.hack//G.U. 俺たちはココにいる   作:舞@目標はのんびり更新

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寝そべっていた楚良は、俄かに騒がしくなったフィールドに薄く目を開けた。

基本ログインし続けている、というかログアウトの出来ない楚良は、どこかネットスラムか適当なフィールドで時間を潰していることが多い。獣神殿の上や像の裏など、普通にフィールドを歩いているプレイヤーの死角になる場所は楚良のお気に入りだ。

 

「どうしてこんな事するのさ!」

「ハッ、そんなん楽しいからに決まってんじゃん!」

どうやら運悪くPKの標的となったご一行がいるらしい。既に4人が灰色(HPゼロ)になり、残るは2人。足手纏いを見捨てることをせず、自分よりもレベルが高い相手に武器を構えている。

「ひ、酷いんだぞぅ!」

「そ、酷いだろぅ?」

「でも恨むなら、オタクのギルドマスターを恨みな!」

PKは良くある事だ。楚良自身もPKとして悪名が広がっているし、人助けなんてガラではない。そのまま何事もなかったかのように寝直すつもりだった。

 

その標的となっている2人には見覚えがなければ。

 

「……しょうがねえな」

小さく嘆息する。

 

楚良は、享楽主義だ。

その時その時、自分が楽しければ良い。他人の事なんて気にしない。

他人を気にしすぎ、自分の事を蔑ろにするハセヲとは真逆の存在。

 

 

だから、ハセヲが出来ない(しない)事をする。

 

 

「……それって、楽しい話?」

獣神殿から飛び降り、PKたちの背後に着地する。

「俺も混ぜて欲し~な~」

にっこり笑って、呆けてるPKを一刺しで仕留める。もう1人も同様に。所詮Δサーバーにしか行けないプレイヤーは、楚良の敵ではない。

「ねぇ、教えてよ」

楚良が見つめるのは、生き残った2人。

 

シラバスとガスパーだ。

 

「わざわざやられる為にログインして、楽しいの?」

ハセヲの動向が気にならないと言えば嘘になるが、かといってわざわざ気に掛ける必要もない。

だけれど、先ほどのPK共の台詞で状況は察してしまった。

「……それは」

ガスパーは答えられない。シラバスも、口を噤んでしまう。

「変なの。つまんないなら止めちゃえばいいのに」

ログアウトして電源を切ってしまえばそれでお終い。所詮はゲーム、嫌な思いをしてまで続ける必要はない。

「けど、ハセヲが頑張ってるから、僕たちも……」

「……あっそ」

(当のハセヲは、何もするつもりがないのに)

 

三崎亮という人間は人の機微に疎い。というより興味がない。その性質はハセヲにも受け継がれた。

けれどそれじゃ外聞が悪くて、必死に取り繕って、辛うじて天然、或いは鈍感と言われるくらいで済んでいる。

 

簡単に繋がりの切れるネットゲーム(『The World』)という舞台は、他人と関わることが苦手なハセヲにとって最適だった。

そこでハセヲはオーヴァンに、志乃に出会い黄昏の鍵(キー・オブ・ザ・トワイライト)を探し出すという目標を得た。その出会いこそがハセヲにとっての『鍵』となり……しかしそれは喪われた。

 

だからハセヲは意固地になって、一度は手中に収めた2人を取り戻そうとしている。その為にますます他者を排斥するようになって。

 

「つくづく、損な奴」

小さく、楚良は呟く。会話ログに残らない呟きは、カナードの2人にも届かない。

2人に心配されているのに、ハセヲは情を返さない。返すつもりもない。

 

「えっとぉ、助けてくれて、ありがとうなんだぞ」

「ただの気紛れ。それよりさ……メンバーアドレス、交換しない?」

ニンマリと嗤い、楚良は次の標的に狙いを定めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガスパーの元気がないことには気付いていた。

けれど原因が分からないし、ガスパーは何も相談してこない。そもそもハセヲは『カナード』のギルドマスターではあるが、名義を貸しただけだということは念押ししている。

 

だからハセヲは何もしない。

名前ばかりの代表に状況の改善を訴えたところで意味がないことを分かっているのだろう。

 

 

 

シラバスとアトリのレベル上げも手伝い、ソロでもランキングを上げる。今まで以上に睡眠時間を削り、食事すら殆ど取らなくなった。

幸いにしてハセヲというネームバリューのお蔭か、向こうの方がレベルが低くても3対1なら勝てると踏んでるのか、対戦相手には困らない。

 

「おい、そこの」

最初、ハセヲは自分が呼び止められていることに気付かなかった。

「そこの若いの、お前だよお前」

「……あ、俺? 何の用だよオッサン」

若造呼びをするならと、ぞんざいに返す。すると向こうは気分を害すことなく、逆に呵々大笑する。

「威勢は良いな! お前の試合、見させてもらった」

「そりゃ、どうも」

今までアリーナに参戦することのなかったハセヲが挑戦しているのだ。嫌でも注目を集めているのは知っている。このPCも只の興味本位なのだろう。そう判断し、ハセヲはさっさとアリーナの受付を済まそうとした。

「全然なっとらん!」

だからまさか、怒鳴られるだなんて想像だにしていなかった。

「は?」

「おめぇは、エリアとアリーナにおける闘いの違いを理解してねぇ! スキルを活用していねぇ! そして何より、仲間との連携が取れてねえ!」

「……テメエ、何が言いたい」

そんなの、言われなくったって気付いている。

エリア(障害物)を利用した戦法は使えない。ソロで常に動いていたハセヲにとって、味方というのは未知のもので、足を引っ張られかねない。

 

―――何より、体が酷く重い。

 

だからハセヲは1対1の状況をあえて作るように動き、戦ってきた。

しかし、それを指摘される謂れはない。

「いいか? 今までは勢いだけで勝ち進めたが、高ランクの戦いはそうはいかん。勝ち抜きたいなら、経験者のアドバイスが必要だ」

「要らねえよ」

アドバイスなんて必要ない。そんなものをハセヲは求めてない。それに、この見ず知らずの男がそんな事を言い出す意味も分からない。

「要らねえ? そんなことぬかすなら、ワシを納得させてもらおうか? Δ凝然たる 森厳の 亡命者 のミッションをクリアしてこい!」

「はあ? 何で俺がそんな事する必要あるんだよ」

別に納得しようがしまいが、ハセヲがアリーナに参加することに変わりはない。

だというのに。

「いいや、ミッションをクリアするまで俺はテメエが受付するのを妨害する」

「はぁ!?」

そんな事、『ケストレル』ですらしなかった事だ。愕然として、声を上げてしまう。

妨害するのは簡単だ。アリーナの受付NPCに話しかけられないようにブロックしてしまえばいいだけ。しかしそれを行えば、CC社にハラスメント違反で通報される可能性がある。だから誰もやらない。

だがそこまでしてでも、この男はハセヲをダンジョンに行かせたいらしい。

「……いいぜ、行ってやるよ」

もし罠なら叩き伏せる。罠じゃなくても、この口煩いオッサンを黙らせられる。元々勝気なハセヲはそう判断し、踵を返した。

 

 

 

 

 

 

 Δ凝然たる 森厳の 亡命者

指定されたエリアは、ワープポイントをいくつも使って奥へ進む、迷路のような洞窟型のダンジョンだった。かなり複雑なつくりで、自力でマッピングをしたらかなり苦労しただろう。

「……面倒臭え」

妖精のオーブを用い、ダンジョンの全景を早々に明らかにする。

「ったく……さっさと終わらせるか」

構造上死角も多いようだ。もしハセヲを恨むPKが裏にいるのなら、奇襲し放題だろう。だがハセヲの警戒を他所に、このフィールドには他に誰かがいる気配がない。

 

だからこそ、あの大火というPCの考えが分からない。わざわざ妨害をしてまで、悪名高いハセヲにアドバイスをしようという意図が見えないのだ。

それでなくとも暑苦しいキャラは嫌いなのだ。出来るなら関わりたくない。

 

突進してくるトンボのようなモンスターを避け、すれ違い様双剣を振るう。突進する前には溜めのモーションが入るから判り易い。

 

モンスターの行動は予めプログラミングされているもの。何度か戦えばパターンも把握できるので、簡単に対策を立てられる。

しかし対人戦ではそうはいかない。

各ジョブの攻撃モーションは全て記憶している。だから相手が何の攻撃を仕掛けてくるか分かれば、カウンターを合わせられるのだが。

「……ハァ」

 

ハセヲは、相手の思考を察するという行為がすこぶる苦手なのを自覚している。

だから行動心理学の本を読み、知人の脳外科医に少しばかり教わったりして、何とかその場を凌いではいるが、苦手なことに変わりはない。

だからリアルの読めないPCの次の行動を先読みするのは、ハセヲにはかなりハードルが高い。単にレベル差と武器の性能で圧倒していただけだ。

 

「アイツは、あんなにも対人戦得意なのに」

他人をおちょくることに対しては追随を許さないあの双剣士は、その辺りがめっぽう強い。どうやら(ハセヲ)は、7年前にその能力はすっぱり置き忘れてきたらしい。

 

そういえば、あのパイという女拳闘士はその中でも言動を読みやすかった。彼女が特段分かりやすい、というわけではなく……何というか、自然だったのだ。

他のPCのように設定されたモーションをなぞるのではなく、まるで本当の人間を相手にしているような。そういう意味ではクーンの言動も分かりやすい。尤もクーンの場合は性格の部分が大きいだろうが。

 

 

 

迷いやすい以外は特に障害もなく、ハセヲは最奥部へと辿り着いた。

獣神殿へ続く扉の前に人が立っている。

「てめぇは……!?」

先回りしたのだろう。ルミナ・クロスでハセヲを妨害した大火が待ち構えていた。

「かっかっか! やっと来たようだな」

向こうは武器を構えていない。ひとまずハセヲも警戒は解かないまま、武器を収める。腕試しと称して不意打ちしてこない確証もないのだ。

「……どうだ、大変だったか?」

「ハッ、楽勝だったぜ」

「かっかっか! やはり、若ぇもんは面白ぇ! 恐れというものを知らん!」

高笑いをして、大火はハセヲを残し自分だけ転送装置を使用した。

「おい!」

残されたハセヲとしては、引っ掻き回された憤りをぶつけたいところでもあったのだが。

「人を散々振り回しといて、それだけかよ!」

八つ当たり気味に、ハセヲは獣神殿の扉を蹴りつけた。

(……意味が分からない)

わざわざハセヲを呼び出し、何もせずに帰った大火の言動が読めない。

(けど、興味もない)

最奥の宝箱の中身を取得してしまえば、もうこのフィールドに用はない。

 

大火というプレイヤーに絡まれたことすら、すっぱりと忘れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある双剣士がいた。

様々なフィールドを渡り歩き、気紛れにPCを助け、呼吸するかのようにPKをする。その時その時の気分次第で行動する。

カオティックPKに選ばれても、面倒だからとスルー。『ケストレル』の反撃もものともせず、『月の樹』の説法も無視。

今日も趣味のメンバーアドレスを貰いつつ、ルートタウンにお帰り願った。恨まれようが本人は全く気にせず、むしろ噛みついてくるのさえ楽しみにしている。

あまりの弱さに拍子抜けはしたものの、機嫌は悪くない。……少なくともこの時までは。

「よう」

「……うぇ」

その赤い重槍士を見たとたん、双剣士は呻いた。

「相変わらず悪いことしてんな、楚良」

「そっちこそ、相変わらず暇してんね。クリム」

 

重槍士は『赤い稲妻』クリム。

双剣士は『黒の幽鬼』楚良。

2人共『R:1』からの、名の馳せた古参プレイヤーだ。

 

「そんで、何の用? ボクちんアンタと違って暇じゃにゃーい」

「俺だって忙しいんだぞ」

「ならさっさと帰ればいいのに。……それとも、帰らせて(PKして)ほしい?」

パタ、或いはジャマダハルに似た武器は楚良の愛用品でもある武器を抜くも、クリムはホールドアップ。

「相手してやっても良いが、その前に聞きたいことがある」

「それ、俺が聞く必要なーしwww」

突然楚良が斬りかかっても、クリムは分かっていたかのように慌てず武器を構えた。実際、楚良が大人しくするとは思っていなかった。

「ちょっ、マジな、話、なんだが!」

「知っらな―いw」

だがまだお遊びの範囲。

楚良がその気になればクリムを封殺出来る。攻撃モーションの決まっているクリムに対し、楚良はシステム外の動きで対応できるから。

しかし楚良はそれをしない。なんやかんやで楚良もクリムのことを気に入っているのだ。本人は決して認めないが。

まるで悪童を追いかけ回す熱血教師みたいとは、2人をよく知る元呪紋使い(ウェイブマスター)の談。

「大体、クリムが真面目な話って似合わないじゃん」

「それは酷いな! 最近大人しくしてたらしいから、何かあったのかと思ったが」

「べっつにー。ただの気紛れだよ」

「そうか、最近噂になってるPKK『死の恐怖』と、何かしら関わりがあると思ってたんだが」

とたん。

いつも人を小馬鹿にしたような笑みがデフォルトとなっている楚良の表情が、凍り付いた。

「……アイツのこと、ね」

槍を弾き、楚良は大きく距離を取る。

「けど残念、俺は関係ないよw」

「知ってはいるんだな」

「トーゼンw つか、何で今更?」

ハセヲというキャラをエディットしてログインしたのは8カ月も前だ。そこから一気に有名になったPK100人斬り事件からも大分経っている。今更クリムが話題に出す意味が分からなかった。

「……海外出張で、全く知らなかったんだよ。帰って来たの一昨日なんだってorz」

がっくりと肩を落とすクリムの首を、容赦なく落とすために刃を振る。

「ちょっ、危ね!」

だが寸前のところで防がれた。

「クリムのくせに、生意気~」

「ちょっ、おまっ!」

「ボクちんから話すことは、何もないよ!」

言うや否や、楚良は道具を用い転送された。

 

拒否をされ、残されたクリムはしばしの間考え込む。

楚良との出会いでもある7年前の事件において、彼の性格は多少なりとも分かっているつもりだ。

他人を揶揄い、事態を引っ掻き回す楚良が、『死の恐怖』には何も知らないと、関与していないと言った。

 

その二つ名を、楚良が気にしない訳がないというのに。

 

「……また何か、やらかしたのか?」

脳裏に過ぎるのは、ベッドに横たわるやせ細った少年。まだ10歳の子供が大人を揶揄い、代償を支払った姿。

自業自得と言えばそれまでだが、そう割り切るには情が移り過ぎていた。

 

「ったく……いい加減、餓鬼じゃねえんだからよ」

 

 

 

 

 

 

 

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