神社生まれの千香瑠様   作:坂ノ下

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第13話 出会い

 まだ薄暗い早朝、鳥の囀りと虫の音をBGMに、大江山の山道をヘルヴォルは今日も行く。

 山中とは言え、車道が走っているのでリリィにとってはさして険しい道のりではない。歪にひび割れたアスファルトの舗装路も、かつては沢山の観光客を導いたのだろうと偲ばせる。

 特訓場所の滝を目指して五人は間隔を空けた二列縦隊で行軍していた。万が一の襲撃に備えてのことだ。

 

「ヒュージサーチャーに反応あり。方角は南南西。数は3ないし4。等級不明」

 

 早速その万が一の事態が訪れた。隊の後方につく瑤がスマートフォン内蔵式のヒュージサーチャーを見て情報を伝える。

 対ヒュージレーダーであるヒュージサーチャーにも色々とタイプがある。施設設置用の大型・広範囲のものや、携帯式の安価で低性能のもの。ちなみに、リリィが頭部に装備する髪飾り型のサーチャーは小型ながら高性能だが、高価で整備にも手間が掛かるのでヘルヴォルは基本的に使用していない。

 

「全隊停止。恋花様と千香瑠様は南南西を警戒。藍はちょっとそこで待っててね」

 

 隊の中央に位置する一葉が戦闘態勢に移行するよう迅速に指示を飛ばす。

 

「森の中を、この移動速度。飛行型ヒュージの可能性が高い」

「了解。では恋花様が牽制射撃を。千香瑠様と瑤様で狙い撃ってください。もしも撃ち漏らしたヒュージが接近してきたら、それは藍が相手して」

 

 瑤の報告に基づき流れるように隊形を修正する。恋花が前に出て、千香瑠が瑤の同程度に下がり、藍はブレイドモードのチャームを抱えてうずうずと出番の時を待つ。

 

「……確認しました。スモール級、リッパー種。三機ばらばらに突撃してきます」

 

 真っ先に敵を視認したのは千香瑠だった。彼女は目と銃口でヒュージを追いつつも、作戦通り発砲せずに待機する。

 その間にも敵影は見る見るうちに大きくなっていった。

 ヒュージ特有のメカニカルな鉛色の装甲。リング状の胴体から伸びる四肢代わりの鋭い刃。その刃で邪魔な木々の枝葉を紙切れの如く切り裂きながら、森の只中を低空で翔けてくる。

 

「恋花様!」

「はいよ!」

 

 一葉の合図と時を同じくして、恋花のブルンツヴィークが戦端を開いた。

 銃口が煌めく度に光弾の雨が放たれて、前方に広がる森へと降り注ぐ。発射速度に優れるビームのマシンガンは敵の予想進路を漏れなく制圧していく。

 標的が散らばっていたこともあって弾幕密度は薄い。それ故に恋花の射撃はヒュージたちの動きを多少鈍らせる程度にとどまる。

 だがその僅かな足留めで十分だった。

 続けざまに放たれた二条の光線が左右の敵を撃ち抜いた。瑤と千香瑠が一射で仕留めたのだ。

 

「残りは、らんのだね!」

 

 唯一残った中央のヒュージに向かって藍が駆け出した。

 ところが藍のチャームが振り上げられるより先に、森を突破してきたリッパー種にビームが叩き込まれた。一葉が構えるブルトガングの仕業である。

 

「あっ、あーーーっ! らんのヒュージ……」

「敵撃破。瑤様、新たなヒュージ反応は?」

「無いよ」

「了解しました。では戦闘態勢から警戒態勢に移行。移動を再開しましょう」

 

 そうしてヘルヴォルは何事も無かったかのように、滝に向けて歩き出す。

 言うまでもないが、この程度で修行を中断することはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「藍、チャームのシューティングモードが実体弾とレーザーを使い分ける理由は覚えてる?」

「うん、らん知ってる。キラキラしたのを出せる方が楽しいよね」

「違うよ。これ最初の方で習ってるはずだけど。さては講義で寝てたね?」

「ね、寝てないよ! らん寝てないよ!」

「レーザーは高威力だけど、市街戦だと周りの被害を気にして使いどころを考えないといけない。それにヒュージの中には光学兵器を減衰させる装備を持った個体が存在する。一方で実弾兵器はマギの消費を抑えられる利点があるけど、予備の弾薬で荷物が嵩張る欠点もあるね。そんなわけで、第2世代型以降のチャームには実体弾とレーザーを切り替えられるものが多いんだよ」

 

 目的の滝が近付くと、一行は道路から外れて緑の中に分け入った。

 移動中、警戒もしているのだが、ずっと無口ではなく会話も交えていた。一葉と藍のお勉強会もそのうちの一つである。

 

「こうしてると、あれを思い出すよね。ほら、サガ女との合同訓練」

「ああ、そう言えばあの時も山岳戦の訓練で山の中を歩いたわね」

「時間が勿体ないからって山登りの合間に教本読ませるんじゃないよって感じだったわー」

 

 恋花と千香瑠が思い出話――――と言えるほど昔ではないが――――に花を咲かせる。

 エレンスゲ女学園と鎌倉の相模女子高等学館はガーデンとしての理念に似た部分があり、姉妹校提携を結んでいた。

 

「山でお昼を作る時にさあ、(あおい)っちがやけに張り切っちゃって。確かカレーだったっけ? 隠し味のソースがどうとか。フフッ、何だったのよあのテンションは」

「葵さん、元気にしているかしら。生徒会直属の特務レギオンだから忙しいんでしょうけど」

「彼女のお父さんならニュースによく出るね」

 

 話に加わった瑤がスマートフォンの画面を見せてくる。そこでは防衛省が会見しており、顎髭の壮年男性が軍とヒュージとの小競り合いについて釈明しているようだった。

 

 やがて水の流れ落ちる音が大きくなってきた頃、一葉は不審な光景を目の当たりにする。山林に囲まれた大岩の上に人影を見つけたのだ。

 一応は登山コースとなっているため、こんな御時世といえども、登山者が全く来ないとは限らない。

 不審なのは、その人物が小さな子供という点だった。

 

「……止まってください」

 

 一葉はすぐに駆け寄るような真似はせず、まずヘルヴォルへ停止を指示する。そしてそれから問題の子供について慎重に確認し始めた。

 藍よりも幾分か小柄で低身長。恐らくは初等部だろう。薄い赤茶のロングヘアーには大きな赤リボンを付けている。服装は白のノースリーブと紫のロングスカート。どこかのガーデンの制服ではなさそうだし、第一、チャームが見当たらない。

 

「そんなとこに突っ立ってないで、こっちにおいでよ」

 

 先に向こうの方から話し掛けてきた。その声は周りの空気から逸脱するかの如く気さくで、どこか不敵でもあった。

 

「貴方、山登りに来たのですか? 大人の人は一緒ではない?」

 

 一葉がそう尋ねても、女の子はわざとらしく肩をすくめるだけ。

 

「こんな所に一人で居たら危ないよ。お姉さんたちと一緒に山を降りよっか」

 

 今度は瑤が声を掛ける。優しく見えるよう努めているようだ。

 けれども女の子は大岩の上から腰を上げることなく、首をゆっくり左右に振った。

 

「こう見えて、あんたたちよりは長生きしてるんだけど。まあ信じられないか」

 

 女の子は自身の右腕を前に突き出した。ヘルヴォルの面々に見せるように。

 次の瞬間、突き出された肘から先が消えていた。その場には腕の代わりに白い霧が漂っていた。

 

「あの時、あそこで、子取り箱の除霊を手伝ってやっただろう?」

「貴方っ……!」

 

 女の子を見る千香瑠の顔が強張った。

 千香瑠だけではない。一葉たちも同様だ。

 目の前の少女、体の霧状化などという芸当ができるということは――――

 

「怪異、いえ、妖怪ね? 一体どういうつもりなの?」

「まあ、それはいいじゃないか。今重要なのはそこじゃない」

 

 千香瑠に問い詰められても女の子は飄々とした態度を取る。

 

「修行してるんだろう? 怪異を退治するために。そこの巫女だけじゃあ限界があるからねえ」

 

 どこまで把握しているのだろうか。訳知り顔で、こちらの考えを見透かしているかのように、少女は語る。

 

「でも今のまま修行を続けても、身になるのはずっと先の話。それこそ月単位でね。それだけでも大したものだけど、あんたたちはそんなに待ってはいられない。違うかい?」

 

 否定できる者は居なかった。承知の上での山籠もりであった。

 

「そこで、私が修行をつけてやろう。即席の妖怪退治屋……怪異退治屋か。そうなれるように鍛えてやる」

「……仮に、それが可能だとして。貴方にどのようなメリットが?」

「メリットはあるんだが。一から話すとなると時間を食うなあ。取りあえず、私の修業を受けるか受けないか決めないか?」

 

 一葉は至極当然の質問をするが、のらりくらりと躱されてしまう。

 実際、時間は惜しい。今はまだガーデンから指令は出ていないものの、いつ何時怪異が出現するかは知りようが無かった。

 目の前の少女、否、妖怪が怪しいのは言わずもがな。

 しかしながら、彼女の提案を一葉は一蹴しなかった。

 

「皆さん――――」

 

 一葉は妖怪の乗る大岩から一旦距離を取り、ヘルヴォル内で会議を始める。

 

「この提案、私は受け入れても良いと考えています」

「大丈夫? あの子が普通じゃないのはよく分かったけど、だからこそ余計に怪しいでしょ」

 

 恋花は一葉に疑問を呈した。

 確かに、顔を合わせたばかりで目的も分からない相手に特訓を頼むなど、あまりに突飛な考えだろう。

 

「子取り箱の除霊に加勢してくれたのが事実なら、修行を受ける意義は大きいと思います。残念だけど、私のやり方では時間が掛かってしまうから……」

 

 千香瑠は消極的ながら賛成に回った。

 

「あの子が私たちを欺く理由は無いと思うけど。でも怪異や妖怪は合理性だけで動いていない。私は賛成できないかな」

 

 瑤は反対の立場を取った。

 たとえ人外でも子供の姿の相手と敵対するのは辛いはず。しかし、それとこれとは話が別なのだろう。

 

「よく分からないけど、あの小っちゃい子、強い気がする。らんは一緒に遊んでみたいなあ」

 

 最後に藍が賛成の意を表した。

 そうして最後に決断するのは隊長である一葉の役割。

 

「修行を受けましょう。何かしら前へ進むものがあるかもしれません」

「一葉、本当にいいんだね? 相手が妖怪でも」

「はい。鹿野苑だって、怪異の全てを退治しようと考えてはいないのです。対立以外の道もあるのではないでしょうか」

「ま、ヒュージなんかとは違うからねえ」

 

 その決断に対し、恋花は念押しして最後には受け入れた。

 瑤も無言で頷いた。

 一葉は再び大岩の前に進み出る。

 

「修行の申し出、有り難く受け入れようと思います。それで、具体的にはどのような内容なのでしょうか?」

 

 すると妖怪は得意げに口角を持ち上げて、岩の上からひょいと飛び下りる。

 

「そう慌てなさんな。まずは名乗りから」

 

 少女の姿で堂々と胸を張りヘルヴォルを見据える。

 

「私はスイカってもんだ。よろしく、人間」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スイカと名乗った妖怪に連れられてやって来たのは、昨日に滝行を敢行した滝。ヘルヴォルの本来の目的地と同じ場所だ。

 ただし、そこに流れる水は昨日までと様相を異にしていた。

 

「これ、冗談でしょ?」

 

 恋花が口元を引き攣らせる。

 滝のてっぺんから滝壺にかけて、大量の水が鉄砲水の如き怒涛の勢いで流れ落ちていた。水面に落ちて噴き上がる水飛沫も、さながら津波のようである。

 

「スイカさん、何をしたのですか?」

「なあに、ちょっと水の流れを(あつ)めて凝縮させただけさ」

 

 真剣な顔で問う千香瑠に、スイカはあっけらかんとした様子で答えた。

 

「水の流れを、凝縮……。どういうことなのでしょう……」

「一葉、多分深く考えたら駄目なやつだと思う」

 

 瑤が一葉に諦観を勧めている。

 

「じゃあ始めようか、滝行を」

「マジで? あたしたち死んじゃわない?」

「へーきへーき。普通の人間より丈夫なんだから。それにこれぐらいやらないと、すぐには力がつかないぞ」

 

 信じられないものを見る顔つきで渋る恋花。

 しかしスイカの方針は変わらない。

 

「……分かりました。やりましょう、滝行を」

「おおぅ、言うと思った」

「ヒュージも怪異も待ってはくれません。焦るわけではないですが、道を短縮できるのならその方がいいでしょう」

 

 恋花は低く唸りながらも、一葉の選択を予測していた。だからこそのヘルヴォルだ。

 そういうわけで、五人は轟々と水飛沫や水蒸気の立ち込める中に入っていった。

 

 およそ三時間。それだけの時間を鉄砲水に打たれていたところ、滝壺から上がってきたヘルヴォルの姿はすっかり変わり果てていた。

 訓練着があちこちダメージを負って、ほつれ、破れかけて。真夏にもかかわらず、皆が一様に足と肩を震わせている。

 だが無論、特訓は始まったばかり。

 

「お次は、ここいらの石っころを砕いてもらおうか」

 

 元の常識的な勢いに戻った滝の畔で、胡坐を掻いたスイカは落ちていた石を無造作に拾い上げる。

 次の瞬間には、こぶし大の石が粉々に粉砕されて、風に巻かれて飛び去っていた。

 

「魔力……ああ、マギっていうのか。それを使えば出来るだろう」

 

 スイカが事も無げに言ってのけると、真っ先に飛び付いたのは藍だった。藍は手近な石を右手で掴むと、「ふん!」という掛け声と共に割ってみせた。

 

「こんなの簡単だよ! 流石らん!」

「はい、駄目ぇー」

「えーっ! なんで!?」

「割り方が大味過ぎるんだよ。もっと細かく砕くんだ」

 

 スイカの言葉通り、藍が砕いた石は三つか四つの大きめの破片と化していた。最初に見せてくれたお手本とは大違い。

 

「マギ操作の特訓ですか。これは、思った以上に難しいですね」

 

 続いて一葉が挑戦したところ、藍よりは破片が細かくなったものの、やはり粉々とはいかなかった。

 

「イメージとしては、石にマギを素早く二回ぶつける感じで」

 

 スイカのアドバイスを受けても、一葉たちはいまいち要領を掴めない。

 チャーム以外の物質を硬化させたり、身体能力を強化したり、そういったことにマギを用いる機会はよくあるが、物質にマギを流し込んで粉砕する経験など無かった。

 たとえ理論上は可能であっても、あまりに非効率である。ヒュージとの戦闘は勿論のこと、障害物の除去等においてもチャームや爆薬を使った方がずっと早い。

 

「千香瑠様は……成功ですね。流石です」

「私も、こういった修行は初めてよ」

「まあ千香瑠はマギの扱いが上手いからねー」

 

 恋花が褒めたように、ガーデンでの実技訓練におけるマギ操作技術は千香瑠がトップであった。エレンスゲでの彼女の序列の低さは実戦におけるメンタル面に原因がある。もっとも、今ではそれも覆ると思われるが。

 

 結局、五人で無数の石ころを破壊して、スイカのお手本通りにできたのは千香瑠だけだった。

 

「それじゃあ、いよいよその得物を使った修行にしよう」

「得物って、チャームのことでしょうか?」

「勿論そうさ。怪異ってのは本来特定の儀式を実行して祓うものだが、マギの込められたあんたたちの得物はある意味呪具とも言える。だからそいつでぶっ叩いて倒せるようになれば、一番手っ取り早いだろ?」

「成る程。もしそれが叶うのなら、有り難いことこの上ないですね」

 

 一葉が首肯すると、スイカは気を良くしたのか笑みを浮かべる。

 

「よし、早速そいつで私をぶっ叩いてみろ」

「…………はっ、いや、何をどうしろと?」

「チャームで私に打ちかかってこい。それが修行だ」

 

 とんでもない提案に、一葉のみならずヘルヴォル皆が固まる。

 当然だ。相手は幾ら妖怪とはいえ、子供の姿で武器も何も持っていないのだ。

 

「それは流石に、できませんよ……」

「何だい、私の体に傷でも付けられると思ってるの? そりゃ杞憂ってもんだ」

「そういう問題ではないのですが」

「ふぅん、私が妖怪だってこと、まだよく分かってないみたいだな」

 

 躊躇する一葉の見ている前で、スイカの右腕が白い霧に包まれる。霧はまたすぐに消えたのだが、その手に鎖が握られていた。

 もはやこの程度の芸当では誰も驚きはしなかった。

 

「私はこれを使うから。これなら文句ないだろ?」

 

 スイカは先端に三角錐の分銅が付いた鎖を両手で握り、挑発的に笑む。確かにお互い武器を持っているなら、リリィ同士でも打ち合いの稽古ぐらいはする。

 それでもヘルヴォルはチャームを振るうことを躊躇った。ただ一人を除いては。

 

「一番、らんが一番に行くよ!」

 

 小さな体が飛ぶように駆け出して、これまた小さな体に向けて躍り掛かる。巨大な鉄塊、チャーム『モンドラゴン』が避けもしないスイカを目掛けて上段から振り下ろされた。

 鈍い金属音の直後、嵐のような砂煙が巻き起こる。スイカの靴が、赤いリボン付きの可愛い靴が、地面を踏み締め後ずさったせいで。

 

「あの子、藍の突進を受け止めた……!」

 

 瑤が目を見開き驚く。藍のパワーもモンドラゴンの攻撃力も、抜きん出ているとよく知っているからだ。

 砂煙が完全に晴れた時、二人は膠着状態だった。両手でピンと引っ張られた鎖がモンドラゴンの刃を受け止めていた。

 

「ふむむむむむむ――――」

「おお、ちっこいの中々パワーがあるじゃないか」

「むむむむっ、らんの方が大きいっ」

 

 藍は真後ろへ跳んで一度間合いを取ると、モンドラゴンを構え直す。

 その巨大さゆえ、()()と呼ぶには大雑把。()()()と言った方が正確だろう。

 ただ先程に比べて幾分か刃を斜めに傾けた。

 

「やぁ!」

 

 再度の肉薄。

 二撃目は肩上から斬り掛かる袈裟懸け。

 しかしスイカはまるでヌンチャク術でも披露するかのように鎖を操り、またもや藍の攻撃を防いでしまう。

 そこからは息もつかせぬ攻防だった。連続して繰り出される鉄塊の暴風を、スイカの鎖が捌き続ける。時折蹴りや分銅の投擲で反撃するが、基本的にスイカの方は受け身の体勢を保っていた。

 

「考えを改めなきゃね。正直、見た目で舐めてた」

「そう、ですね……」

 

 その後、他の四人も全員がこの修行を受けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その晩。まだ完全に日が傾く前に、ヘルヴォルは早めの夕食を取ることにした。

 すっかり師と化したスイカも招き、中腹の山小屋へと帰還する。

 皆が疲労困憊。特に恋花と藍はグダっという効果音が聞こえてきそうなほど気力が無い。

 

「それで、これからどうするんだ? 今日はもうご飯食って寝るのか?」

 

 一人だけ平然としているスイカが広々とした食事スペース――小屋は元々食堂だった――の床板に腰を降ろしてそう言った。

 

「いいえ。タブレット端末を通してリモートで講義を受けた後、戦闘詳報を読み込みます」

「はぁ~、山の中まで来てご苦労なことだねえ」

「出席や単位に関してはある程度融通が利きますが、受けておくに越したことはありませんから」

 

 一葉が真面目に話していると、小さくて低い唸り声が鳴った。藍のお腹が悲鳴を上げたのだ。

 

「ねえ、ご飯まだぁ?」

「もうちょっと待ってね。千香瑠が作ってくれてるから」

「ご飯を食べなきゃお腹が空くよ。お腹が空くと力が出ないよ」

 

 瑤があやそうとするものの、藍の空腹は治まらない。

 ちなみに、今晩のメインディッシュはスイカが持ち込んだ猪の肉である。流石の千香瑠も猪の下ごしらえの経験は無かったので、そこは持ち込んだ本人も手伝っていた。

 

「お腹空いた……」

 

 不意に藍がゆらりと立ち上がる。何だか目の色が怪しい。

 

「スイカって、美味しそうな名前だね」

「は?」

「ちょっとだけ、らんに食べさせて」

「……は?」

 

 床の上で胡坐を掻くスイカに藍が伸し掛かる。

 

「何だお前!?」

「んちゅーっ」

「やめろ! 頬に吸い付くな!」

 

 一葉たちが呆気に取られている隙に、空腹で乱心した藍と抵抗するスイカがドタバタと揉み合いになる。

 

「二人とも、可愛い……」

「おい、でっかいの! ちっこいのを何とかしてくれ!」

「可愛い……可愛い……」

「おぉい!」

 

 千香瑠の夕食が運び込まれるまで、藍を拘束するはめになる一葉であった。

 

「このっ、ちっこいの! お前の方を食っちまうぞ!」

 

 

 

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