Another School idols diary   作:藤原久四郎

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ちょっと休憩


夢話〜気持ちのお話〜

 ソイツとの出会いは、最悪だった。

 

『なんだ気のせいか』

『気のせいじゃないわよ!』

 

 まさか見ず知らずの人に、身長の差からガン無視されるだなんて思ってなかった。それに見た目も不審者とは言わないけど、どこにでもいそうな平凡な人だったし、男の子だったしなんで部室の前にいるんだろうって。

 

『脅かすなよ!』

『一回で気づきなさいよ!』

 

 こっちがどうしようと思ってたら、失礼な事言うし。正直、この段階で評価は最低ランクだった。今ではどうかなんて、正直自分でもわからないけど。

 その後もソイツは私の神経を逆なでするような事ばかり。私だって一応年頃の女の子なんだから、少しだって傷ついたりするのにそれでも不思議とソイツと話している時間は苦ではなかった。

 

『あぁ単に昔は六人いて皆やめてったのよ。今は私一人だけ』

 

 私も知らない内に自分の、それも好き好んで話すような事のない話をしていた。何故だか、彼には自然体でいられたからだろうか。

 

『よかったら何があったか聞かせてもらってもいいですか』

 

 それに彼も嫌な素振りを見せず、それどころか私を本気で心配しているように聞いてくれるものだから。

 

 

 

 不思議なものだ。私はいつだって一人で、一人でやっていけていると思って三年間を過ごしていた。それなのに、いきなり現れた一年生の男子一人にこうも心を赦してしまった事が。自分でも、そんな弱いものだとは思っていなかったから余計にだ。それでも彼は、私の一人積み重ねた三年間の壁を、容易に飛び越えて私のナカに入ってきた。不思議と、悪い気分ではなかった。

 

 それから私は退屈だった毎日が、楽しいと思うようになった。いつも寂しいだけの、孤独な世界の象徴だった部室には、賑やかな声が響くようになって。これまでの三年間の孤独を埋めるように、私もその賑やかさに溺れていっていた。

 

 そしてある日、彼は言った。

 

『でも、矢澤先輩ってスクールアイドルに憧れてたんですよね』

 

 そんな至極当たり前で、私が三年前に置いてきた夢の話を。その時は有耶無耶で済ませたけど、本当は凄く心に突き刺さった。だって、彼がそんな事を言ってくると思っていなかったし、なんで今していないかって理由も話した。普通ならそんな腫れ物にわざわざ触れてくるだなんて想像できなかったから。

 

『なら一緒にスクールアイドルやればいいじゃないですか』

 

 またしても彼は触れてきた。誰だって気にしてくれなかった、私の夢に。全て知っていて、彼は更に私に触れてきた。そんな無償の気遣いが、何故だか少しだけ怖かった。

 

『にこ先輩! なら……』

 

 そして彼女たちは来るべくしてやってきた。私の夢が、スクールアイドルのμ'sが。でも私はほんの少しだけ勇気を出すだけなのに、それだけの事が出来なくて彼女たちに悪い事をしてしまった。踏み出す勇気が無かったのだ、以前の様に離れていかれる事が怖くて、もう一度夢を失う事が怖くて。本当は嬉しくてたまらなかったのに、認められた気がしたのに、彼の様に自分が自分でいられる幸せな時間があちらから来てくれたのに。

 

『矢澤先輩。どうしてあんな事言ったんです?』

 

 だから、何でもない彼の優しげな言葉が酷く痛かった。ただただ心配してくれている彼の言葉が、私に向けてくれるその優しさが。不思議でたまらなかった。彼はどうしてここまであって時間も間もない、何でもない道端の石ころに優しくしてくれるのかを。不思議だけど、不思議だったけど。その理由がもし、道端の石ころに向けたものではなくて、もっと別のものだったとしたら。もしも、彼の優しさが他の誰に向けるものでもない、そんな特別な物だったらどれだけいいだろうと、そう思ったら、涙が溢れてきた。

 

『……嬉しかったの、認められた気がして』

 

 三年間の事を思い出して、誰にも認めてもらえない寂しさを思い出して、彼にそう告げたのだった。彼と、μ'sとに向けたその言葉を。そしてわかったのだ、私は自分で思っているよりも弱いんだって、そして本当は三年間蓋をしていただけで、憧れていただけじゃなくて、スクールアイドルをやりたいんだって。

 

『矢澤先輩』

 

そして……嬉しかったのだ。誰かに自分を認めてもらう事が。おかげで進むことが出来た、積み重ねてきた孤独を振り払って、自分だけじゃない、皆で叶えるスクールアイドルという名の夢へ。

 

 私は走りだせた。諦めた夢に向かって。

 

 夢は人を悩ませる。それがどんな悩みかは人それぞれだけど、それを私に運んできてくれた私だけの夢の運び主は、二つの悩みをくれた。スクールアイドルとして、どうすればいいのかという事を。そしてもう一つは……。これはまだ、なんとも言えないがその内はっきりするだろう。モヤモヤしてムカムカして、そしてヤキヤキしてモキモキする、甘々でとても恥ずかしい、そんな悩みが。

 

 だから私は揺れる。彼の一言一言に。

 

『実は俺……好きな人ができたんですよ』

 

 そんな言葉が、自分のためだけに聞けるその日まで。だから今だけは、何も言わずに走らせてほしい。夢が叶う、その時まで。

 




次は場面がガラッと変わるかと。変わらんかも
尻切れトンボの様な前の一連の話は……うん。ダラダラしたかったんだ。
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