Another School idols diary 作:藤原久四郎
「では俺がクラスにどうすれば溶け込めるかの会議を始めます」
「はじまるにゃー」
「は、始まります」
俺と凛と花陽、三人でベンチに腰掛けながら、誰に言うわけでもなく掛け合いをしてから本題に入る。
「真面目な話、こうして凛と花陽と話せているのが奇跡に近いです」
俺はいたって真面目、尚且つ真剣な面持ちで二人にそう告げる。
「でも別に女の子が苦手ってわけじゃないんだよね?」
ちょっと遠慮がちに聞いてくれるのはついさっき友達になった同じ一年生の小泉花陽。
「単にヘタレなだけにゃ」
鋭い指摘を何の逡巡も無く投げつけてくるのは、猫言葉が特徴的な星空凛。
「間違ってはいないんだが、単に出だしで失敗したっていうか……」
「た、確かにいきなりこけたのはびっくりしました……」
苦々しいつい数時間前の出来事に激しい後悔の念が襲ってくる。思わず苦虫を噛み潰したような表情になってしまうのは仕方のない事だろう。
「でもまだ何とかなる気がするんだけど、とりあえず一人ずつ仲良くなっていくのはどうかにゃ?」
「凛は兎も角、初対面の人とまともに話せる気がしないんだが」
「それってバカにしてる?」
「いえいえ滅相もない」
隣の花陽がクスクスと笑っている。実際問題、凛の手助けなしだったら花陽とも仲良くなっていた未来が見えない。
「じゃあまずはかよちんとお話の特訓にゃ!」
えぇ!? と花陽が素っ頓狂な声を上げて首をぶんぶんと振っている。
「でも花陽とだったら普通に話せると思うんだが」
「じゃあ二人きりにするから頑張ってにゃ」
そういって目にもとまらぬ速さで凛がどこかに走り去って行ってしまった。取り残された俺と花陽はお互い顔を見合って、クスクスと笑いあった。じゃあ折角気を使ってもらったし、会話のトレーニングといきますか。
「なぁ、花陽って凛といつから友達なんだ?」
まずは共通の話題で攻めてみる。この方法はちょっと他人では厳しいだろうがとりあえず会話を続けることが先決だ。
「えーっと、凛ちゃんとは昔からのお友達で……小学校からずっと一緒かな?」
「結構前からなんだな。なら凛の弱点とか知らない?」
「えーっと、強いて言うならお魚が苦手かな?」
「猫言葉話すのに魚苦手なのか」
勝手なイメージで休日は魚を咥えて走り回っているとばかり思っていた。
「じゃあ他には?」
「うーん……あんまり思いつかないかな」
話が一区切りしたので、一旦話を打ち切る。
「そっか、まぁ共通の話題があれば結構話せるな」
「そうだね、でも共通の話題があるって他の人だと……」
「厳しいなぁ」
結局、俺のコミュニケーション能力不足という結論で問題は保留になり、丁度話が終わったタイミングで予鈴のチャイムが鳴った。
「ん、そろそろ戻るか」
「うん、そうだね」
同時に座っていたベンチから立ち上がり、一緒に教室へ戻っていった。
そんな二人を物陰から覗いていた影が一つ。
「案外いい雰囲気だったにゃ」
にしてもかよちんがあそこまで初対面の人と話せるのは正直びっくりした。かよちんはどちらかといえば昔から人見知りだったから。
「陽月くん、自分を過小評価しすぎなきもするにゃー」
誰とでも初対面だろうが仲良くなれる、それは誰にでもできることではない。
「案外、心配しなくてもいいかにゃ?」
このままだと授業に遅れるので、二人が行ったのを確認してから自分も教室に戻ることにした。
午後の授業も滞りなく終わり、放課後がやってくる。
「さて、今日はどうしようか」
「陽月くんいつもどこか言ったりしてるの?」
そう問いかけてくるのは昼休み、仲良くなったばかりの小泉花陽。午後の授業で初めて気が付いたのが席が隣だということ。
「いんや、もっぱら帰ってダラダラしてる」
あはは、と苦笑を漏らす花陽。正直嘘でもいいから勉強って言えば良かったか。
「じゃあ私、今日は飼育委員のお仕事あるから先に帰るね」
「おう、またな」
先に花陽が教室を出ていった。俺は手を振ってそれを見送った後席を立つ。
「適当に学校見て回るか……」
一年の教室を出て、とりあえず最上階の屋上から順番に見ていって帰る計画にする。当然、屋上に行くには二年、三年のクラスを通る必要があり、
「あれ……男の子だよね」
「ってことは例の編入生?」
「なにそれ面白そう!」
と、後ろから好奇の視線を向けられて
「やっぱり男子一人ってキツイな……」
安易に女子高を選んだ自分の思慮の浅さに嫌気がさす道中だった。
途中、呼び止められたり質問されたりもみくちゃにされたりと色々なことがあったのだがこれがまた辛かった。
「こ、これが音ノ木坂の校風なのか……」
呼び止められた時は何を言われるかビクビクしていたのだが、なんでここに来たの?だとか学年は?だとか他愛のないことをいくつか聞かれただけだった。極め付けは巨漢、というのが最適なお姉様に
『きゃーっ!かわいい!』
と抱き着かれた時には流石に死を覚悟したりと、疲れるには十分すぎることがあった。
「結局皆いい人なんだろうなぁ」
まぁこの学院を知ることになった一つの経験だったと割り切ることにしよう。
そうこうしている間に屋上の扉の前についていたわけで。何の気なしにドアを開こうとした時、扉の向こうから声がしていることに気が付く。
「誰だろう」
相変わらず別に隠れる必要もないのだが、何故かこそこそと扉を少しだけ開けてそっと覗く。
「ワンツースリーフォー!」
「はいっ!」
「穂乃果は動きにズレがでています!ことりは動きが小さいです!」
「海未ちゃん疲れたよ~!」
「あとワンセット!」
「うええ……」
何やらダンスのような事をしている、今朝も見たあの三人だ。穂乃果さんと…穂乃果さんと一緒ということはあの二人はきっと二年生だろう。
会話の限りだとことりさんと海未さん…か。
「邪魔するのは悪いか……」
俺はもと来た道をUターンし、屋上を後にする。朝もそうだが、何してるんだろうか。疑問と少しの興味が徐々に積み重なっていった。
残りの三階も二階も特に見るものはなく、とりあえずどこにどの教室があるかの把握だけで済ませた。三階には生徒会室があり、二階には多目的室などがあったが他は特にめぼしいものはなかったのだが。
「よくよく考えたら学院にそんな見るものがあるわけないか……」
あまり成果の得られないまま二階の隅の方から一階の昇降口へ向かいながら一人呟く。二階から一階に降りようとした時、遠くの方からピアノの音が聞こえてきた。
「確かあっちは音楽室だったな」
さっき通りかかった時は誰もいなかったはずだが。もしや音ノ木坂学院七不思議の一つではないのか?
「そんなものは聞いたこともないわ!」
誰も居ない廊下で一人、心の中の声にツッコミをしていた。最近は独り言が多い気がするので自重することにしよう。
ピアノの音が鳴る方向へ何故か抜き足差し足でコソコソと近づいていく。音楽室と書かれたプレートのかけられた教室には一人の女の子が、ピアノを弾きながら歌を歌っていた。ピアノがうまいこともさることながら歌までも上手かった。そんな名前も知らない女の子を見ながら演奏が終わるまで聞き惚れていた。一分程で演奏が終わり、俺は終わった瞬間に大きな拍手を扉の向こうの女の子へ送っていた。
「うえぇ!?」
扉の向こうの女の子は心底驚いたようで、こちらをテンポよく瞬きしながら凝視していた。
「いやぁ凄いね、こんな上手い演奏ひさしぶりだ! 俺感動したよ」
扉を開け、ピアノへ向かいながらまだ驚いている様子の女の子へ感想を述べる。実際、コンサートとかでもいやプロレベルで通用するのではないかと思える演奏だった。いやプロの演奏とかわからないんだけどさ。
「別に、そんなことないわよ」
彼女は赤色のショートボブの髪を指で弄りながらそっけなく答える。しかし雰囲気からすると褒められて満更でもなさそうだ。
「あぁごめん、いきなりで迷惑だったかな。」
「いいわよ、別に。確か……泰原だったわよね?」
「あれ?もしかして一年生?」
やっぱりクラスメイトの名前と顔は覚えておこう。
「そうよ、私は西木野真姫。よろしく」
「なら……真姫って呼ぶわ。俺は陽とか陽月だとか好きに呼んでくれ。」
俺の一人称って昔から陽、陽って呼ばれてたから最近のフルネームやら名前だけやらがちょっと新鮮でもある。
「そう、なら陽月って呼ぶわ」
「よろしくな真姫。そういや今のってなんの曲?」
「自作の曲よ、悪い?」
自分で作曲までできるなんて多才だな。将来はきっと音楽関係の道に進んでいくんだろう。
「自作って完全に歌詞から伴奏までってことだもんな、すげぇわ」
「別に褒めったって何も出ないわよ?」
「いやいや本音だから、下心とか一切ないから」
「ふーん、陽月って意外と普通なのね。自己紹介からあれだったから」
「やっぱそういう評価だったんですね……」
わかりきっていた事だが面と向かって言われては流石に堪えるな。こんなやりとりをクラスの皆としてたら俺のハートがもたないな……。
「じゃあ俺帰るわ……」
泣きそうになるのを必死にこらえ音楽室を出ようとする。
「ちょっとまって」
扉に手をかけたところで呼び止められてしまった。
「なんか用かね」
ほぼ感情の籠っていない声で返事をする。きっと顔も抜け殻のようだろう。
「え、えーっと……あ、ありがと……」
「なんのお礼ですか?」
「っ、ピアノとか作曲の事!」
「あ、はい。どういたしまして」
これではいけないと思いつつも、どうしても気の抜けた返事になってしまう。どんだけメンタル弱いんだよと。
「じゃあそれだけだから!またね!」
案外つんけんしてるだけじゃなくて可愛いところもあるじゃないかと思ったが、それを言うとまた怒られそうなので心の奥にとどめておく。
「じゃあまた明日なー」
真姫と別れ、音楽室から出ると家に帰るために昇降口へ向かうことにした。今日も今日でかなり濃厚な一日だった。こんな日々が続くのかと思うと心配な反面思ったよりも悪くないと思えた学院生活二日目の終わりだった。
最後がギリ入らなくて尻切れトンボ状態です。
真姫ちゃんは動かしにくくて苦労しましたので、今後書かれることが減るか…も…。