Another School idols diary 作:藤原久四郎
「……ッ!?」
「ど、どうしたの陽月くん?」
「い、いや……なんか全身に突き刺すようなテキサスの予感が」
「そんないきなり思いついたおふざけは別にいいよ……」
と、言うのは冗談で普通に何やら嫌な予感がした、そんなデパート前でのことりさんとの会話。そして二人揃って入店し、軽快なBGMの鳴り響く店内をそのままことりさんと話しながら歩いていく。よく考えたらここの名も知らないデパートに来たのは初めてであった。至って普通の、どこにでもありそうな平々凡々な店である。
「それで聞いてなかったんですけど、布ってどんなの買うんですか?」
「えっとね、次に使えそうなのだけれど……一応セールだからいいの残ってるかわからないけどね」
「ま、俺は衣装作りの事とか知りませんからわかんないですけど」
「そうだったね、なのについてきてくれたんだ?」
「いや、それは指名されましたし……三年の鬼に囲い込まれてたし」
「やっぱり陽月くんはいい人だね。普通ならこんな優しくしてくれないと思うよ?」
「そ、そうですかね……下心丸出しなだけの可能性もありますよ?」
「……そうなの?」
笑顔から一転、その顔を曇らせながら上目づかいでことりさんはこちらにうるうるとした瞳で訴えかけてきた。そういう男的にどうしよもない反応は反則だろ……。
「はぁ……かないませんね。普通に困ってる人がいたりしたら手伝うのは当たり前ですから、特別ことりさんを意識してるとかじゃないですよ」
「そっかぁ~なら安心!」
二重の意味の安心では、と思ったもののツッコむと俺の方がダメージを受けそうなので追及はなしだ。
そうこう会話しながら歩いていると、ことりさんがある一角で足を止めた。
「ここだよ~ことりがよく来る所なんだ~」
「へぇそうなんですか……ん?」
ことりさんがこちらに向きながら、笑顔で指さした店内はなんと
「完売、完売でーす!」
すっからかんのもぬけの殻になっていた。
「う、嘘だよね……?」
「俺のほっぺを抓ってください」
「はい……」
「いででででどうやら現実の様ですね」
「えぇ……そんなぁ……」
俺とことりさんがやってきた所で、店員らしきエプロンをかけた青年が声を張り上げて完売であるという事を声高く宣言していたのだった。俺もことりさんも、思わずふざけるぐらいには完売、という言葉にショックを受けていた。
(そんな、まさか完売するなんて……)
(まさか本当にほっぺを抓られるなんて……)
冗談が冗談にならない中、俺とことりさんが立ち尽くしているとようやく声を張り上げるのをやめた店員らしい青年がこちらに歩み寄ってきた。
「あーもしかして買いに来てくださったお客様ですか? すいません、たったいま全商品完売いたしまして……」
「本当ですか……? 実はまだあったりとかしないんですか……?」
「え、えーっと……もうないですね……店に出されてる分はもう全部売り切れてしまって……」
「そ、そうですか……」
「こ、ことりさん元気出してください」
「しょうがないよね……売り切れる事なんて普通だし……」
「そうですよ! 買えなかったからってそんなに落ち込むことないです!」
「ますます部費がかさむよぉ……」
「現金的な問題かよ!」
なんとも世知辛い部活事情を考慮した発言をしながら、ことりさんは明らかに落ち込んでいた。ちなみにどうでもいいが部費は俺も出しているし、今の今まで何に使われているのか知らなかったが、どうやら衣装代などに消えていたらしいことが今のことりさんの発言からわかった。
……じゃあ俺関係なくない!? 俺に部費を払うようにせかしてきた矢澤先輩にどういう事か問い詰める必要があるようだな……。
「お、お客様……で、では少々おまちください、在庫の方も確認させてもらいますので!」
そう店員の青年は駆け足で店内のバックヤードに向かった様で、店前から奥のドアをくぐって裏に行ってしまった。
「店員さん、優しいですね」
「う、うん……それよりどうしよう、ここ以外だとちょっと高いお店しかないし……」
「割と現金的な問題はどうしよもないですしねぇ、それに全員分の布ってなると尚更」
「そうなんだよぉ、初めの時とか二回目の時とかは出来るだけ手近で揃うように皆で安く買ったりしたんだけれど」
「だけれど?」
「その、オープンキャンパスの時はここが勝負! って事だったから普段より奮発して良いモノ買っちゃったんだぁ……」
「あ、だからあんなに手が込んでたんだ……」
一応、俺もその日に撮影はしていなかったが、誰かしらが上げたオープンキャンパスの動画は見てはいる。撮影自体はヒデコさんだとかがきっとやってくれたんだろう。
「それで、だから今部費とか、皆のお財布事情もあまりで……」
「……もしかして、最近バイトよくしてるのってソレが原因ですか?」
「う……言ってなかったけれど流石にばれちゃうかぁ、あはは……」
「それは皆に言ってるんですか……って言ってるわけないか、じゃなかったら俺だけをこうして買出しに引っ張りだしたりもしないですもんね」
「う~陽月くん全部わかってるんじゃない~」
「ははは、流石にこれだけ言われれば猿でもわかりますよ」
「お猿さんにはわからないと思うよ?」
「い、今のを額面通りに受け取らないでください!」
ことりさんは時々こうしてボケを殺してくるからやりづらいったらありゃしない。それに明らかに楽しんで言ってきている物だから、純粋な相手より余計にやりづらい。
「まぁ、とにかく無茶ばっかりしないで皆を頼ってくださいよ。俺だって少し位力になるし、今もなってるつもりでいますから」
「ふふふ、そうやって心配してくれるし、やっぱり陽月くんは優しいね」
「はい、そういうことにしときましょう。これ以上ボケるとなんか疲れそうですし」
「え~っ、力になってくれるんじゃないの~?」
「そういうのじゃないです」
ことりさんの心情は相変わらず読みづらいものだ。こちらに好意を見せているのか、それともそう見せているのか、どちらでもないのか、という事を考えるくらいには掴み所がない。
ことりさんと不毛に近い会話を繰り返していると、バックヤードから再び例の店員さんが戻ってきた。
「あーすみません、実は在庫まだあったみたいで……と言っても人気のものとかは完全に売り切れてて、ほんの少ししか無かったですけど……それでもよければ持ってきます!」
「ですって、ことりさん」
「うーん、お値段の方はいかがなものですか?」
「高いのだと……十四万ですね」
「ウッソだろ?! 絶対ぼったくりやろ……」
「あーやっぱりそれくらいですかぁ」
「え、納得するの?」
「安いものだと、セットで千円くらいでした」
「落差! そんな安いのだと不安なんじゃないですか、ことりさん?」
「あ、それ買います!」
「思いっきり安さにつられてる?!」
何? この知らない世界故に起こる値段崩壊は。
「じゃあ少しお待ちください、セットですので纏めてきます!」
「は~いお願いします~」
再び店員の青年は、ことりさんのお願いを受けて駆け足でバックヤードに戻っていった。
「というかモノも見ずにいいんですか……?」
「一応何がセールに出てたかも知ってるし、きっとあの値段なら残ってるものも悪いものじゃないと思うよ?」
「えぇ……? じゃあ十四万って一体……」
「そ、それはちょっと知らない方がいいかも」
ことりさんは、何故かその十四万の布に対しては言葉を濁した。一体どんなものなんだ……もしかして人皮とか?
「流石にそんな恐ろしくないよ~?」
「ま、また読まれてる……」
相変わらずのエスパー学院である。
「にしても、ことりさんもしかして元々あの千円の買うつもりだったんですか? まるで悩む様子もなかったし」
「えへへ、実は元々買うつもりのだったんだぁ。種類も少ないセットモノだからきっと買われないと思ってたし~。売り切れって聞いた時は流石に驚いたけどね」
「へぇ~、読みは当たってたわけですか。ちなみにセットっていうくらいですし、中身はいくつか種類があるんですよね」
「うん、黒と白とか、後は縞模様とかの簡素なモノばっかりだけどね~。それでも、一応使えると思うし、私のお金だけでも出せるから」
ここでも、自分だけでどうにかしようとしていることりさん。たかだか千円、皆で分ければ百円程度にしかならないというのに。
「でも、あんまり無理しないようにしてくださいよ? さっきも言ったけど皆むしろ頼ってほしいって思ってるだろうし」
「でも、やっぱり皆には迷惑も心配もかけられないな~って。私、そんなにできる事ないから……穂乃果ちゃんみたいに表に立てないし、海未ちゃんみたいに冷静にいられないし……」
突然のことりさんの言葉にそんなことない、って何の気なしに言おうとした俺の口は何故か動かないままで、ただやや暗い言葉を何も言わずに受け止めていた。ことりさんだって衣装を作ったり、皆の事をこうして深く見てたり、色んな良い所あるじゃないかって、俺には何故か言えなかった。でも、こうして真面目に聞くのはこういうふとした瞬間に出てしまう、心からの本音を聞きそびれたくなかったからだと思う。
「あ、ごめんね……こんな事言うつもりじゃ」
「……やっぱり、ことりさんはもっと皆を頼ってください。じゃないと本当にいつか、いつか折れちゃいそうだから」
「で、でも……皆に迷惑は……」
なんだろう、コンプレックスから来るものなのだろうか、いつになく寂しげに、いつもなら言わなさそうな事をことりさんは言葉にして紡いでいる。穂乃果さんも、海未さんも、この人からしたら羨望の対象なんだろうか、それらと自分を比較してるんだろうか。そうだとしたらきっとそんなこと、本当に些細な事なのに。
「ふー……俺の個人的な意見、いいですか?」
「えっ……?」
「俺も、皆もそんなに頼りないですか?」
「そ、そんなことないよ? ただ、私と違って皆は大変だから……」
俺もきっと……いや、絶対にことりさんの立場だったら同じように考えていたことだろう。確かに皆才能に溢れて、輝いている。そんなもの、俺から見たってわかる。だからって、そんな自分を犠牲にしようとしないで欲しい。俺なんかよりも、頑張ってる人が。俺よりも、輝いてる人が。
「もっとさ、信用してくださいよ。楽しいならもっと喜んで、辛いなら頼って、困ってるなら助けますから。何度も言いますけど、頼ってください。皆、心配しますよ」
「……わかってるよ?」
「なら……」
「じゃあ、もっと頼っちゃうよ? 陽月くんが悲鳴あげたって、もう無理って言ったって」
「ははっ、上等ですよ。なんたって、唯一の男ですから」
俺は別に気取っていったわけじゃないのに、何故かくさい台詞はいていたのだった。そして、何故かふと今の言葉は駄目な予感がする。
「…………いい事聞いちゃった♪」
そしていつのまにか、ことりさんの声はいつも通りの明るい声に戻っていて、さっきまでの不安げな声音は微塵も感じられなかった。
そして何故か、嫌な予感が胸をよぎった。もしかして、これは誘導されたのか? というさっきよりも確信的な予感がする。
「えへへ、ことりね、皆の事大好きだよ。たぶん誰よりも」
そんな俺の思考を遮るように、やや照れ気味にそう言うことりさんの言葉からは、μ’sの事を本当に考えているであろうという思いやりがひしひしと伝わってくる。μ’sの財布事情だとかを鑑みていたり、こうやって皆の事を考えて自分を犠牲にしようとしていたりする……意外と陰で支えているのはことりさんだったりするのかもしれない。
だから……そんな皆を一番近くで見てるの、誰だと思ってるんだ。
ことりさんの普段では聞けなかった不安というか、コンプレックスというか、本音を聞いていると先程バックヤードに戻っていった青年が、こちらに駆け寄ってきていた。
「お、お待たせしました! こちらですね、お会計はこちらで……」
「あ、は~い!」
そういってことりさんは店員に連れられてレジに向かって行った。
そして、俺はひとりその場に立ち尽くして、
「……俺からしたら、みんな眩しすぎるんだよ」
誰に言うわけでもなく言葉を漏らしていた。
劣等感に満ちた言葉を。
切り替えが難しい。
投稿が遅れている。
書いては一日、書いては一日とつぎはぎでやってるので、変な所がめだつかも……やっぱりまとめて書かないとなぁ。
頑張る。