.hack//G.U. 俺たちはココにいる 作:舞@目標はのんびり更新
きっかけは単純なもの。
ロクに話もしたことがないクラスメートたちが、とあるネットゲームの話題で盛り上がっていたから。
『The World』
プレイヤー人口1200万人以上の大人気オンラインゲーム。
亮もその存在を知っていたし、スマホに登録してある数少ない友人に紹介されたこともある。だがプレイしようと思ったことはない。
この時までは。
遠くで、吹奏楽部がチューニングする音が聞こえる。
奏でられる雑音の中に紛れる、ハ長調ラ音。
その日のうちに、亮は『The World』のアカウントを制作した。
PCネームは『
そうして世界に、新たな産声が上がる。
時は巡る。
Δ隠されし 禁断の 聖域
グリーマ・レーヴ大聖堂
ハセヲの姿は今や初めてログインした時とはまったく違う。
今やハセヲはレベル133の魔人。
器用貧乏と呼ばれ評価の低かった
人を寄せ付けない刺々しい鎧に、ディスプレイ越しにでも伝わりそうな圧倒的な存在感。
それはまるで、狂気の具現化。
ハセヲの歩む道は誰にも理解されない、理解されることを拒否する道。或いは世界を敵に回す行為。
しかしそれでも構わない。
だから目の前で起きた事を素直に受け止め……受け止めた結果、狂気に墜ちた。
全ては伝説のPK
未だ意識の戻らない志乃を救うため。
「どこだ! 三爪痕!」
半年ぶりに出会った、かつてハセヲ所属していたギルドのマスター。
ハセヲは彼のことを信頼していた。
たとえ本人が変わり者だとしても。志乃が消えたときにいなかったとしても。
ハセヲは彼を、オーヴァンを信じて疑うわけがない。
だから、ハセヲはここに来た。
オーヴァンが教えてくれた情報を頼りに、思い出深いこのグリーマ・レーヴ大聖堂にやって来た。
まるでハセヲの叫びに応えるかのように、聖堂の祭壇に蒼い炎が生まれ、
ゆっくりと身を起こし、若干痺れの残る手を軽くスナップ。
スマホの画面で日時をチェックすると、ほんの数分だが意識が飛んでいたらしい。
「俺、は……」
思考が定まらないまま、のろのろといつの間にか電源の落ちたFMDを起動させる。
すると、まず最初に目に飛び込んできたのは『全システム初期化処理終了しました』という文字。
「初期化だと!?」
鈍っていた頭が瞬時に覚醒した。急いでメールボックスを開いてみるものの、今までの送受信データやアドレスまで全て空。
「一体、どうなってるんだ?」
急いで、The Worldにログインする。
――――――捕まえた。
画面が切り替わる瞬間、赤い3つ目の死神を幻視した。
Δ悠久の古都「マク・アヌ」
「……え」
その行為に違和感を感じるも、ハセヲのステータス画面を見てそれも吹き飛んだ。
「何だこれ!?」
装備が初期装備に変わっている。というかアイテム欄が空っぽだ。メンバーアドレスも。
……志乃の、メンバーアドレスも。
ハセヲのレベルが1になっているよりも、そちらの方がショックだった。
志乃。
ハセヲの大切な女性。今は白い病室で、原因不明の病で昏々と眠り続ける人。
志乃が意識不明となったのは、The Worldにログインしている最中で……三爪痕と呼ばれるPKにHPをゼロにされてからだ。
それから6カ月。
必死に強くなった。苦手なボタン操作だって必死に克服し、レベルも100を超えた。
だというのに歯が立たなかった。あんなにレベルを上げたのに、ハセヲの攻撃は一切通らなかった。
まるで、オブジェクトを相手にしていたかのような。
(……アイツ、三爪痕の仕業か)
「クソッ」
膝から崩れ落ちそうになるのを、奮い立たせる。
相手が仕様外なのは最初から分かっていたことだ。
何せ三爪痕は、ゲームでHPをゼロにした相手を未帰還者を生みだしているのだから。
それを考えると、初期化程度で済んだのはまだ僥倖だったのかもしれない。
まだハセヲは戦える。
そう新たに決意して、マク・アヌのドームを飛び出した。
本来ならプレイヤーが立ち入ることの出来ない、ドームの上。そこに異形の銃戦士がいた。
その隣に現れたのは、漆黒の双剣士。
「随分と面白いことすんね」
「お気に召したかな」
「興味にゃ~いwww」
座り込み、切れ長の目で双剣士はちらりと銃戦士を見上げた。
「そうか」
「そ」
この双剣士は、ハセヲと特別な縁がある。
そのことを知っているからこそ、銃戦士は双剣士のことを警戒していた。しかし当の双剣士は、ニヤニヤとハセヲがPC2人に引きずられるようにしてドームに入っていったのを見送るのみ。
「だって~、ボクちんには関係のない事だし~」
間延びした声。しかし口調とは裏腹に双剣士の視線は鋭い。
「で・も~……リアルでは、ちょっかいかけないでよ。俺、楽しめないからさぁ……手、出したら殺すぞ」
一転して冷徹に言い放ち、返事も聞かず双剣士は姿を消した。
あの双剣士が素の表情を出すことはほとんどない。だというのにハセヲには興味を示さず、
「……ああ、勿論さ。俺の目的は現実世界では果たすことが出来ないからな」
ぎちり、と左腕の拘束具が鳴る。
あの双剣士は、銃戦士にさえ晒していない手札がある。しかし無理にカードをオープンさせ、逆鱗に触れることもない。既に計画は止まらないところまで進んでいるのだから。
.hackシリーズ20周年記念展を祝して投稿します。
元々はハセヲと楚良とスケィスが同時に活躍する話が読みたいという一念で書き上げました。細々とした活動になると思いますが、お付き合いいただければ幸いです。