不死身提督と吹っ切れ大井さん 作:嫁は川内改ニだが浮気じゃない!!
『気味が悪い……!!』
『なんで、なんで死なないのよ!?』
『バケモンがよぉ!!』
うるせぇ
『貴方のお肉……少し、頂戴?』
『とっとと死んでみてよ』
『羨ましい……!!』
うるさいっつってんだろ。
『貴様が戦えばいい』
『死なないのなら敵が死ぬまで殴り続けて見せろ』
『護国の鬼となれ』
「黙れッ!!…………あ?」
知らない天井……いや、鉄板ネタはもういい。それにしてもここはどこだ?…………そうだった。
「俺の鎮守府か」
クッソ目覚めが悪い、シャワー浴びないといけないくらい汗で肌がベトベトだ。
「チッ……今日から運営開始だと言うのに、幸先の悪い」
深海棲艦どもから世界を救う、一体どれだけの屍を積み重ねればそんなことが可能なのか。そもそも大本営の奴らは欲張りだ。深海棲艦を殺すのか、世界を救うのか、どちらか片方にしとけってんだクソが。
ブツブツと文句を言いながら俺はシャワーを浴び終え、まだ慣れていない硬い提督用の軍服に袖を通す。
「見せる人間もいないってのに……」
「ていとくー」「おはよーございますー」
「おう、おはよーさん」
見せる人間はいない。だが、コイツらがいる。妙に俺に懐く妖精達だ。昔……それこそ俺が士官学校に入る前からの付き合いのコイツらは提督の適性があるものにしか見えないし話すこともできない。
ほぼ先天的な才能がものをいうコイツらとの関わりだが、1人よりはマシだ。化け物の俺でも。
「かんたいにあたらしいめんばーがくわわったよーですー」
「ほう、昨日建造した奴か。早速行こう」
ここは名前もない泊地。いや、無人島だった島を妖精達が無理やり改造し鎮守府と工廠、港や畑を作り住めるようにした場所だ。俺はここで艦娘と呼ばれる存在の指揮をする提督、と言うわけだ。今日から業務開始のペーペーだがな。
歩くこと数分、すぐに工廠へと到着した俺は工廠妖精達に軽く挨拶をしながらドッグへと足を進めた。
「けんぞーじかんはいちじかんでしたー」
「なら軽巡だな。まあ駆逐艦が来るよりは精神的ストレスを与えずに済むか」
駆逐艦は総じてガキが多い。知識があっても精神は見た目相応なのだ。俺の異常な体を知って病んでしまう可能性を考えたら最初から駆逐艦というのは慮られたからちょうどいい。軽巡も言うて高校生くらいまでの精神だろうがな。
「こんにちはー。軽巡洋艦、大井です。どうぞ、よろしくお願い致しますね」
「ほう……大井か。よろしく頼む。俺が提督の山本 九十九だ」
「ええ、こちらこそ提督」
当たりだ。ドッグでの艦娘建造は運が70%以上を占めると言っても過言ではない。その中でも、改装することで強力な艦種になってくれる大井は良い戦力になってくれるだろう。姉妹艦の北上のことが好きすぎて性格が豹変するきらいはあるが、それを抜きにすれば性格も温厚で接しやすいといえる。
「先に説明しておくが、君が建造されたこの鎮守府は今日始動したばかりだ。君はこの艦隊最初の艦娘となる。期待が大きくなるのは許して欲しい」
「私が初……ですか。構いません、暁の水平線に勝利を刻みましょう」
頼もしいな。彼女くらい気を強く保ってくれるのなら助かることこの上ない。
「そ、その……先程の話を聞いた上で申し上げるのは大変恐縮なのですが……建造頻度はどうされるのでしょうか?」
「口調は好きにしていい。俺は立場こそ提督だが気を使われるような人間でもないからな。
建造頻度に関しては……今のところ1日に最高で2回、と言ったところか。すまないな、北上を迎えるのは随分先になるかもしれない」
そうだろうなとは思っていた。所詮はバケモノを閉じ込めておくためのこの島だ、物資こそ送られてくるもののその量はそう多くない。現地遠征での回収がメインの収入源だろう。北上と会いたい気持ちが抑え切れないのは、『大井』なのだから仕方がない。
「そう、ですよね……」
「なに、そう悲観することもない。チャンスだと捉えればいい」
「チャンス……ですか?」
「そうだ。君はこの鎮守府最初の艦娘だ。当然、秘書艦を務めてもらうことになるが……島の構造や秘書艦経験、さらにこれから増えていくであろう艦隊のリーダーとも言える君を、新しく着任する北上が見たらどう思うだろう?」
「そ、それは……!!」
「
「………………提督」
衝撃の事実に気づいた大井が目を伏せる。しばらくすると体が震え出し俺を呼んできた。
「なんだ?」
「この大井、全力で任務にあたらせていただきます!!!!!」
清々しいほど下心に塗れたその瞳、もはや美しいよ大井。うん、まあ……やる気が出たんならいいんじゃないかな。
「さあ提督、私に任務を!!」
「ま、まあ落ち着け……とりあえず施設を案内しようじゃないか。その後、正式に君を秘書艦に任命、今日の任務を与えることにする」
近い。やる気に満ち溢れたのならいいが、距離が近い。いくら化け物である俺とはいえ情欲というものは存在する。女性特有の香りがするためあまり心臓に良くない。
「では行こうか」
「はい!!」
不覚にも、大井の笑顔は可愛いと思ってしまった。いや正直な感想だけどな。
◆
「ふむ、こんなところか。とりあえず島の構造は理解したか?」
「はい。その……」
「ああ、正直に言ってくれて構わないよ。俺も思っていたところだ」
「思ったより、小さかったのでもう覚えれましたね……」
大井の言う通りだ。いくら鎮守府があると言っても所詮は無人島、娯楽施設があるわけでもないし、言ってしまえば鎮守府以外何もないのだ。
俺達は執務室へと戻ると、簡易的にだが椅子を用意した。
「まあ一旦座ってくれ」
「ッ!?そんな、提督が座ってください!!一つしかないのに……」
「だからこそだよ。いいか大井、今日は君に色々なことを説明する。俺の考え方、体質、その他諸々だ。それら全てをよく聞いて、吟味して、結論を出して欲しい。初日なのに、悪いとは思っているが……もしかしたら君の聞きたくないようなことまで喋ってしまうかもしれない。少しでもリラックスしてほしい」
「いや、しかし……」
「じゃあ仕方ない。命令だ。座りたまえ」
「……ありがたく、座らせていただきます」
良くも悪くも、大井は艦娘、俺は提督だ。そこには絶対的な差がある。命令と言われたら大井にはどうしようもないのだ。
「改めて自己紹介をしよう。山本九十九、年齢は22、階級は……大佐だな。士官学校卒業と同時にここに左遷された、って言うのが正しい表現だろう」
「士官学校卒業時点で、大佐……!?それなのに、左遷……?」
「俗に言う『主席』だったんだよ。こんなのでも頭はいいんだぜ?そして俺には何より2つの体質があった、『妖精によく懐かれる』というのがな」
「なるほど……提督を務める上でとても重要な才能ですね。先天的なものですか?」
「ああ、殆どは士官学校にいた奴らが勝手についてきたが、それより前からの付き合いのやつもいる。コイツとかな」
「ヨロシクデスー」
俺は机の横からとある妖精の頭を帽子ごと鷲掴みにして持ち上げた。よく妖怪猫吊るしとかエラー娘とか悪魔とか言われている奴である。今は俺に吊るされてるけどな。
「す、すごい……」
「そしてもう一つ……猫吊るし、
「アレヤルンスカー、シカタナイナー」
俺が猫吊るしを下すと、やれやれと言った様子で走っていった。
「提督、アレ……とは」
「外に出よう、ここでは手狭だ」
「は、はぁ……?」
これなら最初から外で説明しても良かったかもしれないな。俺は大井を連れて海辺へと連れて行く。妖精達が整備して形だけでも、出撃ができる港へと改造した場所だ。
「ていとくー」「もってきたー」「きをつけてねー」
「ん?猫吊るしはどうした」
「とちゅうでー」「ねこがにげてー」「つかまえにいったー」
「……そうか。ありがとよ」
「わー」「ほめられたー」「やったー」
上機嫌で妖精3人が帰っていったのを見送り、俺は用意してもらったものを取り出した。
「それは……艤装?」
「そうだ。14cm単装砲、まあよくある装備だ」
「それで言った何を……はっ、まさか射撃するつもりですか!?」
「そのまさかだよ」
「おやめください!!艦娘の武装を人間が使うなんて、体が弾けてもおかしくないんですよ!?」
まあまあ、とりあえず見てろって。
「よく見てろ、これが俺の二つ目の体質だ。目標なーし、射撃よーい、うてー!!がっ、ぐ、ぎぃ……!!」
「提督!?い、いやぁ……!!」
……いってぇ……多分右腕が吹き飛んだなこれ。
さっきから右腕の感覚がない。よく見れば服ごと弾け飛んだらしい。まあ
「よ……くみろ、大井……これが、お前の……はぁ、はぁ……提督だよ」
「……うそ……そんなことって」
しばらくすると痛みも引いてくる。一気に血液を失いすぎて頭がふらふらするが時間の問題だ。ほら、もうなんともなくなってきている。
グチュグチュと右腕の付け根から音が鳴り、某ナメック星人のように腕が生えてくるではないか。
「ふぅ……軍服は廃棄だな。全く、上くらい脱いでおけばよかったか」
「てい、とく……あなたは、なんなんですか……!?」
「俺のもう一つの体質、不老不死」
「ッ!!」
「クソッタレな神ってやつからチート転生だとか言われて与えられた、呪われた不老不死の人間だよ」