スーパーロボット大戦Z Another Chronicle 作:レゴシティの猫
「なんで助けたの?」
イチゴは画楽に助けられ、小美呼市を脱出していた……それは歌川画楽が、その辺りの妖の決めごとに逆らった、裏切り者になった事を意味する。
「勘違いしないでくれ……こうする事が後悔の払拭に繋がると言ったのは君だ。君を助けるんじゃない、俺は、あの日の命依を助けるんだ」
誰かは思う筈だ。
あの日、こうできれば良かった、そういう風に立ち回れていたら良かったのに……と。
その問いに辿り着いた時、後悔という言葉が引っ付いてくる。先に立たないものへの愛しさと、取り返せないわびしさに……そこに意味があるとするのなら、次があった時、後悔しないための教訓にと……
「……………」
軽い気持ちで言っただけだが、そうは問屋が卸さないようだ。
カイが上空から追いかけてきた。
『イチゴ様、こんな所出ましょう……今すぐに』
「そうだね」
促されるまま、カイに搭乗した。
そしてそのまままっすぐ飛ぶ。
『イチゴ!!』
急にララの顔が通信越しに映る。
イチゴを見て、今にも泣きそうになっていた。
「……ララさん」
『良かった……美柑と繋ぐからちょっと待っててね』
そう話しながらも、森の間を駆け抜けていく。
「もうすぐ市外だ、この辺りの妖の縄張りから外れる……そうすれば君は助かるよ」
「さて、皆にはなんて言おっかなー」
「聞くけど、恨み言とかはないのかい?」
「どうだろう……処刑は流石に初めてだけどみんなからこういう事されるの慣れてるし、むしろ直接狙ってくれてありがたいかな」
『あの子よ……』
『あいつか……』
『あいつめ……』
『堂々と宮殿に居座りやがって』
『デビルークに何かあったらあいつのせいだ』
排したい、そう思いながら、具体的な行動は取らずにいる奴らのどれだけ多い事か。
変に燻らせるだけでも、それを一身に受けてる身としてはキツい以外にないのに。
「…………」
「それが君の君たる由縁か……」
「何か?」
「嫌、こっちの話」
何いってんだこいつ……と内心思っていると突如、空間の揺らぎを感じた。
「!!」
急に空間に裂け目ができ、そこから巨大な翼を持つ、夜空に立つ暗黒の騎士が現れた。
「オリジン・ローの流れを辿ってきてみれば、そういう事か」
「誰………は!?」
真っ黒な翼を生やした黒い機体……
「あんたは」
シュロウガと、それを駆るアサキム・ドーウィン……人相は似顔絵程度で分からないが、黒いシュロウガに乗っているからパーソナルカラーも多分黒い。
「よもや君が至ったか!?結城イチゴ……そして久しぶりだね、『沈黙の巨蟹』!!」
「沈黙の巨蟹……」
それが何なのか、言われなくても分かる、カイの胸の大きな球だ。
「そうとも、君の心に巣食う感情と響き合い、力を引き出す十二の鍵が一つ」
「こんなものが、12個も……!?」
「そして君は僕の追い求める贄の一人という訳だ」
シュロウガは突如、襲いかかってきた。
「剣を取れ、僕は君の命を狙うものだ」
シュロウガの持つ赤い剣が迫ってきた。
「……仕方ない」
カイの万能工具を展開し、防衛に入る。
森林の隙間から、小さな怪物達はそれを覗いていた。
『やっと追いついたと思ったら……』
『何……あれ』
丸っこい見た目で誤魔化せない黒い巨体で赤い翼の化物と、これまた黒い翼を携えた人型の巨人が、剣で攻撃しあっている。
『ヤバいのとヤバいのが戦ってる』
妖にとってはさながら、死神と魔王が戦っているようなものだった。
『シロガネ様〜!!』
耐えられない妖達は、一目散に逃げ出す。
「画現術でサポートしよう」
「助かります」
「なあに、ああまでして助けたんだ。すぐに死なれてはね」
画楽に助けを願うと少しの間、分身が使えるようになった。
「まずは受け取れ」
歌川は刀を投げ込み、カイでキャッチした。
「村正……不吉の象徴たる刀を、イチゴに贈るか……良い選択だ」
何か納得しているが嫌に馴れ馴れしい、ほぼ別世界の人間で、今日が初対面の筈なのに、何故か名前を知っている。
「あんた……オレの何を知っている?」
イチゴはカイから鬼光眼を放つ。
「そうだね」
シュロウガは翼を動かしながら鮮やかに避ける。
「例えば……君の出生の話とか」
それを聞いた瞬間、イチゴの内臓が動悸を起こし、そして呼吸も荒くなる。
「……え?」
「(ほう……反作用でも現れたか?揺さぶれるだけ揺さぶってみよう)ある夏の日の事だ……君の母は故郷の病院である命を産んだ、そしてそれは彼女の」
イチゴはキレた。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
EN回復が(小)にダウン、HP回復消滅。
『イチゴ様!!』
「!!」
歌川も驚きを隠せない。
「そうか、たったこれしきの言葉で同調が途切れ」
言い終わる前に……シュロウガの頬に村正の柄による打撃が炸裂した。
「だがこの程度の攻撃では僕の命には届かな」
「チャラチャラうるさいんだよ!!」
そして村正を引き抜き、回転を加えつつ刀を投げつける。
その軌道上にシュロウガは含まれない。
「避けるまでもない」
イチゴはそのまま鞘の部分を振り回し攻撃を仕掛けた。
「面、面、小手!!」
「宣言しながら打つか、無謀だね」
だが、首を動かす、身を引くなどして避けられる。
負けじとカイはストレートを繰り出すも、当たらない。
「激情に身を任せた攻撃程、御し易いものはない」
そう唱えた次の瞬間、シュロウガの腹部がブスリと貫かれる。
「!?」
「ん?なんて言ったの?」
アサキムからは見えてないが、イチゴからはしっかりと村正が見えていた。
優雅に避けてくれるアサキムをそちら側に誘導し、近づいた所で地面に刺さった村正を握ったままの万能工具でつまんで引き寄せ、シュロウガに攻撃した。
「(おそらく沈黙の巨蟹の反作用……)」
反作用とは、スフィア・リアクターがスフィアの力を引き出す代償のようなものである。
感情でスフィアの力を引き出すため、その働きを妨害するようなものばかり。
悲しみを力とするならば悲しむための道標となる五感を奪い
耐える根性にはその真価を測るように激痛を促し
折れない意志にはその意志をもって向けるべき物事を見誤らせ
嘘つきには意志と言葉をかき消し
命一つで国を包もうとする大いなる愛には、反比例するかの如き儚さをもたらし
相反する感情を糧とするものには、二つの感情をせめぎ合わせる負担で心を止める
沈黙の巨蟹、虚無を司るスフィアの場合は……
「(感情の境界線の消失……少しの感情の揺れが、彼にとって大きなうねりとなって発現する)」
ほんの少し喜びを見出せば感極まったように微笑み、ほんの少しイラッと来ただけで怒りと憎悪が剥き出しとなり、ほんの少しの憐憫が滂沱の涙を促し、ほんの少し楽しいと思えば……そんな精神状態に陥る。それでも崩れぬ理性、情動に身を委ねない事を沈黙の巨蟹のリアクターは求められる……
「(今の彼には全身が逆鱗であり、笑いのツボ足り得るか)」
そもそも虚無を宿すような人間の感情に歪みが起きている可能性はさておき……
このような状態では平静さを欠き崩しやすいのが常ではあるが、世界にはキレた方が思考回路が単純化し、強さを発揮するパターンの人間もいる。
「流石だと言っておこう、無限獄に囚われた僕でなければ、命をついばまれていたかもしれない」
「あんた、不死身って訳?」
「俗に言えばそうなるか。だがこれは呪いの類だ、断ち切るために僕はここに来た」
「じゃあ追加サービスで、無駄口喋れなくなる呪いでも付け足しといてやるよ」
カイの回し蹴りで追加攻撃。
シュロウガも蹴り返して来て、膠着状態に持ち込まれた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「ククククククッハッハッハッハッハッハ!!」
カイの方が短足な分、競り負けた。
「うわぁぁぁぁ!!」
「僕に呪いを付け足すと言った君が、その程度か?」
「ぁぁぁ!!」
「その程度で人を呪おうなどと、笑止、身の程を知るがいい」
「跳ねろ!!」
地面に手を突いてバウンドする、そして飛び上がったカイの足でシュロウガを蹴った。
「く!?」
「吹っ飛べ!!」
少し飛んだ所をすかさず拳で殴り、地面に激突させる。
「こいつで」
トドメとして、追撃を行う。カイの足をシュロウガに向けた。
しかし……
「君の眼と心を射る」
シュロウガは
鬼光眼で対抗……使えない。
同調が途切れるという言葉の意味を朧げながら感じ取れた……とにかく今は鬼光眼などの技は使えないのだ。
「!!クソッ」
『あっ』
カイは両腕をクロスさせて防御の体勢を取る。
攻撃を受け、爆発が起こった。
一応イチゴへの危険はない。
カイはバックして体勢を立て直す。
「無事か?」
『若干黒焦げになりましたがね』
「いっつも黒いから分かんないなこれ……後で直そう」
『はい』
ジェット音が聞こえてきた。
「何だ!?」
驚いて見上げると、セブンガーがいた。
「そこの未確認人型兵器、手を上げて投降してくれ」
「嘘だろ……」
『仕方ないですね……』
カイはバンザーイの要領で手を上げた。
「あ、武器は下に下ろしててくださいね」
セブンガーはカイのボディチェックをしてきた。
ゆるキャラとゆるキャラのコントを見ているようで、見ている内に怒りが収まり、だんだん冷静になってきた。
『ハルキ、そのぐるぐる眼の機体はデビルーク王妃お手製のものだよ。一応型式番号も宇宙データベースに登録してある……だから所属不明はあっちだけ』
「そうなの?」
初めて聞こえた話題に思わず質問した。
『確かLSDMーTX03と登録されてた気がします』
ララ・サタリン・デビルークの作った、ペケ型の子の3号機……といった所か?(ちなみに1号機はペケで2号機は美柑の防犯ブザーを改造したもの)
「言いがかりを付けて、すみませんでした!!」
「いえいえ、それより」
注目をシュロウガに向けさせようとした所、シュロウガは翼を広げて離脱しようとしていた。
「……………興が削がれた、また会おう」
それはイチゴの台詞であった。
「あ、待て!!」
ハルキは逃がすまいとセブンガーの拳を振り上げる
「……お互い手札をここで晒す訳にもいかないだろう?」
「……え?」
ハルキが逡巡してる間に、シュロウガは去っていった。
「危ない所をありがとう」
珍妙ななりとコントのせいで、ささくれだった気分がかなりほぐれた。
「あ……いえ、そちらは怪我とか大丈夫でしょうか?」
『ちょっと火傷したぐらいです、大丈夫です』
「よ~し、これよりセブンガー帰投します」
その時……また空間を突き破り、今度は妖獣が現れた。
それの6体程……
「!?」
「妖獣!?ここで?」
『え?何?なんかいる?』
「見えないんすか?ユカさん……ハッ」
〜ウルトラテレパシー〜
『ハルキ……多分それ、幽霊って奴じゃないか?一般のホモ・サピエンスには見えないって光の国にも伝わっています、俺の師匠も倒した筈の宿敵が幽霊になってウルトラ困ったというお話があってですな〜』
話を合わせておく必要性をハルキは感じた。
「俺もっす!!」
『よし、ハルキ……まずは相手の出方を見ろ』
いつか聞いたストレイジの隊長の声が聞こえた。
『見えざるものか、はたまた幻か、見極める必要がある』
「押忍!!」
セブンガーが構えを取った次の瞬間、妖獣の尻尾が切れてから飛んできて、カイもセブンガーも攻撃を受ける。
「う!!」
「あっ!!」
『ハルキ!!』
ボディーの破壊はされていないがセブンガーはへたり込んで、動かなくなった。
「どうしたの?」
『あ〜、攻撃で配線がイカれましたねあれ』
「あれ見えなかった事にすんのキツいなー、ゼットさん、行くっすよー!!」
ハルキはコックピットの電気が切れたのを逆手に取り、そのままウルトラゼットライザーのボタンを押した。
Haruki Access Granted
「宇宙拳法、秘伝の神業!!ゼロ師匠、セブン師匠、レオ師匠」
Zero Seven Leo
「押忍!!」
『ご唱和ください、我の名を!!ウルトラマンゼェット!!』
「ウルトラマンゼェット!!」
最後にトリガー。
ウルトラマンゼット アルファエッジ
青い光が、どこからともなく収束する。
そして光の集まりからウルトラマンが登場した。
話には聞いていたがカラータイマーがZの形をしていた、相当濃ゆいウルトラマンであると予想はつく。
「…………………」
多分こっちは任せろと言っている、頼もしさに包まれながら、イチゴは快諾した。
「任せた!!」
ウルトラマンはコクリと頷く。
「はっ!!」
万能工具を剣に戻し、妖獣を切り裂く。
瞬く間に両断できた事で、パワーが増しているのを実感できた。
もう一度万能工具を振るう……もう一体破壊に成功した。
『ジューワッ』
3つ程、ブーメランの如き切断武器が飛んできて敵を牽制する。
ウルトラマンの飛び蹴りで、一体倒れる。
『行きますぞ!!ハルキ』
「押忍!!」
ウルトラマンは腕を交差して構えた……あ、光線が出る……そう思わせるには充分だった。
『「ぜスティウム光線!!」』
Zの字を象った光線が発射され、妖獣全体はそれを浴びる。
『…………!!』
巨大な爆発音と共に、妖獣は全滅した。
『デューワ!!』
戦いを終え、落雷の絵を反対の書き順で描くような飛び方でウルトラマンは帰っていった。
「またねー」
戦いは多分、終わった。
「お疲れ様〜〜」
いつの間にか見えなくなっていた画楽は現れた。
「どこ行ってたんです?」
「君がブチ切れてたみたいだからほんの少し離れて様子を見てたんだ」
「あ、ごめん」
「いや~、色々と旅してきたつもりなんだけど、あんな見た事ないな〜」
「オレも以前見たっきりで全く分かんないですよ……あ、そうだストレイジの人」
「セブンガーの中には誰もいないよ、脱出には成功しているようだ」
「そう……良かった」
無事を喜んでいるとオトモ忍達が現れた。
「イチゴ、急にいなくなってたから心配したぜ」
「あ、
普段出さない声のトーンで話したせいか、全員「え?」と口を揃えていた。
「どうしました?」
「まあ、色々あってさ……」
『今、イチゴ様は市外へと脱出する必要があるのです……話は道場で』
「そういう訳で……じゃ」
「あ、おう」
「みんなはゆっくりしててね」
朝日が昇る。
無事を安堵する喜びと、
不条理を垣間見た悲しみと、
全てを照らして……
「私、帰ってもっかい寝たい」
「そうだな……」
「あ、この前戦ったロボットが壊れてる!!」
「どこに運べば良いのかな……」
「皆さん、大丈夫っす!!俺が仲間に連絡して引き上げてもらうっす」
〜市の境〜
「危なかったね」
『ですね』
他の市の立て札がある。
ここまで来れば、もう襲われる心配はない。
もう、ここに来る事もないだろう……
そもそも初めて来た時から、妖達はイチゴに拒否反応を示していた。
だからこうなるのも時間の問題だったのかもしれない。
「それじゃあ、帰ろっか」
再び、四つ足の疾駆する音が聞こえる。
シロガネが走って現れた。
何の用だろうか?
「2対1に、なるのかな?」
画楽はすぐに筆を構える。
カイも戦いの構えに入った。
『行け』
大きな白猫は、小美呼市の外では何もしてこないようだ。
『去るならば追わん、が……両名とも二度とここに来るな』
「すずさんのケア、お願い」
『……フム……空々しい事を言うでないわ』
シロガネはそう言い残し、去っていった。
迷惑をかけたな……と、イチゴはその時思った。
〜伊賀崎道場〜
話もかねて、歌川は伊賀崎道場に身を寄せた。
「という訳で、小美呼市にいられなくなりました〜歌川画楽です、拍手!!」
「パチパチパチ……じゃないよ、これからどうすんのさ」
「アトリエは他にもいっぱいあるし、絵ならあそこじゃなくても描けるし、さしたる問題はない。あそこに命依を残してきたぐらいだ」
「それが一番問題っぽさそうだけどね……」
偶然にも生前のトラウマを刺激された人間のメンタルが心配である。
「まあ、今は特に画を出す予定もないし君達の手伝いをするのもやぶさかではないって所だね」
「ありがとう」
「そう言うお前はどうなんだよ」
「そうだよ、妖怪に襲われたって、一大事じゃん」
「別に……あいつらはあいつらの秩序を守ろうとしただけだし、オレがあいつらならやったろうなって思うし……」
思い返せば、向こうにとってイチゴは大して友好的な態度も見せない危険人物に違いない訳で……
「イチゴさん……」
「そうは言うけどね……本当一大事と思うんだよ、これ」
人間が、妖の群れに連れられ、襲われるという凶事。
「まあ、穏便に頼みますよ……キリがないし」
ドアが開く音がする。
比良坂命依が現れた。
「どちら様?」
「さっき話てた子」
「そっか、まあ上がってけよ」
天晴の言葉が聞こえたか聞こえてないかのスピードでズカズカと上がり込む。
「用件は?」
「小さい子達に裏切り者を捕まえろって言われたわ、捕まえるまで戻るなってさ」
「それで……僕を捕まえに?」
「私は……画楽君についてく」
命依は、画楽を抱きしめた。
「あなたに助けられた時からずっと……一緒にいたいって思ってた……だから、私を助けるために画楽君が出てくなら私も行くよ」
「大変な道だよ」
「それでも……いいの」
「わー、人の家でラブシーン始めないで〜!!」
「うう……良かったでやすね……」
モコナは比良坂命依の手を握る。
「よく耐えた、褒めてつかわす」
「……ありがと」
スマホから着信音が鳴ったので、イチゴは場を外して出た。
『イチゴ!!』
「あ……母さん」
『無事?』
「うん……」
『話はカイから大体聞いた』
「仕方ないよ……」
『!!……どういう意味?』
「オレはできる事をやった、だからあいつらはやるべき事をやった……それだけじゃないか」
『…………そんな風に言うんだ』
「!?」
電話から伝わる空気が、変わった!!
『自分が死ぬ所だったっていうのにそういう事言うんだ』
「あ……あはは」
『昔の頃から何も変わってない、もっと自分を大切にしてってお願いしたあの頃と何にも……自分の命だよ?なくなったらもうおしまいなんだよ?』
ダカラッテドウシヨウモナカッタ
「オ、オレだって助けてもらったのはラッキーだったと思ってるし……」
『後……さっきの話、聞こえてたから』
「え?聞こえてたの?恥ずかしいな……」
どこからどこまでだろう……
『……ララさん達と相談したけど、カイの球が危険なものだって分かったから没収ね』
「……………え」
恐る恐るカイを見る。
『ララ様達の総意なので、仕方ないですね……次来る時は、胸の球のない私の筈です』
カイが空を飛び立っていった。
あまりの急展開に、呆然となりながらも、一つの結論に辿り着く。
カイが、スフィア抜きになってしまうという事。
それはそれまでふるえていた力が無くなるという事。
タイムアップを気にしながらのフォームチェンジになる……つまり戦えなくなる事。
短い間だったが、その力の魅力にどっぷりと取り憑かれていたようで、何故か感じる喪失感も大きい……
「母さん、あんたは、死ぬ自由も、生きる理由さえも取り上げるのか!?」
怒ってもどうにもならない‥…だが、目に見えて湧く焦りに伴うそれを、抑えられる事はできなかった。
スフィアは、危険な力かもしれないが、今のイチゴと、ニンニンジャーや
〜一方その頃〜
少年は屋台の中で桃太郎とおでんを突っついていた。
「やっべ、マジで危なかったぜ……オヤジ、こんにゃくください」
西洋の青い甲冑の上に割烹着を着込んだような見た目の男は、少年の注文に応え皿にこんにゃくを乗せた。
『どうぞ、熱いので気をつけてください』
男の言う通り、今の今まで茹でられていたこんにゃくから瞬く間に天井を超えそうな程湯気が立っていた。
多少冷ましてから食わねば、火傷するだろう
『それは災難だったな……ソノイ、玉子を二つ追加だ』
『かしこまりました、タロウ』
男は桃太郎の注文を受け、玉子を皿に乗せる。桃太郎は黄身が真円の形になるよう箸で割って食べ始めた、まだ熱さが抜けきっていないのに……
「嘘だろ……」
『聞くが……貴様が何もしなければどうなっていた?』
屋台の外にいるクコチヒコは聞いてきた。
「粛々と刑は執行されて、あいつは死に、オレも死ぬ、その瞬間はカイにバッチリ映る、それを伝ってデビルークの最近暇な軍人達の標的になる、そして戦争にすらならない蹂躙の始まりって所かな?相手は人間ですらない奴らだし同情するのも少ないよ」
『寸前で防いだという訳か……』
「桃太郎が出てくれば楽だったんだけどさ」
『俺は王だ、他所の地であろうと脅威は打ち払うが、その地の王と民が決めた事に口出しはせん。それこそ内政干渉というものだ』
「……厳し〜い」
『タロウとて心苦しいのです、分かってやってください』
「そっか」
喰らって得たすずの一部から、失望に近い慟哭が伝わってくる。
『結局、妖も、人も、一緒だった』
愚かだと思う、友達がそれをしないという認識……思いこみ自体が。
水害による恐慌状態が、人が人を恐れ迫害し死に追いやるという惨劇を産み出すなら、より本能に比重を置く動物や妖怪がそれをしない道理はないのに……
この一件が、彼女の心にどのような影を落とすか……少年はドキドキしてきた。
いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。