とかく世界は不公平にできている。
天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず。この世に存在する全ての差は努力の差によって決まる。
遠く昔にそんな言葉が持て囃されたが、実際は違う。努力ではどうにもならないこともある。
戦時下という点を差し引いても、この世界は残酷にできていた。
「たかし……せめて、せめて晩御飯の時ぐらい、下に降りてきて一緒に食べましょう。たかし……」
うるさい、今更母親面するな。誰のせいでこうなったと思ってる。誰が産んでくれと頼んだ。
「たかし……貴方大学まで出たんだから。本当はやればできる子なんだから。たかし……」
うるさい、恩着せがましいんだよ。親が子に教育を受けさせるのは恩なんかじゃない、義務だろうが。
「たかし、お前は今まで見てきた特撮番組や外国の漫画から何を学んできたんだ? お前の好きなヒーローたちは、母さんをぶったりするのか? たかし」
うるさい、現実と空想を一緒にするな。チャーミーリリィを見てたら、魔法少女に変身するのかよ。
「たかし、来月からお前は防衛軍に入るんだ。実は父さんにちょっとした伝手があってな。予備役として入隊できることになったんだ。まあ、こんな御時世というのもあるが……。ともかく、色々と遠回りしてきたが、これでお前も国のために貢献できる。頑張るんだぞ、たかし」
ふざけるな、何が国だよ。国が俺に何をしてくれた? 国なんて奪うばかりで、何もしてはくれないだろうが。
所詮は
冗談じゃない。敷かれたレールの上を走る人生なんて。どうして自分がこんな目に遭わなければならないのか。
悶々と思い悩む日が続く中、ある夜、ソレは頭の中で語り掛けてきた。
『無理矢理、軍に放り込まれるだって? ああ、何ということか。可哀そうに。この力で助けてあげよう』
声はそれっきり、一度きり。
けれどもソレは本物だった。
神の奇跡か悪魔の業か。そんなのはどちらでもいい。ただ自分が
この力さえあれば、この姿さえあれば、どうとでも生きていける。若くて、見た目の良い、女になれるのだから。更に万が一マギが発現すれば、ガーデンに転がり込めるかもしれない。
そう、ガーデンだ。私立でありながら公金を投入され、この御時世に破格の待遇を受けているガーデンだ。
メディアで彼女らの活躍が華々しく飾られる度、暗い感情が燻りのた打ち回る。
ガーデンには女しか入学できない。女しかリリィになれないからだ。
世界は、かくも不公平にできている。
そんな中で、この力は失われた。白服を着たリリィたちのせいで。
クソみたいな世界でようやく得られた救済が奪われた。ささやかな楽しみすら奪われた。
ふざけるな、ふざけるな――――
公園から逃げ出した先、どこかの河川敷で天を仰ぐ。
「どうせどこかで聞いてるんだろう? 俺にもう一度力をくれよ。今度はあんなチンケな力じゃなくて、このクソみたいな世界をぶっ潰せる力をくれよ」
自分は選ばれた存在。こんなところで終わるはずがない。終わっていいはずがない。
正当なる要求を、ソレは聞き入れた。
途端に心の中で燻り続けていた感情が膨れ上がる。自分自身にも抑えきれない程に。
憎い――――
憎い憎い――――
憎い憎い憎い――――
家族が、街が、社会が、世界が憎い。誰も自分を助けてくれないし、誰も本当の自分を理解してくれないのだから。
正しき怒りを胸に、自身を取り巻く軛を変えてやる。
まず手始めに、法や道徳といった理不尽で縛ろうとしてくるこの国を裁く。
「日本、死ね」
ぐつぐつと煮え滾った意識はそこで混濁へと沈んでいった。