神社生まれの千香瑠様   作:坂ノ下

46 / 47
第46話 鬼退治

「ええっ!? じゃあ本当にここまで飛んできたわけ!?」

 

 空に漂う浮島の上、合流した恋花は一葉たちに驚きの目を向けた。

 

「ガンシップで動き回るのは流石に目立ち過ぎるので、置いて来ました」

「そっか。まあ、あたしも自力で降りようと思ってたんだけど。ほら、あっちの方にチラっと見えるやけに高い山」

 

 恋花の指差す方を見た一葉は頭を抱える。

 天に向かって突き出た常識外れの頂。ただの山であるはずがない。

 

「よかった。恋花が早まる前に間に合って」

「そうですね瑤様」

「何よー、二人とも人のこと何だと思ってんの?」

 

 一葉と瑤が目を合わせて頷き合うと、恋花は不満そうに口を尖らせた。

 

「ねえねえ、恋花はここに居たの? ここなーに? 何があるの?」

 

 藍が横から恋花の右腕を引っ張っている。

 ここに来る前、最初に着陸した浮島には自然の緑が溢れている以外、特に目ぼしいものが無かったため藍の期待が外れていたのだ。

 

「ここはねえ、悪鬼の根城だけあって、人を食らう恐ろしい怪物があちこち徘徊して……ってわけもなく、普通に家が一軒建ってるだけだったね」

「ふーん、そっかー」

「ちょこっと揉めたりはしたけど」

 

 気を落とす藍。

 しかし残念ながら、どちらにしてもこの世界をこれ以上冒険してはいられない。

 

「恋花さんを見つけるまで誰にも会わず妨害も受けなかったけど、早めに脱出した方がいいわ」

「同感です。長居は無用。着陸地点へ戻りましょう」

 

 千香瑠の言うように、ガンシップで派手に乗り付けておいて何も無いというのは不自然だ。

 一葉が先頭に立って元来た方向、浮島の崖際へ歩き出す。

 

「ひょっとして、あっちじゃ結構大事になったりしてる?」

「それはそうですよ。作戦行動中のリリィが拉致されたんですから」

「マジか……」

「大マジです。ちなみに鹿野苑を通して秘封俱楽部の蓮子さんとメリーさんにも同行頂いてます」

「あー、そうなんだ。あとで埋め合わせしておこう」

 

 一葉は恋花と現状について話しながらも足早に進んでいく。

 恋花が仕入れた情報によると、ここは天界と呼ばれる地であり、住人は皆ここから離れた一際大きな浮島に居住している。彼らは基本的にこの一連の騒ぎに不干渉とのことだ。

 ただ勿論、元凶である鬼が一葉たちヘルヴォルを放っておくはずがない。わざわざ誘拐なんて至極回りくどい真似をしたのだから。

 

 そして案の定、嫌な予感は的中する。

 足元が揺れた。

 重たい地響きが唸りを上げた。

 天に浮かぶこの島でただの地震など起きようもない。

 足を止めて全周にチャームを向けるヘルヴォルの前に、小さなシルエットが現れた。

 大岩を段状に幾つも積み重ねた意図不明な岩の塔。その天辺に立ち地上の一葉たちを見下ろしていた。

 地上三階建て程度の高さから飛び降りた萃香がヘルヴォルの方に向き直る。

 着地の瞬間、地震が起きたりとか地面が抉れたりとか、そういうことは起こらなかった。さっきの地響きは何だったのかと不思議に思う一葉だが、主題ではないので口には出さない。

 

「フフフフフ、役者が揃ったみたいだな」

 

 悪びれた様子も無く不敵な笑みと共に五人の前に立つ。

 チャームの柄を握る一葉の手に力が入る。

 

「あ~、あたしはこのまま帰りたい気分なんだけど」

「そう言うなよ。そんな物まで持ち出してきて、これで済むなんて思っちゃいないだろ?」

 

 乾いた笑みで出された恋花の提案はあっさりと却下された。

 萃香の視線の先にあるのは一葉のチャーム、マギクリスタルコアを搭載した刀。

 

「貴方の力に対抗するためのものです。恥ずかしながら、以前の私たちでは相手にもならなかった」

 

 一葉がそう答える。

 ある程度の力が無ければまともに話もできないだろう。妖怪とはそういうものだと分かってきた。

 

「ですが、刃を交えずに済むならそうしたい」

「フフッ、ここまで来てまだ言うか。ある意味期待通りだな、相澤一葉。いや、ヘルヴォル」

「まともな交渉が出来ずただ人を傷付けるばかりの性質をヒュージと見做すなら、これまでの怪異はともかく貴方がそうだとは思えないのです」

「だから、共存したいと言いたいわけか」

 

 萃香は「ふーん」と何事か考え込んだ後、唐突に話題を変えてくる。

 

「そっち側の一部の連中がこっち側の存在について伏せていたのは正解だったな」

 

 何が言いたいのか、一葉には察しがついた。シエルリントや鹿野苑のことを指しているのだろう。

 

「考えてもみろ。際限なく沸き出すデカブツどもと命懸けで戦っている一方で、大地が宙に浮かんだり暇を持て余して決闘やってる連中がいたり、そんな世界があると知ったらどう思う? 馬鹿馬鹿しくもなるだろう。全て投げ出したくもなるだろう。そういう意味でも、そっちとこっちは相容れるべきではないのさ」

 

 萃香の言うことは分かる。理解もできる。

 しかし理解はできるが、一葉は同意しなかった。

 

「私はそうは思いません。私たちの戦いが馬鹿馬鹿しく無駄であるなどとは。互いに住んでる場所が違うのなら、事情も違ってくるでしょう。自他を線引きして、それが不和や対立ばかり産むとは思いません」

 

 思うところがあっても、乗り越えることはできる。

 そんな一葉の主張に萃香は目を細める。

 

「あぁ、眩しいな。眩しい。何度足蹴にされても折れずに立ち上がり這い上がってくる。お前たちを選んだ甲斐があったよ」

 

 大江山で出会い、怪異を討つための技と道を教わり、時には直接助けられることもあった。

 

「そんなお前たちだからこそ、この儀式を担うに相応しい。嬉しいよ。私は嬉しい」

 

 言葉の通り、心底から待ち望んでいたかのような声と仕草。

 やはり妖怪の価値観を完全に理解することはできない。

 ただ彼女がヘルヴォルとの戦いを欲しているのだけは十二分に理解できた。

 

「人を食らう妖怪は、お前たちの敵だ。全力を出せ。お前たちの世界と信念のために」

 

 再び彼女らの立つ大地が揺れ出した。それはさながら人知を超えた存在の武者震いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫く続いた揺れは、何か甚大な災禍をもたらすこともなく徐々に収まっていく。

 完全に揺れが収まると、萃香が動いた。最初の数歩だけ見せつけるかの如く緩慢な動作で、しかしそれ以後は思い切り地を踏み締めて弾かれたように飛び掛かる。

 標的は一葉だった。ヘルヴォルの中心に立つ一葉へ直線軌道で萃香が迫る。

 一葉はチャームを鞘から抜いて構えていた。

 

 本物の日本刀をチャームへと改造した『ドウジキリ』は、射撃兵装も変形機構を持たない単機能の第一世代型チャームだ。

 文部科学省の依頼により国産チャームメイカーの天津重工が改造を手掛けて、鹿野苑高等女学園が保有していた。

 過去の実戦テストによりチャームとしてヒュージに通用するのは証明済み。

 しかしながら、貴重な文化財を素材として供する割りに想定したような性能を発揮しなかったため、以降は類似の試みが為されることは無かった。

 

 萃香の突撃に対し、一葉は刀を真横に薙ぐ。

 瞬間、激しい衝撃に刀身が戦慄き、目の眩む閃光が眼前に迸る。

 衝撃に負けじと込めた力のせいでたたらを踏む一葉だが、萃香の突貫を見事に弾き飛ばした。

 

「フッ、フフフッ」

 

 空中で身を翻し距離を置いて着地した萃香は笑みを零すと、お次は鎖付きの分銅を三つ同時に投擲する。

 球体と三角錐と立方体を模った鉄塊が一斉に一葉を襲う。

 しかしドウジキリを正眼に構え直したところで、横合いから割って入ってきた小さな影が分銅を三つとも弾き飛ばすのだった。

 大型チャーム『モンドラゴン』を携えて一葉の前に颯爽と躍り出たのは藍だ。

 

「援護っ!」

 

 藍が対峙する相手へ駆け出すや否や、一葉の指示が飛ぶ。

 すると射撃兵装を持たないドウジキリを除いた三機のチャームが牽制の火箭を奔らせる。

 レーザーと実体弾が飛び交う中、肉迫した藍が巨大な鈍器を振り下ろした。

 並の存在ならば当たれば一溜まりもないであろう一撃を、真後ろへ大きく飛び退き避ける萃香。

 

「恋花に酷いことしたね。許さないよ!」

「ほーっ。許さなかったら、どうするんだ?」

 

 試すような口振りの萃香に対して藍は強い眼差しを向ける。その場でモンドラゴンを握り直す。

 

「こうする!」

 

 両の手でしっかりと握り込んだモンドラゴンを大きく振り回し始めた。

 大きな円を描いて回転する鉄塊は低音を唸らせ風を切り、段々と速度を増していく。 

 この地に来る前、藍が特訓していた必殺技。だがそれは一葉が想定していたものとは異なる様相を呈していた。

 

「これは……この世界のマギのせい?」

 

 本来なら、チャームをより強力に投擲するための技。

 ところが投擲せず振り回している内に、藍と彼女のモンドラゴンを中心に大気が渦を巻き始めたのだ。

 そうして生まれた小さな竜巻が萃香へと躍り掛かった。

 心底驚いたのか両目を大きく開いた萃香は竜巻に飲み込まれ、あっという間に空高くへと舞い上げられる。彼女のみならず、目の当たりにした藍以外の誰もが唖然とする。

 鉛玉や鋼の刃など形あるものはともかく、強風からはたとえ霧と化しても逃れられない。

 雲よりも高い天上の世界で、更にその上空に至った萃香が下方に向けて赤い弾幕を繰り出す。

 弾幕の赤は炎の赤だった。燃え盛る火球が降り注ぐ様は隕石の落下の如し。

 ヘルヴォルは密接気味だった陣形を散開させて弾幕の隕石群をやり過ごす。

 火球がそこいらの地面に落着して火柱を上げる中、一つだけ炎とは異なるものが落ちてきた。弾幕を繰り出した本人だ。

 浮島をかち割らんばかりの勢いで落ちてきた先は、恋花のすぐ前。

 濛々と立ち込める砂埃の奥からヌッと伸びた手が恋花に迫る。

 

「もうやらせない」

 

 しかし萃香の右手は恋花を捉えず、右方から盾となった瑤のクリューサーオールを掴んだ。

 

「覚悟……っ!」

 

 更に萃香の左手が、左方から千香瑠によって突き出されたゲイボルグの刃を受け止めた。

 

「今までのお返し!」

 

 そこへ恋花のブルンツヴィークが発砲。真正面の近距離から放たれたレーザーは両手が塞がり無防備な鬼の少女へ突き刺さる。

 幾条かの光線をまともに浴びた萃香は口の端から黒煙を吐きながらも、左右の手に掴んだチャームを持ち主ごと放り投げた。

 瑤は恋花にぶつけ、千香瑠は明後日の方向へ投げ飛ばして追い打ちの火球を放る。

 そんな萃香の背中から今度は藍がシューティングモードの砲撃を加え始めた。

 狙いの甘い藍では決定打には至らず、着弾による爆煙と土煙が目くらましになるぐらい。

 しかし、目くらましで十分だった。

 剣の間合いまで詰めた一葉の刃が袈裟斬りを見舞う。

 キンッ、と甲高い金属音。

 見れば、これまで投擲武器として用いていた鎖を自らの両腕に巻き付けて即席の防護手段とした萃香が居た。

 以降、一対一の熾烈な剣戟が展開する。

 体格と得物の長さから、リーチは一葉が上。身体能力は萃香に分がある。

 だがドウジキリの一太刀一太刀に打ち据えられる度、鎖は酷く傷付き摩耗していく。頑強な本来の見た目から掛け離れた鉄屑同然の姿に変わり果てるのに、時間はそう掛からなかった。

 

「あぁ、こんなのは何時(いつ)以来だ。この首が、今まさに切り落とされようとしている」

 

 火花散る剣戟の最中、萃香から漏れ出た声は興奮とも陶酔とも取れるものだった。

 一方で一葉の中では熱い想いと冷たい諦観が入り混じっていった。

 そんな中、萃香が至近距離での打ち合いを突然中止して後方へ大きく間合いを取る。

 

「非常に名残惜しいが、胸躍る時間はいつまでも続かない。そろそろケリをつけようか」

 

 そう言って萃香は自身の腹の前で両の掌を上下に重ね合わせた。すると手の中の小さな空間に黒い球体が現れる。

 握り拳サイズの球体は少しずつ膨らんでいき、初見の一葉に異様さと危機感を覚えさせた。

 

「あれを撃たせては駄目!」

 

 千香瑠の鬼気迫る警告を耳にして、一葉は弾かれたように前へと飛び出した。

 一葉の肉迫を援護するべく横合いからゲイボルグが飛来する。投擲を想定した槍型チャームはマギの助けを借りて、大気を貫く威勢で鬼へと向かう。機体色の黒とマギの光が合わさり、軌道上に黒色の稲光となって瞬いた。

 魔槍と交差する寸前、萃香はその場で首を軽く振る。

 すると大質量の物体同士が激突するかの如き衝撃音を上げ、頭部から屹立する鬼の角がゲイボルグを弾き逸らしてしまう。

 その直後、同じ方向からもう一条の光が奔った。

 光は萃香の脇腹に深々と突き刺さった。

 表情一つ変えず、しかし彼女の小さな体はぐらりとよろける。

 光を放っていたのは、千香瑠が実家から取り寄せたというお祓い棒だった。

 

「はっあぁぁぁぁぁ!」

 

 再度間合いを詰めた一葉による上段からの斬撃。

 萃香は黒色の球体を右手一本で掴み直し、ドウジキリの刃に向けて突き出した。

 こぶし大のサイズから数倍に膨れ上がった黒球。一葉は間近に来て初めてその正体に気が付いた。頭では信じられなくとも、直感がそう判断した。

 

(……ブラックホール)

 

 極小の重力異常。

 そこへドウジキリが振り下ろされる。

 黒球と交差した刀身は触れた先から暗黒の空間に飲み込まれていく。

 この瞬間、時が止まったかのようだった。

 世界がゆっくりと、スローモーションで流れていた。

 刀の柄を握ったまま離さない一葉の眼前に虚無の黒が広がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗黒を越えて、鬼殺しの剣が奔る。

 上下に両断された黒球。その後ろの萃香は肩口から斬られ、鼻先の距離まで接近した一葉と視線を合わせて満足そうに目尻を緩めた。

 

「すい――――」

 

 名を口にしようとした一葉の目の前で黒球が爆発した。

 炎が四方八方へと飛び散り、遅れて立ち込めてきた煙に巻かれる。

 マギの結界と両腕で頭部を庇った一葉が辺りを見回すと、地面の上に落ちているのは自分自身だけだった。

 耳鳴りがする。

 その耳鳴りが治まり始めた時、近付いてくる仲間たちの呼び声で一葉は()()()()ことを知る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘルヴォルはガンシップの駐機場となった小島まで戻ってきていた。

 ここから更に結界を越える道程があるのだが、すぐには発たない。

 まず今でも結界の境目が健在か確かめるため、機内に積んでいた偵察用ドローンを飛ばしてそこから送られてくる映像をメリーに見てもらう。

 退路の確認が済むまでヘルヴォルはガンシップの周囲に展開して警戒することにした。

 もっとも、ここにきて他の何者かの襲撃がある可能性など一葉も低いと見ていたが。

 

「…………」

 

 崖ぎわに立ち、襲撃者はおろか鳥さえ見えない空に臨む一葉。

 手にするチャームはドウジキリからマギクリスタルコアを換装したブルトガング。元に戻った形である。

 

「…………」

 

 取り立てて変化が無いため、無言が続く。

 雲海よりも上に位置する天界の空は、憎たらしく思えるほどに晴れやかだった。

 

「よっと」

 

 軽い掛け声と共に恋花が一葉の隣に座り込んだ。後ろから歩いて来ていたのだ。

 

「真面目だね~。何も来たりしないってば」

「恋花様……」

 

 恋花がすぐ横の地面をポンポンと叩いたので、幾分迷った後に一葉は視線だけは空から離さずにゆっくりと腰を下ろす。

 

「あれだけ大騒ぎしたのに、本当に誰も飛んで来ないね。平和、いや平和なのか? こんなのが日常茶飯事なんて」

 

 沈黙する一葉を横目に、恋花はこの世界やこの世界の住民について()()()()()の如く言及していく。それは愚痴ではあったが、自身を攫った件への怒りや恨み節には聞こえなかった。

 

「でもまあこれで最後って思ったら、少しは名残惜しいかな。色々ぶっ飛んでて面白いし。だって空中都市でしょ? 空中庭園とか目じゃないじゃーん。ちょこっとだけ観光でもしていく?」

 

 冗談交じりにそう言ってニカッと笑い掛けてくる。

 普通はここまで気を遣われたら、申し訳なさで決まりが悪くなるものだ。

 しかしそれが恋花の場合、そのような負い目はあまり感じなかった。恋花の持つ気質の為せる業か、あるいは彼女に向ける一葉の感情によるものか。

 ともあれ、一葉は不必要に気負うことなく今現在の内面を露わにしようと口を開く。

 

「萃香さんを斬りました」

「うん」

「共に戦った仲間だったのに……。私は、仲間だと思っていたのに……」

「うん」

「斬った感触がはっきりと分かりました。今でも、この手が覚えています」

「うん……」

 

 できるだけ感情を抑えて冷静に振舞おうと努める一葉に対し、恋花は肩を寄せて静かに相槌を打つ。

 

「あれで良かったと、ああするべきだったと、頭では分かっているんです。だけどっ」

 

 一葉は自身の手でこぶしを強く握る。

 

「だけど、それでも手が震えてくるのは、本当は間違っているせいなんでしょうか?」

 

 口に出した次の瞬間、一葉は早くも後悔していた。こんな問いを投げ掛けても困らせるだけだろう、と。

 

「間違ってるのか正しいのか、あたしにはどっちとも言えないけどさ」

 

 ところが恋花はそんな一葉の腕を横から引っ張る。

 引っ張られた一葉も初めはビクリと体を揺らせて抵抗しそうになるものの、すぐに為されるがまま頭を恋花の胸元に抱き寄せられた。

 

「でも一葉や皆が来てくれたから、あたしは助かった。助かったんだよ。それだけじゃ……足りない?」

 

 頭上からそう問われると、一葉は顔を恋花に埋めた状態で首を左右に振る。

 他の誰かに許されるよりも、行ないを認められて称えられるよりも、ずっとずっと意味のあることだった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。