ようこそ 逆さまの世界へ   作:User3580

1 / 24
プロローグ
プロローグ 感情のない人形と黒猫・白猫


 

 

ドゴッ! 力いっぱいに殴りつける音が響く。

 

 

「この殻潰しめ! 

 なんで洗濯物が出来ていない!!」

 

 

またドゴッ!っという殴る音が響く。

 

 

少年は殴られたことで床に倒れた。

衝撃で口が切れた為に赤い血を流すが少年は痛みを感じていないかのようにに起き上がる。

 

 

「申し訳ありません。学校で掃除当番を任されてしまい断ることが出来ず帰りが遅くなりました。

 すぐに家事を済まします。お待ちください。」

 

 

小学生とは思えない返事で男に謝る。

男はその返答が気に食わなかったのか次は少年のお腹に向けて足を振りかぶり壁へと打ち付けた。

少年は壁に叩きつけられ衝撃で胃液をぶち撒けそうになるが必死に口を押さえて我慢する。

 

「お前は一体誰のおかげで今までこうして生きて過ごせているのかわかっているか!?

 何もできない気持ち悪い化け物が」

 

男は怒鳴り散らし始め、少年を再び殴り、蹴り、灰色の髪を掴んで床に打ち付けた。

少年はただ痛みに耐えるしかない。

この対処法しか取りようがないと少年の短い人生経験で学んだ一つであった。

 

 

ある程度少年を痛めつけたことで満足し、吸っていたタバコを少年の身体に押し付けて火を消す。

 

 

「ツゥ、、アァ」

 

 

痛みに耐えかねて自然に声が出てしまう。

その声に気を良くした男は自室へ戻った。

 

 

少年は男が去ったことを確認する。念のために息を殺し、時間をかけ、再びこちらに来ないと安心してからノルマである洗濯物を取り込んだ。

日頃の家事を終わらした少年はそぉと生活音がしないように玄関から外へ出る。

 

 

少年、宝刀(ほうとう)は物心がつく前からこの暴力に塗れた悲惨たる状況が日常であった。

両親は宝刀が生まれた1年後には事故に合い帰らぬ人となってしまい、宝刀を迎え入れたのがあの男。

 

男と共に生きる宝刀には愛情という子供誰しもが享受すべきものを感じたことは一度もなかった。

掃除、洗濯、料理など家事全般をすることが義務付けられ不手際があれば先の通り折檻が当たり前の日常。

 

 

人に褒められたことなんか一度もない。感謝されることや、まともな食事をしたことも誕生日を誰かに祝ってもらう事なんてことも一度ない。

宝刀という少年にとって普通の日常が暴力と罵声で完成された日々の積み重ねであった。

 

 

こんな生活を過ごす少年が健全な心のままに育つわけはなく宝刀の精神の配列は可笑しな方向に配列され、何も感じなくなっていた。

笑うこと、泣くことも他の子供と遊ぶこともほとんどなく感情の欠如が著しい空っぽな心。

 

最初は泣くことはあった。だが泣けば殴られるサイクルを経験していくうちに痛みで泣かなく無くなった。

 

 

最初の頃には毎日痛めつけられて傷だらけの僕を心配してくれる人は確かに存在していたと思う。

「大丈夫?」「その傷や痣はどうしたの!!」

でも誰も僕に触れようとしない。

 

お風呂に入ることはないから髪はベトベト。

身体は至る所に痛々しい傷でまともな治療もしてないから化膿している汚らしい腕や足。

服は衣類という最低限の機能のみでボロボロ。

異臭は自分ですら思う程に凄まじく、歩くだけで人が避けていき近寄ることすら憚られてしまう。

少年を言葉では心配してくれるが汚い自分を抱きしめてくれる人なんかいなかった。

みんな最後には無表情な少年を気持ち悪がった。

 

 

心の中では甘い期待したんだと思う。

子供として最低限でも愛情を欲していた。

子供に愛を伝えるハグ。憧れの愛情表現を公園で親子が行う姿がひどく羨ましかった。

一度でもいいから誰かに大丈夫だよ。安心していいよ。そんな言葉で優しく包まれて頭をおもいっきり撫でて貰いたい。

 

 

誰でもいいから僕の話を聞いてよ、、

誰でもいいから僕を慰めてよ、、

誰でもいいから僕を抱きしめてよ、、

宝刀の心の叫びは誰にも聞こえない。

 

 

現実は少年に牙を剥き出し始め、心配してくれていた大人達は知らぬふりをしだし次第に暴力へ移る。

まるで自分の価値が消えたかと錯覚してしまった。

 

ある日、僕は辞書から【偽善】の意味を知って、あぁ、僕の世界は正にその通りだなと思った。

 

 

宝刀は暴力が蔓延る家から逃げると身を預ける秘密の場所はいつも森の中となっている。

これには町の人と会うと暴力を振るわれる可能性がありこれ以上は身体が持たないこと、いくら人形のような少年といえど痛いものは痛いと思う故の無意識の逃避行であり最後の砦のような場所。

 

いつも森では食べ物を探す事を必須としている。家には自分が食べていいものなど何一つないから。

だからいつも森で木の実やキノコ、森の中にある川などで取れる魚を罠を用いて捕まえていた。

捕まえると手持ちのライターで枯葉など燃えるものを集めて焼いて食べている。

 

この誰にも邪魔されず自分の好き勝手に出来る一人の時間が少年にとって唯一の幸せであった。

 

 

誰にも会うこともなく、暴力を振るわれることもない1人寂しいけど心落ち着かせれる時間。

 

 

だが日常は突然移り変わるものである。

善だろうと悪だろうと移ろいゆくものある。

 

 

いつものように森から食材を取り今日は運が良かったのか魚も何匹か捕まえることができて満足しながら食べていた。

すると森から ガサガサ と音がした。

 

宝刀はあぁ全てが終わったと思った。

 

 

まさか誰かが自分を追いかけて来たのか?

唯一の居場所を壊すと予想できてしまったから。

しかしそれは違っているみたいだった。

 

見たことのない2人の少女がいた。

 

片方は腰まである黒い長い髪の少女。

幼いが故の愛くるしい可愛いさと人を惹きつける妖艶さが入り混じった未完成の美しさがあった。

 

もう片方は白い髪を肩くらいの長さの少女。

金色の綺麗な瞳で可愛い方面が強く小動物のような愛おしさで庇護欲を掻き立てられる雰囲気。

 

 

突然の出会いにお互いが驚いて見合う。

だが痺れを切らした黒い髪の少女が宝刀に警戒心を剝き出しにして吠えた。

 

 

「あなたは誰?

 私たちを追ってきたかにゃ?」

 

 

宝刀も状況をみて自分はあなたたちに対して害がないことを示す為に答える。

 

 

「僕は宝刀と言います。 

 私はあなた達に何もしませんよ。」

両手を上げて何もないことを伝える。

 

 

「こんな場所で何をしているにゃ。

 こんな場所に子供が居るわけない!」 

 

 

「ここには食べ物を探しによく来てるんです。」

焼いた魚を持ち上げて証拠を見せる。

 

 

宝刀の返答を聞いて黒髪の少女と白髪の少女は警戒心を薄めた。

見た目通りならこの少年は自分達に害を与えることは明らかに出来ないと。

お互い先のやり取りで落ち着いたことにより少し距離を置いてはいるが言葉を介して会話をした。

 

 

 

会話をしたことで少し少女たちの情報が分かった。

黒い髪の少女が 「黒歌」

白い髪の少女が 「白音」

2人も自分と同じように両親がすでに居らず周りの存在が日常生活を脅かすと理解して耐えられなくなり2人でこうして逃げていること。

数日前にこの森へ着いて宝刀と同じように食べ物を見つける生活をしていることを知ることが出来た。

 

 

話を聞いた宝刀は少し羨ましいと思い呟いた。

一人ではなく一緒に居てくれる存在がいることに。自分にはないものを持っている二人が羨ましかった。

「いいなぁ」

 

 

黒歌は宝刀の小さな呟きが聞こえたようで般若のような顔で怒鳴った。

 

「何がいいなぁだ! 

 森に逃げ込むしかない、家にも帰れない。

 私たちの何処がいいと思うことがあるにゃ! 

 もう一度言ってみろ!!殺してやる」

 

宝刀は素直に申し訳ないと思った。

 

 

「ごめんなさい。

 怒らせるつもりはなかったんです。」

 

宝刀は相手を怒らせた時の対処法を行う。

少女に向かって宝刀は顔を近づけた。

 

 

つまりは暴力を受ける事で解決。

謝罪方法は殴られるしか宝刀は知らなかった。

 

 

そんな行動が意味が分からなかった少女たちは怒ったことを忘れて戸惑っていた。

 

「あの殴らないんですか?」

 

いつまでも痛みが来ないため再度聞いた。

宝刀は別の手を考えて蹴られやすいように身体を動かす。

ただ謝るだけでは許されないのが日常。

 

 

 

 

 

 

 

 

黒歌は宝刀という少年の行動が怖かった。

 

黒歌と白音という2人は妖怪である。

猫魈という妖怪の中でも珍しい種族。

人間の知らない裏の世界で生きてきた。

その裏の世界でも妖怪たちの日常があった。

 

家族4人で幸せな生活だった。

掃除が完璧だが料理をすれば毎回火事紛いを引き起こす母。

料理が出来ない母の代わりに苦笑いを浮かべながら美味しいご飯を作る父。

ご飯が大好きでいつもつまみ食いをして父と母に怒られてる妹。

そんな家族を笑顔で見つめる私。

これが日常だった。

 

特別な思い出なんかなくても毎日が笑顔だった。

いきなり両親が何者かに殺されるまでは、、、

そこからは日常が崩壊してましまった。

 

自分たち猫魈がいかに希少の存在を改めて知った。

大人という庇護がなくなった日から、多方面からその希少さ故に追いかけられる日々が始まった。

自分達を欲しがる存在から子供ながらたった1人の大切な妹を守るために仙術と呼ぶ力を身につけてがむしゃらに強くなろうとした。

 

逃げる途中で何度も戦闘を行ってきた。

時に相手を傷つけ相手に傷つけられて暴力というものの怖さを身に染みていた。

そんな壊れた日常を送る私たちに少年は何といった?

たかが人間の一般人。

その中でもひ弱で惰弱な目の前の少年は何をした?

 

殴ってくていい?蹴ってくれていい? 

一方的な痛みと暴力でしか物事は進まないのが少年の日常だと悟り、何事もないような顔をした少年が、未知の化け物のように思えて怖かった。

 

 

 

少年が突然服を脱ぎ出した。

身体を自由にして下さいと言ってきた。

やはり行動の意味が分からず問いかけようとしたが言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

黒歌はその姿は衝撃であった。

 

 

そこには至る所に 痣 火傷跡 裂傷

 

身体中の傷 傷 傷 傷 

身体に傷がない部位を見つける方が難しいと思ってしまうほど悲惨な姿であった。

傷もあるが瘦せすぎている。

栄養が足りてないのは一目瞭然であった。

 

 

いつの間にか私は自然と涙が出て泣いていた。

声を出しながら涙を流していた。

なんで?なんで?こんなひ弱そうな子供が!

私たちのいる魑魅魍魎蔓延る化け物の世界でもなく平和であるはずの人間の世界にいる少年が自分たちよりも、、

比べることの方がおかしいくらい痛々しく傷ついているのだろうと、、、。

 

 

白音を見ると彼女も少年の身体の傷に驚き可憐である顔を青くしながら声を殺して泣いていた。

大きな綺麗な金色の瞳から大粒の涙を流して。

 

「なんで?こんなことって」と言っていた。

 

 

少し落ち着いたため黒歌は少年には自分たちはあなたを傷つけたくないこと、服を着てほしいことをを伝えた。

少年は言われた通り服を着た。

 

 

私は白音が落ち着くまで待って少年に問うた。

なぜここに居るのか?

家には帰らないのか?

なんでそんなに傷があるのか?

を一つ一つ聞いた。

 

 

少年は何事もなく答えてくれた。

だが答えてくれる落ち着いた声と答えてくれた内容が嚙み合わないとしか言えなかった。

 

両親は自分を生んだ1年後に不慮の事故に合ってすでに他界して居ないこと。

引き取られた親代わりの男から日常的に家事全般をさせられていること。

日常的に暴力を折檻として受けていること。

町の人も最初は気にしてくれていたが今では男と同じように暴力を振るってくること。

家には自分が食べて良いものがなくこうして自分で調達して生活をしていること。

 

 

何度目の衝撃かと思った。

もう涙すら出てきてくれない。

理解できるのに自分の頭がついていかない。

 

 

 

私はもう淡々と喋る姿に自分の心が耐えられなくなり少年の身体に近づいてそっと抱きしめた。

こうすることが今は必要だと。

ボロボロでひどく汚れている少年の身体に触れる不快さなんてものは気にならなかった。

言葉をかける必要なんかない。言えないから、だからこそ少しでもこの小さな少年の気持ちを楽にしてあげたくて、、

優しく優しく気持ちが伝わるように抱きしめた。

 

 

白音も同じタイミングで少年に抱擁していた。よかったと思った。

白音も同じこととを思ってくれたことが嬉しくて誇らしかった。

 

白音は「今は抱きしめさせて」と優しい声で少年の頭を優しく撫でながら伝えていた。

 

 

 

何分経ったか分からないが少年の顔を覗いた。

少年が涙を流しながら初めてみた笑顔で

「抱きしめられるってこんなに暖かいんですね」

とそういった。

 

その泣いている宝刀の笑顔はとても綺麗で神聖なものみたいだと場違いながら思ってしまう。

 

 

彼の流した涙が重力に従って落ちた場所が偶然にも私の口に落ちてきた。

その涙は少ししょっぱくて砂糖のように甘いのが印象的だった。

 

 

 




雨刀さん 誤字見つけていただきありがとうござます!
気まぐれな星さん 誤字チェックありがとうございます!!
機会仕掛けのマキナさん 誤字チェックありがとうございます!
紅月 雪さん 誤字チェックありがとうございます!!

ご覧いただきありがとうございます。
面白いと思っていただけた方。これからに期待と思っていただけた方。
よろしかったら高評価いただけたら嬉しいです。どうぞよしなに。

作者のやる気スイッチが起動します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。