Another School idols diary   作:藤原久四郎

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どうもこんばんは、深夜投稿しかできない筆者です。

やっと、シナリオが進んでいきそうです(白目


真実と偽り

 既に二つの取り返しのつかない勘違いが起こる中、彼はそんな事は知らぬ存ぜぬといった様子の軽い足取りで生徒会室へ向かっていた。穂乃果さんと海未さんと別れた後、階段をもう一階分上るとすぐさま生徒会室と書かれたプレートが見受けられた。過去片手で数えられる程度来た事のある、生徒会長の絢瀬絵里さんと副会長の東條希さんの根城でもある場所だ。

 

「……今更だけど、ここってわざわざ掃除する必要あるのか?」

 

 それもその筈、あの完璧さを誇る二人の管理する教室なのだ。まだそれ程深い仲どころか、知り合いの域すらでない俺でもその完璧さは雰囲気などから察することができる。それに以前来た時は記憶通りなら、塵一つないレベルの清潔さだったのだ。個人の主観の話だが、それでも確実に綺麗だったことは思い出せる。

 

「帰ろうかなぁ……怠いし――!?」

 

 あまりの適当さを誇る言葉を漏らした途端、名状しがたく例えようもない不快なプレッシャーが俺の身を襲った。思わず開いていた口を閉ざし、辺りをせわしなく見渡すがそこら一帯は相も変らぬ音ノ木坂である。いつの間にか知っていはいけない事を知っただとか、異世界に紛れ込んだだとか、窓によくわからない魚人の様な何かが見えたわけでもなかった。ある意味一安心だが、何故か清掃を続けねばという強迫観念に似た気持ちが湧いてきていた。

 

「仕方ないな……失礼しまーっす」

「あ、え?! 今ダメー……って――きゃっ!?」

 

 何の気構えなしに入った俺は、その光景に呆気にとられてしまった。それも仕方のない事だろう。何故なら記憶に沿っている筈の整頓された清潔な生徒会室は、その面影も残さない程に……紙や何やらで汚れきっていたのだから。

 と、状況把握が済んだ所で、先程の凛としていながら甲高い声の正体が何かを把握する事にした。狭い教室内ではそれ程探すことなく、俺はその原因を見つけ出すことができた。

 そこにはブレザーを着用せず、その下に来ているカッターシャツ姿の生徒会長……絢瀬絵里さんが、こちらに体を投げ出す感じで横たわっていたのだ。

 

「痛っ……もう、汚れる一方じゃない……」

「あ、あの……大丈夫ですが?」

 

 状況を理解したところでその根本の原因がわからないので当たり障りなく、倒れている絢瀬会長に手を差し伸べる。にしてもこの状況は……絢瀬会長が作ったのか?

 

「あ、ごめんね……ありがとう」

「怪我とかしてませんか? 大丈夫です?」

「えぇ……怪我はないけど服ちょっと擦っちゃったかも」

 

 そう言いながら絢瀬会長は男の俺の目の前にも関わらず、擦った部分であろう胸の辺りの服をパッパと手で払っていた。勿論そのリズミカルな手の動きと共に、制服の上からでもわかる豊満なソレが規則正しく揺れている。……あまり見ると色々とよくないな。視線を名残惜しいが引き剥がす。

 

「いきなり見苦しい所を見せたわね。それで、今日は何の用かしら?」

「そうですね……実際用は無かった用なものですけど、たった今できるくらいには状況の説明が先に欲しいですね」

 

 元々清掃目的で来たのであるから、ある意味清掃対象があるのは喜ぶべきなのか……ってそんなわけないな。過程と目的がすり替わってしまうではないか。

 

「……長くなりそうだから掻い摘むけどいいかしら」

「えぇ、何にしろ聞けるなら」

「そうねぇ……今日は天気も良くて、風も心地いいわね」

 

 憂いを帯びた視線の泳ぐ先には、ほぼ全開の窓。そこから除く空模様は、ドの付くほどの快晴だ。

 

「それでいつも通り作業をしてたのよ。そしたら一際強い風が舞い込んできてね……」

「あっ……」

 

 つまりはこうだ。

 

 会長「書類整理、楽しいです」

 

 風「お邪魔しますよ~」

 

 書類「あっあっ」

 

「えぇ、そんな感じよ」

 

 何故だろう、絢瀬会長が心なしか投げやりになっているように感じる。それに今の彼女は普段のイメージである完全無欠の生徒会長から、ただの一般人……それもちょっと間の抜けた年頃の女の子の様だ。……一部女の子と呼ぶには自己主張の強い、腰より上の部位があるが。

 

「災難でしたね……じゃあ片付け手伝いますよ」

「そんな悪いわよ。貴方の用事だって」

「だから言ったじゃないですか。用事はたった今できたって」

 

 俺は絢瀬会長の次の言葉を待つことなく、床に散らばっている書類の整理を始める。

 

「貴方芯が強いのね。お願いするわ、一緒に整理を手伝ってくれる?」

「えぇ、喜んで」

 

 絢瀬会長も俺の言葉を聞くと、同じように床に腰を下ろして散らばった書類を回収し始める。

 

「あの、並び方とかってありますか?」

「んーそうね……とりあえずまとめてくれれば大丈夫よ。後は貴方が帰った後にやるから……それに、もう確認は全て済んでるから」

「そんな今更遠慮しなくてもいいですよ。もう絢瀬会長のおっちょこちょいな所見ちゃったんですし」

「それは少し聞き捨てならないわね。でも、私は『会長』だから大丈夫よ」

「……絢瀬会長、俺なんかよりずっと芯が強いですね」

「えぇ、当たり前じゃないなんたって――」

「流石、生徒会長です」

「先読みだなんて……いい趣味してるわね」

「最近読んだ漫画の影響ですけどね」

 

 雑談もそれなりにし、急いで床に依然として散らばる書類をまとめる事にしよう。でないと、絢瀬会長の帰宅時刻が普段よりも遅くなってしまうのだから。

 

「にしても、一人でやるには……っと、多いですね。この量は」

「そうかしら? あら、この隙間は取りづらいわね……んしょっ」

 

 散らばった書類群を拾う事数分。細かい隙間に挟まっているものや見づらい所もチェックしていき、あらかた回収しきったのではないかという所まで終わった。

 そして時折、目の前の絢瀬会長が俺がいるのを忘れているのではないか? と思うぐらいに目のやり場に困る行動をするものだから、色々と大変であったのだ。現に今も棚と棚の間の狭い隙間に必死そうに手を入れている絢瀬会長の姿が見受けられる。顔は必死そうな表情で頬を少し紅潮させ、手を深く隙間にいれているせいで胸の辺りが強調されるように棚に押し付けられている。

 

「……やべぇな」

「え? んん~っ! 取れないわぁ……」

「あ、あぁ……棚、動かしますよ」

 

 と、呆気に――ではなく放心していた所、絢瀬会長が困っているようだったので手伝う事にする。これが最後の一枚だろうか、棚を床に擦らないように軽く持ち上げてずらして取ってもらう。

 

「ん、ありがとね。これで最後だと思うわ」

「えぇ、ありがとうございました」

「……? ふふっ、お礼を言うのはこっちなのよ?」

「いやいや、こちらもお礼を言わないと」

 

 主に眼福的な意味で。

 

「後は私もキチンと確認しておくから……ありがとうね、今日は」

「いえいえ、俺だって実際暇だったので。ある意味丁度良かったです」

「少し申し訳ない事をしたかしら? 折角のお暇を奪ってしまって」

「とんでもない、暇は潰すためにあるんですから」

「そうかしら。折角だから何かお礼でも――」

「もう十分もらいましたし、これもボランティアみたいなものなのでいいですよ」

「だから、何も上げてないわよ?」

 

 フフッ、と笑みを零す絢瀬会長。その笑顔は、労力にある意味見合わないくらいの、ご褒美であった。よし、今日はもう帰ろう。まだ絢瀬会長も作業があることだし。これ以上は手伝わせてもらえる雰囲気でもないからな。

 

「にしても屈んでたからかしら、体が固まってるわ」

「俺はちょっと立ちくらみが……貧血気味かもしれねぇなこれ」

 

 んんー、と体を軽く捻ったりして、固まったらしい体をほぐす絢瀬会長。目の前で揺れる二つの大きな果実が揺れる光景は相変わらずで、俺のした働き以上の対価として幸福を運んできてくれる。そして絢瀬会長は大きく背伸びしながら、身体を少し後ろに曲げた。と、大きな二つの膨らみが大きく自己主張したかと思った瞬間。

 

バツッ

 

「は……?」

「えっ?」

 

 俺と、絢瀬会長の共通の疑問がまず一つ。先程の何かが破けるような音の出どころだが、どうやら俺の視線の先……絢瀬会長の制服の胸の辺りだったらしい。

 そして、もう一つの疑問。では、何が起こったのか。それは、俺の目の前にすぐさま答えが踊っていた。いや、正確に言えば揺れていた。

 

「あっ、おっ――」

「い、いやぁぁぁぁ!?」

 

 目の前には何か、綺麗な、とても綺麗な布と肌色が見えた気がする。する、というのは記憶がとても曖昧で、随分と都合のいい事象が重なった結果の記憶の一部欠損のせいであるのだが……。

 

 眼前に、揺れていた塊より一回り小さい塊が、俺の目の前に飛来していた。

 

 

 

「んっ……?」

「あ、よかった。目が覚めた?」

 

 眠っていたのだろうか、目の前がぼけていて頭の中も靄がかかったようにハッキリしない。ハッキリしないのは前後の記憶も例外でなく、この状況がよくわからない。先程の声は、絢瀬会長の物だろう。そして横になっていると思われる俺の頭は、やけに柔らかい感触を感じながら眠っていたようだが……。

 

「んぁ……すみません、寝てました?」

 

 ぽいん

 

「きゃっ……」

「むぐっ……え、あ、はい?」

 

 な、なんだ今の幸せな反発は。柔らかくて弾力があって、起き上がろうとした俺の頭を優しく跳ね返して元の位置に戻したではないか。と、ここでようやく状況が読めてきた。

 目を見開き、周りを見渡す。天井が見えるべき視界には半分程が、やけに見慣れた青い布地でおおわれており、頭元にも同じく見慣れた青いチェックの布地が見受けられた。

 

 俺はどうやら、膝枕されていたようだ。……何故かはわからないが。

 

「うわぁぁぁぁ! す、すみません!」

 

 回転の要領で床の方へ身を投げだす。素直に起きると先程の、幸せな感触を再び味わう事になるのがわかっていたため、このような行動をとる。そしてそのまま流れるように額を床に一度叩きつける。所謂、土下座であるが、なぜ咄嗟に土下座したのかは……なれとしか言いようがない。

 

「ちょっと恥ずかしかったけど、大丈夫よ? ……さっきはもっと恥ずかしかったし」

「すみません、すみません! 許してくださいなんでもしますから!」

「だ、だから大丈夫よ? 落ち着いてくれないと、こっちまで落ち着けなくなってきちゃうわ」

「あ、あぁ……すみません」

 

 自分のしたことが情けない事を知り、制服を手で払いながら立ち上がる。どうやら生徒会室の隅の方にある、長い椅子に座っていたようだ。壁に掛けられた時計をチラリと見ると、時計の針は五時をさしており中々の時間が経過している事を、未だに動揺気味の俺に冷静に寸分の狂いなく教えてくれた。

 

「ん、もう遅いですね。すみません、そろそろ帰りますね。長居しすぎてご迷惑をおかけしたと思うので」

「いえ、こちらこそごめんなさいね……色々」

「なんで謝るんです? こっちが押し掛けたのに」

「……忘れてるみたいね」

「んん? 何か言いましたか?」

「い、いえ、なんでもないわ」

 

 キョトンとする俺と、何故か動揺気味の絢瀬会長。俺の微妙に飛んでいる記憶の正体でも知っているのだろうか? まぁ、忘れる程度の記憶って事だろうからわざわざ聞くまでもないだろう。

 

「じゃあ、今日はこれで。お疲れ様です、会長」

「え、えぇ。今日はありがとね」

「いえいえ……ん?」

 

 と、扉に向けて足を進めた所で、一枚の書類らしき紙が見受けられた。きっと死角になっていたのだろうと思い、片手でヒョイと拾い上げる。何の気なしにその書類の紙面を見ると

 

「μ's……使用申請書類?」

「あ……それは――」

 

 それは、別になんの問題もない、ただただ普通の申請書類だった。ただ、一点を除いて。

 

「会長、確かさっき全部確認は済んだ、って言ってましたよね」

 

 問い詰めるように自分でも思ったより低い、まるで責めているかの様な声がでた。それも、仕方のないことかもしれない。この原因は既につながっているのだから。

 

「えぇ、言ったわ」

 

 絢瀬会長も先程までとはうって変わり、完全無欠の生徒会長を思わせる、落ち着いていながら凛とした芯のある、はっきりとした意思を感じさせる声で返答する。きっと、俺の言いたいことがわかっているのだろう。

 

「なんで、『不許可』なんですか……?」

 

 許可、と書かれた場所には空欄があり、不可、と書かれた場所には会長印が押されていたのだ。書類に不備があるわけではないのに、だ。

 

「それは、学校運営日程のオープンキャンパスに重なっているからよ」

「それはおかしいでしょう。この使用申請書類は、その『オープンキャンパスに向けたもの』なんですから」

 

 それは、使用理由欄にしっかりと書かれていた。力強く、女の子らしい字で。

 

 学校存続のための活動です、と

 

「その時間は、別の事が行われる予定があるから」

「それだって、変だ。時間なんて多少ずらせば重ならない、何時間もその『別の事』があるなら別ですが」

 

 そうだ、オープンキャンパスを見に来てくれた入学希望者に見せる権利くらいあるはずだろう。十分……五分でだっていい。学校存続のために活動している、彼女らの真っ直ぐな姿を。それにきっと今日部室でおこなわれていた衣装作りは、オープンキャンパスに向けたものだろうから。報われないと、おかしいだろう。

 

「会長、一ついいですか」

「……いいわよ」

 

 鉄仮面の様に眉ひとつ動かない絢瀬会長の表情からは、今何を考えているのかはまるで読み取れないが、一つだけ言わなければ……聞かなければいけないことができてしまった。以前は聞けなかった、一つの簡単かつ複雑な疑問。

 

「なんで……そんなにμ'sの事を認めないんですか」

「……」

 

 以前から思っていた事だが、ようやく口に出す機会が巡ってきた。だっておかしいじゃないか。学校の……存続のために動いている皆を、なんで絢瀬会長は頑なに認めようとしないのだ。理由が見当たらない、意味が、意図がまるでわからない。学校のために、どうにかしようとしているだけじゃないか。努力を否定するだなんて、おかしいじゃないか。

 

「そうね……強いて言うなら、私は『生徒会長』だからよ」

「なんだよそれ……ッ」

「私は『生徒会長』だから、生徒が学院のマイナスに繋がる事をするのを止める義務があるの」

「……ッ! ……な、何がマイナスになるって、言うんですか?」

 

 湧き上がる感情のマグマを必死に押しとどめ、冷静を表に引きずり出して絢瀬会長の真意を読み取ろうとする。駄目だろう……あんなに頑張っている皆を……否定されるのは、させるのはそんなの……駄目に決まっているだろうが。

 

「もし、あの子達がしている事で失敗でもしたら、それこそ学院の評価はどうしようもなくなるのよ? 取り返しがつかなくなるレベルで、ね」

「そうならないためにッ……必死に毎日練習しているじゃないですか」

「そうね、『遊び』レベルの練習を、ね」

「……それは、訂正してください。じゃないと、そろそろ限界です」

「それはできないわ。私からしたら『遊び』にしか、見えないのよ……」

 

 何故かその言葉は、俺の怒りを増長させることはなく、むしろ冷静にさせた。一つだけ、違和感を感じたからだ。それもよくわからない、ひどく感覚的で不透明な違和感だ。だが、ひとたび落ち着いてしまえば、もう冷静なままの対応ができた。

 

「そう、ですか。でも、この書類だけは認められません。もう一度、考え直してもらえませんか……?」

 

目の前の絢瀬会長に、書類を差し出す。会長は一つ溜息をついてから、書類をうけとってくれた。

 

「……えぇ、わかったわ」

 

 手渡してから気が付いた。それは床から拾ったせいだろうか、それとも別の理由だろうか。

 

 その書類は、少しだけ……不自然に湿っていた。

 




ギャグからのシリアス。
深夜はやはり魔物が住みますね。

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