Another School idols diary 作:藤原久四郎
お蔭で本文が少し入りきらず次に持ち越すことになりました。
アイドル研究部と矢澤にこ
四月。新学期や進学に期待を躍らせ、心機一転頑張ろうとする始まりの季節。
そんな季節に人一倍気合を入れて頑張る男の姿が一つ。
「μ´s、ファーストライブやりまーす!よろしくお願いしまーす!」
数日前、四月も折り返しが近づき新入生が学院に慣れ始めた頃、部活勧誘も盛んになっていた。
クラスで、いや学院で唯一男子の俺、泰原陽月は頭に浮かんだ一つの疑問をぶつけていた。
「俺って部活はいれんのかな?」
目の前に座る大人しそうな眼鏡をかけた女の子、同じクラスの小泉花陽に唐突な問いかけをしてみる。
「でも……今の部活って全員女の子だし、何より男子一人じゃ大会どころか何もできないんじゃないかな?」
やっぱりかーと呻き声を漏らし机に伏せる。
よく考えたら思い当たるスポーツ全部一人じゃ無理だな。
「でも何もせずに三年間過ごすってのもなんか無駄な気がするしなぁ……」
「えーっと……じゃあ部活のマネージャーとかは?」
「その手があったか!」
勢いよく立ち上がって手を握りガッツポーズを取る。
だが、
「マネージャーできるほどスポーツとか詳しくねぇよ……」
もっと根本的な問題だった。
「うーん……」
苦悶の声を漏らしながら一人、睨み付けているのはこの学院の全部活の内容だ。
運動部は論外、合唱や美術は性に合わん……それに部員数もそれなりだしマネージャーもいそうだ。
そんな中に部員数一名という一際異色を放っている部活、この場合同好会だろうか。
「アイドル研究部?」
アイドルっていうとテレビに出てるようなキラキラしてる女の子達のことでいいんだろうか。
俺自身アイドルに対して全く詳しくもなく、普通なら気にも留めないのだが。
「なんか一人ってのが気になるなぁ」
放課後はアイドル研究部を視察しに行くことに決めた。
「さて、やってきたのはいいんだが……」
アイドル研究部と書かれたプレートのかけられた部屋、中の様子は暗幕がかけられておりわからない。
さっきノックをしても反応が無くて、ドアを捻っても当たり前だが鍵がかかっていた。
「どうしたものかなぁ」
一人でうーんと首をひねっていた所
「なによアンタ」
いきなりどこかから声がした。びっくりして辺りを見回したが誰もおらず。
「なんだ気のせいか」
「気のせいじゃないわよ!」
「うおおっ!?」
学院入って何度目かもわからない悲鳴を上げる。
「脅かすなよ!」
「一回で気づきなさいよ!」
目の前の少女は俺よりも一回り二回り背が低く、どうやら普通に視界に入っていないようだった。
髪は少し長めの黒のツインテール。身長が低いせいか小学生にしか見えない。
「全く驚かせないでくれよ、俺は泰原陽月。一年生?」
その時の俺は身長だけで安易に一年生という言葉を出してしまっていた。昨日からの流れで会っていたのはずっと一年生だったというのも一つの要因だと思っている。
「い、ち、ね、ん、せ、い?」
目の前の少女が眉間をピクピクさせながらブルブルと震えていた。雰囲気からこれは不味いと察した俺は素早くフォローをいれる。
「大丈夫だ! いくら背が低くてもまだこれから伸びるだろ! 一年生なんだからまだ希望を持っていこうぜ!」
完璧だと自分ながら感心するフォローこれで問題ないはず……あれ? さっきよりも怒っているようだ。
すると溜め込んだものを爆発させるように目の前の少女は大声で叫んだ。
「私はぁ! 三年生よぉぉ!」
「すんませんでしたあああああ!」
三年生というフレーズに俺は完全に失敗したことを素早く察知し、花陽の時も見せたあの土下座を素早く繰り出した。
「ちょっ、貴方プライドとかないの!?」
「貴女が受けた傷に比べたら俺のプライドなど安いものです!」
すると大声を聞きつけた他の生徒がぞろぞろと集まってきていた。
通りすがりの人達から見たら彼女は廊下で人を土下座させる人でなしに映っているに違いない。
彼女はあたふたと周りの人達に誤解だとか、こいつが勝手に、と事情を説明しだした。
その間俺は一度も立ち上がることなく額を床にこすり付けたまま不動の姿勢だった。
「アンタねぇ……」
半ばあきれ気味に額を抑えながら彼女はそういった。
「許していただけるまでこのままです」
「あーはいはい。もういいから」
「わかりました」
土下座を解除し、立ち上がり服に付いた埃やゴミを素早く手で払う。我ながら手慣れたものだ。……ちょっと初対面の人にするにしてはまずいかな?
「で、アンタなんのようなの?」
「あぁ忘れてた。実は俺アイドル研究部を見に来たんですが」
アイドル研究部、という単語を出した途端目の前の少女は目をカッと見開いた。
「まさか入部希望者!? それならちょっと来なさい!」
扉の鍵を素早く開け、俺を中に引き入れる。そして扉のすぐ近くの電気を付けた。
すると眼前に夥しい量のアイドル、アイドル、アイドル。棚には所狭しとアイドル関係の本やDVDが置かれ、壁には煌びやかな衣装を纏った少女たちが満面の笑みを浮かべているポスターが貼られている。
「どう!?これが我がアイドル研究部の部室よ!」
目の前の少女はこれでもかと言わんくらいに誇らしげに胸を張っている。だがその肝心の胸は断崖と形容せざるを得ない。
「素直に……凄いなこれは」
「でしょうでしょう!」
とても嬉しそうな表情を浮かべる断崖の女の子にちょっと微笑ましくなってしまう。
「あぁそういえば名乗ってませんでしたね。俺は一年生の泰原陽月です」
「アンタの事は知ってるわよ、編入してきた男の話なんて嫌でもクラスで囁かれているわ」
うわぁなんか恥ずかしいぞ……下手なことすると噂が尾ひれをつけて爆散しそうだ。
「ちなみに今日の事でまた変な噂広がるだろうから覚悟しといたら?」
「ちょっと勘弁願いたいぜ……」
ホント行動には気を付けないと。
「私は三年生! ……の矢澤にこ。よろしくね」
妙に三年生を強調していたのはさっきのことをまだ根に持っている証拠だろう。
「じゃあ矢澤先輩って呼びますわ。よろしくお願いします」
「にしても男のアンタがアイドル研究部なんてどうしたのよ? 別に好きそうな様子でもないし」
いきなり確信を付かれて思わずたじろぐ。思ったより鋭いな、見た目よりできる奴なのかもしれない。
「確かにあまりアイドルについては今まで関心がなかったんですけどね」
「じゃあなんでよ」
「部員数一ってのが気になったんですよ」
「……いきなり痛いところついてくるわね」
部員数が一人でも作れるなら俺も好きな部活を作って活動という選択肢も生まれるからだ。
「いっとくけどウチの学院は六人からじゃないと部活申請できないわよ?」
「なんだと……」
いきなり目の前の希望への道が閉ざされてしまった。
「じゃあ俺帰ります」
もう目的の大半を達してしまった俺は足早に扉のノブを捻って帰ろうとする。
「ちょっと待ちなさいよ! 何よひどくない!?」
「いや、もう用無いんすよ」
「お茶くらいだすから話ぐらい聞いてきなさいよ!」
「仕方ないっすね……」
回れ右して部屋の中央に備え付けられた長机の前の椅子に腰かける。
程なくして矢沢先輩が部屋に置いてあったポッドでお茶を入れてくれた。俺は出してもらったお茶を啜りながら一つ聞き忘れていたことを聞いてみることにした。
「そういえば一人じゃ部活申請できないんですよね。じゃあなんで一人で部活動してるんですか?」
よく考えたらおかしいことだ。考えられるのは申請時は六人いたってことだから……
「あぁ単に昔は六人いて皆やめてったのよ。今は私一人だけ」
ある意味予想通りだが、ある意味そうであってほしくもなかった答えが飛んでくる。だが、聞いてしまった手前、話を続けざるを得ない。
「なんかあったんですか?」
「簡単な事よ、皆が私についてこれなかっただけ」
憂いを帯びた表情でぶっきらぼうに矢澤先輩はそう告げる。感情を表に出さないようにはしているのだろうがどことなく悲しいそうな雰囲気が垣間見える。
「よかったら何があったか聞かせてもらってもいいですか?」
今度は聞いた手前だとか、そう言った理由ではなく自身の興味から話題を続けさせる。
矢澤先輩は淡々と、あった事を事務的に教えてくれた。今はスクールアイドルという学校単位で活動しているアイドルがあること。矢澤先輩も皆とスクールアイドルをやっていたこと。だが思ったよりも上手くいかず、一人また一人とやめて行ってしまったこと。
「まぁこんな感じ。でも私は一人でこうして続けてるけどね」
見た目の華奢な感じとは裏腹に一人でこうして部活を続けているのは素直に凄いと思う。きっと強い女性なのだろう。
……とは言っても雰囲気が重くなっているし、俺としてもこの雰囲気は嫌いなので話題を転換させるか。
「凄い……ですね」
「凄い?どこがよ」
「俺なら間違いなく心折れますもん」
「アンタメンタル弱そうだもんね」
「あー傷ついたわー」
しんみりした雰囲気を吹き飛ばそうと自虐ネタで笑いを取りに行く。自虐と銘打つだけあって、自身にもそれなりのダメージがやってくる。
「別に気なんて使ってくれなくていいのよ?」
なんだばれてるじゃないか……これじゃあただの痛い奴だ。
「いらん気遣いでしたか。柄にもないことするからこうなるんですよ」
「でもそれくらいできないとモテないわよ?」
矢沢先輩はクスクス笑いながら冗談半分にそう言ってきた。やはりこの人は笑顔がよく似あう。っていきなり考えてることが気持ち悪いわ!
……そろそろ時間も遅いし帰ろうか、あまり居座っても迷惑だろう。
「じゃあ今度こそ帰ります」
「わかったわ」
俺は丁寧に言ったが、矢澤先輩はぶっきらぼうに返した。
お茶の残りを飲みほしてから、キチンとお礼を言ってから席を立つ。
「あぁ、また来てもいいですか?」
矢澤先輩と話すのは楽しいし、それにこの人が好きなアイドルについても少し興味が出てきたから。
「はいはい好きにしなさい。大したおもてなしもできなくてもいいならね」
「はい、喜んで来させてもらいます」
少しだけ軽く感じる心持で、俺は扉を開けて外に出た。
アイドル、それに学園単位のスクールアイドルね……。その言葉はどこか不思議な響きで俺の脳にするりと入ってきた。心はざわつき、居ても立っても居られなくなった。
「家に帰って色々と調べるか」
心の中のざわめきはきっとその時運命か何かを感じていたのだろう。スクールアイドル、それは俺の学院生活を大きく変えることになるとはまだ知る由もなかった。