Another School idols diary   作:藤原久四郎

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結局三当分くらいになりました、長編です。
なんというか、場面わけして一度間を開けた方が、場面の転換の多さなどからもいいかな、と思いました。

それに長編だと、見づらいとも思いますしね。


思いの先

「…………では、今日の生徒会活動を終わります。陽月くん、今日で一週間目ですね。残りも是非ともお願いしますね」

「はぁ~っ……わかってますよぉ」

 

 

 井ノ原書記が今日の活動の終わりを告げる一言を発し、生徒会室はスイッチがオフになる様に全員の気の抜けた声が響き渡った。

 

「お疲れ様です。最近は慣れてきたので、あと一週間頑張ります。一応、絢瀬会長の代わりって事ですから」

「にしても会長、一度もこっちに顔ださないなんてよっぽどμ'sの指導を頑張っているのね。それとも、貴方が信頼されてるって事かしら?」

「そんなの前者に決まってますよ。俺なんて、よくてパシリです」

「貴女随分自分の評価が低いのね。もっと胸を張りなさいな。皆、貴方の事認めているんだから」

「ははは……買いかぶりすぎですよ」

 

 確かに最近は、押しつけ……と言うよりも頼みごとに近い感じで書類や依頼をされるようにはなっている。でもそれはただキッチリ仕事をこなしているからであって、誰にだってできる事の筈だ。それなのに褒められても、むずがゆいだけでむしろ恥ずかしくなってくる。

 

「まぁとにかく、いつでも生徒会は貴方を歓迎するわよ? 生徒数すくないから簡単に入れるし、むしろ部活感覚でどう?」

「勿論、遠慮させてもらいます」

「むぅ、ガードが堅いわね」

「鍛えられてますから」

 

 さて、今日はいつもより早く終わった。つまり日も暮れていないので、まだきっとμ'sも練習に励んでいる事だろう。かれこれ一週間、練習に顔を出せずにもいたし丁度いい機会なので行ってみよう。それに、絢瀬会長がどうやって指導しているのかも、もしかしたら昨日の疑問を解決するヒントになるかもしれないからな。

 

「じゃあ、俺先に帰るんで。あとよろしくお願いします」

「ん、お疲れ様だ。陽月くん」

 

 生徒会室を出た俺は、早速目的地であるμ'sの練習場所の屋上へと向かった。

 

 

 

 階段を上っていき、生徒会室からでて数分もしない内に、屋上へと続く扉を視界に収める。今は声もステップの音もしないので、きっと休憩中だろう。よし、久しぶりだしぶっ飛んだギャグでも披露しつつ入るか――

 

「……ッ!」

「うおっ?!」

 

 と、ネタを考えていた所で、突然扉が勢いよく開き、目の前を金髪……絢瀬会長だろう、勢いよく飛び出して来た。

 

「あ、れ? 絢瀬会長、練習は?」

 

 俺は俯いている絢瀬会長と、その奥の扉の先にいるμ'sのメンバーの不安そうな表情から、ただ事ではない事があったのかと考えながら、当たり障りのない問いかけを絵里さんにしていた。

 

「…………ごめんなさい」

「あ、ちょっと!」

 

 突然謝られたかと思えば、絢瀬会長はそのまま階段を素早く降りて、どこかへ行ってしまった。今、何か煌めいていた様な……。

 

「よ、陽月くん……」

「ほ、穂乃果さん?」

 

今から追いかけても追いつかないだろうし、とりあえず未だに心配そうなμ'sの皆に何があったか聞くのが賢明か。

 

「なにがあったんですか? 絢瀬会長、帰っちゃいましたけど。もう練習終わり……なわけないですよね」

「そ、それはね……」

 

 気まずそうな穂乃果さんに、俺は聞いてみるが、どうにも歯切れが悪い。言いづらい事なのか? もしかしてせ――って何考えた俺。

 

「はぁ……いいわよ穂乃果。私が説明するわ」

「に、にこ先輩」

「……? 矢澤先輩、何があったんですか」

「そうね……」

 

 矢澤先輩も、歯切れが悪そうだったが、少しづつ噛み砕きながら話し出した。

 

 

 

「今日で……一週間」

 

 おかしい……練習はいつもμ'sがしている倍以上に厳しくもした。それに妥協もしなかった。それでも、彼女たちは諦めず根を上げず、ずっとついてきた。こんな筈じゃなかったのに……私が厳しくしたのは、彼女らが根をあげてやっぱりいいです、っていう言葉を待っているからだ。なのに、なんでなのだろう。

 

 足取り重くたどり着く屋上。一週間、ずっと通っている場所だ。そして開け慣れている筈の扉は、少しだけ重く感じられた。

 

「あ、絵里先輩! 今日もよろしくお願いします!」

「「「「「よろしくお願いします!」」」」」」

「……っ」

 

 いつもそうだ。私が来る前にはいつも準備体操も終えてまさに準備万端と言った様子で待っているμ's。日に日にやる気が失われるどころか、むしろやる気が増しているようにすら思える。なんでなのよ……。

 

「なんでなの……」

「えっ?」

 

 考えていた気持ちは、気が付けば漏れ出していた。自分でも不思議なくらい、自制のきいていない行動だった。

 

「なんで、貴方たちは頑張れるの?」

「ど、どうしたんですか?」

「なんで、練習だって辛いはずなのに根もあげずにずっとついてくるのよ」

「そ、それは!」

 

 なんなのよ……私も同じくらい頑張っているのに、この差はなに? 私は何でこんなにも……毎日が辛いの? 貴方たちと一緒にアイドルの活動を……練習を共にして、毎日心が締め付けられるような気持ち。そんな気持ちのまま家に帰っても、廃校を阻止するいい案も浮かばないし……どういうことなのよ。

 

「やりたいからです! そんな難しい事は言えませんけど……皆、全力でやりたいって覆ってるからです!」

「……っ」

 

 やりたい……? それだけ? それじゃあ、私はやりたいことをしてないって言うの? じゃあ、私のしたいことって? バレエは、もう諦めたはずだ。 なら生徒会の活動? それだって絶対に妥協なくやってきたし、これからもそのつもりだ。 じゃあそれとも、このμ'sの……? 一緒に練習して、目標に向かって走って。思いを成し遂げて、皆で笑いあう事が、私のやりたい事だって言うの? そんなの――

 

「違う!」

「ひぅ……」

 

 違う違う。私は自分のしたい事を……しているはずだ。でも、自分のしたい事だけして生きていけるわけない。私には守るべき学院があって、守るべき役職があって……だから、毎日したくないこともしながら頑張ってやっている。なら、辛くないはずよね。なのになんで、こんなに苦しいのよ。なんで、こんなにもμ'sに憧れて……どうして?

 

 それはきっと、自分の本当にしたい事が――

 

「認められない!」

「あ、絢瀬会長?! 待ってください!」

 

 認めちゃいけない、理解はしても許容しちゃいけない。私は生徒会長で学院を存続させるために生徒会として活動して、本当にしたい事が……そんな事であるはずがない。

 

 だから、私は逃げの扉を開いた。

 

 

 

「突然、逃げた……?」

「そうよ、本当に突然。だから私は厄介な事になるって――」

「にこ先輩?」

「……真姫は厳しすぎるわよ」

 

 意味がわからない。それに違うって何が? 認められないって何がだ? μ'sの活動の事じゃないんじゃなかったのか? じゃあ他に何を否定するって言うんだ。絢瀬会長は真面目で何事にも全力で……どこまでも、この学院の生徒会長で……。

 

「と、とりあえず俺は絢瀬会長の様子を見てきます。皆は練習しててください」

「え、でも……」

「本番も近いですし、俺に任せてください。これでも、生徒会では信用されてるんです」

 

 自分でも驚くほど、不安になっている皆を安心させられる言葉を吐き出していた。生徒会で信用されてるだって? さっきまで当たり前だとかそう言う事を言っていたのに、自分であまり良いように思っていなかったはずなのに、不思議とその言葉は紡がれていた。これも、俺だっていうのだろうか。

 

「ご、ごめんね陽月くん。絵里会長の事は任せるね……」

「はい、任せてくださいよ」

 

 俺は、会長を追うべく、階段を駆け下りた。何故か不思議と気分は、良い状態だった。

 

 

 

「はっ……はっ……」

 

 逃げてしまった。彼女達から、自分の向き合うべき……向き合ってこなかった自分の心から。辛い、辛い。なんでこんなにも辛いのよ。こんなに辛くなるなら、最初から考えなければよかった。誰にも頼らず、誰とも付き合わず、何も背負わないで。それで、自分の本当にしたいことだけ、していれば……。じゃあ、結局私って――

 

「絵里ち……」

「っ……の、希……」

 

 気が付かない内に、希が私の後ろにやってきていたようだ。廊下にいるから、きっと逆の方から来たんだろう。でも、希はいつもの様な表情ではなく、やけに心配そうな表情をしていた。

 

「ウチな、本当はわかるんよ? 絵里ちが頑張るのっていつも人のためで、自分は後にしてるって。だからわからないんよ、絵里ちの本当にしたい事が」

「突然何よ……」

 

 私の……本当にしたい事? バレエ……もう諦めたはずの夢でしょ? その先にある、今までずっと見てきた陰ながら応援してきた、一つの活動。生徒会長でもある私に、表立って支援はできなかった。でも、『頼まれた』からやっているの。でも、結局私は生徒会長だから誰にも贔屓せずに……廃校を……。

 

「本当は、我慢してるんと違う? 自分のしたい事より、生徒会長としての義務を優先して、廃校を阻止しようって。でも、でもな? 音ノ木坂は共学にもなったし、廃校の恐れって言っても噂話程度やし……」

「噂……本当にそうかしら。事実人は足りてないんだから、どうにかしないといけないんじゃないの? 来年の入学希望者が少なかったらそれこそまた廃校の話は絶対に出るわ」

「なら、なら! μ’sの活動を――」

 

 またなの? μ's、μ’s……スクールアイドルがそんなにいいの? 楽しいの? 面白いの? 興味あるに決まってるダンスだってできる。歌だって歌える、女の子なら誰だって憧れる。なんだ、今自分から答えを出しているじゃない。『生徒会長』としての私じゃなくて、ただ一人の学院生としての私の。あぁ……結局わかってたんだ。それでも、ね?

 

「でも、でも! そうやって私も自分のやりたい事だけやっていけたらいいわよ! 良いに決まってるじゃない!」

「……っ! え、絵里ち」

 

 一度決壊した心は、その気持ちを吐き出すまでは止まらない。

 

「でも私は生徒会長で、廃校を阻止しないといけないって言ってるじゃない! 自分のしたい事だけをして廃校が食い止められるならいいわよ! でもそんなに甘くない、壁が絶対ある! そんな辛い事をわかっててしなくてもいい! あの子たちに私の様に折れて欲しくもない!」

「なら、なら! ウチも一緒に……じゃなくて、ウチは絵里ちと一緒に、μ'sとして活動していきたいって……ずっと思ってたんよ? 絵里ちが陰ながらμ'sを応援してたのと同じように……」

「でも無理なのよ……今更、自分のしたい事なんて、μ'sと一緒にアイドルなんて……もう希と一緒になんて……できるわけない……」

「あっ、絵里ち!」

 

 言ってしまった。取り繕いのない不揃いな言葉の数々。ただ吐き出すだけの言葉たち。でも一つ一つが本音で。ようやく私が『生徒会長』っていう肩書に縋っている、あのコンクールから進めないままの『絢瀬絵里』ってことも、わかってしまった。だから、もう自分のしたい事はできない。いや、してはいけないのだ。

手を伸ばしてくれた希の手も振り払った。だからもう誰にも頼らないでやっていくしかない。時間はかかるかもしれないし、失敗するかもしれないけど。それでも、私一人が頑張ればどうにかなるなら、いくらでも頑張れる。皆のためなんだから。

 

 私は、またしても逃げを選んでしまった。でも心は、不思議と軽やかにも感じられた。ようやく、心の濁りを吐き出したっていうこと、なのかしら。

 




またしても絵里区切りですね。
ここから陽月の語りも多くなりますし、ゆっくり彼の事をわかってもらえると嬉しいですね。まだ肝心な過去の人達とも会ってませんしね。

では、一度全部見てしまった方にはまたしても申し訳ありませんが、残りの後編とその後のオープンキャンパスまでの絵里編完結まで、もう少しお付き合いをお願いします。
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