神社生まれの千香瑠様   作:坂ノ下

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第34話 国崩し 一.

 日本国において、ガーデンは一部を除き防衛省の所管に置かれている。

 ガーデンとそこに所属するリリィの作戦行動は防衛大臣の監督を受けるとされているが、実務上の都合から事後に為されるケースがほとんどと言って良いだろう。

 仮にその案件が高度な政治的要素を帯びる場合、防衛省ではなく、内閣府設置の審議会たる安全保障審査委員会が出てくる。従来のどの審議会よりも強い影響力を持ち、その提言は防衛軍やガーデンへの政府命令を容易に促す。国にとっては私立ガーデンを統制するための手綱となる機関である。

 もっとも、先の『鎌倉府人造リリィ脱走事件』において重大な判断ミスを犯した安保審査委はその権威と政治的立場を大きく失墜させていた。

 

 今回、千葉の慰霊祭警備に係る事後調査を務めるのは防衛省だ。安保審査委の失態云々を抜きにしても、特段の政治的事情が無いのでそれが妥当だろう。

 しかしながら、特段の事情が無いはずの調査は怪しげな雲行きを見せつつあった。

 

「……つまり、警備体制に不備があったと?」

 

 慰霊祭運営本部兼警備本部の建物内で、御台場女学校の若き教導官、アキラ・ブラントンはテーブル越しに調査員と相対していた。

 防衛省から派遣されてきた調査員は全部で三人。スーツ姿の男女二人は見た通りの()()()だろう。そしてもう一人は、制服組とは聞いていたが、陸軍ではなく空軍の人間が来るとは思いも寄らなかった。それも軍関係者でないアキラでも知っている有名人だ。

 

「ですが警備計画は事前に防衛省へ提出し、認可を頂いています」

「庁舎に籠ってばかりでろくに現場も知らない人間が認可したんだろう。まあ、あとから言うのも何だがね」

 

 まるで他人事のような物言いをする空軍の少将。認可の誤りを認めるということは、彼ら防衛省の責任をも認めることになる。

 また一方で背広組の二人は最初に形式的・事務的な聞き取りを済ませて以降、この少将に調査の場を譲って沈黙を続けていた。

 

「そもそも君たちの警備計画を見ると、ヒュージへの対処に偏っていて、人間へのそれは軽視しているように思えるんだが」

「十分考慮していると思いますが」

「成る程、ただの人間による犯罪ならば十分なのかもしれない。だが相手がただの人間でなければどうだろうか?」

「……と、仰いますと?」

「やれやれ、皆まで言わせる気かね? ご同類、リリィへの対処はできるのかと聞いてるんだよ」

 

 少将は薄い嘲笑のような笑みでそう問い掛けた。

 

「特段の措置を取る必要性を感じません。現状の計画で十分でしょう」

「ほほーっ、それはまた……。自分たちは無謬だと信じ込んでいるのか。それともあるいは、マスコミが報じないことは無かったことにされるのか」

 

 アキラは挑発に乗らず、感情を消した顔と抑揚を抑えた話し方で、普段生徒たちに見せるものとは掛け離れた態度で応じていた。

 リリィの対人戦闘について、日本を含む多くの国は「本来想定していない」と回答するだろう。国際的に()()()()とされている一部の国を除いては。

 それを以って、対ヒュージ戦闘への未成年者の投入に対する免罪符としている節がある。

 無論、建前はあくまで建前だ。例えば以前に人造リリィを捕獲させようとした時のように、必要があれば対人戦闘の起き得る命令も出す。

 だが基本的には、少なくとも国としては、始めから対人戦闘を前提としたリリィの運用は想定していないということになっていた。

 ただ実態は違う。御台場を含めた幾つかのガーデンは、違法実験を受ける強化リリィ救出を目的とした作戦を展開していた。アキラ自身、そのような作戦の責任者としての顔も持っている。

 政府も防衛軍上層部も、そういった水面下の動きは黙認するのが常だった。

 今の少将の言動はそういった上の方針に背くも同然のもの。にもかかわらず、背広組の二人は止めようともせず、居心地悪そうに座っているばかり。これだけで少将が持つ影響力の強さが窺える。

 

「現にヒュージとの戦闘後、チャームを所持したリリィから市民が脅迫まがいの対応を受けたという報告があるんだがねえ?」

「礼拝所不敬罪で取り調べを受けた者がそう証言したのでしょう。この件は当該リリィたちから聴取済みですが、我々御台場女学校も当該リリィの所属するエレンスゲ女学園も、問題無いと判断しています」

「ほほーっ、それはつまり、一市民よりも自分たちリリィの証言の方が正しいに違いないという判断か」

「正確に言えば、容疑者とリリィの証言を比較しての判断です」

「物は言いようだなあ。しかし、そういった君たちの思考の根底にあるのは『マギを操る自分たちこそ選ばれた存在である』というリリィ選民説ではなかろうか」

「私の勉強不足でしょうか? そのような言説は寡聞にして存じませんが。よろしければ提唱している学者のお名前を教えて頂けませんか?」

「学者なんて居ないよ。私が考えた」

「ではこのような場ではなく、防衛省倫理審査会にでも訴えたらいかがでしょう」

 

 軍どころか国自体に対して泥を塗りかねない舌禍が続く。

 だがアキラは少将がこういった言動を取っても不思議だとは思わなかった。彼の置かれてきた境遇を考えれば。

 

「時に少将、今までの発言は貴方自身の本心から来るお言葉なのですか?」

「……言っている意味が分からんな」

 

 嘲笑の顔を崩さない相手に、アキラは構わず続ける。

 

「パイロット時代の貴方の武勇は、軍の外にまで聞こえてきます」

「…………」

「数々の戦果を上げて防衛軍内で英雄視されたものの、貴方の戦死を恐れた上層部から地上勤務を命じられた。それにもかかわらずどうにかして操縦桿を握ろうとするものだから、空幕長直々の命令で基地警備隊に軟禁されたとか」

「さてね、昔のことは忘れたよ」

 

 とぼけてみせるその口が、嘲笑とは異なる意図で歪んだ瞬間をアキラは見逃さない。

 

「そんな現場主義の権化とも言うべき方が、前線で戦う者たちをあげつらって軍の名を貶めるのは、プロパガンダの神輿として担ぎ上げられたことへの意趣返しなのでは?」

 

 根拠に乏しい推論だ。推論だが、アキラは当たらずといえども遠からずと思っていた。

 

「……憶測であれこれと語られるのは不愉快だ。他に報告が無いなら帰らせてもらう」

「ありません。ですが本日の件は、ガーデンを通して防衛省に抗議いたします」

As you like(お好きにどうぞ)

 

 わざわざアキラの国の言葉で吐き捨てるように言うと、少将は椅子を引き立ち上がる。

 そのあとを追うように、背広組の二人も形ばかりの挨拶を述べて退室していく。

 

 一人残ったアキラは少しの間そのままジッとしていたが、やがて音も無く席から離れて部屋の出入り口へと向かう。

 冷たいドアノブにそっと手を触れ、次の瞬間には勢いよく扉を開けていた。

 そこでアキラは、驚き目を見開く金髪のリリィと対面する。ロネスネスとは別に、護衛兼警備本部要員として御台場から連れてきたリリィだ。

 

「く・れ・な・さ~ん? 私がお願いしたのは休憩室での待機であって、立哨じゃないわよん?」

 

 先程までとは打って変わって、甘ったるい声、甘ったるい表情で問うアキラ。

 一方、金髪のリリィ――――西郷(さいごう)(くれな)は自身の肩上に垂れる巻き髪を指で弄りながら口ごもる。口ごもりながらも喋ろうとしたところ、腰を抱かれて引き寄せられた。

 

「全く……。そんなに心配する余裕があるんなら、御台場に帰って特別訓練フルコース決定ね~」

 

 アキラの豊かな胸元に顔を埋められた紅は「う~う~」と唸り、ようやくの思いで脱出する。

 

「……ぷはっ! ち、違いますわ。特訓は望むところですが、聞き耳を立てようと思ったのではありません。偶然通り掛かっただけですわ」

「はいはい。あぁ~、可愛い生徒に愛されて幸せだわぁ」

「違いますわ! いえ、違わないけど違うんです! アキラせんせっ――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千葉の方では一悶着あったみたいだな?」

 

 千葉から東京のエレンスゲへと帰還した一葉は早速職員室に呼び出されていた。

 

「はい、事前に報告した通りです。……千葉県警から何かありましたか?」

「単なる確認程度のことだ。馬鹿者の戯言を真に受ける人間なんて、そうは居ない」

 

 軍服めいた白服を纏うヘルヴォル教導官はそう言って、千葉での一件について話を終わらせた。

 

「それより今後のことだが……我がエレンスゲは暫くの間、東京外への一切の外征を禁止する。無論、貴様らヘルヴォルもだ」

 

 予想外の話に困惑する一葉をよそに、教導官は先を続ける。

 

「先日の慰霊祭でヒュージが現れた際、千葉県各所に霧が発生している。それもかなりの広範囲に渡って。貴様らが群馬で遭遇したものと同一だと思われる」

「まさか……! では、ヒュージ発見の報が遅れたのも……」

「そうだ。各所で通信障害が発生したせいだ」

「やはり。本来ならロネスネスがチャームを換装する余裕ぐらいあったはず」

 

 腑に落ちた一葉は次に今後について考える。

 とは言え、既にガーデンとしての方針があるようだが。

 

「この霧が今度は東京に来ると、ガーデンは予想しているのですか?」

「群馬、千葉と来たんだ。東京に来ないとは考え難いだろう。故に総力で都内を固める」

 

 些か受け身過ぎるのではないかと危惧した一葉だが、それも仕方がないとすぐに思い直す。怪異の出現は大抵突然で、こちらから打って出るのは難しい。

 そもそも、あの霧の怪異はあの時確かに討ったはず。また別の何かが蠢いているのか。この関東に、この世界に何が起きようとしているのか。

 教導官から退出を促された後も、一葉は考え悩んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一日の講義を終えて、ヘルヴォルは学外での巡回に赴いた。

 場所は六本木から近い霊園。大都心にあって広大な敷地を有するその霊園は昔から何かと話題の尽きない場所だ。ヒュージ出現以前は心霊スポット的な認識を持たれていたが、今では純粋に死者へ祈るために訪れる者ばかりだろう。

 敷地内に何本もの車道が走り、街路樹の緑が溢れる景色。放課後、夕刻ということもあって、ただ厳かなだけでなく薄ら寒さすら覚える。

 だがそんな中でも来園者の姿がちらほらと見えた。小さな子供を連れた家族であったり、高齢の夫婦であったり。

 遠目には、黒一色の時代錯誤な学ラン姿も。コスプレか何かだろうか。神社に軍服姿ならばよくあるが、このような霊園では珍しい光景だった。

 

「うちが外征禁止だなんてねー」

 

 霊園内の道を見回っていると、恋花がそんなことを言い出した。

 

「で、どうする? 本当に都内に来るのを待ってるだけ?」

「そうですね……。以前に萃香さんもからも『待っていたらそのうち暴れるだろう』と言われていますが……」

「でもそれって大分、受け身じゃない?」

「ええ、私もそう思っていました。街へどんな被害が及ぶか分からないというのに。しかしだからと言って、こちらから怪異を見つけ出して先手を打つ手段も持ち合わせていません」

 

 一葉は職員室で抱いた懸念を口にした。

 これには恋花も腕組みして小さく唸る。

 

「んーーーっ。だったらさあ、萃香にもう一回怪異について聞いてみるとか」

「それがいいでしょうね。きちんとお願いしたら、何かしら教えてくれるかもしれません。そもそも五大怪異とやらの討伐は彼女の希望でもあるのですし」

 

 今までも要所々々で助太刀してくれた。なので最後の一体においても助力してくれる可能性は高いと一葉は考えていた。

 

「難しいと思うわ」

 

 意外にも千香瑠が異を唱えた。

 

「これまでも萃香さんは具体的な内容まで事前に話すことはなかった。もしかしたら彼女の言う結界強化の儀式には、そちらの方が都合が良いのかも」

「千香瑠様。ですが一生懸命説得すれば、分かってくれる可能性だってあるはずです。ヒュージなどと違って、意思疎通のできる心を持った相手なのですから」

 

 京の山で出会った妖怪の少女。決して長い付き合いとは言えないが、彼女と過ごした時間は濃い時間ばかりであった。稽古や戦闘中でなければ、自分たちとは少し常識が異なるだけのように思えた。

 千香瑠は顔に陰りを浮かべたが、すぐに何か吹っ切るように首を左右に振る。

 

「そう、ね……。そうかもしれない」

「元より私たちの世界の危機なのです。駄目なら仕方ありません。ただ試してみる価値はあるかと」

「ええ……。だけど一葉ちゃん、覚えておいて。怪異や妖怪には、きっと彼女たちなりの論理がある。彼女たちの心はそれに基づくものなのだと」

 

 憂慮を滲ませる千香瑠に対し、一葉は深く頷く。

 とは言え、そういった論理や常識の差異を埋め得るものは、チャームではなく言葉であると思ってもいた。

 

「ま、その前にあのチビッ子と連絡取り合う手段が無いんだけどね」

「恋花、空気読んで」

「何よー、事実でしょー」

 

 恋花が軽い調子で話の腰を折り、隣の瑤に咎められた。

 そのやり取りは一葉にとって、いい感じに肩の力を抜くのに十分だった。

 

「恋花様の言う通りですね。一番重要なことでした」

「いつも向こうからフラっとやって来るからねえ」

 

 やはり一つのことに悩み過ぎると他がおろそかになりかねない。一葉はそう反省する。

 

「ねえねえ、瑤ー。美味しいお菓子を用意したらスイカが来てくれるかもしれないよ?」

「ふふっ。そうだね、藍」

「うーん、そうかなあ。お菓子よりもお酒じゃない? この前の見てると」

「恋花さん? 何を言い出すのかしら」

「いっ、いやいや、あちらさんにはあちらさんなりの論理があってぇ……」

「それはそれ、これはこれです! お酒はいけません!」

 

 チャームを背に背負ったままヘルヴォルの巡回は続く。

 抜き身ではなくケースに仕舞っていることもあって、また彼女らのやり取りから醸し出される空気もあって、目に映る来園者たちは平生通りに祈りを捧げられているようだった。

 

 ところが霊園の中心部を過ぎた時、流れていた柔らかな空気は絹を引き裂くような悲鳴によって崩れ去った。

 一葉たちはその場で周囲を見回した後、互いに頷き合って悲鳴の方へと駆け出していく。

 辿り着いたのは街路樹を背にして広がる墓所の前。

 そこで五人が目にしたのは逃げ惑う人々の背と、明らかに異様な人影。その人影はボロを纏い、肌は紫っぽく変色し、頭髪が幾らか抜け落ちていた。くるりと一葉たちの方に振り返ると、瞳孔が白く塗り潰された目を向けてきた。

 あの時と同じだ。群馬で霧が発生した時と。

 ではあの時と同じで実態の無い幻なのか。

 それとも――――

 

「速やかに制圧します」

 

 一葉は決断した。

 群馬の件と一点だけ明らかに違う。それはここが都心の中で、一般市民が全く避難できていないということだ。

 背負っていたチャームケースを足元に下ろす。留め型を外すと、箱型のケースが展開してブルトガングの無骨な刃が露わになった。

 他の四人もそれぞれチャームを装備していく中で一葉は指示を下す。

 

「瑤様と千香瑠様は来園者の避難誘導を。恋花様と藍は私と共に不明体の迎撃を。避難完了まで、発砲は可能な限り控えてください」

 

 ヘルヴォルが改めて動き出す。

 一葉はまず最初に目の前の存在へ対処する。

 

「そこで止まりなさい!」

 

 警告に全く聞く耳を持たず、ソレは覚束ない足取りで走り出す。

 一葉はチャームの刃を返し、ボディ部分でソレの脚を打ち付けた。

 手に伝わってくるのは肉を叩く生々しい感触。あの時、霧が生み出した怪物の幻影からは感じなかった確かな手応えがそこにはあった。

 転倒して地に這い蹲りながらも、ソレは両腕を振るいながら向かって来る。

 一葉はチャームの背をソレの背中に振り下ろし、抵抗する能力を完全に奪い取った。

 

「恋花様も藍もあまり離れ過ぎないように。避難の援護を最優先で当たってください」

 

 遅れて通信を入れ、巨大霊園の中を駆けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 道路脇に街路樹が並び、区画ごとに墓石が立つ園内は見通しが悪い。夕刻ならば尚更だ。どちらにせよ飛び道具は使い辛いだろう。施設への被害を考慮しなければ話は別だが。

 曲がり角から現れた不明体を、一葉は刃の腹で思い切り殴り付けて叩き伏せる。

 ここまでの道中、墓所に地面を掘り返されたような跡は見当たらなかった。幻でもないが、かと言って死者の骸が蘇ったわけでもないらしい。

 

(助かった。そっちの方がやり易い)

 

 普段から相手にしているヒュージも大概グロテスクなので、視覚的なショックは大して問題ではない。ただ故人とはいえ、本物の遺体に狼藉を働くのは並の神経にはかなり応える。

 

(でも、おかしい。今は霧なんて出てないのに)

 

 また一体、前方に見えたゾンビもどきを打ち倒しながら、一葉は現状に疑問を抱く。

 過去の戦いとは似ているようで、何かが決定的に違っている気がした。

 そしてまた一体、植え込みの緑の向こうに人影が見える。

 いや、違った。ゾンビもどきではない。それは先程見かけた古風な黒一色の学ラン姿だ。よく見ると同色の外套(マント)らしき物を羽織っている。

 

「そこの方、早く避難してください! 南側の出口から園外へ!」

 

 近くまで駆け寄ろうとした一葉だが、振り返ったその人物を見て足を止めた。

 帽章の無い学生帽を目深にかぶって目元は見えないが、口の端が吊り上がっていた。

 

「貴方は――――」

 

 チャームのグリップを握り直しつつ問い掛けようとしたところ、相手が口を開ける。

 

「諸君はこれまで我が秘術の実証に大変貢献してくれた。(まこと)ありがたい」

「何を、言っているのですか」

 

 右足を後ろに引き、チャームを構える。

 そんな一葉の耳に通信が入る。

 

「一葉、避難完了したよ。千香瑠が一足先にそっちへ向かってる」

 

 瑤の声だ。

 またそれと同時に恋花と藍が合流してくる。一葉の様子に気付いたのだろう。

 痩せ型の体を学ランとマントに包んだ男は話を続ける。

 

「感謝の意も込めて、この度は諸君らには種を明かそうと思う。そのためにこうして参った次第」

 

 次の瞬間、男の足元が光り出す。光は線をなぞり、線は円形の幾何学模様を形作る。

 そうして完成した図形の周りから人型が這い出してきた。霊園に蔓延るゾンビもどきより一回りも二回りも大柄の化け物だ。

 

「ちょっ、これマジ!?」

「わぁー、なになに?」

 

 恋花と藍もこの人物の異様さに気付いてチャームを構える。

 

「貴方がこの霊園を襲っている犯人ですか」

「いかにも。怪異『生物災害』。今の若人には毛唐の怪異の方が馴染み深いのではなかろうか」

「そんなっ、こんなこと!」

 

 悪びれもせずどこか自慢げな口調の学ランに、一葉は眦を吊り上げる。

 

「此度のことだけじゃない。のっぺらぼうに子取り箱にリンフォンに……。いずれも我が秘術で喚んだもの。覚えてくれているだろうか」

 

 一葉は絶句した。

 彼の言葉通りなら、これまでずっとこの人物の思惑に沿って戦い続けてきたことになる。

 しかし、実証と感謝というのはどういう意味か。お礼参りでもするつもりなのか。

 

「色々と尋ねたいことはありますが……。まず貴方は何者なのですか?」

「ふむ、『何者か』と。それは果たして哲学的な意味の問いなのだろうか。だとするなら、人であるとも言えるし怪異であるとも言える。あるいは全く別種の存在だと定義付けることも可能だろう」

 

 つらつらと不毛な論を並び立てるものだから、一葉の横の方で恋花が露骨に眉間を歪めた。

 男の方はちゃんと聴衆の不満を把握しているのか、やや芝居がかった調子で纏めにかかる。

 

「しかし諸君らが呼称に困るというのであれば、あえて名乗ろう。怪異召喚士(デモンサマナー)と」

 

 

 




本作では安全保障審査委員会を審議会としていますが、長が長官であったり本当のところはどういった組織なんでしょうね?
ただアニメ本編の描写を見るに、悪のゲヘナのシンパというよりは、一度下した決定を容易に撤回できない役人気質の強い組織に思えましたが。
そういうところは妙に現実的という…





それはさておき……ラスバレ!
イルマもメルクリウスもサングリーズルもネタが貯まってるのに、神庭が書きたくなったじゃないか!
今までメインとしては敢えて書いてこなかった彼のガーデンを出す時が来たようですね(連載終わらせてから)
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