僕は自分でも感情が乏しいと理解してる。おかしいのも理解している。
いつも殴られて蹴られて色んなことされる度に、感情があったら無理だと直感で感じ取って自己防衛してたのかもしれない。
でも2人に包まれながら感じてるこの感情は、絶対にもう失ってはならないものだと分かる。
やっと夢が叶ったんだ。ずっと願ってやまないことだったから。
愛して欲しかった。話を聞いて欲しかった。
慰めて欲しかった。抱きしめて欲しかった。
今日一度に全部叶うなんて思わない。
また涙が少し流れた。
暖かい。2人からの気持ちが伝わってきた。
大丈夫、敵じゃない。あなたを傷つけない。
癒してあげたい、無理しないで。
泣いていいよ。安心して、頑張ったね。
もっともっと2人を気持ちを感じたくてギュッと強く抱きしめてしまう。
もう涙を我慢することはできなかった。
無理だ。
こんな心が温かくなるなんて初めてだったから。
2人は嫌がることなく僕の身体を気にしながら、ちょっとだけ強く抱きしめ返してくれた。
ほんとはずっとこうしていたいけど、2人の迷惑になると思って離れた。
離れたときに黒歌は少し寂しそうにして、白音は離れた距離をまた詰めようとしてくれた。
そんな行動が私たちは味方だといってるみたいで、
2人はなんて暖かいんだろうとまた涙がでそうになった。
また抱きしめてしまいそうになるのを誤魔化すように、2人に食べ物を受け取ってほしいので食材を探しに行くことを伝えた。
2人は心配そうな顔をしてたけど、ちょうど2人のお腹から可愛い音が聞こえてたからお腹すいてるんだと思った。
この森はずっと昔から居るから庭みたいなものだから少し待っててと伝えて素早く行動をおこす。
森を駆け巡りきのこや食べられる果実に魚を取る。
多分はじめてこんなに食べ物を取ったと思う。二人にいいとこを見せたくて張り切りすぎてしまったもしれない。
疲れたけどこの疲れは嫌じゃないな。
誰かの為に自分から行動することが新鮮でこれも変化だなって感じる自分が嬉しくて身体に力が入った。
2人の前に戻ると改めて火をつけて家から少しずつちょろまかしている普段使うことのない調味料を取り出して味付けを施し振る舞った。
2人とも美味しそうに食べてくれたことがすごく嬉しくて僕も一緒に食べたくてお腹は空いてなかったけど一緒に食べた。
凄く凄く美味しかった。
ご飯を食べ終わると黒歌と白音がたくさん話をしてくれて自分の知らないことも多くて面白かった。
自分から何かを話すことがない僕はずっと聞き役だったけど、会話が楽しかったのは初めて経験で嬉しいと2人に伝える。
時間が経つのが早いのか、いつのまにか夜になっていた。
今までだったら家に帰って家事の支度をすることを優先していたのに今は何も思わない。
男の所に戻るという選択肢が浮かばなかった。
もっと2人と居たいから帰らないと2人に伝える。再び話をしたかったけど日々の疲れで身体がフラフラしてしまい僕はいつの間に寝てしまう。
黒歌は宝刀が寝ているのを白音と確認して火の近くに座り、今日出会った宝刀という少年について話し出す。
「白音、今日は凄い一日だったね」
「うん、凄い一日。
でも、今日この日は一生忘れない」
「そうだね。あんなに良い子で可愛い子なのになんで世界はあの子に厳しいにゃ?」
「それでも、私たちの気持ちを受け入れる感情だけは残ってくれたことだけは良かった」
「白音も宝刀のことを大事に思ってくれて黒歌さん嬉しいにゃん」
「当たり前だよ!多分、今日この出会いって運命っていうんだろうね」
「そうにゃ!宝刀と会えたのは運命にゃ」
「ふふ。私も黒歌お姉ちゃんも同じだね」
「それにしてもこの町の人達は本当に人間?
ゴミにしか感じないにゃ。
仙術でボッと町をやっちゃおうかにゃ?」
「そうだけど、したいけどダメだよ。
私だって仕返ししたいけど
今は宝刀が何よりも大事」
「ほんと宝刀は、こんな可愛い2人にこんなに真剣に想われて愛されてるなんて幸せ者にゃ」
「うん!真剣に思うよ。
でも、想ってる分、私達も思われてるよ。
私たちを見る目を見たらわかる」
「宝物や大切なものを見るようだったにゃあ。
それでいて手が届かないものを見る目だった」
「今までの辛い分、私は幸せで埋めてあげたいな。
黒歌お姉ちゃんはどう?」
「そうね、白音。
宝刀の泣いた顔、あれ見たらダメ。
ズルいにゃ、側にいなきゃって思っちゃう」
「ねぇ、黒歌お姉ちゃん。
宝刀も一緒に来てくれないかな?」
「私も同じこと思ってた。明日の朝話してみよう?
まぁ、無理矢理でも連れてくけどね」
「こんな町では幸せなんてないっ!!
絶対一緒にいる!
ねぇ、宝刀はもう家族だよね?
一緒に居てくれるよね?」
「そうね。そう決めたけど、
だったら私たちのこと言わないにゃ〜」
寂しそうに呟く。
自分たちは宝刀とは違って妖怪で化け物だから。
「大丈夫、黒歌お姉ちゃん。
宝刀はそんなの気にしない。大丈夫だから、
そんな辛そうな顔しないで...」
「...ありがとにゃ。よし!元気出た。
白音はもう寝なさい。私が見てるから」
「うん。眠くなってきたから寝るね。
おやすみお姉ちゃん、おやすみ宝刀」
そういうと白音は宝刀の灰色の髪を何度か撫でて宝刀の側で眠りについた。
白音が眠ったことを確認して私は火の番をする。
改めて今日は人生で一番に近い衝撃だった。
色んな存在から逃げて戦って心が折れそうな頃に
私たちと同じように悲惨な目にあってる子がいたんだから。
ほんとはいい日なんていっちゃいけないんだけど言わせてほしい。
なんていったって今日新しい家族が新たに出来るかもしれないんだから!
たった2人しかもう家族と呼べる者は居ないと思っていたけど明日からは3人になる。
こんな嬉しいことはないと。
だから少し思う。もし宝刀が私たちが妖怪だと知って化け物のように感じないか冷たい目で見てこないかなんて...
もし嫌われたりしたら、、。
今日会ったばかりなのにこんなに嫌われたくない。
ずっと一緒にいたいなんて思ってしまう。
弱音を吐きたくないが、暗い感情が渦巻いていく。
「はぁ〜、ほんと宝刀はズルいにゃあ。
こんなに黒歌さんが弱い猫になるなんて」
夜の番をこなすつもりだったが、黒歌自身も疲れが溜まりすぎていたのかいつの間にか眠ってしまった。
3人を囲う火種からはパチパチっと枯葉や枝が燃えて真っ暗な夜に響いた。
真夜中に宝刀は起きた。
といってもいつも起きてる時間だから身体はいくら疲れてもルーティンというのは怖い。
横を見ると白音が僕の服をチョコンと摘んで可愛らしく「にゃぁ」と寝言?を呟いていた。
いつも起きた時の始まる憂鬱な日常として感じていたあの気持ち悪さがないことがとても気持ちいいと感じる。
「可愛いな」頭を撫でてみる。
ちょっと髪はゴワゴワしてるけどいつまでも撫でていたい魔力はあった。
白音は気持ちよかったのか顔がふにゃあと溶けた。
クスッと笑った僕は悪くない。
次は黒歌を見ようと周囲を探す。
白音と僕の少し離れた所で黒歌は寝ていた。
安心してじぃ〜と黒歌を見つめる。
やっぱり2人は可愛いなと再確認した。
人のことなんてどうでもいいと過ごしていたから顔の良し悪しは分かんないけど、2人の可愛さは天使並だ。
そんなこと考えながら眺めてると黒歌も「にぁ〜」と寝言?を呟いてる。2人は姉妹だなって感じた。
黒歌に近づいて白音と同じように頭を撫でる。黒歌も少しゴワゴワした髪だったけど白音同様にいつまでも撫でたくなる魔力があった。
黒歌も顔をふにゃとさせて溶けてた。
また僕はクスッと笑ってしまった。
ちょっと1人になりたいから2人を起こさないようにその場から離れる。
今日のことを振り返ってみた。
いつもと同じように学校では居ない存在で、
いつもと同じように男から暴力を受けて、
いつもと同じように食べ物を見つける。
でも、今日は違った。
僕の世界ががらりといっぺんした。
食べたご飯が初めて美味しいと思った。
食べ物なんて美味しいなんて感じたことなかった。いつも味がしなくて事務的に生きるためにたべる感覚でしかなかった。
でも2人と一緒に食べると何よりも美味しいと思った。
男の為に作るご飯よりコンビニでみかける弁当より、テレビでみたことある高級料理より昨日一緒に作って食べてた木の実やらきのこや魚が美味しいと。
目の前の景色が初めて綺麗だと思った。
あっ!こんなに世界って綺麗なんだなと思った。
森の緑豊かな色や川の透き通る綺麗な色。
黒歌の綺麗な黒い髪。少し痛んでるのに全てを呑み込みそうな黒い髪が綺麗だと思った。
白音の綺麗な白い髪。所々跳ねてるのが可愛くて、何にも染まってない白さが綺麗だなと思った。
匂いってこんなに面白いんだと初めて思った。
木から漂うなんとも言えない匂い。葉っぱを燃やす匂い。焦げたちょっと苦々しい匂い。魚の焼けたお腹に響くいい匂い。
色んな匂いを感じたけど、黒歌と白音の匂いが一番好きだった。
黒歌と白音から漂う甘い匂いが好き。
触れて初めて温かさを知った。
川に入った時の冷たさや火の熱さ、魚のぬるぬる。
今まで何も感じなかったけど、不思議な感覚。
黒歌と白音の暖かさが感じられたことが嬉しい。
抱きしめられた時に触れる時間が愛おしい。
色んな音が初めてきちんと聞こえた。
風の音、鳥の声、遠くから車の音が綺麗に聞こえる。
黒歌と白音から聞こえる、ドクッドクっていう心臓の音が何よりもどんな音よりも心地よくて安心する。ずっと聞いていたいと思ってしまう。
たった一日で全て移り変わった。全てが反転した。
無の味覚が、
無の視覚が、
無の嗅覚が、
無の触覚が、
無の聴覚が、
無の感情が、
そう全ての無色から極彩色へと移りかわった。
きっとこの瞬間に宝刀として生きてると認識したと思う。
自分の短い人生を振り返ってみると、
今まで自ら生きたいなんて思うことはなかった。
惨め過ぎて涙がとまらなくなっていた。
何も出来ない自分が嫌いだった。
暴力を振るう男が嫌いだった。
僕を残して死んだ両親が嫌いだった。
この町に住む人間が嫌いだった。
偽善を向ける人間が嫌いだった。
自分の意見を言えないことが嫌だった。
お腹が常に空いてることが嫌だった。
何もかもが生きていることすら嫌だった。
でも、今日好きになれるものを初めて見つけた。
半日過ごしただけなのに2人が好きになった。
好きなものが何もない自分に好きなものができた。
自分も人間だったことが嬉しくてまた涙が出た。
いつまでもこんな自分からおさらばしたい。
だから覚悟の選択をする。
宝刀としての今までの生き方をかえる!
2人と一緒に生きていくことができる自分に!
新しい暖かい世界を切り拓く為に。自分が生まれ変わる為に!!
今日を以って宝刀という少年は死んで今までの人生にさよならする覚悟が出来た。
世界と自分自身に向けて言葉を告げる。
「僕の見ている世界が逆さまになったんだからこんな言葉が似合ってるかな?」
「ようこそ 逆さまの世界へ」と。
宝刀はその場から動くことが出来なくて新たな生の余韻を噛み締めていた。
すると左手に違和感がある。
見ると何故か刀を握っていた。
え?え?とただ慌てるしかない。
もう突然のことが一日に起こりすぎてキャパオーバーを起こしかけている宝刀。
呆けても仕方ないので刀をじっくりと見てみる。
刀なんてものは初めて見て触れてみたけど不思議と自分の手に馴染むことはわかった。
刀は柄を合わせると刀として少し小さめで80センチくらいの小刀と呼べる大きさ。
それでも今の自分の身体を思うと大きいのには変わりない。
すぅーと鞘から抜いてみると、刀身は真っ白で刃文は真っ黒で見惚れてしまうくらい綺麗だ。
白音の白色と黒歌の黒色の2人な合わさった刀にそれだけで愛着が湧いてきて怖いとか手放さなくちゃって思考がなくなる。
刀を観察してブンブンと刀を振ってみた。
重いは重いが想像した刀本来の重さはなく、宝刀にとって扱いやすい重さのように感じる。
刀も長いと感じていたがこちらも振れば振るほどちょうどいい。
身体の一部みたいだ。何年も常に持ち歩いているかのように錯覚してしまうほどにやっぱり馴染む。
ある程度刀を振り、切り試しがしたくなってテレビで一度見た侍の真似をして木に向けて構える。
「やぁ〜!」とテレビの侍とはかけ離れた気の抜け声を出して木に向かって振りかぶった。
すると斬りつけられた木はスパッと亀裂が入りやがて重力に従って倒れた。
凄い。この一言しかいえない。
何で僕がこの刀を持ってるのか、大丈夫なのか?と思うより先にこの刀があれば2人を守れると感じていた。
2人は逃げてると言っていた。ならこの刀を扱えるようになれば...
刀を手にしたことによりこれからの目標を見つけたのはいいが冷静になれば刀は凶器である。人に見つかると警察に捕まる。
自分だけなら問題はないが2人に何か迷惑をかけるこだけは出来ない。
どうしよう、どこに隠そうと考えていると刀が無くなっていた。
持っていた刀が何処かに消える現象。
え?え?とまたあたふたしてまう。
何処かに消えた刀を探そうと刀のことを思っているとまた刀が出てきて手に収まっていた。
何度かそのやりとりを行いわかったことが二つ。
隠したいと願うと刀は何処かへ消えて、刀を出したい願うと何処からか出てくる。
繰り返し何度も何度も出し入れをする。
宝刀からしたら1日の中で色々な事が起こり過ぎて疲れている。刀の扱い方がある程度解ると、明日2人に相談することを決めてもう一度眠ろうと決めた。
疲れながら2人がいるところに戻る。
まだ真夜中だから白音と黒歌がまだ気持ちよさそうに寝てる。
2人に向けて宝刀は感謝を伝えたかった。朝でもいいと思ったけどさっきあんなに張り切ったんだから一言だけ伝えたい。
2人に近づいて起こさないように優しく抱きしめながら気持ちを伝えた。
「僕と出会ってくれてありがとう」と宝刀の顔には笑顔が浮かんでいた。
やり遂げた宝刀は2人から少し離れた場所へ向かい再び眠りについた。
宝刀が離れた場所から
「「私たちと出会ってくれてありがとう」」
と小さく呟き涙を流す2人の少女たちがいた。
機会仕掛けのマキナさん 誤字チェックありがとうございます!
紅月 雪さん 誤字チェックありがとうございます!!
小畑屋さん 誤字チェックありがとうございました!!
狙撃手白猫さん 誤字チェックありがとうございます!!
本当にありがとうございます!!
ご覧いただきありがとうございます。
面白いと思っていただけた方。これからに期待と思っていただけた方。
よろしかったら高評価いただけたら嬉しいです。どうぞよしなに。
作者のやる気スイッチが起動します。