.hack//G.U. 俺たちはココにいる 作:舞@目標はのんびり更新
マク・アヌの傭兵地区にある@ホーム前でクーンという銃戦士が待っていた。
「や、ハセヲ」
「………」
「……あ、あれ? そんな怖い顔してどうした?」
「別に」
「なんか、俺嫌われてる……? (-_-;)」
「気のせいだろ」
エルディ・ルーで出会ったCC社の社員(仮)クーンから、所属しているギルド『レイヴン』の@ホームにハセヲを紹介するとメールが来た。
これが只のギルド勧誘なら、ハセヲは断っていただろう。しかしハセヲは既に、レイヴンのギルドマスターと顔を合わせることを決めていた。
「……それにしてもハセヲ、やっぱり
「
「メイガスのこと。てっきりあの場で質問攻めにされるもんだと思ってたのに、何も言ってこなかったからさ」
「……あの場に、アトリがいただろ」
気にならないと言えば嘘になる。だがそれよりもアトリの救助を優先させただけ。
何よりも、スケィスから目を逸らしたかった。
「へぇ、優しいんだ」
「誰がだ」
ハセヲが優しいわけがない。PKだけでなく一般PCからも散々恨まれ、恐れられているというのに。
「いいからさっさとギルドキーくれ」
レイヴンの@ホームに入るには、ギルドキーが必要。それを持っているのはギルドメンバーのみ。ハセヲが@ホームに入るためには、ギルドメンバー、この場合はクーンからギルドキーを貰わなければいけないのだ。
「……分かったよ」
ハセヲが急かされ、ようやくクーンはギルドキーを渡した。
『レイヴン』の@ホームに入ると、わざわざ先回りしたクーンが出迎えた。
「さて、と。改めてレイヴン……もとい『G.U.』へようこそ、ハセヲ」
「『G.U.』?」
「レイヴンってのは『The World』に登録されてるギルド名。CC社のプロジェクトの正式名称は『G.U.』っていうんだ」
「へぇ……あ、この前のオバサン」
「!??」
そこにいたのは、ボルドーたちに絡まれたときに割り込んできた拳闘士。彼女がいることは、ハセヲの想定内だ。
「あれ? 知り合いだった?」
2人の間にわだかまる不穏な空気をあえて無視し、クーンが割り込んでくる。
「知らないわよっ!」
「はは……(^_^;) 彼女はパイ、『レイヴン』のメンバー。で、パイ。彼が」
「成程ね。最初から俺を勧誘するつもりだったってわけだ。でもオバサン、俺をお色気で誘っても……年が年だけに無理w リアルを想像すると萎える」
「なっ……! ちょっと、クーン! こいつ叩き出して! いくら『適格者』だからって――! こんなヤツに、私達の仕事は任せられないわっ!」
「それは
「八咫様の手を煩わせる必要は――」
何か言いかけたパイだが、口を噤む。
「……はい、来ております」
どうやらショートメールではなく、直接声のやり取りをしているらしい。恐らくはそのヤタ、という人物と。
「え? 1人で!? よろしいのですか? でも、彼は……。……判りました」
どうやらパイの方は反対らしい。しかししぶしぶながらも同意し、ハセヲを促した。
「いらっしゃい……八咫様がお会いになるそうよ」
パイが示すのは@ホームの奥。ギルドによって内装は異なるとはいえ、マク・アヌの@ホームの大きさは変わらない。
にも関わらず、レイヴンはもうひと区間を与えられている。
「この先に八咫様がいらっしゃるわ」
「……分かった」
ハセヲは1つ頷き、奥の間へと歩き出した。
そこは神殿のような荘厳さと、研究室のような無機質さを感じさせる奇妙な部屋だった。
両方の壁にはいくつものモニターが浮かび、ルートタウンやダンジョン、そして冒険するプレイヤーたちが映し出されていて、思わず息を呑む。
「知識の蛇にようこそ、ハセヲ君……」
そんな部屋の、一段高くなった場所で待ち構えていたのは妖扇士の男性。この男が『レイヴン』のギルドマスター、八咫。
「長い間、待っていた……。君がこの場に来るのを」
本来なら監視されていたのだと怒るか。三爪痕や黒い泡を見逃しているのかと嘆くか。
しかしハセヲはどちらの反応でもなく、
「……うわぁ、マジで監視してやがったのかテメエ」
引いた。それはもう、盛大に。
世界が一新され、7年前の勇者たちは次々と世界を去った。
その中でも賢者は世界を見守り続けていくことを選んだ。
火野拓海。
ハセヲと同年齢の癖にアメリカで大学を飛び級した、CC社の筆頭株主。
八咫がリアルでも交流のある人物だと、ハセヲは初見で見抜いてしまった。というよりログインする前に電話をしてきた辺り、隠す気はなかったのだろう。
「フ、当然だ。私が
「ハラスメントで訴えるぞ」
「残念、私がその管理者側だ」
「相変わらずCC社って碌でもねえ」
そう毒づき、大きく八咫に見せつけるようにハセヲは嘆息をした。
「つか、早くねえか。電話切って速攻だったぞクーンからメール来たの」
「遅いなら、それはそれで文句を言ってくるのではないか?」
「違いねえwww」
八咫が段を降りる。PCの身長のせいで見上げる形になっているのに変わりはないが……これは、八咫なりの意思表示なのだろう。
『G.U.』の責任者八咫ではなく、今この場限りはただの友人として
「……そんで、俺に何をさせたいワケ? あの黒いバグ? つかアレ、本当にバグか?」
クーンはバグと称していたが、ハセヲはそれを信じてはいない。
あれは、PCを貫いて現実世界に影響を及ぼす異邦のモノだ。
「そうだ。あれは本来、『
「アイ、ダ……」
呟いてもハセヲの言葉は変換されなかった。
ユーザーの言語を自動変換する辞書には登録されていない。つまりは仕様外の存在であり、CC社が公に認めることはないのだろう。
「Artificially Intelligent Date Anomaly」
「人工的な、知的データ異常……?」
「今はまだ一般ユーザーには知られていない。現段階においてはその程度のレベルだがな」
「……三爪痕はAIDAなのか?」
「可能性は、否定できない」
それについては、まだ調査中なのだろう。だからこその曖昧な言い方。或いはハセヲに誤認させ、都合良く動かしたいのか。
「で、CC社は未帰還者を公表せず、事件を隠蔽してるってわけか」
「危険は排除するのではなく
隠蔽体質のお蔭でハセヲはThe Worldで犯人捜しを出来ている。それは有難いのだが、釈然としない。
7年経ったというのに、この会社は変わらないらしい。そして八咫はそれを利用し、この地位に就いたのだろう。
「で、スケィスも管理したいってわけか」
「その通り。クーンやパイもその1人だ。AIDAに対抗できるのは、現状、『碑文使い』をおいて他にない」
黄昏の碑文に連なる力を与えられたPC。それが碑文使い。
全部で八あるうちの第一相『死の恐怖』スケィスを扱えるのは、
だからこそ八咫は常にハセヲの動向を監視していた。
「この俺に、また死神の鎌を振るえっていうのか」
やけに感情の籠らない、平坦な声だった。
はっとして八咫はハセヲを見るが、ただPCが佇んでいるだけ。
「三崎……?」
「……俺がスケィスを使えるようになる保証ないぜ」
1度見た、メイガスの姿を思い出す。要はクーンと同じことを出来るようにしなければいけないのだろう。
だが、メイガスとスケィスでは前提条件が違う。
スケィスは、既に三崎亮の一部なのだ。
「君なら……いや、君にしかスケィスを御することはできない」
八咫は知らない。FMDの向こうで亮がそっと嘆息したことを。
だから、簡単に言えるのだ。
(やっぱり、面倒事だった)
着信があった時から、薄々そんな気はしていた。
この世界を誰よりも愛する賢者が、世界を破滅へ導こうとした死神を放置しておくわけがなかったのだ。
「……いいぜ、アンタの思惑に乗ってやるよ。手始めにAIDAと未帰還者、それに碑文使いの情報全部寄越せ」
けれど
「それと、俺を管理下に置けると思うんじゃねーぞ」
「肝に、銘じよう」
「八咫様、やはり危険です! このような人間を……」
「お呼びじゃねえってさ、オバサンwww」
タイミング良く、パイが割り込んできた。丁度良いとばかりに話を切り上げる。
ディスプレイ越しに伝わる敵意と苛立ちを背に浴び、ハセヲはレイヴンの@ホームを後にした。
「八咫様……」
パイの懸念も尤もだろう。第一印象が悪すぎた。
パイの中では、ハセヲは自分をオバサン呼びした小生意気な今時の若者と設定されたことだろう。
「心配することはない」
「そうでしょうか」
すぐに同意しかねるパイに、八咫も内心で苦笑する。
ハセヲは生真面目だと称したのは、もう1人の友人だ。
生真面目だからこそ、未帰還者を救う為に他のものを簡単に投げ捨てられる。志乃を救うために現実を顧みず、三爪痕を追うことに執念を燃やす。
本当に一途で、生真面目なのだ。
「彼は、我々の協力がなければ情報を得ることが出来ない」
「ですが……危険すぎます。碑文の力を得たハセヲが、何をしでかすか……」
「……第一相スケィスは、彼以外を選ばない」
だから、待っていた。
八咫の悲願の為にも、スケィスは必要不可欠な存在だ。
「……彼の碑文は既に目覚めつつある。開花の時は、そう遠くない」
八咫は、無数に映るモニターの中のひとつに目を向けた。
獣神殿の上。
立ち入り禁止エリアに寝そべる漆黒の双剣士と、モニター越しに目が合った……気がした。
「……では、ハセヲに連絡してボス討伐タイプのフィールドで」
碑文を開眼させるには、生命の危機を感じさせるのが手っ取り早い。レベル130超えだとエリア選定も手間がかかるが、幸いにしてハセヲのレベルは低下し、まだ10にも満たない。
適当なエリアをチョイスしようとしたところで、八咫が止めた。
「いいや。その程度では足りないだろう」
「八咫様?」
「かつてハセヲは、50も超えないレベルで『痛みの森』に挑戦し……突破した」
今は閉鎖された『痛みの森』。その適正レベルはカンストの150。攻略には最低でも135が必要だ。だというのに、ハセヲは独力で突破した。
そのクリア報酬で手に入れたのが、かつてのレベル133とイベントを経由しないジョブエクステンド。
「……ハセヲを、ルミナ・クロスへ向かわせる」
八咫の発言の意味するところを、パイは正確に察した。
ハセヲ、初めて接客業を体験する。
もちろん本意ではない。
レイヴンの@ホームを出たところで、ガスパーに突撃された。そうでなければ無視していたというのに、何故わざわざぶつかってくるのか分からない。
何でも『カナード』が運営するギルドショップ『どんぐり』に出品する道具が足りなくなってしまっていたため、あたふためいていたらしい。足りないならNPCショップで買えとハセヲがアドバイスをすると、何とガスパーはハセヲに必要な品物を分担して購入しようと言い出し、有無を言わさずGPを押し付けて行ってしまった。突き返そうにもガスパーはさっさと行ってしまい、こうなったらさっさとお使いを済ませ、後からやって来るシラバスに押し付ける。そう決めたまではよかった。
だというのに。
問題なく頼まれたブツを購入し、シラバスに渡したところでガスパーが道に迷っていると連絡が来たらしい。シラバスはそのままガスパーを迎えに行くため、ハセヲに店番を任せて行ってしまったのだ。
最早何度目か分からぬ呪詛を吐き、ハセヲは決められた場所に立ち続ける。
こんなの放り出してログアウトしても良いのだが、その後でまた煩く言われるくらいなら一時を我慢した方が遥かにマシだ。
「しっかし……」
商品の設定値段を確認するが、どれもが良心的で赤字覚悟なのだろう。おまけにお世辞にも商品が豊富とは言い難い。
「あのぅ……」
「いらっしゃいませ~!」
こうなったらもう自棄だ。どうせ実際に笑顔を浮かべるのはモーションの設定されたハセヲだ。亮はただコマンドを入力するだけ。
しかし、ハセヲの視界に声をかけてきた客がいない。
「……?」
いや、いた。身長が低いせいでハセヲの目に入らなかっただけだ。
「あの……ぼく、ほしいものがあるんだけど……」
舌足らずで、外見同様中身も若い……というより幼そうだ。
「『シロタエギクの花』……。あります?」
言われてハセヲは商品リストを確認した。
「……1つだけあるな。6000GPだ。どうする?」
「あ……お金、足りない……」
所持金を確認して、少年が肩を落とす。
「欲しいもんがあるなら、ちゃんと貯金しときな」
「ためてたんだけど……。なくなっちゃったみたい……」
「なくなったって……。自分の金なら、使い道くらい覚えてるだろ?」
「わかんないよ! ……きのうまで、朔のばんだったもの」
「朔のばん?」
「朔はおねえちゃんだよ。……このPC、きのうまで朔がつかってた」
「……要するにお前ら、1つのPCを姉弟で交互に使ってるわけか?」
「うん……」
時々あることだ。
兄弟で同じPCを使っていたり、親が昔使っていたPCを子供が継ぐというケースが。この子供もそうらしい。
「そんで、お前が貯めてた金を姉ちゃんが使い込んじまった、と……。ひでぇ姉ちゃんだなw」
「……ううん、いいの。どうせ朔のたんじょうびにプレゼントをかうつもりだったから」
「誕生日?」
「ふたごだから……ぼくのたんじょうびでもあるんだけど……」
「誕生日……」
真っ暗な部屋で迎える、1人ぼっちの誕生日。
食べ飽きたコンビニ弁当。会話のない食事。親の顔すらまともに見ない日が続いて。
ホールケーキを食べたことはない。食べるのは亮だけで、親はそんな暇があったら仕事をするから。
いつしかケーキを買うのも億劫になって……誕生日という記念日はなくなった。
でも、この姉には誕生日を祝ってくれる弟がいる。
「……仕方ねえな……まけてやるよ!」
「ほんとにいいの!?」
「ああ……姉ちゃんによろしくな」
「うん! ありがとう!」
シロタエギクの値段設定を下げ、交渉成立。受け取った少年は、満面の笑みを浮かべた。
「ぼく、望っていうんだ! たりなかったぶん、きっとかえすからね、ハセヲにいちゃん!」
弟が望。姉が朔。
月の満ち欠けを表しているのか……八咫と会話したばかりだからか、第五相『策謀』ゴレのことが脳裏に過ぎった。
「……まさか、な」
ゴレにも二面性があったなと思考を飛ばし……。
「こんにちはっ♪」
「いらっしゃいませー!」
ついつい笑顔のモーションを入力してしまった。
そこにいたのはアトリだった。
「お前……」
「なんか意外ですねぇ……ハセヲさんって、絶対こういう事をしないタイプだと思ってたのに」
「………」
「あ、でも、さっきの挨拶なんか笑顔がサマになってましたよ♪」
予め決められた行動なんだから、サマになるも何もないだろうに。
「実は、リアルで接客業してたりして! バイトでコンビニ店員さんとか?」
「うっせえな……買う気がないならあっち行けよ!」
「失礼ですね、買いますよぉ! ちゃーんと『ショップどんぐり』に貢献しますから!」
「全っ然、嬉しくねえのは何でだろうな……」
リアルでもがっくりと肩を落とすハセヲだった。
「……ほらね、ギルドショップってやつはなかなか品揃えがいいんだよ」
「わ~、ホントだ~♡ NPCショップより全然安いですね~♡」
「ほんとはキミたちを連れていきたくはなかったんだけどね」
「えぇ~、ど~して~?♡」
「だって、キミたちの目が俺以外のものに釘付けになってしまうじゃないか。俺は一分一秒でも長く、キミたちの目を独占していたいんでね……」
「いやぁん、クーン様~♡♡」
「心配しなくても、ローズの目に映るのはクーン様だけです~ぅ♡♡」
「………」
そんな中ギルドショップにやって来たのは、女性PCたちを連れたクーン。
「嗚呼、そんなに情熱的な目で見ないでおくれ。キミたちの美しい視線に縛ら、れ……しば……しば……」
ようやく、クーンはハセヲが店番をしていることに気付いたらしい。
「………(滝汗)」
「………」
「しばらくぶりだねぇ、ハセヲ君!」
「おう、しばらくぶりだなぁ『クーン様』w」
ハセヲは左程持っていないはずの嗜虐心が疼く。
「随分と、お楽しみのようでwww」
「いや、これは、その……」
「不特定多数との不純異性交遊……いーのかな~」
「クーン様ぁ~!」
「早く遊びにいきましょうよぉ♡」
そこにようやくやって来たシラバスと、ガスパーが突進する。
「マスターだぁ\(°∀°)/」
「……クーンさんって、すごい人気ですねぇ……」
「人気っつうより軟派って感じだけどなwww」
アトリすら、その様子に呆れをみせていた。
「……あ、うん、判った! あとでみんなにメールするから!」
そしてクーンが選んだのは敵前逃亡。
「じゃ、そういうことで!」
「クーン様ぁ~!」
「待って~♡」
「マスター!」
ドームへ向かったクーンを女性たちが慌てて追いかける。これでシラバスとガスパーまで追いかけてたら、ハセヲは店番を放棄していたところだ。
「……お前ら、クーンのこと知ってるのか?」
「うん、僕たちのギルド『カナード』を元々設立したのが、クーンさんなんだ。カナードっていうのは、飛行機の安定翼のことなんだよ。初めて『The World』にやってきたプレイヤーが、ゲームを安心して楽しむ為の支えになる……僕らのギルド名には、そんなクーンさんの想いが込められているんだ」
「迷子になってたおいらを、助けてくれたのはクーンさんだったんだ」
「ほら、何事も初めが肝心っていうじゃん? あの頃にクーンさんに会ってなかったら、きっと僕ら、こうしてプレイしてないと思う」
「……ふーん」
ハセヲが初めてログインしたときにオーヴァンに出会わなければ。志乃と出会わなければ。三爪痕が、AIDAがいなければ。
こうして何も知らずに笑えていたのだろうか。
(……無理だな)
「クーンさんがいなくなって、『カナード』を纏める人がいなくなっちゃったんだよねぇ」
「なんでクーンは『カナード』を抜けたんだ?」
「よく判らないけど……「巻き込むことになるから」って」
「ふーん。俺はてっきり女遊びが過ぎて、退団させられたのかと思ったぜw」
恐らく、そのときにレイヴンの勧誘を受けたのだろう。
AIDAとの戦いに巻き込みたくない。だからクーンは設立したカナードを辞めた。けれどそれをハセヲが教えるわけにもいかず、わざと茶化した。
「あぁ……あれはクーンさんの病気だから、気にしてたらついていけないよ(^_^;)」
「成程、病気かwww」
「クーンさん、病気なんですか?」
こっちは天然は発動したアトリ。もう黙ってほしい。
「病気って……心配するようなもんじゃないんだけど(^_^;)」
「お前、まだいたのかよ」
「さっきからずっといましたよ。ね?」
「ハァ……買い物してかないなら、さっさと帰れ」
「ああ、そうそう。ハセヲ、店番ありがとう」
「ロクな商売にならなかったけどな」
これでようやく、店員の立ち位置から離れられる。
「そんな事ないよ」
「そうそう、ハセヲさんたらね。お店でこんな事あったんですよ!」
とたん、3人が沈黙した。
「お前ら、本人の前でチャットしてんじゃねえ!」
「おw 小さな男の子に誕生日のプレゼントかぁ。ハセヲ、いいとこあるなぁ!」
「いいやつだなぁ!」
「……ペラペラ余計なことを喋りやがって」
非常にいたたまれない。
キャラではない事をした自覚がある。だからそれを広めないでほしいのに。
「ね? 誰でも本当は、誰かに優しくしてあげたいんです。ネットは、リアルより自分の気持ちに素直になれる場所だと思うから」
毒気が抜かれていたからだろう。ハセヲはアトリに怒鳴るタイミングを逸してしまった。
ネットが素直になれる環境だというのは同意する。だがそれが善意に向くとは限らないというのに。
「……ねえ、ハセヲ。正式にカナードに入らない?」
「はぁ?」
「ハセヲ、結構リーダーシップあると思うんだよね」
「そりゃ~いい! ねえねえ、一緒にやろうよぉ」
「いいんじゃないですか、ハセヲさん」
「何で俺が……!」
断るのは簡単だ。
だというのに、
「……分かったよ。ただし、名前を貸すだけだ」
いつの間にか、ハセヲは了承していた。
「それじゃあ、手続きに少し時間がかかるけど、メールが行くと思うから……よろしく! 僕らのギルドマスター、ハセヲさん!」
「わ~い! ハセヲが新しいマスターだぁ!」
「おめでとう、ハセヲさん!」
「待て、何だギルドマスターって!? 俺は認めてねーぞ!」
3人が拍手する中、ハセヲが叫んだ。
「だから言ったじゃん! ハセヲはリーダーシップがあるって!」
「そうだハセヲさん。今日はトレード詐欺に遭った被害者たちの相談会を『月の樹』で行うんです。ハセヲさんも参加しませんか?」
「誰がするか!」