Another School idols diary 作:藤原久四郎
「こんにちは」
「あ、こんにちは陽月さん。お待ちしてました」
先程の茶番から少し疲弊しながらも、約束もあるので休まず武道場に俺はやってきていた。
ちなみにことりさんは今日は穂乃果さんと帰ったらしい。ここに来る前に一応二年生の教室によってきた所、一人の見知らぬ上級生にそう教えられたのである。それで終わればよかったのだが、何やら俺とことりさんの関係を探ってきたため、まともに受け答えするとボロがでると既にわかりきっていたので素早く逃げ出してはきたのであるが、お蔭で疲労が二割増しくらいになった。
「では、今日も頑張りましょう。とりあえず着替えをしてきてください」
「うーっす」
まだ二回目だが、すっかり武道場の事には慣れてしまっていた。どこに何があって、入ってはいけない……まぁ、女子更衣室などの女性専用の箇所だが。とにかく俺は海未さんから予め使っていいと言われている、唯一の女性専用ではないただの置物部屋を借りて着替えを始める。さっきから女性だのなんだの言っているが、よく考えたらこの学院男俺だけだったわ。
という事で、誰かが着替え中に入ってきただとか間違って女子更衣室に迷い込むだのアニメチックなイベントもないまま、いつも通り海未さんに稽古をつけて貰う事になった。
「では、今日は趣向を変えまして……私から仕掛けさせてもらいます」
「え、つまりボコボコにされろと?」
「なんでそんな極端なのですか……そうではなくて、普通に回避運動の練習です」
「あぁ良かった。無駄に百回近く殴られるのかと」
「も、もしかして根に持ってますか?」
「さぁ、どうでしょうね」
絵里さんや矢澤先輩に無駄にからかわれた分、何故かここで俺のSスイッチが物凄い勢いでオンになっている。俺の思っている以上に鬱憤はたまってきている様だ。
「で、それでなのですが。陽月さんは仮に殴られそうになったらどうしますか?」
和やかだった雰囲気も少しだけ締まり、海未さんは真面目な表情をしながら俺に質問を飛ばしてくる。
「そうですね、まぁ避けますね」
「至って当たり前ですね。それで、どうやって避けますか?」
これはアレか、少しずつ発展していく形の質問か。
「うーん……普通に拳を見てだとか、ですかね」
「そうですね。間違ってはないですが、実際は危なかったりします」
「そ、そうなんですか?」
「考えても見てください。相手の本気が突如目の前に来たとして、それを避けられますか?」
と、問いかけられた通りにその状況を手っ取り早く海未さんで考えてみる。
……うん、拳の届く距離でいきなり殴られでもしたら、間違いなく避けれないな。
「うーん、じゃあどうするんですか?」
「そうですね、相手が近いなら少し距離を取りましょう。この場合なら事と次第によってはそのまま逃げ出せますしね」
「ほほう、とりあえず距離はとれと。じゃあ距離がある場合で明らかに避けられない場合なら?」
「その時なら、体の動きなどから予測しましょう」
ここでまた海未さんシミュレーションをしてみる。少しだけ距離のあるところから、助走をつけてのインパクトか。……まぁ、横跳びだとかしゃがみだとかある程度避けられそうな感じはするな。俺は素人だからなんとも言えないけどさ。
「と、言う事でまずは陽月さんがどの程度の動体視力、及びどれだけ動けるかのチェックをさせてもらってもいいですか?」
「まぁ、それやらないといけませんもんね。どうぞどうぞ、お手柔らかにお願いしますよ」
ふぅ、と俺と海未さんはお互い息を吐いて距離を取る。お互い一歩踏み込めば手の届く、それくらいの距離感でお互い目と目を合わせて、俺は海未さんが動くのをじっと待つ。
「では、いきますよ!」
「はいッ!」
海未さんは一歩踏み込んでまずはお試し、と言わんばかりに俺の腕辺りを狙ってきた。勿論その程度避ける事も難しくなく、俺は言われた通りある程度の距離を維持すべく足を軽く開いたまますり足で後ろに下がる。
「流石にこれくらいは余裕ですね。では少しだけ本気を!」
「……ッ!」
今度は完全に実戦レベル、流石に狙いやすい部分である腹部をまたしても一歩素早く踏み込んで狙ってくる。どうする……いやしかし流石海未さんだ。会話からの動きまでがまるで無駄がなく、公平な立ち位置であるのにまるで不意打ちをされたかのように俺は動けない。
まぁ、だからと言って体は俺の心より正直なようで。
「……っ。今のを避けますか」
「いやいや、当たったら痛いじゃないですか」
俺の体は、命じるよりも早く半ば倒れる勢いで後ろに後退していた。海未さんの踏み込みの距離、それと不意打ちに近い攻撃から避けるにはどうやらこれが最善だったようだ。
おかげで少しふらついたものの、すぐによたついた足を元の動きやすい少し開脚した状態に持っていく。
「どうやら陽月さんは動体視力に判断力、どちらも優れている様ですね」
「ははは、そりゃどうも。自分でも意外ですけど、案外動けてます」
「もしかして、昔何かやってましたか?」
「いえいえ、全くのド素人ですよ? そんな記憶ないですもん」
「……にしてはやけになれているような」
「ま、あれじゃないですか? 単に人より危機感知能力があるとか……いや、それはないですね」
そんなのあったら、絵里さんに水ぶっかけたりしないわ。
「そうですか……では、今度は止まらずに何度か試してみてもいいですか? 流石に本気では当てないので」
「いいですよ。出来れば本当に手加減してほしいものですけど」
「……いざ!」
今更だが、俺は別に構えを取っているわけでもない。ただ記憶からそれらしいポーズを取っているだけだ。右足を前にして、手はなんというかファイティングポーズのソレである。それが存外俺の動きに合っているようで、体は俺の意思とイメージと寸分違わぬ動きを可能にしていた。
「その構え……誰から教わったのですか?」
「さぁ……漫画かなんかじゃないですかね」
「……いきますッ!」
対して海未さんは、何の構えかはわからないものの、片手をつきだして足を肩幅程度に開いている。足の動きは地面にするかすらないかギリギリの長さになっていて、次の動きがわからないようにされている様だ。
「っととと、危ないな……。も、もしかして本気ですか?」
「正直、陽月さんは手馴れているように感じます。私も決して手を抜いてやっているわけではありませんから」
「た、ただ本気で避けてるだけなのにッ!」
軽口をたたきながら余裕をちらつかせてはいるが、事実かなり避けるだけなのに追いつめられていた。避けるだけとなれば、もう後はよく観察するしかないが……海未さんの動きは体が一切ぶれず重心移動とでも言えばいいのか、次に起こす行動が異常なまでにわかりづらく、俺は近づかれたら下がる、攻撃が来たら事によっては体を逸らして受け流し、避けるの繰り返しをしていた。
「あ、明らかに手数増えて……おわっと、なんだ?」
「ようやく追いつめましたよ……」
いくつかのやり取りを繰り返すうちに、俺は気が付かない内にもかなり後退を繰り返していたようで、壁にぶつかってから初めて追いつめられた事を悟った。
「これでもう後ろには避けられませんよ。陽月さんは回避の際に後ろに下がる傾向があります、それを封じられてどう動きますかッ?!」
「ちッ」
ど、どうすればいい。海未さんはほんの少しだけ余裕の笑みを浮かべてから、明らかに本気の勢いで掌底と呼ばれる物を、右腕を使って俺の胴体部分をめがけて放っていた。
避けようにも背後には壁、横に跳ぼうものならこれもきっと予想されているから、どうしよもないだろう。
間に合わないッ――海未さんの手のひらが俺の腹部に吸い込まれていく。
『一つくらい、武器はもっとくべきだぜ?』
「……ッ!」
「な、なんですっ?!」
俺は諦めかけた瞬間、この場を咄嗟に切り抜ける方法が頭によぎっていた。俺の腹部にめがけて放たれていた手、ではなく腕の辺りを同じ方向――つまり左手で思い切り流れに任せてはじいていた。そして開いていた右の足を滑らせるように踏み込ませ、そのまま右足を軸にして半回転し海未さんの背後に移動する。海未さんは咄嗟の事に驚いた様で、動揺の表情を浮かべながら動けないままでいた。
俺はそのまま動かない海未さんの開いている手を勢いよく掴み、軽く捻り上げた。そこまでは気が付けば、と言った感じで無意識に体が動いたが、ここにきてやりすぎたことを状況から察し、思い切りやりかけたところ、軽く腕を上げるだけにとどまった。
「……完敗、ですね」
海未さんは油断していたのだろうか、それともただ本当に動けなかったのかはわからないが俺の動作が終わるまでまるで動く様子もなく、そして敗北を認めた今も決して動こうとする素振りを見せていなかった。
「はぁっ……す、少しは手を抜いてくれたっていいじゃないですか……びっくりした」
「ビックリしたのはこっちの台詞です。それに今のは、明らかに私の慢心を誘ってから行動しましたよね? でなければあれほどまでに綺麗にやられることはなかったでしょう」
「でも別に、俺はただ必死で……今のも無意識っていうか……」
「もう隠さなくてもいいですよ、実は昔道場にでも通っていたのではないですか?」
そういえば、と俺が捻り上げた腕を離すと、海未さんはふぅ、とため息をつきながらさっきとは逆に、今度は海未さんが壁にもたれかかって話しかけてきた。
「いやでも、本当に俺なんもしてませんよ? マジで漫画だとかその辺くらい……しか」
「やけに自身なさげですね。ですが陽月さんがそう言うなら、きっとそうなのでしょう」
俺に自信がないのは、漫画程度を呼んだだけでそんな動けるものではないと、言いながらにしてそう思ったからだ。かと言ってそれ以外に思い当たる節もないので、奥歯に物が挟まった言いかたしかできなかった。
「ですが、陽月さん。陽月さんはどうやら動体視力、それに反射神経。そして咄嗟の判断力があるようです。次から、少しステップアップした事もできそうですね」
「お、これはもしかして免許皆伝フラグですか?」
「……本気にしますよ?」
「嘘です。できれば園田流の一割くらいでいいです」
「ですよね。では今日の特訓は終わりです。少し練習メニューの改善ができましたので」
「ほ、ホントお手柔らかにお願いしますよ? その内魔改造されてそうで怖いんで」
「ふふふ、陽月さんが本気にさせたのが悪いんですよ?」
「さ、さささ。帰りましょう帰りましょう! あまり遅いと心配されますよ!」
ほんの少しの冗談を思いヘビーブローで返されながらも軽い冗談を交わしあった後、俺と海未さんは揃って武道場を出て学院を後にした。
これ読んできっと思う所もあるでしょう。ですが、筆者は特に何も考えずに書いております。
というか、大抵の事柄に関して頭でただ考えたことをそのまま文字にしてますので、それ無理じゃね? という疑問が来た場合、そうですね。としか言えませんご了承ください。私自身リアルな描写苦手なので。
それに、この作品はフィクションにしてギャグテイストですので、そのあたりは悪しからず……
と、いうことで駄目だしのお指摘お待ちしております。