Another School idols diary 作:藤原久四郎
単に書くネタがないんじゃなくて、終わりを決めたら書けなくなりました。
「つ、疲れた……」
「ははは……お疲れ様陽月くん」
溜息を漏らしながらまるで老人の様にゲッソリしながら帰路についているのは、まるでこの世の混沌を凝縮したかのような場所にいたからである。
そしてそんな痩せこけた俺の隣を歩いているのは、同じくその空間にいたことりさんだ。そして一応だが、あの後は結局何があったかを言うのもアホらしいくらいに疲労する時間が過ぎていったとだけ説明しておく。思い出すだけで頭痛が起こるくらいの、それ程にカオスな空間であったのだ。
「ことりさん、結局作詞手伝うんですか?」
「うーん……でも私そんな良いものかける気がしないんだよ~」
そういえば、と俺が聞くとことりさんはうーん、と首を捻っていた。
作詞担当の海未さんは、あの後はずっとことりさんに作詞を手伝うようにお願いし続けていたのだが、穂乃果さんには聞かないのか? というそんなふとした疑問から俺が質問したのだが。
『穂乃果には無理です』
『酷いよ海未ちゃん!』
という夫婦漫才……じゃなくて身内ネタを繰り広げたのだ。どうやら穂乃果さんは過去に皆を唖然とする詩を披露したことがあるらしい。小学生の時にらしいのだが、そこまでは詳しく教えては貰えなかったのだから少し惜しい気もした。
「凛ちゃんの詩じゃ駄目なのかな~? 私よりよっぽどいいと思うんだけど〜」
「……それ本気で言ってます?」
「え? あの詩可愛くなかったかな?」
至って大真面目にそう言ってくることりさんは、やはり常人とは違う感覚を持っているようで……大体凛の作った詩ってこんなんだったんだぞ。
『猫ちゃんかわいいにゃんにゃんにゃーん。自由気ままに空の下―。私は自由よ縛られなーい。皆の視線が自然にあつまる。そんな私は猫なのよ~』
ですよ? まぁ百歩譲って詩ならいいけど、これに曲を入れてμ's全員で歌うとなると……とてもシュールな図になること必死である。皆の衣装も猫をモチーフになるというなら、ちょっと見てみたいものだが。
「あ、もう着いちゃった」
そうこう話している内にも、これで二回目となることりさんの家まで辿り着いていた。にしても、まだ二回目だがストーカーらしき影は見られていない。まぁ今出てこられても何の準備もしてないから、まだ出てきてほしくもないのだが。
「じゃあね陽月くん、また明日」
「はい、また明日ですことりさん」
キチンとことりさんが家に入るのを確認してから、俺はまだ成し遂げていないもう一つの目的のため再び歩いてきた道を戻っていく。時間は腕に巻かれている腕時計によると五時をさしており、それにまだ日も暮れきっていない。となれば、行くところは一つだ。
「てーい! やーっ!」
目的地に着くと、既にその武道場と書かれたところから何やら気合の入った声が聞こえている事がわかった。どうやら目的の人は予想通りこの中に居るようだ。
「さっきぶりです。こんにちは海未さん」
「はーっ! あ、陽月さん。こんにちは」
そう、もう一つの目的は他でもない海未さんだ。武道と言えばこの人、μ'sの中で一番強いと言えば、海未さんというわけだ。ストーカー対策とかも、案外知っていそうだしというよくわからない理由からも会いに来るのは必然でもあったのだ。
武道場に入ると、海未さんは剣道の竹刀を振っていたようでその竹刀を隅に一度置いてから俺に歩み寄ってくる。
「でも陽月さん……確かあの後帰ったはずでは?」
「あぁ、それはこと――」
「こと?」
「……今年の運命の相手を探してここまで」
「そ、そうですか……ってそれって私の事ですか?!」
「ち、違います! なんでもないです!」
しまった……いきなり口封じされていたことりさんのストーカー関連の事をいいそうになった。しかもそれのフォローで更に墓穴を掘っている。というか今年の運命の相手ってなんだよ俺。
「オホン! そ、そうじゃなくてですね……今日は一応用事があって来たんですよ」
「そ、そうですか……何の用ですか?」
海未さんが疑問符を頭に浮かべながらこちらの次の言葉を待っている。やはり頼み事をする時は姿勢が必要である。そう、物事を頼む姿勢というものが。
「師匠! どうか俺を鍛えてください!」
「え、えぇ?! ど、どうしたんですかいきなり土下座までして!?」
俺は言い切る前に素早く木張りの床へ頭を押し付けていた。久しぶりにするこの土下座を懐かしみながら、俺の本気っぷりをアピールする。土下座してアピールというのも変な話だが。
「あ、頭を上げてください! それよりどういうことですか? 鍛えるってどういう……はっ、もしかして陽月さんも武道の道を極めるべく――」
「いや、そうじゃないですけど」
「そ、そうですよね……どうせ皆さん武道なんて興味無いんですよね……」
「ち、ちがっ! そ、そうです! 武道を極めようと思って!」
キッパリと否定したら突然海未さんが隅っこでジメジメとし始めてしまった。なんだこれ……どんだけネガティブなんですか海未さん。そういえば作詞も上手くいってなかったって言ってたし、少し気が滅入っているのかもしれないな。それにしても一言でこれは面倒くさいわ! と軽くツッコミをしておく。これを言うと更に海未さんがへこみそうだからな。
「まぁいいですけど……でも、突然どうしたんですか?」
「それはスト――」
「スト?」
「……ストレートに思いを伝えようと」
「ややや、やはり私に?!」
「ちちっ違います! ただ興味本位で!」
またしても言いかけたが、何とかフォローしたと思った矢先にこれである。なんとも噛みあわない会話で焦れったい。
「興味本位で私に近づくのですか?! は、破廉恥です!」
「だぁぁぁぁ! そうじゃなくって武道の方にです!」
なんという勘違いだ。素晴らしい程に噛みあっていない。よっぽどスランプなのか、心なしか海未さんにいつもの余裕がないのがこの会話からひしひしと感じられる。まぁこれはこれで新鮮で面白いなぁ、とか思っちゃう自分も少しいるのだけれど。そしていらぬ心配をしたと、さっきまでの自分が少し恥ずかしくなる。それより早く本題をすすめなくては。
「そ、そうですか……なんとなく用件はわかりましたが、具体的にどういったのが気になるんですか?」
「そうですね、護身術とかでしょうか」
「護身術ですか……何か身に不安でもあるのですか?」
「それはこと――」
「こと?」
「……言葉の暴力からの護身を」
「それは希さんにでもお願いします」
「じゃなくて普通に興味あるだけです!」
もうなんなんだ。自分で言いかけた言葉を飲み込むのは難しいというのが嫌でも身に染みる。
「護身……ですか。少し待ってくださいね」
すると海未さんはうーん、と逡巡する仕草を見せ何かを考え出したようだ。この間、やることが無いのでとりあえず海未さんをじっと見続ける事にしようか。
「じーっ」
「あ、あの……何か私の顔についていますか?」
「いえいえ、お気になさらず」
にしても、まじまじと見るとやはり海未さんは綺麗だとしみじみ思う。というか周りの皆のレベルが全体的に高いと思うのだが。最近では学院で道行く全員まるであてがわれたかのように美人に見える程である。いやまて、これは単に俺が不純な気持ちを持っている証明になるのではないだろうか。だがしかし男なら誰もが一度は夢見るハーレム生活なのだ。それなのだから少しくらい満喫したっていいだろう……と何故か言い訳を自分でしていた。どんだけ女の子に対する耐性ないんだよ、と我ながら不甲斐ないものだと思った。
「そうですね、陽月さん試しに私に向かってきてくれませんか?」
と、思春期特有のマイワールドの妄想が始まりかけたところで、何やらまたしても妄想が加速する台詞が聞こえてくる。これってよくあるあれだろうか。
「あぁ! 手が滑ったぁ!」
「いやぁ~んえっち~」
というテンプレちっくな展開が待っているのだろうか!
「陽月さん、何か変な事考えてませんか?」
「そそそそそ、そんな事無いににに決まってるじゃないですかぁ!」
「思い切り動揺してますね。まぁいいでしょう、早速来てください」
と、一度突っ込まれた事で冷静になれたわけだが、それでも仮にも女の人に向かっていくのはいかがなものかと自身の中のよくわからない正義漢チックな器官がレッドマークをだしている。でも頼まれちゃったしなぁ……ちょっとくらいハプニングあっても? ギリギリ許されるだろう。うん、大丈夫大丈夫。どこか柔らかい所触っても平気平気。
「じゃあ……行きますよ!」
言いきる前にとりあえず海未さんの下へ距離を走って詰めていく。先程海未さんが隅っこにいたために距離はそれなりにあったが、これでもこのスピードなら不意を十分につけるはず。それに何も掴みかからなくても、寸止めすれば――
と、海未さんの近くで丁度手を伸ばした所で、景色が一周した。
「へぶっ」
な、何が起こった。海未さんに近づいたかと思ったら景色が一周して、俺は地面に寝頃がる状態になっていた。状況がまるで飲み込めず茫然と俺は天井を眺めながらそう考えていると、海未さんが少し心配そうにこちらを見ていた。
「大丈夫ですか? 今手を貸しますね」
「あ、ありがとうございます……隙あり!」
正直何が何やらだが、とりあえずもう一度海未さんに仕掛けてみる。今回は完全に隙をついたはず。このままいけば海未さんの手を掴んでバランスを崩せるはず――
海未さんの手を掴んだ……と思った瞬間、また世界が一周した。
「へぶっ」
な、何が起こった。また天井を眺めているのは変わらない。だが俺の頭の位置が逆向きになっている。……意味がわからん。
「もう……油断も隙もありませんね。では、一度立ってください」
「あ、はい……」
もう流石に何かアクションを起こす気にもなれず、とりあえず言われた通りに立ち上がる。でも海未さんは何もしていない……様に少なくとも俺からは見られた。これが護身術の極意なのだろうか。
「えっとですね、今私は出来るだけ陽月さんに気が付かれないように色々していたのですが、何をしたのかわかりましたか?」
「世界が一周したことしかわかりません」
どうやら本当にわからないように俺を投げ飛ばしていたようだ。それでも痛みが襲ってこなかったのは相当優しくやられていたのだろう、海未さんの技量の高さがこの段階で嫌でも思い知らされた。流石師匠である。
「それでですね、護身術に関してなのですが……正直闘うという発想が間違っているので、相手の不意をつくのが基本です」
「ふむふむ……つまり相手に気が付かれないように何かをすると」
「まぁそうなります。例えば……状況にもよりますが、脛などの目に見えた弱点を攻撃したりするのは効果的ですが、相手が逆上して襲ってくることもあります」
確かに、無抵抗の相手が突然攻撃すればこちらもたまらず反撃してしまうだろう。今回の俺みたいなパターンは普通にボコボコにされて終わりだが。
「それでですね、基本的に相手には攻撃がこちらから当てる場合、一撃で相手を倒す必要があります。ですが、リスクが高すぎるのでもしもそう言った場面に遭遇した場合、とにかく逃げるのが一番ですね」
確かにそうだな……。俺がスーパーマンなら危険だろうがなんだろうが自分の力でなんとかなるかもしれないが、生憎ただの一般人である。そう考えるとやはり一人でストーカーの対策をしようというのは無謀なのかもしれない。それでも、頼られたからにはやるしかないのだが。
「でもやはり護身術は護身のためであって、相手を傷つけたりするために使いませんから……やはり危険な事はしないに限りますね」
「……そうですか」
それもそうである。俺はことりさんを守るだのなんだの大それた事を言っているが、別にストーカーが強行手段にでるとも、こちらに危害を加えてくるとも限らない。だが……もしもこれで俺が怪我でもしたりすればことりさんは悲しむかもしれないのだ。自分のせいだと自らを責めたりするかもしれない。それは……やはり男としてどうなのだ。いらぬプライドだとも、いらぬ見栄だともわかっていても、こればっかりは男だから仕方のないことなのかもしれない。やはり男は、かっこつけたがる生き物なのだろう。
「どうしたのですか? 突然笑ったりして」
「あ、すみません……海未さんの言う事もわかりますが、それでもやっぱり教えてはもらえませんか?」
言われて初めて気が付いたが俺は笑っていたらしい。それは自分に対する哀れさからくる嘲笑だろうか。それとも、ただ単に自分でもあほらしいと思ったのか。それはわからないが、一つわかるのは答えはもう既に出ているという事だけだ。
「ふぅ……きっと止めても無駄ですね。ですが、約束してください。決して身を守る事以外に使わない事と、自分を大切にするという事を。これを必ず、守ってください」
海未さんはいつになく真剣な表情でそう告げてきた。もしかしたら、俺の考えている事は全部お見通しなのかもしれない。それもそうだ、いきなり護身術を教えてくれだなんて言うのは、普通ならありえないことだからな。それでも教えてくれるというのは……海美さんが優しいという事に他ならないのだが。
「では、今日から少しの間だけ私と護身術を学ぶ時間を取ってもらえますか? 今日から私は放課後ずっとここにいますので」
「えぇ、わかりました。でも、ずっとここにいるってどういうことですか?」
「……迷いを振り切るためです!」
あ、やっぱり作詞のこと引きずってるのね。やはり海未さんは真面目なときでも海未さんなんだな、と思わず笑いが零れてしまう。海未さんは下を向いていた為、こちらの笑いには気が付いていなかったようだが、そのもじもじした様子が更に俺の笑いのツボを刺激して来て笑いを堪えるのが大変である。
「なので……できれば作詞の方も手伝っていただければ……」
もじもじと体をくねらせながら申し訳なさそうに俺に提案をする海未さん。何故かその視線は期待に満ちており、明らかにこちらが頷くのを待っているようにしか見えない。……これって所謂交換条件だよな。
「あ、あはは……全然構いませんど」
もしかして、ではなくやっぱり護身術教えてくれるのはこの交換条件のためなのか? と、思わず勘ぐらねばいけない程の海未さんの先程との落差に思わず困惑するが、これも仕方ないと割り切ろう。折角教えてもらう事になったのだ、これくらいは妥協せざるを得ない。
「ではそうですね……明日から必ず放課後ここに来てください。一時間ほどで終わると思いますので」
「わかりました。じゃあ……今日は帰りますね。作詞の事も少し考えておくんで」
よし、明日からは海未さんに護身術の稽古をつけてもらう事にしよう。放課後のこの時間にまで海未さんはいるようなので、ことりさんを家まで送ってからでも全然間に合うだろうしサボる事はないだろうから大丈夫だな。
「では、明日からよろしくお願いしますね。それで……私の作詞の方も……」
「わ、わかってますって!」
最後まで念入りに作詞の事を言ってくるものだから、思わず苦笑いが零れてしまうが、きっと海未さんも大変なのだろう。しっかり考えないとな、と思いながら武道場から海未さんに挨拶してから出ていくことにした。
今回は……なんか変な感じになってしまいましたが、これも必要な事なんや…
誤字修正などの感想等は常にお待ちしています。感想くるだけで喜びますので。