.hack//G.U. 俺たちはココにいる 作:舞@目標はのんびり更新
日々無数に立つスレッドのひとつひとつに、目を通していく。
公式サイトからの通知では「一部プレイヤーのデータ破損について」なんて届いていた。これはハセヲが、チートに失敗してキャラデータを破損したという噂へのフォローだろう。
雑談掲示板にはシラバスの書き込みがあって、思わず笑ってしまう。シラバスを擁護するレスをつけて、次のスレッドへ。
それは、とあるダンジョンをソロで挑んだとき、三爪痕を見たという書き込みだった。
恐らくはガセネタだろう。しかしわざわざエリアワードまで乗せられて、ハセヲが出向かないわけがなかった。
Δ颯爽たる 春秋の 酩酊児
気分が悪い。
食欲がなく、肉や魚を受け付けなくなった。ゼリー飲料ですら戻すときがある。今日の食事も亮の栄養にならなかった。不規則な生活をしていたので、夏の暑さに耐えられなかったのだろう。
それでもハセヲのPCは関係なく、和風のダンジョンを攻略していく。最奥の獣神殿に向かうと……案の定。
「へへへへ、遅かったじゃんか。待ちくたびれちまったぜ」
ハセヲが来る保証はなかった。だというのに待ち構えていたのは、ボルドーたち『ケストレル』の3人組。
「お前らもご苦労なこった」
そんなにハセヲが憎いのかと、内心で溜息をつく。よくもまあ、飽きもせずに付き纏ってくるものだ。
「アンタへの愛故に、と言いたいところだけど……今回はビジネスでねぇ♪」
「ビジネス?」
「アンタ、また余計な恨み買っちまったようだねぇwww」
どうやらボルドーを雇ってまで、ハセヲへの恨みを晴らしたい人物がいるらしい。
別に、他人にどう思われようがハセヲにとっては関係ない。だが、今後の活動に支障が出るのは困る。
「弱っちい死の恐怖をヤるだけで金まで貰えんだから、ワリが良すぎて怖いくらいだよw」
「ふーん……お膳立てしてもらってんのに尻尾巻いて逃げんだから、相当ワリに合わないと思うけどなww」
「その減らず口、どこまで叩けるのか見物だねぇ」
余裕綽々に、ボルドーたちが武器を構える。
一方ハセヲの方は、軽口を叩いてはいるが余裕があるわけではない。囲まれないように、1対1に持ち込みながら勝てるかどうか。回復アイテムは帰るだけ買ってきたが、それでも心許ない。
だが、ハセヲとボルドーの間に割って入る2人組がいた。
「そこまでだ、PK諸君」
「あん……!?」
片方は、ハセヲを見覚えがある。以前アトリと一緒にいた『月の樹』の榊だ。
「おやおや……『月の樹』のお偉いさんがこんな所に何の用だい?w」
「マナー知らずの乱暴者と、ネットゲームの在り方について語り合いに来た次第」
「スカしてんじゃねーよ! テメーらも纏めてPKしてやろうか!?」
「それは困った……我ら『月の樹』はPCに対する攻撃を禁じている。しかし、不当な暴力に対する防衛手段は……」
「禁じてねえってワケよ、クソ虫共! さあ来いよ、俺を斬ってみろ!」
榊の言葉を引き継いで、供に来た
「早まるな、松」
「分かってますよ、榊さん。こっちからは攻撃しない」
「君は確か、『ケストレル』に所属しているのだったな。『ケストレル』のギルドマスター“がび”は寛容な男だと聞いている。だが彼は……PKを推奨はしていないな。君たちが『月の樹』に不当なPKを仕掛けたことを知れば、彼はしかるべき処置をする……違うかな?」
“がび”の名を出され、ボルドーたちが怯んだ。
「それとも君は、“がび”にとって特別なのかね?」
「……チッ、分かったよ」
しぶしぶ、ボルドーが武器を収めた。
「理解が早くて、私も嬉しい。それと、そちらのハセヲ君……我らが同朋、アトリのご友人だ。同様の配慮をお願いしたいが?」
自分とアトリの名が出てきて、声を上げそうになった。これでは、ハセヲが『月の樹』の庇護下に入ったことになる。だが、ハセヲは抗議するのを何とか堪えた。これ以上話がややこしくなるのは避けたい。
「……クソッ、分かったよ! ハセヲもPKしねぇ! ……ただし、アリーナバトルは別だぜ!」
「勿論。アリーナのバトルは両者の合意の下行われている行為だからな」
「……だそうだぜ! アリーナ来るときゃ覚悟しやがれ、ハセヲ」
ボルドーの捨て台詞に、ハセヲは肩を竦めて返した。
3人が去って、ようやく榊はハセヲに視線を向ける。
「……もう安心していい。彼らも、ギルド内での立場を危うくする程愚かではあるまい」
「正義の味方が板についているな。そういうキャラ? それとも地?」
「我々は、ネットゲームのプレイヤーとして当然のことをしたまでだ。別に正義の味方などと驕るつもりはない」
7年前。
この世界を救った彼らのことを思い出す。あの赤い双剣士も、ただ友達を救いたい一心で死神に立ち向かってきた。
しかし榊は彼らのような純粋さよりも先に、わざとらしさが癇に障る。
「へーへー。ドーモ、アリガトーゴザイマシタ。でも、タイミング読みすぎw」
「この現場に間に合ったのは、アトリが事前に情報を得ていたためだ」
柱の影から出てきたのは、アトリだ。
「お前……」
「あの時の子……ギルドショップの時の子が、教えてくれたんです。どうやら、BBSに偽の書き込みをしたのも、PKを雇ったのも彼のお姉さんがやったことらしいんです」
「望の姉……朔か」
確かに朔は、エンデュランスに
「はい。今ならお姉さんが寝てるからって、望君が……1人じゃ心細かったんで、榊さんに連絡を取って……間に合って良かった」
(意味が分からない)
だって、ハセヲはアトリに暴言を吐いた。アトリだって、PCでは分からないが……泣いていたような、気がした。
にも関わらず、わざわざハセヲを助けようとするなんて。
「ハセヲ君。困ったことがあれば、いつでも我々を頼りにしてくれて良いんだよ」
「冗談! 頼ったとたん洗脳されそうw」
嘲ると、松が剣の切っ先をハセヲに向ける。
「このガキ……! さっきから聞いてりゃ、榊さんに向かって何て口の利き方しやがんだ!」
「止めなさい、松」
「でも、こいつ……!」
「ハセヲ君……出会った相手全てを、敵だと思って生きていくのは辛くないかね? 互いに求めあい、理解しあう方がずっと楽だ。そうだろう?」
理解されようとも思わない。理解してもらうとも思わない。ハセヲという世界の中心は既に定まっていて、それ以外は必要ない。
だから今日もハセヲは拒絶をする。
(どうせ必要ないし)
「ハッ、宗教には興味ないっつってるだろ」
「てめえ!」
「……松」
「あ、はい……すみません……」
「ハセヲ君。私は君とも理解しあいたいと思っている」
「願い下げだな。俺があんたらを求めていない」
「それは残念だ。では、次会うまでに君が翻意してくれるのを願っておこう」
榊も言ってみただけだろう。あっさりと引き下がり、踵を返した。僅かに遅れ、松も後に続く。
2人の背中にアトリは深々とお辞儀をして、
「ありがとうございました」
どうやらアトリは残るらしい。よくもまあ、ハセヲと2人きりになれるものだ。
「あのなぁ……俺、お前の事ウザいって思ってるんだけど」
「……ッ」
「2度と目の前に現れるな、とも言った……まさか、忘れたのか?」
だから、さっさと消えろ。今ならまだ間に合う。
「……ハ、ハセヲさん」
だというのにアトリは踏み止まる。
「………」
「この間は、生意気なこと言ってすみませんでした。ほんとに、ごめんなさい!」
どうしてアトリが頭を下げるのか、ハセヲには意味が分からなかった。
酷いことを言ったのはハセヲの方だ。理解することを拒んだのも、ハセヲの方。だからアトリに非はない。
アトリにはアトリの楽しみ方があって、ハセヲにはハセヲの生き方がある。それが合わなかっただけだというのに。
「……ホント、ウザいよお前。何でもかんでも謝って、自分が折れて、それで争いが起きなきゃそれで良いって思ってるワケ?」
関わるな。拒絶しろ。さっさと消えて、ログアウトして、もう帰ってくるな。
もう、目の前で未帰還者を出すのは見たくないから。
「……それは」
「俺に恩を売って、温情でも貰おうっての? だったら健気すぎて笑えてくるwww」
「そ……そんなつもりじゃありません! 私は、ただ……ハセヲさんに、『月の樹』のこと、押し付けるんじゃなくて……判らなきゃって……」
「………」
「この前、ハセヲさんに言われた『The World』での楽しみ方、否定できませんでした。……だから、判りたいんです。バトルとか、アリーナとか」
何故ここまで縋ってくるのか。ここまで否定されても、何故アトリはハセヲを求めるのか。
(理解不能だ)
明確な拒絶の中に生まれる困惑。
「……………ハァ」
新たに生まれた感情を、。
「……分かったよ。……俺も、言い過ぎた。悪かった」
「ハセヲさん……。あの、シラバスさんから聞きましたけど、アリーナに参加するって」
「……あの野郎」
余計なことをアトリに吹き込んだシラバスを恨まざるを得ない。
「だから私、協力させてください!」
「あのなぁ……アリーナって、勝ったり負けたりするところの最たるものだぜ」
「分かってます。それに……私……一度、勝利の味ってのを、知りたかったりして……ダメ、ですか?」
上目遣いにお願いされて。ハセヲは拒否することが出来なかった。
「……いいんじゃ、ねえの? ……そんじゃ、味あわせてやるよ。勝利の喜びってやつを、な」
「はい!(^▽^)ゝ」
アトリがギルド『カナード』に加わった。
それは良い。
アリーナに参加したいと言うから、パーティに誘った。それも良い。しかし何故シラバスまでいる?
「いよいよ試合開始だね。あ~、なんだかドキドキしてきた……ハセヲは? 大丈夫? 緊張してない?」
どうやらシラバスは緊張すると口数が多くなるタイプらしい。
「あのなぁ……アリーナっつっても、エリアでモンスター狩るのと一緒だろ」
「周りで人が見てるっていうのが、プレッシャーなんだよぉ……。昔、一度だけアリーナに参戦した時なんか……」
「テンパって何もできないうちにおいらたち、タコ殴りにされちゃってさぁ」
「うん。ボロ負けだったんだよねぇ……orz」
ガスパーは極度のあがり症ということで、お見送り。
あれだけ拒否ったというのに、結局ハセヲはシラバス、アトリをパーティに誘う。
「……おい、アトリ」
ルミナ・クロスで合流してからアトリはずっと黙ったまま。
「……はわっ! な、何!? 何ですかー!」
不審に思ったハセヲが声をかけると、この反応。
「相当、テンパってるね……(^^;)」
「え、え? 皆さん、どうしたんですか? 私、頑張りますよ!」
「うんうん……(^^;)」
ガスパーですら、アトリの様子に心配を隠せない。
「ところで私……」
「ぁん?」
「何をすれば良いですか?」
「………」
「………」
「………」
汗のモーションが3人揃ってしまった。
「あー……取り敢えず、フィールドの端っこで、回復スキルしといてくれれば良い」
「はいっ! 判りましたっ!」
「だ、大丈夫かな……(滝汗)」
「……とりあえず、行ってみるぞ」
悪化することはあっても良くはならないだろう。それならさっさと引導を渡した方がマシだろう。
「頑張ってね~」
2人が何か言い出す前に、ハセヲはさっさと受付を済ませようとして。
「……チーム名、どうする」
「………」
「………」
「……?」
アトリだけ、状況が分かってないのか首を傾げた。けれどそれが助けになるわけがない。
「ハセヲがリーダーなんだかから、ハセヲが決めちゃってよ(^^;)」
「そう言われてもなぁ」
そもそもハセヲは単独で挑むつもりでいたから、チーム名も考えてなかった。いくつか候補が浮かぶが、どれもピンとこない。
「うーん……ハセヲチームで良いんじゃない?」
「じゃあそれで」
受付でチーム名を入力し、メンバーを登録する。
「ぇえ!? 本当にそれで良いの?」
「ハセヲって、名前に頓着しないんだね……」
「もういいだろ」
無駄な時間を過ごしたくないのだ。さっさとランキング挑戦に申し込む。
まだアリーナの予選ということで、ハセヲたちの対戦相手は同じくビギナー。レベルも10と低い。
対してハセヲのレベルはようやく15。シラバスも同じくらいで、アトリも12まで上げた。装備も今出来る範囲で整えたし、何とかなるだろう。
『さあ、今まさに闘いのハロウィンが始まろうとしております! ランクが低い? 新進気鋭と言ってくれ! 眠っていた狩猟本能を解放するときがやって来た! しなやかに今、颯爽と入場~!』
「何だこのアナウンス……」
定型文なのだろうが、もう少し何とかできないものかと考えてしまう。
「おいシラバス」
「な、なななななにハセヲ」
「………ハァ」
試合直前となってからか、シラバスのレスポンスも鈍い。
これはもうハセヲ1人で戦うしかない。右手首をスナップし、武器を抜いた。
『さあ、お互いに睨み合う睨み合うッ! 一歩も引かない視線と死線! 果たしてどんな闘いになるのでありましょうか~ッ!?』
試合開始の音楽が鳴ってからも酷かった。
「アトリそっちに行くな!」
呪療士なのに敵に突撃しようとするアトリに。
「そのタイミングで連撃すんなああほら!」
意味もないのにスキルを連発して反撃を食らうシラバス。
仕方なしにリーダーを集中的に狙い、スキルを使われたら反撃して。
元々『死の恐怖』がアリーナ初参戦とあって、注目度は高かった。
「……あんなザコ、勝って当然だろ」
味方に足を引っ張られなければ、という言葉は呑み込んでおく。
「……おい」
ハセヲにとってはただの通過点。だがアトリはこの一勝すら今まで出来なかったものだ。その感想を聞こうとしたが。
「……アトリ?」
「……くふっ、ふふ、ふ……ふふふ」
「???」
「ぃいやたぁぁぁぁーっ!」
「!? 待て、止まれって、おい!」
感極まって、アトリが突撃してくる。
「私たち、本当に買ったんですよね? ね? ね?」
「いいからどけって!」
思わず、力いっぱいに突き飛ばしてしまったハセヲは悪くないと思いたい。
「……でも、相手チームの人たちは、がっかりしてるんですよね」
「はぁ? まだそんな事言ってんのか?」
「だって……」
「アイツらだって、勝つためにここに来てんだ。今回勝てなくても、次に挑戦すんだろ」
幸いにしてこれはトーナメントじゃない。その前段階だ。ここで勝率が良ければ、タイトルマッチを賭けたトーナメントに参戦できる。
本気でそれを目指すなら、一敗したところで諦めない。もしそこで止めるというのなら……それだけの覚悟だった、というだけだ。
「……そうですね。あの人たちが次の試合で勝てるようにお祈りしちゃいます!」
「あのなぁ、そういう事を勝者がやるのはイヤミなんだよ」
「あ、はい、すみません……今度から気を付けます」
そんなに初勝利が嬉しかったのだろうか。アトリの顔はリアルでもにやけていることだろう。
「……ハセヲ、嬉しそうだね」
「バッ、んなワケないだろ!」
ジト目のシラバスに睨まれながら、アリーナから