り半分に扉を開けていた。二人のお話の邪魔をしてしまったことはわかっている。でも、胸の中で何かが瞬いてたの、教えてくれたの。小さな、小さなシグナルが。

 

 かよちんに、それを言わせちゃいけないって。

 

「たっだいまーなのにゃー。って陽月くん何してるにゃ?」

 

 自分でも不思議なくらい、その言葉はスッと出てきた。一緒に考えていた事や、疑念や、申し訳なさとかも全部出ていっちゃったけど。結局、なんだったんだろう。

 

「お、お、俺は別になにもしてねぇ! 俺は悪くねぇ!」

 

 そうだよ、陽月くんは悪くないよね。

 

「どうしたのにゃそんな慌てて。別にやましいことがないなら焦る必要ないよね?」

 

 違う、焦ってるのは、私だ。

 

「うっ……それは……」

「仮に、仮に、仮に、だよ? かよちんに手出したら、ね?」

 

 違う、逆だよ……。嫌だよ、心がささくれて、話す言葉が一つ一つ胸に引っかかって痛みを訴える。いつからだろう、こんなにも目の前の彼が気になっていたの。初めて会った時? 友達になった時? 背中を押してもらった時? 

 

『いや、凛は可愛いぞ、女の子らしい』

 

 そっか。その時だ。先輩達のライブを見て、凛もあんな風になりたいって思った。キラキラして、カッコよくて、可愛くて。きっとその時だ。

 

 多分初めてだった。誰かに、男の子に、可愛いって言われたこと。

 

 

 

 ずっとからかわれてきたから。最初は小学生の時、一度勇気を出してスカートを履いてみた。その時はかよちんには可愛い、似合うって言われて、ちょっぴり嬉しかった。今までズボンを履いて、男の子みたいな恰好、行動をしてたから。

 

『あー! 男女がスカート履いてる!』

『うわー! 変なのー!』

 

 幼心ながら傷ついたし、その後すぐにお家に帰って着替えてくるぐらいショックだった。そしてわかったことは、凛には女の子らしい事は似合わないって事。

 

 それから音ノ木坂に来るまでは私服で、スカートとかフリフリした物は一切着ない様にしてきた。音ノ木坂には男子がいないから、それまでは少なくともって。

 

『え、えーっとこの度この音ノ木坂に入学の運びとなりました――』

『いきなり固ったいねぇ……もっとシンプルにな? それともさっきのずってんころりん引きずってんのか?』

『人が忘れようとしてるのにうるさいですよ! あ、えーっと……泰原、泰原陽月です。不慣れな所もありますが、よろしくお願いします』

『ま、お前にここの女連中口説くだけの器量はなさそうだな。安心したぞ』

『……どーせ経験値0のチェリーボーイですよー……はぁ……この辺に無人で絶対ばれない廃屋ねぇかな』

 

 正直、驚いた。まさか共学化になるとは聞いていても、こんなにすぐ人が入ってくるなんて、って。ずっと避けて避けて、やっと男子の居ない音ノ木坂に来たのに……。

 

『おい、星空。すまないが、泰原を案内してやってくれないか?』

『え……えーっ! な、なんで凛が!?』

『純粋に仲良くできそうだから』

『酷くアバウトですね……』

『ま、気が向いた時でいいから』

『は、はい……』

 

 最悪だ。別にあの……泰原君が嫌なわけじゃないけど……男の子と話すのも久しぶりだし、今スカートだし……馬鹿にされないといいんだけど。

 

『いきなり大声あげたらびっくりするじゃないか。もっとお淑やかにいけんのかね』

 

 それが、彼の第一声だった。

 

『よろしく、じゃあ凛って呼ぶわ』

 

 いきなり下の名前で呼ばれることになって。

 

『是非、私と友達になってください!』

 

 連れてきたかよちんには、凛の時とは違った緊張をしていきなり土下座をしたり。

 

 正直、変な人って感じだった。

 

 

『だから、俺はもっと凛の可愛い衣装着た姿も見てみたいと思うぞ』

 

 それなのに、こんな事言うから。ずっと男の子は、凛の事なんて女の子として見てないんだって思ってた。それだからスパっと諦めて、髪もずっと短いまま、男の子らしい振る舞いをしていた。それなのに、凛が女の子らしいって、可愛いって、そんな勘違いさせる台詞を臆面もなく言うもんだから……少しだけ、夢を見ちゃったんだよ? 陽月くんのせいで……。

 

 

 

「凛ちゃん? 大丈夫?」

「え……」

 

 自分でも気が付かない内にボーっとしていたようだ。理由は簡単、さっきまでの考え事のせいだ。そういえば、さっき陽月くんが食器とかの片付けに下の階に行ったんだったっけ。

 

「ご、ごめんにゃー。ちょっと気が抜けてたよ」

「そう? ならいいんだけど」

「それより、一つ聞いてもいいかな」

 

 何聞こうとしてるの?

 

「さっきさ、陽月くんと……やけに近かったけど」

 

 聞いてどうするの?

 

「しかも、重要そうな雰囲気だったけど――」

 

 どうしよもないのに、知っても。

 

「……凛ちゃん。もしかして、陽月くんの事気になってる?」

「え……?」

 

 凛の言葉を遮ってかよちんの口から出たのは、質問に対する答え……ではなく、逆に凛に対する質問だった。それも、とびっきり曖昧な。

 

「陽月くんの事? なんで?」

「いいから、答えて?」

 

 かよちんは普段のおっとりした声とは打って変わって、こんな声もでるのかと逆に驚きが感じられるほどに、暗く冷たいと感じる声を出していた。そして強い意志をたたえるその瞳に圧倒され、少し口ごもってしまう。確かに陽月くんに関する事だけど、それもなんで気になるだなんて。凛、そんな素振り一度も見せてないはずなのに。

 

「べ、別に……凛は……」

「そうなの? ちょっと気になっただけだから気にしないで欲しいな。ごめんね? 凛ちゃん」

「う、うん……」

 

 雰囲気に圧倒され、とてもじゃないけどもう一度質問をし返すことが出来なかった。かよちんがこんなに真剣……というより、逆に何も感じられないトーンの声で話すのは初めて聞いた。どういう事なんだろう……。

 

 結局、ほんの一瞬の雰囲気の違いのどうしても必要以上に遠慮して、その後は少しギクシャクしてしまった。

 

 

 そのギクシャクした雰囲気を引きずったまま、陽月くんだけを部屋に残して凛とかよちんはお風呂に行くことになった。お風呂場まで行く間、凛もかよちんも率先して口を開くことはなくて、結局無言のままお風呂場までついてしまう。

 そしてお風呂に入るのだから、当たり前だけど服を脱いでいく。来ていた服を一枚、また一枚と脱いでいき一糸まとわぬ姿に。昔からこうやってかよちんとはお風呂に入っているけど、年々時が経てば経つほどに残酷なほど差が開いていくのだ。……どことは言わないよ?

 

「……どうしたの? 凛ちゃん」

「へ? ど、どうもしてないにゃー?」

「な、なんで疑問形? あんまり見られると……流石に恥ずかしいかな……」

「ご、ごめんにゃ……」

 

 自分でも意識せずに……いや、してはいたがかよちんにもわかるくらいジロジロと見てしまっていたようだ。……どことは言わないけど。

 

「ふぅ……温かいねぇ……」

「そうだね……」

 

 少し大きめの湯船には、私たち二人が入ってももう一人くらいなら入れるくらいの余裕がある。もしも真姫ちゃんがいたなら、一緒に入ってたのかなーって先に帰ってしまった真姫ちゃんの事を考えながらそう思った。そういえば、真姫ちゃんと仲良くなれたのは、陽月くんと仲良くなった時期と同じくらいなんだよね。それからμ’sに入って……そう考えると、色々あったんだなぁ。その影にはいっつも、この状況を作っている元凶の彼がいたんだ。……疫病神が何かなのだろうか? でもこの場合、いい事を連れてきてくれてるから違うのかな。

 

「ねぇ、凛ちゃん?」

「ん……何か用かにゃ?」

 

 温かいお湯を身体に染みわたらせながら、物思いにふけっているとかよちんが一際改まって口を開いた。

 

「……凛ちゃんって、陽月くんの事……好きなの?」

「……え?」

「だから、好きなの?」

「……うん?」

「あの、凄い変顔……って言ってもいいような顔してるけど大丈夫?」

「それは大丈夫。というよりそんな顔してないよ!」

 

 それはある意味予測できた質問である。凛がした質問の意趣返し……ではなく、さっきからあからさまに気取られかねない態度を取っているというのもあるし、一番の理由としては、幼馴染の感のせいか隠し事が二人とも中々できないのが本当のところだ。

 

「いや、その……前々からそう思ってたし……それに家に泊める事だって、信用してるって事だろうから……」

「いやいや……それとこれとは関係が無――」

「はぐらかさないで、答えてほしいかな……」

 

 まただ。何も読み取れない、何も感じ取れない無味無臭、無感動無抑揚の声。もはや別人がかよちんの体を使って喋ってるんじゃないかって錯覚するほどの、普段からは考えられない声。

 

「正直に言って好きって……よくわからない、けど……好きか嫌いかで言えば……す、好きなんじゃないかにゃ……?」

 

 自分の中では最大限に譲歩した答え。だってわかんないんだもん……今まで、男の子に好きだとか嫌いだとか……そんな女の子らしい事は意識したこともされたこともなかったから……。初めてなんだもん、こんなに男の子の事で悩むの……。

 

「そう……凛ちゃんもやっとそういう事に興味持ったんだね」

「やっとって……確かにそうだけど……って、別に好きってそういう好きじゃないよ!」

 

 かよちんは、質問が終わると同時にいつもどおりの……おっとりとした、凛の大好きなかよちんに戻っていた。それと同時に、からかわれた。別に凛だって興味ないわけじゃないもん! って言いそうになるけど、それこそいじられるネタになるので口に封をして言わないようにしてしまう。

 

「……私はずっと――」

「ん? 何か言ったかにゃ?」

「うんん、別に何も言ってないよ? それより、久しぶりだから体洗いっこしよ?」

「それいいにゃー。最近は忙しくて一緒にお泊りもしてなかったからねー」

 

 凛とかよちんは顔を見合わせながら笑顔になる。いつも通りの二人だ。どこも違和感はない。感じているのはほんの気のせい。ただただ、違和感はいつもは家にいないはずの彼が原因だって、そう信じる事にしよう。……でもそれだと、必要以上に意識してるってことだよね……? んんんん……考えない様にしよう。またかよちんの前で取り乱しちゃうかもしれないから。

 

 二人で体を洗いあって、いつも通り、のぼせやすい凛が先にお風呂を上がって。かよちんはもう少しってお風呂に長くつかる。いつも通りのお泊りの光景だ。階段を上って、自分の部屋に入るまでは。

 

「……んん……ふっ……」

「ありゃ、陽月くん寝てるにゃ」

 

 一番の非日常の光景である、自分の部屋の中にいる彼――お風呂にも入らないまま、よっぽど疲れているのか扉の開く音にも、凛の漏らした声にも反応が無く、すっかり寝てしまっている様だ。

 そんな彼の寝顔をまじまじと見ながら、またしても心がざわつくのを感じる。それは小さな、小さなシグナル。それが何かはわからないけど、かよちんと話したお蔭で、少しだけわかった……そんな気がするシグナル。

 

「小さな……シグナル?」

 

 でもやっぱりわからない、この気持ち。顔を見てると、いつもよりドキドキして。喋ってると、いつもよりもウキウキして。一緒にいると、いつもより――考えている内に、体が動いていた。彼の寝ている横、布団の中に侵入していた。

 

「少しだけ……だから……」

 

 普段なら、考えた段階で駄目だって理性が働いていたはず。それでも、その時だけはその例には当てはまらなかった。何故なら知りたかったから。この気持ちの源泉が、理由が、思いが知りたくて。ちょっぴり大胆に、体を動かしているのだ。

 布団に入ると、彼の熱と匂いが迎え入れてくれた。落ち着くとも、ドキドキするとも違う、自分の知らない正体不明の気持ちが全身を包み、少しだけって思ったのに徐々に眠くなってきてしまう。

 ぼやける意識の中で、わかったことは……少なからず、横で眠る彼に、ちょっぴりの好意を抱いているという事だけ。それが男女間でのものだとか、友情だとかのものかを考えるだけの意識は既になく、穏やかな心境で、凛は眠りについた。この気持ちの正体を知るのは――まだ先の話。

 

 

 

 彼女は、すっかり暗くなっていた部屋に遅くなったものの戻ってきた。目の前には馴染み深い親友と、とある同じクラスの男の子が一緒に寝ていた。普通ならば狼狽え、注意の一つや二つするだろう。付き合ってもない……いや、真面目な物なら不純異性交遊だと堅苦しい言葉で。それをしないのは、彼女にしかわからない。

 

 暗い室内で、月が彼女の顔を照らした時に映ったのは、笑みだった。

 

 「好きだよ……」

 

 その笑みと言葉が何に対してなのかは、同じく彼女にしかわからない。喜びなのか、それとも別の物なのかはわからない。言葉も、同じように。彼女は二人に混じるように、親友と同じく彼の寝ている布団に入り、満足そうに眠りについた。

 




過去投稿したものの、文の訂正や今の書き方に合わせて訂正を徐々に進めていますが、思ったより大変……早めにやっておくべきだったと激しく後悔しております。

受験近いです。いやぁ緊張しますね。終わったら心置きなく、ガンガン書きたいです。

誤字脱字、お指摘等々お待ちしておりまする。
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