Another School idols diary   作:藤原久四郎

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え、話が?それは(ry


部室にて

「くぁ……よく寝た」

 

 授業を終え、現在はアイドル研究部へ向かっている最中である。今日はμ’sとしての活動は休みの日だが、別に俺がそれを忘れているから向かっているわけではない。ただ、今日も活動があるのだ、相変わらず一人でやっているであろうアイドル研究部の活動の方が。

 

「こんにちは」

「んー……相変わらずだけど、なんでアンタ来てんの?」

「そりゃ、俺アイドル研究部の部員ですし」

「あっそう、まぁいつも通りしてて」

「へいへい。お茶入れますけどいります?」

「んー冷たいのね」

「夏ですから当たり前……と言いたいですが氷ないんで諦めてください」

「まぁ仕方ないわね、じゃあよろしく」

「うぃ~」

 

 部室には、やはりというかなんというか、PCに向かって何やら作業をしている矢澤先輩のみが部室にいた。そしていつも通りのやりとりをしながらも、この人なんでμ'sの活動無い日もここにいるんだろうなぁ、と考えていた。

 

 俺はいつも通り備え付けられたポッドからお湯をだし、いつもなら急須と緑茶の葉でお茶をいれるのだが、今は夏なので耐熱ガラスを使用しているものと、麦茶のパックをいれてお茶を入れている。

そして当たり前だがこの部室に氷はない。なので、いつもは適当に冷めるまで待つ羽目になるのだが、今日はあることを試すためにボウルを持ってきている。まぁ、そんな大それたことではないけど。

 

 待つこと、五分。 俺は並々水の入ったボウルと矢澤先輩の分と俺の分のお茶をのせたお盆を片手で持って行く。

 

「おまたせしましたー。はい、矢澤先輩」

「んーありがと。って、これ熱くないのね」

「はい、とは言ってもギリギリ温い程度ですが」

 

 俺のボウルごと差し出した普段使いのコップに入っている麦茶は、いつもならゆらゆらとたちこめる湯気が見られず、コップを握った際もテンプレみたいな熱さがまるでないのだった。

 

「なにしたの?」

 

 矢澤先輩は少しだけ疑問そうに聞いてくるが、あぁそういうことね、と俺の片手に握られている水の入っているボウルを見てどうやら納得したようだ。

 

「まぁ何のひねりもなく、ただボウルに水浸しただけですね。もちろんこの水は花壇にでもあげてきますよ」

「へぇ……珍しく頭いいじゃない。普段からこれくらい思慮深いと私も部長として鼻が高いのだけどね」

「高くなるのは鼻でいいんですか――嘘です嘘です、拳振りかぶるのやめて」

 

 なんだよ、からかってきたから冗談で返しただけじゃないか。しかも割とマジで拳振り下ろそうとしてる感じホントやめてほしい。

 

「はいはい、どうどう。お茶飲んで落ち着いて」

「……ったく。早くその水窓からでも捨てなさいよ」

「へいへい」

 

 そういえばアイドル研究部の窓から見えるのは芝生だったな。芝生も長々続く日照りで熱い事だろう。折角だからこの微妙に温いだけのぬるま湯をプレゼントだ。

 

「ほーら芝生さん、元気になーれ」

「黙ってやりなさいよ」

 

 窓を勢いよくあけ、これから喜んでくれる芝生の事を思って笑顔になりながら、俺は思いきりボウルに溜まった水をぶちまけてやる。矢澤先輩はやれやれ、と半ば呆れ気味にその光景を見届けた後mまたパソコンの画面を見つめだしていた。

 そして、その水は何事もなく吸い込まれていった。

 

 バシャッ

 

「…………」

「あ……」

 

 たまたま通りかかっていた、この学院の生徒会長の現在あまり関係が良好とは言えない、絢瀬絵里さんに。

その絵里さんは、俺のせいで濡れた髪のせいでこちらからは表情が伺えないが、明らかに怒気をこちらに飛ばしているのと、服が少し濡れてエロくなっているという事だけが俺にはよくわかった。ってそんな変態思考してないで言い訳を――

 

「……ッ!」

「ひぇっ?!」

「ど、どうしたのよ。青ざめた顔して」

 

 口を開きかけた俺に、有無を言わさない絵里さんのまるで獲物を捉えんとせん眼光は俺にはその一瞬だけで恐怖心を抱かせるには十分すぎた。俺は蛇に睨まれた蛙とは違い、素早くその脅威を俺の視界から閉ざしたものの、顔は矢澤先輩が言うように青ざめ、冷汗が夏の暑さを感じさせない程体を冷やしてきていた。

 

「やべぇよ……やべぇよ……」

「ど、どうしたのよ。水まきに失敗して自分にでもかかった?」

「そんなチャチなもんじゃねぇ……もっと恐ろしい、この世の地獄を体現したような……」

「外どうなってんのよ」

 

 って、そんな矢澤先輩と遊んでる場合じゃない。早く逃げないと……いや、でもここは素直に謝ることがやはり重要なのでは? でも、明らかに話聞いてくれる雰囲気じゃなかったよな、アレ。

 

「まぁなんでもいいけど、あんまり騒がないでよね。私の作業の邪魔になるんだから」

「冷たいなぁ……って矢澤先輩と遊んでる場合じゃない。外はどうなってるんだ」

 

 先程畏怖の感情から勢いよく閉めた窓を、もう一度開いて外の様子を見てみる。

 

「も、もういない……?」

「だから何がよ」

「それはもう閻魔の如き悪鬼が」

「だから外はどうなってんのよ」

 

 どういう事だ? もしさっきの事で本気で怒っているならここから怒鳴るなり、出てくるように促すだとか他にもしようがあったではないか。そうしないということは?

 

 と、必死に状況の不明瞭な部分に思考を巡らしていると、後ろの引き戸が思い切り開けられたのか、物凄い音を立てて勢いよく開かれたようだった。

 

「……陽月は、いるかしら」

 

 その音に、否応なく振り返らされた俺と矢澤先輩が見たのは――

 

「ひぇっ……」

「ちょ、絵里? ど、どうかしたの?」

 

 表情をまるで伺わせないように髪がその顔を覆い、それでいて尋常ではない威圧感を放っている、招かれざる客の絢瀬絵里会長の姿であった。

 

「よ、う、げ、つ?」

「え、絵里さん……そ、その俺は別に――」

「にこ、少し陽月借りていくわよ」

「え、えぇ……別にいいけど」

「矢澤先輩止めてよ! 裏切ったなァ!?」

「意味わからない濡れ衣はやめてくれない?!」

 

 絵里さんは威圧感を漂わせながら、俺の下へ歩み寄り俺の腕を有無を言わさず掴んだと思ったら、今度は有無を言わさず俺の手を引いて歩き出す。

 

「ま、待ってください! あれは事故で――」

「……そろそろ、私の溜飲を下げるいい頃合いだと思うのだけれど、どう思う?」

 

 そう告げてきた絵里さんのようやく見られたアイスブルーの瞳は、冷ややかな見た目とは裏腹に尋常ではない熱を灯していた。何、なんで俺こんなに恨まれてんの……?

 

「何も言わないなら、少しだけ私に付き合ってもらえる? 心配しないで、時間は取らせないわ」

「あの……俺、何か恨まれるような事しました?」

「そうね、強いて言うなら……全部、かしら」

「絶対からかってるだろ!」

 

 良かった、どうやら本気で怒っているわけでは……ごめん、睨みを聞かせてる顔が嘘っぽく見えない。半分くらい、半分くらいは多分本気だわ……。

 

 解放されたのは本当にすぐだったが、その間は何があったのかを言うのも恐ろしい時間であった。まさにこの世の地獄を体現したかのような……思い出すだけで震えが止まらないので、もう思い出すのはやめよう。

二人そろってアイドル研究部に戻った際には、矢澤先輩に奇怪な視線を送られた挙句、俺たちの中についてよくわからない追求まで受ける羽目になった。もう、本当に踏んだり蹴ったりであった。

 

 

 

「な、なんだったの一体」

 

 部室に一人残されたにこは、一人呆れ交じりに溜息を吐いていた。それはきっと複数の意味合いが込められていた。

 

「それに、アイツら名前で呼び合ってたわね」

 

 そして、二人の仲が見るからに前より仲良くなっている事と、一つの事実が嫌でも確認できてしまったのだ。

 

「……私なんて、まだ先輩呼びなのにね」

 

 そう呟くにこは、少しだけ寂しそうに見えた。二人が戻ってくるまでの数分間は、にこを元のにこに戻すには十分だったのだが、彼らには思わずいつもとは違った視線を投げるのと、柄にもない余計な詮索をする羽目になってしまったのだった。

 

「本当、馬鹿らしいわ」

 

 その含みのあるつぶやきは、二人には聞こえなかった。

 




うん、矢澤が書きたかったんだ。赦しは請わぬ×15
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