Another School idols diary   作:藤原久四郎

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話が進んでない?平常運手です。


特訓の始まり

 声が響いている。床に何かが叩きつけられる音も、それにつられるように高く、高く響き渡る。一際高いものと低い声、その二つの声と一つの衝撃音、それらを包み込んでいるのは武道場、と書かれた建物であり、その中で二つの影がそれら音の協奏曲を奏でている。そして、一連の響く音の中で最後には決まって聞こえるの一つの声が。

 

「へぶっ」

「もう……これで何度目ですか?」

 

 陽月の、気の抜けた声である。

 

 

 

 これで何度目だろうか。もはや数える気もしない。覚えているのは海未さんの真面目な表情と、床の無機質な冷たさ、それに眺める先の木張りの天井だけだ。

 

「陽月さん、いくら遠慮しないでいいとは言ったものの、ここまでくると私が悪い人みたいじゃないですか」

「でもまだ百回目じゃないですか」

「多いですから……」

 

 どうやら百回も何も考えずに掴みかかろうとするのは馬鹿のする事らしい。だったら十回目くらいで止めてくれてもいいのでは、と言いかけるが付き合ってもらった手前言わないでおこう。

 ということで百回近くの稽古……と言う名の虐殺ショーは無残な物で、俺は全身汗だくで着替えた体操着もびしょ濡れである。そんな満身創痍な俺とは違い、海未さんは涼しげな様子で、汗の一つも見えない。床に寝転がりながら火照った体を床の冷たさで冷やしつつ、状況を冷静に考えてみてはいるものの、よく考えたらただぶん投げられた記憶しかなかった。

 

「ちなみに、これって何か成果あるんですかね」

「えっ……? えー、えっと」

「……まさか何も考えずに投げているはずないですよね?」

 

 冷静な判断で聞いてみた疑問は、どうやら海未さんにとってはクリーンヒットの質問だったらしく、いつもの落ち着いたたたずまいはどこかへ消え、明らかにアタフタしはじめていた。

 

「……受身の練習?」

「俺護身のための技術聞きに来たのに、何故やられる側の練習になってるんですか」

「…………すみません久々の実戦で熱くなりました」

 

 深々と申し訳なさそうに俯く海未さん。俺の視界は床に寝転んでいるため、いつもと見ている向きが違っているので本来見れないはずの俯き顔が丁度見えている。その為少しだけ頬を赤らめ、練習中は一度も見せなかった動揺の色を見せているそんな海未さんの端整な顔がとても申し訳なさそうで、更にモジモジとした落ち着かない表情がちょっと可愛いとか思ってしまう。

 

「でで、でも! これで受け身は完璧ですね!」

「実戦でこんなにされたら負けてますね」

「で、でも! 戦う分にはいいと思います!」

「前確か逃げろって言われた気がするんですが」

「でも……! いいと思います!」

「何がですか!?」

「傷だらけの男の子……カッコいいと思います!」

 

 妙に力説する海未さん。海未さんの趣味はどういうものか知りませんが、どうやらSっ気が混在しているような気がしてしまうそんな一言ですよ。

 

「実戦なら……とても悲惨ですね」

「す、すみません……」

 

 結局、俺は百回も無駄に投げられていたようだ。

 

 

 

「では、今日はもう遅いので帰りましょうか」

 

 そう一つの提案する海未さん。武道場から覗いていた日差しは、気が付けばオレンジ色を越えて徐々に暗くなっており、そろそろ完全に日が暮れようとしている様である。

 

「にしても、これ何日くらい続くんですかね」

「何を言うんですか! 武道の道は一日してならず、ですよ!」

「……別に武道極めたいわけじゃないんだけどなぁ」

「あ、そういえば忘れていましたが……これ、どうぞ」

 

 海未さんは、ふと何か思い出したようで、良い感じに誤魔化さたな、と思っている俺に一枚……ではなく少しだけ厚みのある紙の束を手渡してきた。

 

「なんですかこれ? と聞きたい所ですが、あれですよね確か」

「はい、以前から頼まれていた練習メニューです。ついででしたので、メニューも少し多くしておきました」

 

 そんなついではいらないよ、と言いたいところだが、折角作ってもらったものを無碍に扱う事も出来ず、試しにペラリとめくってみる。あと、どうでもいいけどこれも忘れられていると思っていた。

 

「どれどれ…………ん?」

「どうでしょうか。自分で言うのも変ですが、少々このメニューには自信があります」

「一ついいですか?」

「ランニングの桁おかしくないですか?」

「えっ、10kmっておかしいですか?」

 

 まずめくった一枚目で、目に留まったのは一行目。早朝メニューとかかれたそこには『ランニング10km』と書かれていた。おかしいな、俺の知ってるランニングと違う。というか俺持久走でもそんなに早くないんだけど、これいきなり飛ばしすぎじゃないでしょうか。

 

「じゃあ次なんですけど、ランニング前後のストレッチなんですけど」

「はい、これもしっかり考えておきました」

「一時間……?」

「むしろ少し早めですね」

 

 どうやら今までの常識は捨てた方がいいようだ。俺の知らない運動業界には、一つ一つの行動に、まだまだ深い意味があるに違いない。

 

「それで食事なんですけど」

「はい、これも抜かりなく」

「六回……?」

「あぁ、間食含めて六回なのでご安心ください」

 

 そんなに食えるかな、俺。しかもメニューまで書かれている。何々……高タンパク質、低脂肪を意識、更に感触にはプロテインドリンクにエネルギーバー? 何これ、どうみても筋肉モリモリのビルダー系目指すメニューじゃないか。

 

「あの、もう面倒なんで一ついいですか?」

「はい、質問があれば。それに訂正なども受け付けますよ」

「ガチすぎるんですけど!」

 

 明らかに、ボディービルダーを目指すソレのレベルで練習メニューと食事メニューを組んでいるようにしか思えない。

 

「それは勿論、陽月さんの素晴らしい肉体美のために!」

「俺別にそんなの目指してないけど!」

 

 俺はほんの少し、ほんの少し人並みに鍛えて、人並みの持久力をつけて、少しだけ人よりも強くなれれば……とか思ってたけど、どうやら海未さんはそれを許してはくれないようだ。

 

「ですが、私も決して無理なメニューではないと思いますし、量はそちらで加減してもらって構いません。それに、あくまで目安です」

「あぁ、そうなんですか……ならいいんですけど」

 

 正直いきなりこれやれって言われたとして、俺は絶対やれないし、きっとやらない。例え金が積まれても、だ…………ごめんやっぱ金積まれたらやるわ。

 

「それで話が変わるんですけど、作詞の方はどうですか?」

「作詞ですか、まだ一フレーズだけしかできてないです」

「も、もう一フレーズ?! 私なんて一週間目にして没案がノート一冊を越えたというのに……羨ましいです、その才能」

「没がそれだけ出る方がよっぽど才能ですよ……」

 

 むしろ一冊没って何があったんだ。

 

「もうこうなったら、潔く次の曲は陽月さんにお任せします」

「諦めるの早くないですか?!」

「そうは言っても……」

「あれですよ、とりあえず言葉を書きなぐってみるとか」

「それが一冊のノートになったんです」

「……俺からのアドバイスは以上です」

 

 こんな頑張ってる人に何を助言すればいいんだよ。俺なんて眠ってる間にいい案がでるようないい加減なやつなんだから、海未さんの助けをしようなんてのがおこがましいのかもしれない。

 

「でも、そうですね。陽月さんも頑張ってくださっているのですから、私ももう少し頑張ってみようと思います」

「そのいきですよ。俺も頑張って一曲くらい書ききって見せますから」

 

 軽い口約束を交わし、海未さんのやる気が少しでも回復することを祈ることにしよう。海未さんの作詞センスはプロにも負けないレベルだと、俺は信じているからそれ以上の事は言わない。それに言うなら真姫の作曲センスも、皆のダンスも。じゃなかったら、俺だってここまでやる気を出させられて、動かされることはないとそう思うから。……あ、これ作詞に使えそうな感じするな。帰ったらまた書いてみようかな。

 

「では、今日は帰りましょうか。練習メニューの方もまた少し目を通しておいてくださいね。一応要点をまとめたりもしてありますので」

 

 作られたメニューはハードでも、内容は制作者ににてイージーなのだろうか。そんな海未さんの優しさが、練習後の心と体にしみわたるようだ。それが海未さんに意味もなく痛めつけられた心と体でも。

 

「じゃあ帰りますか。お互い頑張りましょう」

「はい、頑張りましょう!」

 

 こうして、俺の特訓は幕を開けた。練習メニューはとりあえず目安の半分にしようと、心に固く決めながら。

 




他の作者さまの作品と比べてやはり脱線する事が多いと今更ながらそう思う今日この頃。
なんでこの作者はすぐに本筋投げ捨てて脇道に逸れるんだろう(自問
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