高月家の次男 作:犬も歩けば棒に当たる
基本的な監獄内ルール
◎窃盗、暴行、強姦などは全面禁止。性行に関しては同意の元でも禁止。破ったものは厳しい罰が与えられる。
◎囚人は入監時、右手首に特注の機械をつけられる。これを外してはならない。また、これを着けたまま監獄の外へ出ると爆発して死ぬ。
◎食事は一日二食。大食堂で取る。それ以外での水を除く飲食は基本的に禁止。破ったものは罰が与えられる。
◎一日に三時間自由時間が与えられる。
◎他の囚人に著しく害や悪影響を与えると判断された囚人は地下一階層へ落とされる。
◎地上一階層の囚人はオレンジの囚人服を着用し、地下一階層の囚人は黒い囚人服を着用する。
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この監獄では一日に一回、午後八時に一斎点呼がある。ここで囚人の人数の確認が行われ、囚人は何をしていてもその時間には大広間に集まらなければならない。点呼は全員揃わなければ終わらないので、一時間以上続くこともある。
囚人生活一日目の一斎点呼後、俺とジブラは看守に連れられ、自室となる地下一階層の房へと案内された。
俺達を案内したのは顔無しと呼ばれる看守である。
゛顔無し゛
これは個人を指すあだ名ではなく、とある看守の集団を指す言葉だ。
外見は全ての個体が全くの同一。身長170cm。体重72kg。細身な体だが体表は剣を通さない程硬く、肌色は病的なまでに真っ白である。顔無しと呼ばれるだけあり、卵形の顔には目も鼻も耳もなく、ただ一つ三日月状の黒い口があるのみ、と言う、かなり奇妙な外見の生物だ。その実態はとある人工林により産み出される人型植物。光合成ができ、睡眠も食事も必要なく、ただ命令のみに忠実に従う作られし兵隊。買収されることもない完璧な看守だ。
ちなみに、グリンスフィール監獄の看守の三人に一人がこの顔無しである。
地下一階層へ入るには二つの入り口があり、それぞれ4Mくらいある鋼鉄製の黒く分厚い扉で閉ざされている。
階段を下り、B1と彫られた扉を開き、地下一階層へと入った時、まず感じたのは猛烈な熱気だ。扉を開いた瞬間、外気温との差により熱風が吹き、血臭と腐臭を含んだヒリツク空気が全身を包む。
「っ!」
「うお!」
空気を熱いと感じたのは初めての体験である。暑いじゃなくて熱いだ。熱湯に触れたかのような錯覚。知識として知ってはいたが、実際に体験しなければこの凄まじさは分からない。気温は地上一階層とは比べ物にならないほど高く、更に悪いことに地下故に窓もなく常時扉も閉まっているので、空気が酷く淀んでいる。扉が閉まってるのは地上へ熱気を逃がさないための処置だろうが、最悪である。
「言い忘れてましたが、地下一階層の気温は50度を越えます。気をつけてください。」
気を付けてどうこうなるものでも無いと思うが………。この気温は確実に死人が出るレベルである。遠目に、磔にされた骸骨やガリガリになって骨と皮だけになった死体が並んでいるのを見て、ああはなりたくないものだと思った。
「高月さんとジブラさんの部屋は13房です。部屋に行くまでの時間でこの階層の特別なルールについて簡単に伝えておきます。」
地下一階層は地上一階層とは少し異なるルールがある。詳細を言えば多岐にわたるが、大きくは三つ。
「一つは地下一階層では暴行が容認されていることです。」
「はぁ?何でだよ?」
「軽い喧嘩まで罰するとキリがなくなるからだろ?」
「その通りです。地下一階層にいる囚人は選り抜きの凶悪犯ばかりで、完璧に大人しくさせるのは不可能です。ですので、軽い喧嘩程度なら看守も見て見ぬふりをします。流石に、殺人や大規模な抗争、強姦、看守への暴行には大きな罰が与えられますが、」
そう言いながら磔にされた骸骨を見る。破ればああなると言いたいのか。
「しかしながら、看守の目を盗んで殺人や強姦を行うものもいますし、時折抗争も起きます。十分注意してください。」
「ろくでもない場所だな。」
「二つ目は、掃除です。通常の囚人は午後五時から六時までは勉強時間になっていますが、この階層の囚人は床掃除や壁磨きを行ってもらいます。毎日血が流れるので自分で掃除してくださいって事です」
この猛暑の中で一時間も掃除をしろと。どうやら情けはないようである。
「三つ目は地下一階層の囚人には懲罰ポイントと言うのが与えられ、これが一定数を越えると地下二階層へ落とされます。地下二階層へ落ちると言うことは事実上の死刑宣告ですので十分に気を付けてください。聞いていないなんて言い訳は一切通じません。」
「地下二階層ってどんな場所なんだ?」
「囚人は拷問のために地下二階層へ連れてかれますから、嫌でもその内知ることになりますよ。ただ一つ言っておけば、地下一階層がこれ程暑いのは二階層から上がってくる熱気によるものです。」
「マジかよ。どんだけ熱いんだよ。」
房が並ぶ特別居住区域に入ると、複数の房からヤジが飛んできた。
「おいおいまだガキじゃねえか?」
「見ろよあの顔!ビビってんじゃねえか?」
「刑務所は初めてか?」
房って言うから部屋みたいな所だと思ってたけど、鉄格子で区切られた普通の牢屋だ。鉄格子の向こうには各房八人程度の囚人がたむろしている。その内の一つ、13と書かれた房の前で看守は足を止める。
「此方が今日から貴方達が寝る部屋です。それでは後の事は先輩方に聞いてください。」
そうして、看守は去っていき、俺達は第13房へと入った。
部屋の中には五人の囚人がいた。
一人は寝ながら本を読み、一人は人間を椅子にして背を横たえてる。残り二人はその囚人の横に正座をして座っている。
こいつら全員人殺しの目をしてやがる。
中央の囚人を背凭れ代わりにしている囚人が代表して声を上げた。
「おいお前ら、順番に名前と罪状言ってみろ。左からだ。」
ジブラは完全に呑まれてるな。顔を青くさせている。まあ、この殺気だ。仕方ないか。
「ジブラ、です。殺人で此処に来ました。」
「ほう、殺人か。可愛い顔してやるじゃねえか!」
「いえ、でも___うぐ」
「余計な事は言うな。舐められたら終わるぞ。」
冤罪とか口を滑らせそうになってるジブラの腰をチョップし、無理矢理止める。
「次、その横の奴。」
「殺人です。家族全員殺しました。」
「ブハハハハ!!俺も初めて殺したのは自分の親だったぜ!ありゃ、忘れられねぇほど楽しかったよな!」
何が面白いのか高笑いをする太めの囚人。
しかし、それも後で本を読んでた男に一睨みされ、押し黙った。顔を青くさせている。こいつがボスか?出来れば上手く付き合っていきたい。
その男は本を閉じると突然立ち上がり、俺の目の前までやって来る。
「気に入らねえ目してやがんな。言いたいことがあんなら言ってみろよ?」
ええー、なんでそんな好感度低いの!
「いえ、何も」
「目を見りゃ分かんだよ!テメェの目には恐怖がねえ!俺達の事見下してんだろ?」
ひどい言い掛かりだ。まあ、見下してるけど。
「見下してませんよ。被害妄想です。」
「テメェ!」
「どうすれば分かってもらえますかね?」
「土下座しろ。」
「……………え?」
「土下座だ土下座!聞こえてんだろ?」
「(俺がコイツに土下座するの。む、無理かなぁ。)」
「さっさとしろって言ってんだよ!」
「………断ります。謝るようなことはしてませんので。」
「そうか。そりゃ、死にてえてことだよな?」
言いながら唐突に殴りかかる囚人A。
不意打ちするのは良いが、肩の動きで殴るのがバレバレだ。俺はヒラリとそれを避ける。
間髪入れずに追撃がくるので、それも避ける。避ける。避ける。避ける。分かりやすい攻撃だな。こんなんじゃ、いくらやっても当たらないよ。
「テメェ、避けてんじゃねえよ!ぶっ殺すぞ!」
「ぶっ殺されたくないので避けますよ。」
「くそ!ハエが!避けるだけじゃ喧嘩には勝てねえんだよ!」
「喧嘩ですか。……一つ聞きたいんですが、これは軽い喧嘩に入るんですか?看守にバレたら不味いんじゃないですか?」
「看守?来る分けねえだろ!この程度、ここじゃ日常茶飯事だ!テメェは今から死ぬがぶぼ!」
証言も得たので、俺は一歩を踏み出しながら、焦れて大振りになったパンチを避け、顔面に右ストレートを見舞う。
囚人Aは衝撃で天を舞い、壁に背中から激突し、崩れ落ちた。
「が!」
しーんと静まり返る部屋。他の囚人は信じられないものを見たと言う目で俺を見る。
さっきまで「ぶっ殺せ!」だの「やっちまえ!」だの野次を飛ばしていたのに凄い変わりようだ。
「だ、駄目だ。完全に伸びてやがる。」
「嘘だろ。」
あーあ、やっちまった。目立たず平和にいきようと思ってたのに。こうなったら、なるようになれだ。
「おい。房長は誰だ?」
「コイツだけど。」
囚人達は伸びてる男を指差す。やっぱりそいつだったか。
「それなら今日から俺がこの房の房長になる。異論はあるか?」
「い、いや、アンタがボスだ。認めるよ。」
「あ、ああ、俺もだ。ここじゃ、力が強い奴が正しい。ただ、こんな場所でも規則っつーか、暗黙の了解みたいなものがあるんだ。そ、それは守ってくれ。お、俺が作った訳じゃ無いからな」
「俺は入獄初めてだからな。そこら辺良く分からないんだ。詳しく教えてくれ。」
★★★★★★★★★
此処には第一房から第十三房までの13個の房がある。基本的に数字が小さい房により危険度の高い囚人を入れる仕組みになってる。つまり、第13房は危険度が最も低い囚人の集まりと言うわけだ。
「なるほどね。」
「次に、チームです。この階層の囚人の殆どは三つの大グループの何れかに入ってるんです。」
第一房を頂点にする、カース
第二房を頂点にする、ヴィーナス
第五房を頂点にする、エレメント
の三つがそれで、その下に複数の房が付いてる状況だ。
ちなみに、第十三房はどこのチームにも属してない。そもそも戦力としてすら当てにされてない半端者と言うのが他の房から見た第十三房の認識だ。そして、そんな第十三房の囚人が生きていくために、彼等は他のグループから贔屓なく雑用を請け負っているらしい。
下手に一つのグループに肩入れすると他の二つのグループに潰されかねないので、『ゴミ漁り』などと揶揄されていても、この生き方が最も安全らしい。
今の房長はそこら辺の世渡りが中々旨かったらしく、安全に暮らせていた。
話は分かった。俺も今まで通りで良いと思う。出来れば房長も返上したい。俺は影の支配者ポジションを希望する。出来るかな?
既に房長が倒されたことは他の房に知られていることを彼はまだ知らない。