宝刀はあれから眠ることが出来ずぼぉ〜と外を眺めながら繋がっている手の温もりは感じていた。
「そういえば鍛錬しなくちゃ」
一度トワの手をギュッと握って手を離す。
いつものしていることを思い出して宝刀は服を探して動きやすい服へと着替えて外に出た。
出ていく宝刀をトワはそっと後ろ姿を眺める。
トワは昨日の宝刀の姿を思い出した。
ずっと愛されることなく全ての人間から忌み嫌われて毎日のように暴力が振るわれた人生。
そこに現れた恋焦がれていた愛をくれる者。
偽りなく心からの愛を。
私が早く見つけていたらそれがずっとトワに残る。
今の彼はこのままだと壊れてしまう。二度と戻れなくなるまでに。
昨日の呟きは実は聞いていた。
あの心の叫びのような呟き。家族のために化け物となり家族に愛されるか不安な宝刀。なんでここまで少年に世界は残酷なんだろう。
なら私が今居ない二人の代わりに愛す。
私が肯定する。私が傷を癒す。
気持ちを切り替えて宝刀を追った。
宝刀は十キロランニング、腕立て、筋トレを行う。
終わると一度入念に身体をほぐしていく。
ここから宝刀の本番と言っても差し支えない。
「おいで逆撫」そう刀を出して素振りを開始する。
淡々と刀を振るう。白黒世界での自分と今の自分の動きを遜色ないように丁寧に丁寧に。
そこから平子に教わった型や流れを沿って振るう。
何時間経ったか分からないが気がつけば子供達が宝刀の周りに集まっていた。
その中で一番年長のような多分中学生らしき男の子が宝刀に食ってかかってきた。
「何だお前!見ない女だな。
お前、刀なんか持って偉そうだな。
ここでは俺が一番年上だ。だからここで生活するなら俺の言うことを聞かないといけないんだぜ。
ってことでその刀をを俺に寄越せ!」
宝刀は吠えた男の子を無視して再び刀を振るう。
正直、どうでもいいとしか思わなかった。
ここにいれないならそれでいいし、何より黒歌と白音を探しに行かないといけない。
「おい!無視するな!!
綺麗な顔してるからって調子に乗るなよ」
男の子は無視する宝刀にいきなり殴りかかる。
だが宝刀からすればその攻撃があまりにもチャチすぎて軽く足払いをして転がす。再び刀を振るう。
「てめぇ!やりやがったな!!
お前そんな穏やかな奴じゃないだろ?
なぁ俺はお前のこと知ってんだぜ。
悪魔を殺しまくった殺人鬼ってな。」
そう煽ったが宝刀には響かない。
何も感じることなくただ鍛錬の邪魔に感じはじめて別の場所へ移動しようとする。
「おい!どこ行くきだ?逃げるのか?
こんな化け物を家族にする妖怪もバカか?」
そう男の子が言った瞬間には刀が自分の首に添えられて皮一枚ギリギリ切られていた。
宝刀を見ていた他の子供たち全員が誰も宝刀が動いた姿を捉えることすら出来ず唖然とする。
「僕のことはいいけど家族のことを次に馬鹿にするのなら次は首を刎ねますよ。
なんせ君が言うところの殺人鬼ですから。」
そう言って宝刀はどこかへ行った。
男の子はへたり込んで宝刀の後ろ姿を見ているしかなかった。
「殺人鬼かぁ。ほんとにそうだよ。
で、そろそろ出てきてくださいませんか?」
背後に向けて宝刀は話しかける。
トワがバレたかと言って姿を現す。
「ねぇ、君は何のために強くなったの?」
いきなり問いかけてきたトワに宝刀はすぐさま返答をした。
「二人が大好きだから。
僕の世界を変えてくれた二人に幸せな生活を送って欲しかった。
そのためには力が必要だった。」
「でもその力で君は苦しんでいる。
今の貴方は二人と出会ったことを後悔してる?
二人を助けることが出来なくてもよかったの?」
「そんなことあるわけない!!
だって二人が居るから今の僕がいる。
でも、そうじゃないと奪われてた。だから僕が悪になったとしても命を奪わなくちゃ守れなかった。
僕だけが悪になれば二人を守れるってあの時はそう信じていた。
でも、思っちゃった。
僕がそうであるように殺した人にも守りたいもの愛するものがあるんじゃないかって。」
宝刀は何とも言えないら表情になる。
「そっか。でもね私は思うんだよ。
正しい事の為に戦い命を摘むことは罪ではない。
話し合いで通用しない奴もいるのさ。
じゃあ君は命を摘んだ人たちに話が通じたとして、『よし眷属に無理矢理するのは良くないから止めます』なんて言う人は居たと思うかい?」
「でもそれじゃあ罪じゃないならなんで僕はこんなに苦しいんですか?
確かに話し合いでは解決しなかったと思う。
でもそれで無かったことには出来ないよ。」
「ねぇ、宝刀。君は悪になったって言ったよね。
悪って難しいよね。真面になんて居られない。
悪って何だと思う?
何をしたら悪と断定されてしまうと思う?
理不尽に全てを奪うこと?
理不尽に全てを壊そうとすること?」
宝刀は何も答えることが出来なかった。
「私はね、奪った命を無かったことにすることだと思うの。自分が辛いから自分の愉悦だからとかそれから目を塞いで忘れる。
でもそれだと潰れちゃう。ずっと頭に残り続けることになってしまうからね。
今の宝刀みたいにまだ10歳にも満たない少年には人の命はとても重いよね?
命の尊さを測れる場所に本来居ないはずなのよ。
普通に生きて普通に結婚して普通に死ぬ。
その普通に享受されるのが普通なんだよ。」
「僕は普通に生きることが出来なかった。
だからどんなに醜い悪役になってしまっても大丈夫だって思ってたのかもしれない。
何もないなら何にでもなれるから。」
宝刀はトワに縋るってしまう。
だから問うてしまう。
「ねぇ、僕は化け物です。
全て喰らい呑み込むこともできる巨大な蟲です。
そんな人を呑む信性の悪だとしても。
人を愛すと吼えることは許されますか?
人を家族と手を差し出す事は許されますか?」
「大丈夫だよ。
悪には悪の救いがあってもいいと思うの!」
トワはあっけらかんと答えた。
「悪役の矜持ってやつだよ。
自分を信じなよ!君が誓ったことに。
自分自身の魂に刻みなよ。
恥をかかせない生き方を選べばいいじゃない。
だからね君はとびきり幸せになるべきだよ。」
摘んだ人たちの分までね。と言った。
「僕は救われても良いんですか?」
宝刀は怖かった。
人の命を摘んだのに自分は楽しく過ごすことを怖がってしまっていた。
「痛みを伴わない教訓には意味がない。
人は何かの犠牲なしに何も得ることなど出来ないのだから。
それでも痛みや教訓を乗り越えた時に、自分のものに出来た時にさ。
人は何にも代えがたい何かを得るのだろうね。
それが何かは君と私で一緒に見つけようよ!!」
「ねぇ、改めて宝刀に問うわ!
貴方は二人の何になりたいの?」
「僕は悪でも良いです。
でも許されるのであれば、、。
願っても良いのであれば、、。
僕は二人の笑顔を日常を守れて理不尽なことも跳ね除けてしまう物語の主人公になりたい!!」
「うん!なろう。宝刀ならなれる!
でもね私は思うのだけれども、時には主人公にも悪役にもお休みというものは必要なんだよ。
それが多分今じゃないかな?
だからね。今はこの場所で休むんだよ。
宝刀は主人公でも悪役でいい。
ただ次に会う時にもう折れることのない愛する様々な宝ものを守る刀になればいいの!!
まさに名前の宝刀としてね。」
宝刀は涙を流していた。
この人の言葉は全部僕のために言ってくれてると伝わったから。
「だから私が傍にいてあげる。
絶対に離れないよ。どんなに宝刀がたとえ悪に堕ちてもどんなに無様な姿になってもずっと一緒に居てあげる。堕ちるなら一緒に堕ちてあげるし泥に塗れるなら一緒に被る。
私はどんなことがあっても君の、ううん!君だけの味方で居たいんだよ!!」
トワは両手を広げて全てを包み込むような満面の笑みでそう宝刀に言ってくれた。
冥界は明るい日差しなんか無いはずなのにトワの後ろに日が照らしたようにトワを輝かしていた。
その姿は物語に登場する天使のようだった。
「なんでそんなこと言ってくれるんですか?
何で僕を包みこんでくれるんですか?」
宝刀は心が晴れたんだと思う。
人は一人では生きていけないんだと改めて感じた瞬間だった。
「それは秘密。女は秘密がある方が魅力的でしょ?
でも安心してちょうだい。
ちゃんと時が来たら話すから。
だから今は私が貴方の絶対の拠り所であること。
今日から宝刀は少しお休みってことよ。」
とびきり笑顔で宝刀に伝えた。
「二人なら任せて!
ちゃんと探すから!私の超優秀な未来視を使えばあっという間に見つけれるわ。」
「でもずっとずっと探し人は何年探しても全然見つけれて無いじゃないですか?」
宝刀は少し悪戯っ子にクスクス笑って揶揄う。
「あ〜!そうやって馬鹿にするのね!
でも、よかったわ。
やっと笑顔になってくれて。
その方が貴方はとてもとても素敵よ。
朧月みたいで儚く一輪の花みたい。
ずっと私の部屋で独り占めして眺めてたいわ。」
「ありがとうございます。
心配してくれて!もう大丈夫です。
トワさんに出会ってよかった。僕はあのままじゃ多分潰れてた。
今、黒歌と白音に会っても笑えなかった。
心から家族だと言えなかった。何より僕が偽りたくない気持ちを偽っていたかもしれない。
だからトワさんありがとう。
黒歌と白音が居るのにトワさんになら独り占めされても良いんじゃないかって思っちゃうよ。」
宝刀はトワに突っ込む勢いで抱きついた。
ギューーと離さないと言わんばかりに。
そして屋敷に来て初めて満開の笑顔を浮かべた。
トワは宝刀を受け止めて抱きしめ返す。
そして笑顔を見て心を射抜かれた。
それはズルい。何この笑顔。え?ヤバくない?威力ありすぎでしょ?
もうヤバいとしか言えない。
可愛すぎるし最後のセリフはもうダメよ!
あれね、この子はあれよ。無自覚に女を底なし沼のようにたらし込んじゃうタイプだわ。
心の中でアワアワしていたトワだったが、
ずっと守れなかった宝刀のせめてでも心を守れたことはトワにとって何よりも誇らしかった。
「ずっと抱きしめてあげたいけど帰るわよ。
帰ったらまただ抱きしめてあげるわ。
ほら手を出して!一緒に帰るわよ。」
笑顔を浮かべながらギュッと手を繋ぐ宝刀にまた射抜かれながら二人は手を繋いで帰った。
本当に帰ったら抱きしめてくれた。
黒歌や白音のように大丈夫だよって気持ちが伝わってすごく落ち着く。
僕ってチョロいのかもしれない。
でも流石に黒歌と白音との愛情は超えられない。あの二人は僕にとってなによりも特別だから。
それからご飯やお風呂から寝るまでずっと一緒だった。
寝る時も一緒の部屋で寝て抱きしめてくれた。
「おやすみ、トワ」
「おやすみなさい。宝刀」
平子と逆撫に会いたくて白黒世界へ向かった。
訪れると何かが物凄い勢いで身体にぶつかった。
いきなりで受け止めきれずに倒れ込む。
みると逆撫でだった。
「宝刀〜!!
ほんまにごめんな!ごめんな!」
ごめんとずっと言っていた。何が何だかわからない宝刀は取り敢えず抱きしめるかなかった。
逆撫を落ち着かせて話を聞いてみると人を殺めたことで心を壊しかけていた宝刀をみて改めて子供だったと気付かされた。
あんなに赤ん坊の頃から愛していた宝刀を自分の不甲斐ない所で傷つけたことに、、。
そして宝刀から嫌われると思ったら居ても立っても居られなくて抱きついたらしい。
「私のこと嫌いにならないで下さい!!
宝刀に嫌われたら私生きていけないの!
宝刀がまた心が壊れそうで後悔したんです。
力を貸さなきゃよかったかもって宝刀の覚悟を貶すようなこと思っちゃったんです。
こんな私だけど嫌いにならないで!!」
もう京都弁すら忘れるくらいなりふり構わない。
宝刀に嫌われたら本当に息が止まってしまう。
「逆撫聞いて欲しいんだ。」
そう言われて逆撫は宝刀の顔を覗く。
「僕ね、逆撫に出会えて本当に良かったんだ。
言ったでしょ?逆撫に僕はベタ惚れなんだ。
確かに心が壊れかけたかもしれない。でも心を繋ぎ止めてくれたのも逆撫が居てくれたからなんだ。
僕のことをずっと愛してくれた逆撫のことを嫌いになんてなるわけないよ。僕を見捨てることなくずっと見守ってくれたんでしょ?
逆に僕が腑抜けとか言われて嫌われてるかも?なんて思っちゃった。」
逆撫の心は浄化された。
宝刀が自分のことを心の支えにしてくれたことが嬉しかった。
またベタ惚れなんてことを言ってくれた。
自分は性悪なんて言ってるが宝刀のことを愛してることは嘘偽りなんかない。そんな宝刀から言われたのだ。
逆撫は泣いてしまった。
「宝刀のことを私が嫌いになるわけないです。
腑抜けなんか言うわけないですよ!!
だって二人のために死ぬ状況だったあの時にも自分を鼓舞して平子の想いを全て背負った貴方の何処が腑抜けですか。
そこまで背負える奴なんて何処にも居ないです!
腑抜けなんてそんなこと言うやついたら逆さま世界へ連れてってやりますわ!!」
逆撫は笑顔になりながら怒りながらなどいろんな顔をしてて宝刀はクスクス笑ってしまう。
「ありがとね。逆撫!
僕はもう大丈夫!教えてもらったから。
時には折れるかもしれない。迷ってしまうかもしれない。でもね、その痛みや後悔は教訓として乗り越えれるんだ。
そしたらまた僕は進めるんだ。
摘んだ人に向き合えるようにその人たちの分まで生きて無様でも生きて最後に幸せだったって言えるなように!
悪には悪の救いがあってもいいらしいしね。
これからトワと共に命と向き合うんだ。
だからさ逆撫。これからも、ううん。
僕の一生ずっと一緒に居てくれる?」
「行く路を決めたんですね。
なら私はずっとついていきます!
これから一生以上居させてください。
私の愛しの宝刀。」
それからの逆撫のスキンシップは凄かった。
身長的に逆撫の方がずっと高いので抱きしめられる。抱きしめる加減がおかしくてめっちゃ痛い。
ギューと抱きしめながら頬と頬をぐりぐりと押しつけられる。
でも逆撫でが温かくてこれ好きだな。
嬉しくて頬にチュっとキスしたら逆撫が倒れた。
え?逆撫?どうしようこれ、、。
そんなやりとりをしていると平子がやってきた。
「これなんやねん。
何があったらこないなんねん?
こないな逆撫見たくなかったわ。」
凄い微妙な顔してる。
「平子さんが心配おかけしました。
平子さんの想いを受け継いですぐ心がやられるなんてダメダメですね。」
宝刀は顔を下に向けた。
「確かに心配やったけど宝刀なら大丈夫って乗り越えれるって信じとった。
逆にな、人を殺めてけろりとして平然と何事もなかったように暮らしてる方があかんわ。
確かに人を殺す術は教えた。でも殺した後のことは教えんかった。
それはな自分で乗り越えなあかんからや。
だから良かったわ。
これからも俺の想いを受け継いでくれな。」
「ありがとうございます!
また僕がダメになったら叱ってください。
隊長として色々指導してくださいね。」
「いくらでも道踏み外したら叱ったるわ。
なんなら道に戻るまで首跳ねたる。
宝刀はな一人やない。
黒歌や白音、逆撫やトワ、それに俺も。
お前が紡いだイトや!
お前のイトがそない簡単に切れるわけないやろ。
ほんまに宝刀はアホか!
みんな宝刀が心配で頼りにして愛しとるわ!
せやから安心しぃ。」
ゆっくりと宝刀の頭を撫でる。
宝刀は泣きながらありがとうと伝えた。
それから復活した逆撫と平子とで色んな話をしてまた明日から修行をする約束をして白黒世界から現実世界へ戻った。
現実世界はまた真夜中のようで外をみると月が輝いていた。
昨日とは違う綺麗な輝きだった。
「黒歌、白音。
少しだけ会うの待ってね。
ほんとはすぐにでも二人に会って抱きしめたい。
でもね少し心を整えさせて。
少し休んだら必ず一目散に会いに行く。
二人に会う時には心から家族と呼べるように。愛してるって伝えれるようになるから。
必ず迎えに行くよ。
いつでも二人が大好きだよ。」
月がなんだか微笑んでるように見えた。