.hack//G.U. 俺たちはココにいる   作:舞@目標はのんびり更新

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確かに今のハセヲはレベル1だ。初心者と間違えられても仕方ない。

仕方ないとはいえ……納得できるかどうかは別。

 

 

 Δ麗なる 先導の 巣立ち

 

 

オーヴァンらしき人がいたというPC同士の会話を聞き、ひたすらマク・アヌを歩き回った。しかし見失い……とある獣人PCとぶつかったのまではいい。

 

適当に相槌を打ちながら、ハセヲは条件反射のようにモンスターを倒していく。

「飲み込みが早いじゃん!この調子で行こう!」

「すごいんだぞ、ハセヲ~。このままじゃ、すぐに追い抜かされちゃいそうだな~」

(よくもまあ、他人にそこまで積極的に関われるもんだ)

 

ギルド『カナード』

初心者サポートを目的として設立されたこのギルドのメンバーに、ハセヲは初心者と間違えられたのだ。

そりゃあもう、何度否定してもこの2人は聞き入れない。挙句の果てに強引にハセヲをこのエリアに連れてきた。戦闘のレクチャーというおまけ付きで。

 

斬刀士(ブレイド)のシラバスと魔道士(ウォーロック)のガスパー。

ギルドと言ってもメンバーはこの2人だけしかいなく、弱小もいいところだ。2人のレベルも今のハセヲより少しましという程度。

それでも、今のハセヲよりレベルが高いことは確か。今は大人しく、少しでもレベルを上げることに専念すべき。

 

そうでなければ、あいつに勝てない。

 

8カ月ぶりに回式・芥骨を持ち、スキルを用いモンスターを屠る。

最低レベルに最弱武器では、モンスターが雑魚であっても与えられるダメージは限られる。本来なら瞬殺だというのに、もどかしい。

 

「このダンジョンは初心者向けだから、強い人はいないと思うけど……初心者を狙ったPKもいるから気を付けてね」

「……ああ」

 

ハセヲも、初ログインの時に狙われた。

獣神殿の宝箱を開けたところで、ぐっさりと。抵抗する間もなかった。

 

そこを助けてくれたのがオーヴァンだった。

そしてオーヴァンに誘われ、ギルド『黄昏の旅団』に入り……志乃と出会った。

初心者であるハセヲの面倒を見てくれた志乃に、ハセヲはいつしか恋をした。

 

しかし、志乃は殺された。

だからハセヲは復讐の為、志乃を助ける為に三爪を追い……今はこうして惨めな姿を晒している。

 

「強い敵と出会ったときは、逃煙玉ってアイテムを使えば戦闘は回避できるんだぞ」

「そうだ! ハセヲにも渡しておくよ」

シラバスから逃煙玉と、平癒の水までプレゼントされる。

「……貰っとく」

今はアイテムも貴重品だ。大人しく受け取ることにした。

「とにかく、PKに会ったら逃げる! 相手の方が基本レベルが高いからね、敵いっこないもん」

「中にはぁ、カオティックPKっていって、賞金がかかったPKもいるんだぞ。全部で7人いるんだけど、全員すっごく強いんだぁ」

「賞金を手に入れるためにはクエストをクリアする必要があるんだけど……まだ適正レベルまで遠いね」

「でも、カオティックPKじゃなくても強い人は強いからね。それこそあの『死の恐怖』とか……」

「『赤い稲妻』って人とかぁ……」

「あと『黒い……』……なんだっけ?」

「どうでもいいだろ」

嫌な名前を聞いてしまった。最近ログインしていない男のことを思い出し、ハセヲは嘆息する。

「さっさと奥、行こうぜ」

ハセヲには無駄話に付き合う暇はないのだ。

そもそも、わざわざ初心者を助けようとする2人の活動理念も分からない。

(……面倒事を増やして、意味なんてあるのか)

シラバスとガスパーは、根っからの善意でやってくれているのだろう。……だからこそ、ハセヲにはそれが余計なものに思えた。

「よし、じゃあ次のバトルいってみよっか! 次はハセヲが指示出してみてよ」

「はぁ? んなモン、適当にやってりゃいいだろ」

「でもクエストによってはパーティ組むのが必須だったりするし……そういう時の練習だと思って」

「……チッ」

丁度良くゴブリン3体の群れも見つけてしまったし。ハセヲは早くこのパーティを解散したいのだ。反抗するよりも、指示に従ってさっさと終わらせる方が労力は少ない。

「……じゃあ、俺が不意打ちするからガスパーは直後に攻撃スキル使用。シラバスはそれで吹き飛んだヤツの止めってことで」

「了解!」

「分かったぞぅ!」

モンスターの死角から、カーソルを合わせる。まだ気付かれていないことを確認してから、バトルを開始した。

不意打ちの判定が入り、ゴブリンAを吹き飛ばす。そこにガスパーのリウクルズ(水魔法)が命中した。

「よしっ!」

「行くよ!」

シラバスが流影閃を発動する隙を、ゴブリンBが狙う。

「させるかよ!」

「ハセヲ!」

「ガスパー、Cの足止め!」

「了解だぞ!」

「シラバス、そいつが終わったらCを! こいつは俺がやる!」

「分かった!」

再度ガスパーがリウクルズを発動。少し手こずったもののAにとどめを刺したシラバスが、ゴブリンCへ走る。ハセヲの方は攻撃力が足りないものの、双剣の強みである手数の多さでゴブリンBを圧倒した。

「……ま、こんなモンだろ」

「凄いぞ、ハセヲ!」

「うん、フィールド全体見れてて凄いよ! ボスレイドのイベントとか、リーダーの指示が下手でぐだぐだする場合もあるし……ハセヲ、才能あるかもね」

ストレートに褒められ、ばっとハセヲは顔を背けた。

「……んなこと、ねぇよ」

「あ、もしかして照れてる?」

「バッ、照れてねえ!」

それ以上追及されたくなくて、マップを頼りに奥へと走り出した。

「あ、ハセヲ~」

「ま、待ってくれよぅ!」

 

幸いにして獣神殿はそう遠くない。パーティが自動的に解消される程離れることもなく、ハセヲは最奥の扉を開けた。

 

「ま、待ってくれよぅ……」

「獣神像に到着したね(^^;)」

 

初心者(仮)であるハセヲに、サポートの2人。

この状況に、嫌でもPKされたときを思い出して、そっと唾を飲む。

 

「ほら、ハセヲ。あれが宝箱だよ」

「早く開けるんだぞ」

促され、仕方なしにハセヲは宝箱にカーソルを合わせ……宝箱を開ける。

中に入っていたのは斬刀士用の武器。ハセヲでは装備できないものだ。

「あっ……残念だね」

「でも、おめでとうなんだぞ」

2人は警戒するハセヲを他所に、拍手のモーションで迎えてくれる。

ようやくハセヲは、緊張していたことに気付いた。

 

神殿の宝箱を開けるなんて、数えきれないくらい行ってきた。

だというのに、レベルが1になっただけでこんなにも神経質になっている。

 

「……やる」

「え?」

「どうせ俺じゃ使えないし」

どうせ売ったところで二束三文にしかならない。アイテム欄の肥やしにするよりかは、シラバスに渡した方が有効活用してくれるだろう。

「あ、ありがとうm(_ _)m」

シラバスに入手したばかりの刀剣をプレゼントし、ハセヲは踵を返した。

 

過敏になっている所為か、滝の水音や草の擦れる音がやけにはっきりと聞こえて。

だからだろうか。ハセヲはいち早く接近してくるパーティに気付いた。

 

「久しぶりだねぇ~ハセヲくん♪」

嘲るような声。

見なくても覚えてる、ボルドーとネギ丸、グリンの3人。最近付き纏っているケストレルに所属するPKだ。

「何だってこんなときに……」

マク・アヌにいたのは見かけた。しかし、わざわざ追ってくるとは。

「こいつら……ケストレルだ!」

「え? え? なんなのこの人たち?!」

「PKだよ、有名な!」

「しばらく見ないうちに、ずいぶんしょぼくれちゃったのねぇ? 『死の恐怖』サマだと気付くのに、時間かかっちゃったわよぉw」

「えぇっ!? 本物~?」

「ホントーにホントーの『死の恐怖』?」

こそこそと話し合っていた2人が突然声を上げた。

どうやらボルドーの言葉を聞いて、ようやく2人はハセヲが本物の『死の恐怖』だと気づいたらしい。

「……だから、言っただろうが」

ハセヲは何度も言った。初心者じゃないと。バグの所為でレベルが初期化されてしまったと。その度に笑われた。

だがまさか、ボルドーのお陰で理解してくれるとは思わなかった。その点だけ、ハセヲは感謝することにした。

「こんなところで出会うなんて、スッゴイ偶然♪ もしかして、私たちって赤い糸で繋がってる?」

「はっ、そんなのこっちから願い下げw」

「こっちもだよバーカ! 匿名のメールで教えてくれた人がいなきゃ、わざわざ来なかったっての! さあ……夢にみるほど忘れられないくらいに、ズタズタに愛してあげる!」

嘲笑も怨嗟も、レベルダウンする前なら関係なかった。全て叩きのめすことができたから。

だが今のハセヲはボルドー(雑魚)にすら反撃することが出来ない。

先ほど貰った逃煙玉を使おうにも、マク・アヌに戻るためのプラットホームへの道は塞がれている。直接プラットホームに転送する為の道具は持っていない。

「ななな、なんだかよく分からないけど……。乱暴なことはやめ――」

頭を抱えながら、無謀にもガスパーは刀を抜いたボルドーを止めようとした。

しかし容赦なく、ボルドーは刀を振る。

「あひゃあっ!」

「ガスパー!」

「邪魔するからさ!」

たった1撃で、ガスパーのHPが0。悲鳴を上げたシラバスが、慌てて黄泉返りの薬を使った。だが使ったところでまた倒されるのがオチだ。僅かに寿命が延びただけ、殺される回数が増えただけに過ぎない。

「……気に食わねえ」

 

 

――――――ああ、同感だ。

 

 

ハセヲの呟きに、答えるはずのない声がした。

 

 

――――――俺たちは『死』を貰う側ではない。与える側だ。

 

 

 

だが、その力は喪われた。

森の奥底で得た力は、葬炎により焼き尽くされた。遺されたのは無力な抜け殻のみ。

 

 

――――――そんな事はない。『力』はここにある。

 

 

『力』は喪われていない。相も変わらずここに在る。ただ引き出すことが出来なかった。……否、引き出すのを恐れていただけ。

口では求めながら、その実恐れているだなんて、なんと滑稽だろう。

 

 

――――――なら、どうすれば良いか分かるだろ?

 

 

ビリビリと、肌が痺れる。

まるでボルドーが放つ殺気がハセヲ(三崎亮)の肌を叩きつけるみたいに。

 

 

――――――さあ、連中に『死』を刻みつけろ。

 

 

 

ハセヲの意志に従い回式・芥骨が具現する。

レベル1用の、最弱の双剣。とても貧弱な武器だが、それでも武器。相手のHPを1でも削ることが出来る。

「はっ、やろうってのか?」

最弱の武器を見て、ボルドー達が大きく嘲笑した。

 

 

――――――さあ、今すぐその首を刎ね脊髄を啜り脳を喰らおう。

 

 

『ハセヲ』が哂う。

 

必要なのは相手を殺すという一途な意思。

そして現実と仮想を混じり合わせる狂気。

 

 

 

――――――俺たちが、『死の恐怖』だ。

 

 

忌まわしくも懐かしいハ長調ラ音が鳴り響いた。

 

 

赤い3つ目の死神が降臨し、鎌を振り下ろす。

 

 

「待ちなさい」

 

その寸前。

望まぬ第三者の声が割り込んだ。

 

「随分と、楽しそうね?」

 

はっと、ハセヲは我を取り戻した。

そして愕然とする。

 

アレはどんな生物でもまず最初に求めるもの……生への渇望と対極にあるもの。

7年前に生まれ、そして2年前にデータの海に散逸した死神。

ずっと亮が見ることのないように、奥深くに封じ込めた存在。

 

それを自らの手で、檻から解き放とうとしていた。

 

「どうして……」

耐えきれずFMDをむしり取る。

そこは見慣れた自分の部屋。獣神殿のフィールドでも、洞窟のダンジョンでもない。

 

他に誰もいない。

だが間違いなく、死神はここにいる。

他ならぬ三崎亮(ハセヲ)の内側に。

 

死神を縛り付けていた鎖が緩んでしまった。

もうハセヲには、あの死神を縛り付けておくことは出来ない。

 

「……大丈夫だ。ここは現実、あの世界(The world)じゃない」

嫌でも激しい動悸を深呼吸をすることで落ち着かせ、再びハセヲはFMDを被り直した。

 

 

やって来たのは、露出度の高い衣類を身に纏った女闘拳士だ。

「何だお前? 一緒にPKされてぇのかぁ!?」

PK3人にも怯まず、闘拳士は嘲った。

「いいのかしら、こんな事しててw」

「あ?」

「貴女たちPKが一番嫌っているギルドが、ここに向かって来てるかもしれないのに……」

「『月の樹』か! てめぇ……通報したな!?」

「さぁ、どうかしら?w」

「どうするよぉ……」

不安そうにネギ丸が窺うと、ボルドーが舌打ちした。

「あいつらと揉めると後が面倒だ! お前、覚えてろよ!」

瞬時な判断は褒めるべきだろう。

 

ただし、ボルドーたちは勘違いをしている。

あの闘拳士は通報などしていない。来る「かも」と言っただけだ。つまりブラフ。

 

「あの……助けてくれてありがとうございます」

ポリゴンの『ハセヲ』は三崎亮の感情を映しはしない。だから誰も、『ハセヲ』の異変に気付かない。

「助けてくれて、ありがとうなんだな~」

礼を言うガスパーを他所に、女性はハセヲを見つめる。

「アンタがハセヲね?」

その視線が勘に触る。

高圧的で、意見を押し付けてくるような大人はハセヲも嫌いな人種のひとつだ。だから反射的に喧嘩腰になる。

「あんたみたいな奴に名乗った覚えはないんだけど?」

でもそのお蔭で、幾分調子を取り戻し、口が滑らかに動く。

「へえ……噂通りのきかん坊って感じね」

「何、アンタ俺のファン?w」

「残念ながら、ガキは趣味じゃないの」

「あっそ。そりゃよかった。俺もオバサンには興味ない」

「オ、オバ……」

分かりやすいほどあからさまな反応。

そこまで年嵩ではない、だが年齢を気にしているということは20代後半か……30代前半くらい、だろう。

「『きかん坊』とか『趣味じゃない』とか、言い回しがどっかオバサン臭い……w」

そして年齢を意識しているというのなら、そこを突かない手はない。

「失礼ね! こう見えても私は……!」

「私は?w」

「………」

どうやら勝利のゴングはハセヲに鳴ったようだ。相手は沈黙し、嘆息した。

「……出直した方がよさそうね」

そして相手もそれを悟り、踵を返した。これ以上は冷静な対応を取れないと判断した辺り、引き際は弁えているらしい。

「ご勝手に」

どうやら拳闘士はハセヲに用があったらしい。だからこそこのフィールドまで追いかけてきたのだろう。

これは嫌でもまた顔を合わせることになりそうだと、そっと嘆息する。

「ひとつだけ忠告しておくわ」

あくまでそこにいるのはキャラクター、ただのポリゴン。

しかしハセヲは、その目には感情が宿っているのを見た。

「ハセヲ……あなたのPCには『危険な力』が秘められている」

「『危険な力』……?」

「自分のPCから巨大な『何か』が生まれるような感覚を覚えたことはない?」

その言葉に反応するかのように、内側でずくりと『何か』が蠢く。

 

あの闘拳士は、『ハセヲ』の内に潜む死神の事を知っている。

 

「……まぁいいわ。じゃ、また会いましょう」

(面倒。もう関わるな)

踵を返した闘拳士の背中を、ハセヲはそっと睨みつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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