Another School idols diary   作:藤原久四郎

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また一週間経ってた。


ウサギは誰の所に?

「おえぇぇぇっ……もう食えん……」

「わ、私も……お腹いっぱいだよ~」

 

 無事例の長文ドリンクを完食、とでも言えばいいのだろうか。平らげた俺とことりさんは少しの足止めを食らった後スターファックスを後にし、結局二人とも休憩を取っていたのにも関わらず満腹すぎて近くに合ったエレベーターの傍に合ったベンチに腰をかけていた。

 

「うぐぐぐ……俺食べたのクリームばっかりだったのが原因なのか……?」

「な、何のことやら~」

「途中から明らかに口の中がクリームクリームしてたような……」

「あぁ~あんなところにいっぱい女の子が~」

「え、嘘どこ!?」

「……えっちだよ」

「はっ、騙しましたね!」

「えぇ……騙される方もどうかと思うよぉ」

「うぷっ……急に動いたから吐き気が」

「や、やめて~!」

 

 

 

 

「……スッキリ」

「お、お疲れさま」

 

 俺はあの後物凄い勢いでトイレに駆け込んでいったのだ。あ、もちろん小便だよ。

 

「さて、次はどうしますか? 一応目的は果たしたわけですけど」

「うーん。そうだなぁ、ちょっと付き合って欲しい所があるんだけど――」

「さぁ~帰りましょう~」

「少しくらい聞いてくれてもいいのにぃ」

「いや、ウチの親が言ってたんすよ。女のちょっとはかなりだって」

「それでも聞いてくれたっていいのに!」

「で、用件は?」

「洋服を――」

「帰ります」

「もぉ~陽月くん!」

「いや、ウチの親が言ってたんすよ。女の服選びはただ頷いとけば良いって」

「そんなことない~ちゃんと見てほしいよ!」

「えぇ……」

 

 困った。大変困った。別についていくのはいいのだが、それ以上に俺がこういう事に耐性がない。まず女の子とこうしているのも……いや、女子高にいてそれはおかしい。じゃなくて、服選びだなんてセンスの問われる事俺には無理が過ぎる。

 

「まぁまぁ、今日は一応部活の日なんですから。服選びは今度穂乃果さん達と来る事にして、今日は一旦部室に行きましょう。皆が真面目に活動してるのに俺たちだけ遊んでるなんてよくないですよ」

 

 俺は最もらしく聞こえる事をそれらしく騙り、上手い事この状況からの脱却を計る。結局は面倒なだけだから、一刻も早く帰りたいのが本音だ。

 

「む~陽月くんはそんなにことりと一緒にいるのが嫌なんですかぁ?」

「別にそんなんじゃないですけど」

「なら、いいじゃないですかぁ」

「いや、だから――」

「……だめ?」

「ぐおっ!」

 

 で、出たー! 困った時の男を困らす上目遣いだーッ! それに今回は目元まで麗ませて今にも泣きだしそうな演出をしているーッ! 声も心なしか泣きそうに感じるーッ!

 

 ようげつ の りせい が はたらく!

 「これには あらがえない !」

 ミス! ようげつ の こころ に 100ダメージ!

 ようげつ の こころ は おれた!

 

「もう、仕方ないですね~」

「やった♪」

 

 なんとも貧弱な俺の精神力であった。これは早急に耐震工事が必要な、手抜き工事も真っ青なお粗末物件なようだ。

 

 と言う事でことりさんの案内の下、俺は行きたくない服屋に連れていかれるのだった。

 

 

 

 ガサガサ、コソコソ。まるで擬音が姿を形取ったかのように不自然、かつ不審者集団が、陽月とことりの後をまたしても追跡していた。もちろん誰が、と言うまでもなくわかる特徴的すぎる八人組。

 

「んー今度は服屋さんに行くみたいだね」

「あわわわ……」

 

 毎度の如く口火を切るのは残念八人組、ではなくμ'sの暫定リーダーである高坂穂乃果。そしてその彼女の手の中で慌てふためきながら動揺しているのは、その彼女と同級生、そして幼馴染である園田海未だ。いつになったら海未は動揺を解いて立ち上がるのだろうか。そこはかとなく穂乃果の手の中で抱かれているのを楽しんでいるように見えなくもなくなる辺り、確信犯なのだろうか。むしろ、先程から連続する動揺で精神が少し彼方へ飛んでいるのかもしれない。そうすれば少し憐れみも持てるだろう。

 

「ねぇねぇかよちん、真姫ちゃん」

「何? 凛ちゃん」

「やっぱり陽月くんって酷い男の子だよね」

「……今更ね」

 

 そして絶賛これ以上下がりきらないと思われていた一年生組、花陽に凛、そして真姫からの好感度が陽月の預かり知らぬところで地に伏しているのだった。だが、別に嫌われているだとかそう言うのではないが、なんというのだろうか、扱いが雑になる事は間違いないだろう。

 

「もう、陽月たち今日一応部活なのよ? 遊んでる場合じゃないのに」

「え、絵里ちそれブーメラン?」

「……陽月にはそろそろ平静を保って接せそうにないわ」

「え、にこっちそれって恋?」

「殺意よ」

「あ、ごめんな」

 

 一年生、二年生とはまた違った独特かつなんとも危険な雰囲気がビンビンの彼女らは三年生の絵里とにこ、それに希だった。会話を聞いている限り彼女らもなんだかんだ言って仲が良く、それでいて関係性のよくわからない不思議な関係だ。だが共通している事が一つあり、陽月をおもちゃにしているという事だ。

 

「あ、移動したよ! 皆追いかけよう!」

 

 芋虫よろしくコソコソと陽月とことりを追いかけていくμ'sのメンバーだが、八人も纏めて行動しながら大騒ぎしているのによくばれないものだ。きっと陽月がアホなのだろう。

 

 

 

「ハッ……ハッ……クショオオオオン!!」

「ま、またおっきなくしゃみだね……はい、ティッシュだよ」

「ぐぬぅ、ありがとうございます。っとに誰だよ俺の事噂してるのは……それも複数だろ……それに何故か嫌に罵倒された気がする」

「随分具体的なんだね。あ、ついたよ!」

 

 身に覚えのない事をさも起きた事の様に解説していると、ことりさんが服屋と思わしき展示の見られる箇所で足を止めた。店名は……なんだここ知らね。

 

「じゃあちょっと来て~今悩んでるのがあって~」

「あぁっ、だから引っ張らないでくださいって」

 

 またしてもことりさんは俺の腕を引っ掴み、そのまま抵抗を許さずに服屋の中へ俺を引っ張っていく。今までは知らなかったけど結構ことりさんってグイグイ行くんだな。こうしてプライベートで遊ぶ? ……というかこれってデートまがいの事だな。アレコレしてると知らなかった一面を見る事が出来て、また新鮮な気持ちになるものだ。

 結果として、俺はここで帰らなかったのを一時間後に後悔することになるのだが。

 

 

 

 陽月がことりに引っ張られ、解放された入口から店内に入っていくのを影から見ているのは不審者兼スクールアイドルの彼女たち。

 

「わぁぁぁ……もうなんて言うか……カップルみたいだね?」

「破廉恥、破廉恥です!」

「さっきから海未先輩がはれんちしか言ってないにゃー!」

「凛ちゃんも、さっきからずっとモジモジしっぱなしだよ?」

「にゃっ?! べ、別に緊張なんてしてないもん!」

「うふふ~皆良い感じに刺激受けてるみたいやん? この皆の気持ち書いていったら意外と一曲くらい書けちゃうんやない?」

「ん、いいわね希。でもそれだと失恋ソングになるんじゃないかしら?」

「あら、折角ならラブソングがいいやんな」

「ホント帰りたいわもう……」

 

 残念な行動する彼女たちのストーキングが続く限り作詞は進まない、いつになったら彼女らの次の曲ができるだろうか。

 

 

 

「ねぇねぇ、こっちはどうかな~」

「……いいと思います」

「じゃあじゃあ、こっちはどうかな!」

「……いいと思います」

「もう~陽月君聞いてる? ボーっとしてないでちゃんと見てね!」

「……いいと思います」

 

 何分立ったんだろうか。俺は虚ろな意識の中、ほんの一時間前の事を夢想する。だがその一時間内の事は決まって全て同じ情景だ。ことりさんが服を持ってきて俺に見せる。ただその光景の繰り返しだ。唯一違うのは俺の反応の変化と、ことりさんの持ちよる服の些細な変化だけ。

 

「ん~新作も沢山あるから選びきれないよ~! あぁっ、これも可愛い♪」

「……いいと思います」

 

 もはや壊れた機械のように二つ返事を同様に返すだけで、俺の意識は一時間前に帰宅しなかった自分の貧弱な意思と、易々とことりさんに乗せられる自分の愚かしさを酷く呪っていた。

 

「でも~今日はまぁいいや、今度穂乃果ちゃんたちと選びに来ることにしよう!」

「……いいと思います」

 

 もはや『ならこの時間なんだったんだよ!』と突っ込む気力すらなく、俺は一辺倒の返事をする。いや、マジで何だったんだこの時間。あ、そういえば母さんはこうも言ってたな……『女の子は、服選ぶのが楽しいの』って……知らんわボケ。

 

「じゃあ、そろそろ帰ろうか陽月くん」

「そうっすね」

 

 ようやく帰れると知った俺は、初めて二種類目の言葉を一時間ぶりに発した。いや本当疲れるわ、俺絶対女の子と一緒に遊びに来れないわ。

 

「で、このまま帰るんですか? 別に今日はもう部室行かなくてもいいと思いますし」

 

 よく考えたらこの後帰るとも、帰らないとも言っていなかったのだ。それに作詞側で作業する皆がどうするかも聞いていなかった。連絡を取ろうにも相変わらず俺は皆の連絡先を知らないのだ。それはそれでどうかと思うが、別に必要じゃないからいいやと今の今まで放置されていた問題である。いい加減聞くべきだろうか……そろそアドレス帳が『父』『母』『おっさん』『勿忘草』だけなのは嫌な物だ。

 

「どうしよう、皆さっきから返信も連絡もないし……今日は家で買った布で試作でもしようかな~?」

「ん、別に俺はどっちでもいいと思いますよ。どっちにしろ俺はついていきますから」

「あ、そうだ。なら陽月くん、この後私のお家に来てお手伝いしてくれない?」

 

 ことりさんは、閃いたと言わんばかりの清々しい笑顔を浮かべながら、俺に一つの提案をしてきた。だが俺はここで二つ返事をしようとするのを寸での所で食い止め、一度この大変意味深な言葉の意味を思案してみた。

 

「家に来てお手伝い」

「家に呼ぶ」

「あはぁ~ん」

 

 いや、違うだろ。思春期特有の妄想じゃなくて。

 

「家に来てお手伝い」

「家でやることがある」

「あぁ~ん」

 

 いや、だから。いい加減にしろ俺の脳内。じゃなくて、まずまだ何するか聞いてないだろ。俺はぶんぶんと頭を振って煩悩を振り払い、いつも通りの真面目な表情を貼り付けてことりさんの方に向き直る。

 

「手伝いって、何するんですか?」

「んっとね、さっき買った布で衣装作りするから、それのお手伝いをしてほしいなぁって」

「……ちょっとまってくださいね」

「え? あ、うん」

 

 マズイ、これはマズイ。何がマズイってまたしてもこれは体の良い雑用ではないか。そろそろ俺のあだ名が便利屋にでもランクアップしかねない、そんな勢いで誰からも雑用を押し付けられているではないか。だが、ここで断る正当な理由も言ってしまえばないのだが……正直断ってもさっきの二の舞になる事は間違いないだろう。

 

「……まぁ、いいですよ。ことりさんの家に行けばいいんですよね」

「わ~い! 陽月くん来てくれるんだ!」

「ちょ、大袈裟すぎますよ」

「だって、てっきり断られると思ったもん!」

 

 そろそろ慣れたぞ、この人の考えを読むエスパー。

 

「自覚あるんじゃないですか。ま、それはいいですけどじゃあ行きますか」

「うん!」

 

 半ば投げやりになりつつある俺は、結局ことりさんについていってお手伝い(ざつよう)をしに行くことに。という事で俺とことりさんは早速店を後にして、ことりさんの家に向かう事にした。

 

「…………早く早く!」

「…………引っ張らないでってば!」

 

 俺が丁度名も知らぬ服屋から出た時、遠くの方で些か焦った声と、何か制服を着た……音ノ木坂の制服を身に纏った誰がスカートをはためかせて慌ただしく移動していくのが視界に入った。

 

「ん? 誰かいたのか」

「あれ、どうしたの陽月くん? 早く行こう?」

「……なんか見たことあったような気がするんだけどなぁ」

 

 確かにあれは音ノ木坂の制服だったと思う。そして下世話な事だがその時、誰かの翻ったスカートの中が一瞬だがチラリと見えたのだが、正直驚いた。エロい意味じゃなくて、純粋に。

 

「まさかウサギとは……」

「え、ウサギさんがどうかしたの?」

「いや、なんでもないです」

 

 そんな事ことりさんに言えるわけでもなく、頭の中だけでさっきのウサギのパンツは誰だったのかをことりさんの家までの道中考え続ける事になったのだった。

 




ウサギ。ウサギは年中発情しているという……つまりそう言う事だ。

現在多忙(大嘘)につき週一でしか投稿出来ていませんが、決してだらけているわけではないです! しっかり書いてますので!
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