ファインモーションというウマ娘の夫にされるまでの物語 作:こーさん
換気のために開け放たれた窓から心地よい風が吹き込む。
すると風に吹かれ夏の雰囲気を感じたいと思い設置をしていた風鈴が心を和ませる。
最近は色々なことがあったため落ち着いてる暇がなかったが、こうして何もせずダラダラと過ごすのも悪くはないと思う。
頬杖をつきながら、暮れる夕日を眺め私は黄昏ていた。
「トレーナー!」
束の間の平和。
バーンという盛大な音と共に入室してきたファイン。
その手には携帯が握られており、嬉しそうにブンブン振っている。
「ファイン、ノックくらいして欲しい……」
「お父様から電話だよ!」
「はいはい、お父様……」
カチッと脳内のコンピュータが作動する、この間約0.1秒。
ファインはアイルランドのお姫様であり、父は言うまでもなく王様だろう。
そんな人からの電話となれば……
「殿下、私は何か不敬なことをしてしまいましたか?」
「その呼び方やめてって言ったでしょう?違うよ、普通に声が聞きたいんだって」
「はあ……」
恐る恐るファインから携帯を受け取る。
え、もう繋がってるの?
「お電話変わりました、トレーナーです」
「貴様がファインのトレーナーか」
おお、めちゃくちゃ低音じゃん。
怒っているのか……?
「娘に手を出したんだな」
あ、怒ってる感じですね。
「ち、違うんです。成り行きというかなんというか……」
「何?貴様はファインのトレーナーを成り行きなんて理由でやっているのか?」
「ち、違うんですって!突然だったんです、急に話しかけられたと思ったら……」
「知らぬ。どの道貴様は娘に手を出したんだろう?」
あーこの一方通行気味なのは父親譲りだったか。
どうしようかな悩んでいたらパッと携帯をファインに取られてしまった。
「お父様、ファインモーションです」
電話越しに丁寧にそう受け答えするファイン。
スピーカーで話していないため内容はこちらに聞こえない。
「ダメ、トレーナーは私のだよ」
ん?
「いくらお父様だからってトレーナーを取るなら嫌いになっちゃうもん」
んん?
「分かった?トレーナーは私のもの、手出したら私もの凄く怒るよ」
んんん?
「分かったね!ふんだっ」
あ、勢いよく切った……
「お待たせトレーナー」
「お、お疲れ様?」
「無事、トレーナーをお父様に認めてもらったよ!」
無事……?
「お父様はなんて?」
「ファインがそこまでいうならいいだろうって」
声を低くして真似するファイン。
「それは良かった」
「必ず連れて帰るようにって」
全然良くないわ。
扉の隙間から一部始終を見守っていた隊長さんもこれには呆れ顔。
サングラスで表情見えないけど。
「私もトレーナーを取り合うって」
「え?お父様がそう言ってたの?」
「うん!」
お父様?
「俺も帰るの?」
「当たり前だよ!だって……」
「だって?」
「ううん、なんでもない。それよりこれ風鈴だよね、私初めて見たよ」
「まあ確かにファインの住んでた場所じゃ縁がなかったかもね」
「夏祭りとかも行きたいな〜」
「夏祭りか、トレセンには合宿もあるから行けると思うよ」
「本当に!てことはトレーナーは行ったことあるの?」
「合宿の夏祭りは行ったことないけど学生の頃にはよく行ってたよ」
「それって彼女と?」
「ま、まぁね……」
「……浮気?」
「待て待てファイン、その構えた手下ろして」
号令を出す時みたいな構えをするファイン。
多分あの手振り下ろしたらお友達が沢山入ってくるんだろうな。
そもそも浮気ってなんだよ浮気って。
「トレーナーって今もその彼女さんと付き合ってるの?」
「そんなまさか。とっくの昔に別れたよ」
「えへへ、そうだよねそうだよね」
うりうり〜と身体を突いてくるファイン。
「ファイン、あまり大人を揶揄うなよ」
「えへへ〜悔しかったらトレーナーも反撃してきたら?」
「言ったなこんにゃろ」
「殿下に触れた瞬間に倒します」
「ひぇ……」
お返しにうりうりしようとしたら何やら銃らしきものを構える隊長さん。
構図としては手を上げて降参する私、銃を構える隊長さん、ドヤ顔のファイン。
触れられないのは反則じゃないの?
「じゃあ手を出そうとしたトレーナーは不敬罪ね」
「ファイン!?」
軽い感じでそう言ったファイン。
いや、サラッという内容じゃないよ……
「だからトレーナーには今度一緒に買い物に出かけて貰います」
「は、はあ……」
「私も護衛で付いていきます」
「ダメだよ隊長さん!これは私とトレーナーのお出かけなの!」
「ダメです殿下、国王様からも殿下から離れるなとの命令がありますので」
「そんなこと言って本当はトレーナーと一緒に居たいだけでしょ?」
「いえ、そういう訳ではないです」
「嘘だ嘘だ!トレーナーは私と二人でお出かけ行きたいよね?」
「私も連れて行っていただけないのなら撃ちます」
「隊長さんも一緒に行きましょうか」
ノータイムで返事をする私。
頬を限界まで膨らませているファインより銃を構えた隊長さんの方が何倍も怖い。
その銃は模擬であって欲しい。
……安全装置が外れているのは見なかったことにした。
「楽しみだね、トレーナー!」
「そうだな、ファイン」
私の方に駆け寄り手をギュっと握ってきたファイン。
お姫様といっても中身は普通の女子高生。
私の手と一回りも違う小さい手が優しく私のもの包み込んでいる。
「殿下と触れましたね、トレーナー様」
「ストップ隊長さん!これは不可抗力でしょ!」
買い物がどんなに大変なものになるかよく分かった気がした。