Another School idols diary 作:藤原久四郎
「ねぇねぇ、あれ美味しそうだね~」
「ですがいくらなんでも多すぎでは?」
「でもおいしそうだにゃー!」
「あれ二人で食べるのかな?」
「え、陽月そろそろ爆発しないの? しかも丁度陽月の背中しか見えないし」
「にこっち物騒なこと言わんといてや~」
「もう、皆静かに見れないの?」
「絵里……楽しそうね……」
「あら、真姫。ようやく名前で呼んでくれるのね?」
「い、いい加減呼びづらいからよ!」
「あら~真姫ちゃん可愛やん!」
「み、皆声が大きいよ~!」
そんな不審者集団と化した八人……もといμ'sのメンバー達。彼女たちは大胆にも内部店舗のスターファックスカフェの、壁を一枚隔てた解放された入口部分から潜入よろしく二人を観察していた。もちろんその二人とは陽月、ことりの事だ。
「ねぇ、あの人たち大丈夫なんだろうか」
「んー大丈夫大丈夫、一応知らない人じゃないから」
「えーマジ? ならいいんだけどさ」
「そりゃ校内では有名人だもん」
「あ、もしかして前言ってたμ'sとかいうせっけ――」
「スクールアイドルね」
「あ、そうそう。思ったより聞いてみたら曲も良かったしダンスも良かったけど、彼女たちも案外普通の学生なんだね~」
「そりゃそうですよ。ってそれより先輩、仕事仕事!」
「へ、へーい。もうアレは作りたくないんだがなぁ……」
「もう、グダグダ言ってないでお願いします!」
そしてそんな不審者と化したμ'sを眺める店員らだが、そんな現在進行で残念な事をしている彼女らの事を知っており、活動の頑張りからか世間からの認知度は確実に上がっている様だった。だが残念な行動をしている事実には変わりないのだが。
「はぁ……なんで喫茶店に入るだけでこんなに疲れにゃならんのだ……」
「ははは……なんかごめんね……」
「別に責めてるわけじゃないですけどね。それより、早く飲む……っていうより食べる? とにかくこの超重量物体食べましょう」
「う、うん。陽月くんも名前呼ばないんだね」
「覚えれないですから……」
という事で、店員を酷使してやっとの事で辿り着いた席にて俺とことりさんは例の長文ドリンクという名の名状しがたい物体に手をつける事にした。
「にしても、これどこから食うんだ……?」
「う、うーん……とりあえず上から?」
「クリームやらチョコやらイチゴやらその他諸々やら、上だけでもケーキで出せそうなラインナップになってますねこれ」
「でも、やっぱりお得感あるよね~」
「途中で飽きそうですよね」
「でもデザートは別腹って言うよ~」
「別腹も限界があるんじゃないですか?」
「も、もう……そうやって全否定するのよくないと思うよ~? 女の子の会話はとりあえず相槌打って愛想よくしとけばいいって雑誌でも見たよ?」
「あぁ~そうなんですか~初めて知った~」
「な、なんかイライラしちゃうな……」
「やっぱり雑誌はあてになりませんね」
「も~! 美味しそうな所だけ食べちゃお!」
「なっ、クリーム以外のトッピングばっか食べないでください!」
ことりさんは俺の何の気なしの意地悪な返答にムッとしたかと思うと、今度は一変して無邪気な赤子の様な笑顔を浮かべながら、見た所美味しそうなクリーム部分以外の所をパクパクと食べ始めた。
「ちょっと、俺の分も――」
「早いもの勝ち~!」
「ッ、なら俺だって負けねぇ!」
久々の甘味だ、俺だって心なしか腹もなっている。例のドリンクに突き刺さっているスプーンを俺も引っこ抜き、負け時と食べ始める。だが時すでに数秒遅し、俺の手前にある側は綺麗サッパリホワイト一色になっていた。いや、早すぎだろ。
「えへへ~陽月くんが悪いんだからね~」
「だ、だからって何も全部食べなくたって……」
「乙女の純情を蔑ろにしたのがいけないの!」
「純情って食い意地の事だっけ……」
「も~! またそうやって~!」
「わ、わかりましたから!」
「もう、わかればいいんです!」
またしても意地悪な事を言うと、ことりさんは顔をプクッと膨らませて怒りを露わにして拗ねてしまった。でも、どこかことりさんの怒った顔も新鮮な感じがして、可愛く見えた。
「ってことりさん、頬にクリームついてますよ?」
「え、え? どこどこ?」
俺はプクッと膨らませている頬に、ほんの少しの白いクリームが付いている事に気が付く。ことりさんはそれを聞いて必死に顔をペタペタと触っていくが、どうにもピンポイントでクリームの所に手が下りていかない。俺みたいな男だったら思いっきりゴシゴシこすって終わりなんだが、女の子だからだろうか、優しく可愛くペタペタと触れるだけである。
「もう、取ってあげますからちょっと動かないでください……」
「え、えぇっ?」
俺はことりさんの方へ体を乗り出し、ポケットから出したティッシュを使って未だに戸惑い気味のことりさんのほっぺについているクリームを、少し体を乗り出して有無を言わさずにふき取ってやる。
「も、もう~そんな事しなくても子供じゃないんだから大丈夫だよ~」
「まぁまぁ、そう言わないで。たかだかふき取るだけじゃないですかハハハ」
ことりさんはプンスカという擬音がこれほどまでに似合うのか、というくらいに幼い子供を連想させる照れなのか恥ずかしさなのか、それとも両方かもしれない表情を浮かべていた。いつもは弄られる側だったが、こうしてこちらか弄ってみると、また違った一面を見ているようで新鮮だし面白いと感じた。
バキィ!
「な、何の音!?」
「しかも結構近いし」
傍から見たらどうみても恋人のソレのやりとりをしていた俺とことりさんは同タイミングで、どうやら入口部分の辺りからしたらしい大きな音に思わず振り返る。
「ひ、人が倒れたぞー!」
「た、担架だ! あ、でも平気そうだ」
「こっちはなんか呟いてるぞー!」
「いったいどうしたって言うんだ!」
こっちの台詞だよ。俺たちの席からだと、入口付近で何かしているという事と、何か騒いでいる男女の人らしい声が聞こえている事しかわからず、結局騒動が収まるまで待つしかないようだ。
「な、なんなんだ一体」
「でもこれじゃ出ていけないね……」
「ですね……ま、これの残りでも食べて待ちましょうか」
「うん、千円もしたからね!」
「それにまだ半分も減ってないですもんね……」
「う、うん……」
結局、俺もことりさんも当分は甘いものを取らなくてもいいと思えるくらいには糖分を摂取することになった。その間何やらさっきの騒動の続きが繰り返されていたようで、結局食べ終えて少し休憩を挟んでやっとスターファックスを後にする事ができたのだった。
何故か外に出ると、バラバラに砕け散った謎の人形らしきものが転がっていたのだが、何故だろうかそれを見るとゾッとする思いだった。でもちゃんと清掃しろよ。
時は少し戻り、陽月が長文ドリンクの重さに悶えている所までさかのぼる。
「うわ~すっごいねアレ」
「全くですね。ですが美味しそうです」
「かよちん今度一緒に食べにこよー?」
「うん、凛ちゃん。でも絶対食べきれないよね……」
「ちょっと非常識すぎる量よね」
「しかも確かここ、今カップル割やってるらしいやん~?」
希が何気なくはなった一言によって、一同が同じくしてガタガタと動揺を始める。
「陽月も、自覚あるんじゃないのかしら?」
そこに我もと言わんばかりに絵里が乗っかる。陽月の事で彼女ら二人は明らかに楽しんでいる様子だ。
「そ、そうなのかなぁ……最近ことりちゃん一人で何処か行っちゃう事多いから……」
「そそそ、そんなことりに限って私たちに何も言わないなんて事は!」
「陽月くん、やっぱり誰にでも手を出してるのにゃー」
「ははは……」
「私もノーコメントね」
それぞれが別々の反応を取る中、そういえばと言った感じで一人が何も話していない事を、何故か自分たちの視線の先の反対側からプレッシャーが放たれている事を全員が同じタイミングで把握し、あまりの異常さに全員が背後へ振り返る。
「…………どうしたの?」
そこには、至って普通のにこが笑顔で、とても笑顔で居たのだが……
「あ、あの……一ついいですか? にこ先輩……」
「ん? どうかした穂乃果」
「その、片手に握られてるのは……?」
「あぁ、これ? 人形よ」
「え、えぇ……そうなんですけど、なんでそんな物を?」
「気にしないで?」
「え、でも……」
「き、に、し、な、い、で」
「あ、はい……」
「と、とうとうにこ先輩が壊れたにゃー!」
穂乃果が言っていた人形とは、にこの片手に何故かいつの間にか握りしめられていた肌色の特にデザインの施されていない人形だ。それが何かは穂乃果たちに知る由はなかった。
『…………ことりさん……』
『え……え?…………』
「ちょ、ちょっと! 皆少し静かに!」
全員が後ろを振り返っている間に、陽月がことりの方に向かって体を乗り出していた……様に彼女たちの位置からは見えるだろう。そんな突然の状況に彼女たちは再び息を飲み、次の行動を見逃さぬようにと凝視し始める。
『……動かないで…………』
『えぇ…………』
「な、何が起こってるの!?」
「わ、わかりません! ですがこれはもしや……」
「わ、わわわ…………」
「り、凛ちゃん大丈夫?!」
「うわ~陽月もこんな所で大胆やわ~」
「はぁ……場所くらいわきまえなさいよ陽月……」
「これは面白くなってきたわね~」
そして陽月は片手をことりの頬に手を添えて、更に少しの間硬直していた……様に彼女たちにはそう見える事だろう。そして言うならば彼女たちの視点から見えたのは陽月の行動は、まるでことりにキスをしに行っているように見えたことだろう。
「あ、あわわわ……陽月がことりちゃんにキスしてるよ……」
そして、穂乃果の決定的な一言で彼女たちの『そう見える行動』の疑念は確信へと移り変わった。
そして、まず第一にアクションを起こしたのは、
「は、破廉恥ですぅぅぅぅ……」
「う、海未ちゃーん!」
恋愛事に対してまるで耐性のない、海未だ。彼女は家で見ていたドラマのキスシーンですら耐えられず見れなかったという。そんな彼女が『そう見える行動』を見てしまったのだ、そのショックは計り知れないモノだろう。
そんな海未の反応を見てか、全員に動揺が走る。
「はぁ、私帰っていいかしら」
「駄目よ真姫ちゃん~まだまだ怪しい事だらけやん~?」
「そうよ、真姫。私たちがわざわざこうしている理由を忘れたの?」
「だから余計に帰りたいのよ……」
この絵里の言っている理由という事については、彼女たちが部室を出る前のちょっとした会話がきっかけだった。
『最近ことりちゃんの様子が変です!』
『穂乃果、それはどういう事?』
『最近私たちといる時も上の空の時があったりします!』
『そういえばことりちゃん最近部活でも早退してくようになったもんな~』
『でもでも、何か用事があるんじゃないのかにゃー?』
『そういえば、陽月くんも最近予定聞いたりすると動揺してたりするよね』
『花陽、今それ関係ないんじゃない?』
『そうなのね……幼馴染の穂乃果がそう言うなら最近のことりは少し変なのかしら。海未はどう思う?』
『そういえば最近海未ちゃんも、遅くまで学校に残ってたりするよねー』
絵里の何気ない問いと、穂乃果の至って普通の疑問を振られた海未だが、自分にはごく最近忘れたくて仕方がない、陽月に関する恥ずかしい出来事があった。もちろん胸を揉まれたことである。
『わ、私は何も知りません!』
それ故に、彼女は現在陽月の事となるとやけに敏感だった。顔を見るだけで殴り飛ばしかねない勢いで。
『それにことりちゃん、今日の事も私たちに話してくれなかったし……も、もしかしたら二人で何かナイショの……?』
何気なく放った穂乃果の言葉は、疑念が渦巻く現状では火に油、むしろそれ以上に彼女らをヒートアップさせるには十分すぎる爆弾発言である。何の気なしに言ってのける穂乃果は、中々に恐ろしい人物だ。
そんな穂乃果の言葉を皮切りにそれぞれが思い思いの想像を膨らませる中、沈黙を破って口を開いたのは先程まで押し黙っていたにこだった。
『あとをつけましょう』
という事で、あとはなし崩し的に全員でストーキングを開始したわけだったのだ。
「まぁまぁ、とにかくもう少し――」
希がもう帰らんとしん勢いの真姫をなだめていると、そういえば現状で唯一動いていない人物がいる事に彼女は気が付いた。それはまたしても全員が同時に気が付き、倒れた勢いで穂乃果の腕の中で抱かれている海未以外が全員、またしても同タイミングである人物の方を注視する……その直前。
バキィ!
「ひっ……!」
「な、何の音にゃ!」
全員が振り返ると、またしても冗談のような眩しい笑顔を浮かべたにこが、その笑顔に似つかわしい事をしていた。先程まで手に握っていた人形を、まさに木端微塵という言葉が似合うくらいに握りつぶしていたのだ。相変わらず手の方が心配になる。
「に、にこ先輩……?」
「…………ブツブツ」
「こ、怖いにゃー!」
そうこうしていると、彼女たちの声はそれなりに響いていたようで軽い人だかりができ始めていた。それもその筈、現場はこそこそとしていた女学生たちが突然騒ぎ出したようにした見えないからだ。むしろこそこそしていた段階で声をかけられなかったのが奇跡だ。
「これはよくないわね、一旦離れましょう」
「絵里ちも、気が付くの遅いと思うんや」
「だから帰りたかったのに……」
割と冷静な三人は、何やらブツブツ呟いているにこと、倒れた海未を介抱していた穂乃果と、少し取り乱した凛とそれによりそう花陽を連れてその場を後にしたのだった。
そしてその場に取り残され、砕け散った人形からは物凄い哀愁が漂っていた。その哀愁に満ちたのっぺりとした表情からは『陽月くたばれ』と誰かの意見を代弁せん、とばかりにも見える。そんな無残に砕け散った彼は、後で清掃スタッフに回収されたとさ。
一週間かけてこのクオリティ、適当さが垣間見える。
そしていい加減進めよ本編という罵倒と感想はいつでもウェルカム。